第28話 部屋の片づけ

「その時のことは秘密よ! その記憶は消しなさい!」

「消さないよー! 後世まで語り継ぐ記憶だよ!」


 愛理は両手で奏の両頬を挟んだ。勢いはなかったが、奏の水々しい頬に当たった衝撃で予想以上に大きな音が鳴った。


「痛いよお姉ちゃん! 結構良い音したよ!」

「変なこと言うからよ! その話はもうやめるの!」


 奏は自身の両手を使い、愛理の両頬を強く押した。すると奏の攻撃を受けた愛理は、ぶぅっと勢いよく空気を吐き出した。その姉妹の行動を見ていたエレナは面白いと言っていた。


「面白くないわよ……もう! 早く食べましょう!」

「そうだね。 お母さんがまた怒っちゃう!」


 愛理のその言葉に奏は、そうだねと返して食べ進めることを再開した。エレナは既に食べ終わっており、ゆっくりジャスミン茶を飲んでいるようであった。


「エレナちゃんは、もう私達家族の一員よ。 エレナちゃんはこれから、黒羽エレナって名前になるわ!」


 黒羽エレナ、そう呼ばれたエレナは嬉しいと静かに涙を流していた。愛理達はエレナのその姿を見た途端、近づいて愛理と奏がエレナを抱きしめた。


「もう一人じゃないからね! エレナはもう私達の家族の一員だよ!」

「一員? もう一員でいいの?」

「そうだよ! エレナはもう私達の家族の一人よ!」


 そう言われたエレナはありがとうと笑顔で返す。そして、もう一人じゃないんだねと言いながら嬉しそうにしていた。


「そろそろ食べ終わったし、エレナの部屋に行きましょうか」

「あ、まだここにいるー」

「何かあったの?」


 愛理がそう聞くと、エレナがまだジャスミン茶飲むと言っていた。愛理は気が済むまで飲んでと言うと、ソファーに座ってスマートフォンを見始めた。奏は途中で電話してくると言って自室に戻り、正人も奏に続いて部屋に戻っていく。楓は洗い物をしたり、愛理と一緒にテレビ番組を見て笑っているようであった。


「満足したよ! ジャスミン茶大好き! 今度違うのも飲みたいなー」

「ジャスミン茶以外も沢山の種類があるから、今度見てみようね! じゃ、そろそろ行こ」


 エレナのその言葉を聞いたそ愛理は、行きましょうとエレナを連れて三階に上がった。愛理と奏な部屋以外にもう一部屋あるのだが、そこは物置部屋となっている。だが、エレナが住むにあたって家族総出で片付ける必要があるために、翌日に片付けをするのが決まっていた。


「今は物置部屋になってるけど、私達姉妹と同じ広さと作りになってるからゆっくり過ごせるわよ」


 愛理に見せられた部屋を見て、エレナは目を輝かせていた。


「ここが私の部屋になるんだ! 愛理や奏と同じ部屋! 最高!」


 未だ物置部屋の部屋を見てエレナは嫌な顔一つしなかった。 愛理はエレナは全てが新しくて一つ一つに感動しているんだと感じていた。


「さて、今日は私の部屋で寝よっか。 エレナの隣の部屋が私の部屋よ」


 愛理に続いてエレナが部屋に入っていくと、ここが愛理の部屋かと再度目を輝かせていた。エレナは初めに愛理の部屋を見渡すことにした。まず目に入ったのは、部屋の奥にあるベッドと机であった。可愛らしいピンク色のシーツや掛け布団に、長い白色の長方形の机が愛理らしいと感じていた。


「愛理らしい! この部屋に住みたいー。 それに愛理の良い匂いがする!」

「匂いは嗅がなくていいの! 恥ずかしいでしょうに!」


 愛理に頭を軽く叩かれたエレナは、再度周囲を見渡す。愛理の部屋の左側には棚がありその棚には漫画や雑誌が沢山収納してあるようで、愛理の趣味趣向が見てとれた。エレナは次に右側を見ると、スタンドミラーや服が入れてある収納スペースを見つけた。


「愛理の部屋面白い! 色々なものがあって楽しい!」

「あんまり触って動かさないでよー」


 愛理は可愛らしい服やラフな格好が好きなので派手な服はなかった。エレナは私もこんな服沢山着たいなと思っていた。愛理の部屋を眺めていると、愛理が敷布団をどこからか取り出してエレナに今日はこれで寝てと言った。


「私が昔に使ってた布団だけど、前にクリーニングに出したから綺麗なはずよ。 今日はこれで寝てね」

「うん! ありがとう! 凄いふかふかだ! 絶対寝たら気持ちいよー」


愛理の部屋で敷布団に入ったエレナは、初めて寝る敷布団にウキウキとしていた。愛理はベットに入って明日エレナの部屋を作るために片付けて、どんな風にレイアウトをするか悩んでいた。


「エレナの部屋のレイアウトはベットにタンスに……てか、こっち見ていないで早く寝ないなさいよ……なんやかんやもう十一時なんだからね」

「分かったぁ……眠いって思ってたらもうそんな時間なんだねぇ……寝まーすおやすみぃ……」


 エレナはすっと目を閉じて布団を口元まで引いていた。 愛理はそのエレナの姿を見て微笑していた。そしてエレナの顔を数秒見た後に、自身も目を閉じて寝ることにした。翌日は平日であるのだが、愛理は安静をということで休みということになっている。なのでエレナの部屋を作ることが出来るのであった。


