第26話 追ってきた怪物

 愛理は持っている鞄の中に入っている自身の服を着せようと病院の中に一度戻った。エレナとの身長差がほぼ程なかったので難なく着ることが出来た。


「よし! 着れたわね! 急に現れたけど、あなたは誰なの?」

 

 愛理がエレナに服を着させると共に病院の外に出た。そこでは病院の玄関前にいた家族や医師達が突然現れたエレナに再度驚いていた。


「君はどこから来たの!? それに突然現れて、何かに追われていたの!?」


 医師の一人がそう話しかけると、エレナが私はと口を開いた瞬間エレナの後ろに小さな亀裂が開いてそこから骸骨の怪物が複数体現れた。


「こ、この怪物は!? 私を追ってきたの!?」

「怪物!? 女の子を追いかけて来たのね!」


 エレナがその骸骨を見ると、この怪物にさっきまで追われてたのとエレナが叫びながら愛理の背後に抱き着いた。


「早く皆さん逃げてください! ここは私が戦います!」


 愛理がライトソードとライトシールドを展開しながら家族や医師の人達に逃げてと叫んだ。楓と奏は私達も残ると言うが、正人が愛理の邪魔になると言って二人の手を掴みながら医師と共に病院内に入っていく。


「愛理の邪魔になる! 俺達は逃げるんだ!」

「お姉ちゃん死なないで! これ以上傷つく姿は見たくない!」

「怪我をしないで! 危なくなったら逃げてね!」


 楓と奏が叫ぶ姿を見た愛理はもう心配かけないようにすると叫び、背後にしがみつくエレナに病院に入っててと言った。


「いや! 一緒にいるの!」

「戦いは危ないから、病院に逃げてなさい!」


 エレナは最初渋っていたが、愛理の指示だからと納得して小走りで病院の入り口に入った。


「骸骨の怪物ね……私はまだ弱いけど、守りたい人のために戦うしかないの! だから、私の前に立ち塞がらないで!」


 愛理の叫び声がその場所一帯に響き渡ると、病室の窓から何があったんだと患者やお見舞いで来院をしていた患者の家族達、そして病院関係者達が顔を窓から出していた。


「何があったんだ?」

「急に叫びだして何だ?」

「見て! 病院の前に怪物がいる!」

「怪物とテレビに映ってた女の子が戦ってるよ!」


病院の窓から顔を出した人たちは、複数の骸骨の怪物とそれに対峙をしている愛理をみていた。テレビで愛理のことを見ていた人達は頑張ってや助けてと様々な応援をしていた。愛理は応援する声を聞くと、ありがとうございますと返事をした。そして骸骨の怪物を見つめると、一直線にライトソードで攻撃をしていく。


「もう負けない! 私は守ると決めたの!」


 愛理の攻撃は骸骨の怪物の持つ骨の剣を壊し、一刀両断した。それを見た他の骸骨の怪物はお互いの顔を見合わせると、愛理に攻撃を仕掛ける。愛理はライトソードとライトシールドを上手い具合に交互に使用をして戦っていた。


「いいぞ! その調子だ!」

「負けないで! 怪物を倒して!」


 その戦闘を見た人達は、頑張れやそこだと愛理に応援をし続けていた。その声は愛理に届いているので、一人で戦うより全然違うと感じていた。


「これで終わりよ! 皆の応援の声が私に力をくれる! あんた程度の怪物じゃ私に傷はつけれないわ!」


 その言葉通り最後の骸骨の怪物を倒すと、現れた怪物を全て倒すことが出来た。愛理はやったわと喜ぶとすぐに病院の中に入り、エレナにもう大丈夫よと伝えた。エレナはありがとうと言いながら愛理に抱き着くと、私は黒羽愛理に会って救ってもらうために生まれたのと話し始めた。


