第27話 帰れる家

「ありがとう奏……そう言ってもらえると嬉しいわ!」

「うん! 家族なんだから困っている時はお互い様だよ!」

「あっ! 私も撫でて! 撫でて!」


 愛理は左に座る奏の頭を撫でながら言うと、エレナが私も撫でてと言ってきた。愛理は右に座っているエレナの頭も撫でると、無邪気な笑顔で気持ちいいと笑っていた。三人の笑っている姿を見ている正人と楓は、こんな幸せな時間が永遠に続けばいいのにと考えていた。


「娘達三人があんなに幸せな笑顔でずっと生きててほしいな」

「そうね。 なんで怪物なんて存在しなければよかったのに……」


 しかし怪物が攻めてくる以上、こんな幸せが続かないので、怪物なんてもういなくなればいいのにと二人は考えていた。


 エレナも含めて娘達が笑顔で暮らせる毎日が必ず来て欲しい、幸せな毎日を過ごして苦痛がなく幸せな笑顔溢れる人生を送ってもらいたい。ただこれだけのことを怪物のせいで成すことが出来ない。正人と楓は娘達に危機が迫って、死ぬかもしれない状況に陥った時には自分達の命を差し出してでも生きてもらいたいと二人は決めていた。


「愛理が危機的な状況になったら、私達が決めたように命をかけてでも救いましょう。 娘達が幸せに生きるために……」

「そうだな。 俺達の命で愛理が救われるのなら安いものだ……」


 後部座席で三人が笑っている中で、正人と楓が話し合っていた。車内で様々な考えが進む中で、車は一本橋を走行していく。エレナは綺麗な海だと目を輝かせ、愛理は窓を開けて体を乗り出して景色を見ているエレナを止めたり、奏はその様子をスマートフォンのカメラで撮影をしていた。


「三人共そろそろ市街地に出るぞー。 体を乗り出すのやめろよー」


 正人が前を見ながら後部座席で騒ぐ三人に注意をする。注意を受けた三人ははーいとハモりながら言うと、おとなしくなった。


「ハモって急に三人共おとなしくなったの笑えるわね」

「ちょっと! 笑わないでしょ!」


 楓は突然おとなしくなったので可笑しく思って微笑していたので、愛理が笑わないでと楓を怒った。そして、市街地に到着すると愛理の家まではそれほど時間はかからないので、愛理は知ってる景色になってきたとウキウキとしていた。


「知っている町の風景だ! やっと帰って来たのね!」

「ここが私達の住んでいる町だよ。 エレナもここで暮らすんだよ!」

「ほぉー! 人が沢山いるし楽しそうな町!」


 エレナはこんなに人がいると声を上げていた。奏はエレナにこれから色々と一緒に経験しようねと話しかけた。それを聞いたエレナは、沢山経験していきたいと笑顔で返答をしていた。


「奏と仲良くしてくれてありがとう。 私だけじゃなくて、奏とも沢山遊んでね!」

「うん! 愛理の家族は私の大切な人達だよ!」


 愛理が笑顔で言うと、エレナはうんと眩しい笑顔で返していた。そして、三人で楽しく談笑をしていると、正人が家に到着したぞと愛理達に言う。愛理は楽しく話していると時間ってすぐ経つわねとしみじみと腕を組んで何度も頷いていた。


「ほら、お姉ちゃん早く降りて! エレナに家を案内するんだから!」

「はいはい、ゆっくり案内してあげてね」


 奏は愛理にすぐ降りてと言って、エレナの腕を掴んでここが私達の家だよと紹介をしていた。エレナはここで今日から暮らすんだと口を開けて家を眺めていた。


「ここの家でこれから暮らすんだぁ! 楽しみ!」

「そうよ。 あなたは今日から私達の家族の一員よ」

 