「明日はゆっくりと起きて、エレナの部屋を片付けよう……」


 そう呟くと、愛理は寝息を立て始めた。愛理はエレナと暮らすことの楽しみしか考えていなく、未知なる世界から来た不思議な少女。黒羽エレナとなった女の子は、これから愛理の世界で悩み苦しむが、苦痛と共に味わったことのない愛情や絆を知ることとなる。そんなことは知らないエレナは、幸せそうな笑顔で何か食べているような口の動きをしながら、もう食べれないし飲めないよと寝言を言っていた。


 翌朝、予定していた七時半に目が覚めた愛理は床で寝ているエレナを起こさないようにエレナを跨いで静かに部屋を出て行く。静かに二階に降りると、そこには楓が朝食の準備をしていた。


「おはようー。 怪我はもう大丈夫みたいね。 朝食がもうすぐ出来るから椅子に座ってなさい」

「分かった! 食べたらエレナの部屋を作るわねー」


 愛理は眠い目を擦りながら、椅子に座って楓が作った目玉焼きとウインナーに白米を食べ始めた。


「もうすぐエレナも起きると思うから、私と一緒に部屋片づけてよー」


 愛理が楓に食べながら言うと、分かったわと楓が言う。そして楓も愛理と一緒に朝食を食べ始めてることにした。正人と奏は既に家を出ているので、愛理は久しぶりの平日の日中を感じていた。


「さて、食べ終わったし片付けますか!」

「私は片付けてから行くから、先に始めててね」

「分かったー。 早く来てよねー」


 愛理が濡れ雑巾を一枚持って先に上がると、程なくして楓が掃除機と濡れ雑巾を持って階段を上がってきた。愛理と楓は、エレナの部屋になる予定の物置部屋を片付けていく。

「結構埃が溜まっているわね……ここまで埃だらけだとは思わなかったわ……」


  エレナの部屋は長らく物置部屋となっていたので、埃が多くマスクをしなければ咳き込むほど辛い空間であった。


「こんなに埃があるなんて……この部屋を片付けるのは至難の業ね! でも、エレナのために片付けるわ!」

「そうね! エレナちゃんのために片付けましょう!」


 愛理がそう言うと、楓は窓を開けて換気し始める。しかし、すぐには換気出来ずに楓は咳き込んでしまった。


「早く掃除してしまいましょう! エレナちゃんの部屋を作るわよー!」

「おー! エレナの喜ぶ顔が見えるわ!」


 楓のその言葉に愛理がやりわよと良い声で返した。二人は部屋の中にある家具を移動をして掃除機や濡れ雑巾で部屋を綺麗にしていく。時折大きな物音を立ててしまっていたので、その音で目が覚めたエレナが目を擦りながら部屋に入ってきた。


「なにしてるのー……音が大きいよ……」

「あっ……ごめって何その髪、笑っちゃうよ」


 部屋に入ってきたエレナを見た愛理は、その言葉より姿に吹き出してしまった。


「エレナの髪の毛が四方八方に流れて凄い寝ぐせになってる! どんな寝方してたのよ」


 お腹を抱えて笑う愛理を見たエレナは、自身の髪の毛を触ってみると髪の毛が前や後ろ、右や左に寝ぐせがついてタコ足のようになっていた。愛理がエレナの寝ぐせを見て笑っていると、楓が愛理の頭頂部を叩いて笑いすぎよと軽く怒った。


「ごめんなさーい。 でもあのエレナの髪を見たら笑っちゃうわよー」

「気持ちは分かるけど、笑いすぎ」

「洗面台で直してくるぅ」


 愛理は楓に対していいじゃないと言うが、エレナが可哀そうよと言われたので愛理はごめんなさいと楓に謝った。


「エレナ―! 寝ぐせも可愛いわよ!」


 愛理が可愛いわよと叫びながら二階にある洗面台に走っていくと、エレナが髪を濡らして整えている姿が見えた。愛理はそんなのじゃダメよと言ってエレナを洗面台から離れさすと、櫛とドライヤーを駆使してエレナの寝ぐせを整えていく。


「こんな風に整えるのよ。 女にとって髪の毛は命の次に大事なんだから、大切に扱いなさい」

「はーい! 愛理に整えてもらうの好きーありがとう!」


 愛理のその言葉を聞いたエレナはありがとうと言って、整えてもらった髪の毛を優しく触っていく。


「自分の髪じゃないみたい! 凄い綺麗!」

「気に入ってもらえて良かったわ。 一緒に上に行きましょう」


 エレナが自身の髪を尚も触り続けていると、愛理はそろそろ上に行こうとエレナに言う。エレナは私も片付けると笑顔で言うと愛理が一緒にしましょうと返した。


「片付けって初めてだから、凄い楽しみ!」

「片付けって結構面白いよ! 失くしたものとか意外と見つかるわよー」


 エレナが笑いながら言うと、愛理は慣れると楽しいわよと言った。その言葉を聞いたエレナは両手を上にあげてやるぞーと声を上げて気合を入れていた。愛理とエレナが談笑をしながら階段を上がって片付けている部屋に入ると、既に楓によってほぼ片付けられていた。


「もう終わってる……お母さんすご! もう完璧に片付けれてる!?」

「ママ凄い! 一緒に片付けたかったなぁ……」


 愛理とエレナは片付けたかったと楓に言うと、来るのが遅いのよと楓は笑っていた。

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ハイスクールマジック~現代魔法と聖なる剣~ 天羽睦月 @abc2509228

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