「私に救ってもらうために生まれた? 話が分からないわ……どういう意味なの?」

「えっとね、えっとね! 私が生まれた時に黒崎愛理に会って世界を救ってって誰かに言われたの! でも誰に言われたかは分からないの……」


 困惑する愛理をよそに、奏はどこで生まれたのとエレナに問いかけた。すると履いていたスカートの裾を掴んで、漆黒の闇で覆われた暗い世界の泥から生まれたと話した。漆黒の闇で覆われたと言う言葉を聞いた愛理は、どこよそれとさらに困惑してしまう。また、泥から生まれたとの言葉にも疑問が残っていた。どこから見ても人間の女の子なのに、どうして泥から生まれるのかと悩んでいた。


「本当に泥から生まれたの? あ、名前は何て言うの? まだ聞いてなかったよね?」

「あっ! 私の名前はエレナって言うんだよ! 暗い世界でどこからか聞こえた声の人に教えてもらったの!」


 愛理のその言葉にエレナは自身の名前を言い、そのまま気がついたら意識があって泥の中を這いずり回っていたと言った。そして、短い時間で今の姿に成長をしたとも言う。それを聞いた愛理と奏は、泥から生まれてもエレナはエレナだよと姉妹でエレナに抱き着いた。


「ありがとう……光の世界ってこんなに暖かいんだね……」

「私達が一緒にいるからね! 大丈夫だから!」

「お姉ちゃんと私が一緒だよ! エレナは一人じゃないよ!」

「ありがとう……私……この世界にこれて良かった!」


 愛理と奏に抱きしめ返したエレナは、号泣し始めてしまった。愛理達家族は、一度エレナを落ち着かせるために病院内の食堂に移動をすることに決めた。医師達はエレナの検査をすると言い、準備のために検査室に戻っていった。


「検査の準備が出来たらここに来てくれるみたいだね。 お腹空いたって言ってたから何でも好きなの頼んでいいよ」


 楓がエレナに話しかけると、エレナはスパゲッティを指さした。愛理は分かったわ言って食券を買いに行き、エレナは愛理にお願いしまーすと言って楓や奏と話し始めた。正人はビールをいつの間にか飲んでおり、楓に酔わないでよと注意を受けていた。


「この一缶だけだから、大丈夫さ。それより、エレナちゃんはこれからどうするんだ? 別の世界からきたのなら、この世界でどうやって暮らすの?」

「そこなのよね……エレナちゃんは暗い世界で生まれたと言うし、この世界に身内はいないだろうからね……」


 正人が楓に話しかけると、楓は頭を抱えていた。このまま放っておくのも可哀そうだし、かといって家に住まわせるのもと考えていると愛理がエレナは今日から私の家に住みなよと言い放った。


「一緒に住めばいいじゃない! エレナが可哀そうよ!」

「いいの? 一緒に住んでいいの?」


 愛理のその言葉を聞いたエレナは、本当に住んでいいのと愛理を見つめる。愛理は正人と楓に一緒に住んでいいよねと言うが、楓はすぐにいいわよとは言わなかった。


「突然知らない女の子が住むのはダメだし、部屋も用意していないからすぐにはダメよ。それに色々買い出ししないとね」


 楓が言うには、エレナの日用品や専用の部屋を用意しなければいけないので、すぐには住まわせられないとのことだった。愛理はそれぐらいすぐ済ませて、一緒に帰りましょうよと言った。


「そうね……それならすぐに買って部屋を用意しますか。あ、医者の方が来たようね。 早くご飯食べちゃいなさいね」

「はーい! 食べる!」


 楓が優しくエレナに言うと、エレナは分かりましたと言ってすぐさま食べ始めた。そして、エレナは食べ終わるとすぐに検査に向かった。愛理達はエレナの検査が終わるまで、この食堂にいることにした。


「することないのも退屈ねぇ……」

「お姉ちゃんはすぐ退屈になるね! もっと面白いこと沢山あるよ! あ、電話だ!」


 愛理は奏が電話をしているのを、頬を何度も突いたりして邪魔をしていた。楓と正人も誰かと電話をしたりして時間を潰していた。愛理が退屈と言って、机に突っ伏してから一時間ほどが経過すると、エレナが食堂に戻ってきた。