 その様子を見ていた楓はエレナの背中を優しく押して、今日からあなたの住む家よと屈んで目を合わせて言った。


「ありがとう! 楓ママ! 嬉しい……」

「そう呼ぶのね。 どう呼んでもいいからね!」


 エレナはありがとうと泣きそうな声でありがとうと言いながら楓に抱き着くと、楓はエレナの頭を優しくなで始めた。緊張しなくても、ここがあなたの帰る場所よと優しい笑顔で話しかけていた。


「私の帰る場所……帰る場所ができた! ここが居場所!」

「さっ、家の中に入ろ? 中も凄いよ!」


 エレナのその言葉を聞いた愛理は、遠慮しないで家に入ろうと言う。そのままエレナの手を引いて家の中に入ると、エレナは床に抱き着くように倒れた。一瞬何をしたのか愛理達は理解が出来なかったが、エレナが家を感じてると言って頭を抱えてしまう。


「そんなことしなくていいから、早く二階に行こう! 家は倒れなくても感じられるから!」

「独特の感じ方しなくていいから、早く早く!」


 愛理はエレナを抱き起して階段を上っていくと、二階にあるリビングに到着をした。リビングに入ると、テレビの前にあるソファーにエレナを座らせることにした。


「そこのソファーに座っててね。 はいこれ飲んでね」

「ありがとう!」

 

 愛理は冷蔵庫からお茶を取り出してコップに注ぐと、注いだコップをエレナに渡す。


「これはなに?」

「これはねーお茶だよ」


 エレナはその液体が何なのか理解が出来ていないので、愛理に質問をした。愛理はお茶を知らないんだと理解をすると、先に愛理が飲んでこれは美味しい飲み物だよと教えたら、エレナは一気に飲み干した。


「美味しい! 何この液体美味しいよ! もっと飲みたい!」

「気に入ってくれて良かった! もっと飲んでいいからねー」


 エレナはもっと頂戴と愛理に言い始めていたので、あとから上がってきた正人達は何を騒いでいるのかと愛理に聞くと、エレナがお茶が美味しいって騒いでたのと説明をした。


「病院でお茶飲んでなかった? そんなに美味しかった?」

「凄い美味しい! この味好き!」


 楓がエレナに声をかけると、エレナは自身の口を押さえながら美味しいと言って零していたお茶をタオルで拭いていた。愛理は病院で飲んでたのは緑茶で今飲んでたのはジャスミン茶だから、違うのだと思ったんだと言う。


「うちにはお茶が沢山種類あるからね! エレナにはもっと沢山飲んでこの世界の食事も楽しんでね!」

「うん! 色々楽しむ! ありがとう!」


 奏がエレナにジャスミン茶を注いで飲んでと言うと、もっと飲むとエレナは笑顔でコップを受け取っていた。


「お茶だけじゃなくて、食事も食べてね!」

「ご飯!? ご飯食べたいー! 奏ちゃんに楓ママの作るご飯美味しいって聞いたから凄い楽しみ!」


 楓が食事を作るから待っててとエレナに言うと、エレナは待ってると言って愛理にご飯楽しみとソファーに座ってテレビを見始めた。テレビの電源を入れるとバラエティー番組がやっており、そこでは芸人の人達がお笑いバトルをしていた。


「この薄い箱の中に人間がいる!? どうなっているの!?」

「あぁ、これはね。 別の遠い場所でしているのをこの箱で投影しているの。 それで今見れてるのよ」

「そうなんだ! 凄い凄い! もっと色々なのみたい! 奏ちゃんが出演しているドラマってやつとか!」

「それはまた今度ね!」

「分かった!」

 

 エレナは面白い仕事だねと言っていると、テレビに映っていた芸人がしていた芸を見て、エレナは爆笑をしていた。


「この人の動き面白い! こんな動きも出来るんだぁ!」

「エレナも私と同じところで笑ってる! この芸人さん面白いよね!」


 愛理のその言葉にエレナがだよねと返すと、この芸人さんも面白いんだよと愛理がさらに言う。


「この芸人さんも面白い! そこで変顔するなんて卑怯だよぉ!」

「だよねぇ! ここズルい!」


 エレナがテレビ画面を指さして笑っていると、楓が晩御飯が出来たわよと愛理とエレナの二人に話しかけた。エレナはもっとこのテレビ見てると返事をすると、愛理が見ながら食べれるから行こうとエレナの手を引いてソファーから離れた。


「さ、ここに座って! ここが今日から食べる席よ」

「ここなんだ! ここ私の席ー!」


 愛理は自身の左の椅子に座らせると、楓が作ったオムライスが人数分並べられていた。エレナはこれは何て言うのと愛理に聞くと、これはオムライスっていう料理よと説明をする。


「ケチャップをこんな風にかけて食べると美味しいのよ! まえに奏がやってくれたの」

「そうなんだ! 私もやってみるー!」


 愛理が実際に自身のオムライスに向けてかけるとケチャップが勢いよく吹き出してしまい、愛理のオムライスに必要以上にかかってしまった。


「わ……私のオムライスが……私のオムライスがあああああああああ! またケチャップが大量にいいいいいいいいいいい!」

「愛理何してるのー? 沢山かかっても美味しそうだけど?」


 愛理のその絶叫を聞いた楓達は愛理のオムライスを見ると、そこにはオムライスを覆うようにケチャップがかかっていた。


「お姉ちゃんまたケチャップぶちまけちゃったの!? もう……何回目!? 気を付けなよー」

「沢山かかっても美味しそうだよ! 私はそのケチャップオムライス好きー!」

「好きでありがとう……でも私はかけすぎで嫌だわ……」


 奏が愛理のオムライスを見て、スプーンでオムライスの上にぶちまけたケチャップを取っていく。オムライスが埋まるほどにかけてしまったので、奏は自身でかけることなく、取ったケチャップだけで自身のオムライスの分を確保出来てしまった。


「奏ちゃんの分が確保出来てる! 見た目以上にかかってたんだ!」

「そうみたいだね……エレナも取ってかけなね……」


 エレナはそんな愛理と奏の一幕を見て、面白いと何度も笑っていた。エレナは見て感じる全てのことが初めてなので、愛理と奏がする全てのことが面白いと感じているようである。


「私も愛理のケチャップ取るぅ! かける!」


 エレナがそう言ってスプーンを使うと、愛理のオムライスごとケチャップを取ってしまった。


「あっ! 私のオムライスぅ! ケチャップだけ取ってよ!」

「おまけも取れた! 食べちゃおー!」

 

 愛理が焦りながらエレナの手を掴んで言うと、おまけが取れたよと笑顔で言っていた。


「私のオムライスのカケラ返してぇ!」

「もう私のだよー!」


 愛理がエレナに返してと言っていると、楓がお行儀が悪いわよと二人の掌を叩いた。エレナはごめんなさいと言って落ち込んでしまう。


「そこまで落ち込まなくても……あぁ! もうそのカケラ食べて良いわよ!」

「わぁーい! やったぁー!」


 愛理のその言葉を聞いたエレナな、ありがとうと笑顔で愛理のオムライスのカケラを食べた。


「美味しい! 食べ物は最高に美味しい! もっと色々なの食べたいー!」

「これから色々な食べ物を食べられるわよ。 今はこれで我慢しなさい」


 エレナは笑顔でオムライスを食べ進めていた。時折咽ながらも食べていたので、愛理はジャスミン茶をコップに注いで飲ませることにした。


「奏以上に手がかかるわね。 妹がもう一人できた感じ」

「ありがとう! このお茶美味しいー」


 愛理のその言葉を聞いた奏はお姉ちゃんの方が私にとっては妹みたいだよと、小悪魔のような表情をして言った。


「高校の合格通知書の時とか特にね! あの時のお姉ちゃんの慌てようや焦りようが忘れられないよ。 もっとからかえばよかったぁ!」

「からかわなくていいわよ! あの時本当にヤバかったんだからね!」


 奏はあの時の愛理の表情や行動を、声高々に言おうとして奏が口を開いた瞬間、愛理が両手で奏の口を塞いだ。

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