「あっ! エレナが戻って来た!」

「検査ってやつ辛すぎるよぉ……痛いよぉ……苦しかったよぉ……」

「大丈夫!? そんなに検査苦しかった!?」


 エレナは苦かったや、冷たくて怖かったと言いながら看護師に連れられて戻って来た。エレナは愛理を見つけると、愛理と叫んで抱き着いた。そして、色々調べられたと涙目になっていた。


「はいはい、大変だったね。 これから一緒に家に帰るから、泣き止んでね」


 愛理がエレナの綺麗な艶のある黒髪を撫でていると、奏が私も撫でると言って便乗してきた。奏に撫でられているとお姉ちゃんみたいとエレナが言う。その言葉を聞いた奏は、こんな気分なんだと恍惚とした表情をしていた。


「妹が出来るってこんな感じなのね! エレナは私の妹よ!」

「お、お姉ちゃんが出来た! お姉ちゃん!」


 奏がそう宣言をすると、エレナは奏お姉ちゃんと眩しい笑顔で言う。その言葉を聞いた奏は最高と声を上げて鼻から血が一滴垂れてしまう。


「鼻血が……鼻血が……」


奏が両手で鼻を覆い、ティシュティッシュと何度も呟いていた。その奏の姿を見た楓は何してるのよと呆れ顔でポケットティッシュを奏に渡すと、ありがとうと返していた。


「遊んでいないで早く帰って、エレナを迎える準備をしよう」


 そう正人が言うと、四人は分かったわと言って病院から出ていく。病院の入り口前に到着をすると医師や看護師の人達がお出迎えをしてくれた。一人ずつ退院おめでとうや、怪物を倒してくれてありがとうと言っているようである。


「ありがとうございます! みなさんのおかげで怪我が治りました! また入院した時はよろしくお願いします!」


 愛理のまた入院した時と言う言葉を聞いた医師は、来ないように気を付けてねと苦笑いをしていた。そして、愛理は何度も手を振りながら正人の車に乗って家に帰っていく。長いようで短い入院が終わり、エレナという別世界から来た女の子と出会った愛理であるが、これから楽しい毎日になりそうだと楽しそうにしているようである。


 愛理は運び込まれた際には意識を失っていたので、病院までの距離や時間の長さは感じていなかったが、帰る時に車に乗っていると一時間経過しても町が見えずに崖をずっと移動しているので、退屈だと愛理はボヤいていた。


「まだ町に着かないのー? こんなに遠い場所にあったのねぇ……」

「結構奥地にあるわよー。 ここを毎日通っていたんだから感謝してほしいわね」


 愛理に楓が笑いながら返答をしていると、その話を聞いていたエレナはこんなに平穏な場所や景色がいいところがあるんだねと目を輝かしていた。奏は、エレナのその興奮を抑えるためにこっちの景色もいいよと崖側も見せた。すると、エレナは石ばっかりだと口を尖らせて退屈だとボヤいていた。


「そんなにガッカリしないでよー。 もうすぐ開けていい景色が見えるから!」


 奏のその言葉を信じたエレナは見てと言われた崖側を見続けていると、次第に視界が晴れてそこには両側が広がり始めて周囲に海が見えた。前方には一本橋が掛かっているのが見える。 正人達が乗る車は、その一本橋に乗って走行を続けていた。


「すごーい! すごーい! ここの景色すごい! 綺麗だわ!」


 エレナは車の窓を開けて顔を出して景色を見続けていると、愛理が危ないわよと言ってエレナを引っ込めた。エレナはもっと近くで見たいと言うが、落ちちゃったら大変でしょと言う愛理の言葉に従っておとなしく景色を見ることにした。


「それにしてもこんなに遠かったのね……意識なかったから気が付かなかったけど、本当に山の方にあったなんて……」


 頭を抱えている愛理に楓が、特別な病院らしいから仕方ないみたいよと返す。すると愛理は、こんな遠い場所までありがとうと正人達に言うと、家族なんだから場所なんて関係ないと正人や楓が言った。奏もお姉ちゃんは気にする必要はないし、家族なんだから当然だと言う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る