第25話 愛理に会うために

 愛理は当時の奏が虫を食べようと言い続けていた時を思い出し、何かの幼虫やミドリムシ美味しいと騒いでいたのを思い出していた。


「あの時は大変だったわ……奏がどこからか食用の虫を買ってくるし……」


 愛理は当時の奏に虫は食べたくないと騒いでいた奏はお姉ちゃんにはあげないもんと言いながら一人で愛理の分も食べていた。


「食用の虫ばかり仕事場に持って行った時もあったなぁ……奏はいつも楽しく人生を生きてるなぁ」


 愛理は奏にしかできない人生を歩んでいると思いながら、自分も早く体を治して怪物を倒さないととガッツポーズをしていた。そして、愛理は雑誌を読み進めると奏が家族のことを語っている項目があった。


「奏が家族のことについて話してる……えっと……お姉ちゃんは今回の怪物との戦いで重傷を負ってしまいましたがって、そこ話していいんだ!」


 怪物との戦いのことを話していたので、この本で話せばある程度聞かれることはないのかと思ったのかなと愛理は感じた。両手で持つ雑誌をさらに読み進めると、奏の氷魔法について書かれている項目もあった。


「奏は昔から氷属性の魔法を使って活動をしていたのねー」


 愛理は奏の努力を垣間見た気がして、姉として誇らしいと感じていた。愛理は雑誌を全て読み終えると、週刊魔法使いを側にある棚の上に置く。


「ちょっと疲れたわ……少し寝ようかしら……」


 そう呟くと、枕に頭を静かに置いて目を閉じる。愛理は特に夢など見ずに熟睡をしていると、誰かに体を揺さぶられている感覚を感じた。


「誰よせっかく寝ていたのに……」


 静かに目を開けて、体を起こした愛理の目線の先にいたのは奏であった。


「うーん……なんで奏がここにいるのぉ?」


 寝ぼけ眼で目を擦りながら目の前にいる奏を見ていると、お姉ちゃん寝ぼけすぎと奏は笑いながら愛理を指さしていた。


「どれだけ寝てたのお姉ちゃん? もう晩ご飯置かれて結構時間が経っているよ?」


 奏は愛理のベットに付けられている小さな長方形の机の上に置かれている晩御飯を指さすと、早く食べようと言った。愛理はその言葉を聞くと、そうねと言って身体の態勢を整えた。


「起こしてくれればいいのに……イジメ?」

「熟睡してたから起こさなかったのかもよ?」


 愛理はとりあえずと言ってペットボトルのお茶を一口飲み、寝ぼけ眼が収まった眼で晩御飯を見ると、またおかゆかと落胆をした。


「もうおかゆ嫌! 他の食べたい!」

「文句を言っていると私が食べちゃうよー?」


 それは嫌だ嫌だと愛理が言うと、なら私が食べちゃうよと奏が小悪魔に見える表情で言った。その奏の顔を見た愛理は、ダメよと言ってすぐさま食べ始めた。


「この夕食は私の物よ!」

「取らないから大丈夫だよお姉ちゃん」


 愛理は奏のことをおかゆを食べながら睨んでいると、奏がスパゲッティ食べてきたからもう食べないよと言った。


「スパゲッティ!? そんな良いもの食べたの!? 奏だけずるいいいい!」


 愛理は髪を振り乱しながらずるいと言い続けると、退院したら一緒に食べに行こうねと言って奏は愛理を鎮めた。


「絶対だよ!? 絶対だからね!」


 愛理は何度も念を押すと奏は、はいはいと言って呆れた顔をしていた。そんな姉妹の微笑ましい一幕がある最中、どこかの次元にある空間を漆黒の闇が支配する世界で一人の奏と同じ年の女の子が泥の中から生まれた。全身泥で塗れているその女の子は初めは歩けないのか、赤ちゃんと同じく両手両足を使って前に進んでいた。


 次第にその女の子は二足歩行で歩くことが出来た。その女の子は奏と同じ身長をし、初めは頭髪がなかったが徐々に頭髪が生え始めていた。生えた髪の長さは肩にかかる程度の長さに留まり、髪色は黒色になっていた。


 二足歩行になるとその女の子は首を上に向けて、漆黒の世界を見渡した。まだ声も出せない中で、声を出し慣れていない擦れた声で黒羽愛理と言葉を発した。


「くろ……はね……あいり……」


 そして何度も愛理の名前を呼んでいると、擦れた声からはっきり良く聞こえる声色に変わっていった。その声は鈴が鳴るような綺麗な耳に残る声であった。


 女の子の泥が全て落ちると、スタイルが良い綺麗な白い肌が露出した。また、その女の子の顔はとても綺麗で目鼻立ちがハッキリとして、水色の目をしている二重の目元がとても綺麗である。


「黒羽愛理……会わないと……私を救ってくれる唯一の存在……」


 泥から生まれた女の子は愛理に会わないとと言いながら、静かに前と思われる方向に歩いて行くと、女の子の後方の空間が突然裂けた。


「な、なに!? 空間が裂けたの!?」


 裂けた場所から骸骨の怪物が一体出現した。その怪物は速足で右腕に持っている銅の剣を振りながら女の子に迫って来る。それを見た女の子は恐怖に慄きながらも、会いに行かないとと小さな声で呟きながら走り始めた。


「黒羽愛理に会わないと……早く会わないと!」


 漆黒の闇が支配をしている世界で、愛理に会うために歩き進める女の子。暗い中でも怪物が自身を殺すために迫っていることは理解が出来ていた。この暗い世界を当てもなく歩き続けていると、どこからか威圧感を感じる低音の声色で伏せろと自身に言う声が聞こえた。


「伏せろ? なんで急に!? なんでか分からないけど伏せるわ!」


 女の子はその声に従って地面に伏せると横一線の斬撃が遠くから飛んできて、迫ってきていた骸骨の怪物を切り裂いた。その斬撃を受けた骸骨の怪物は、胴体が裂かれて地に伏した。


「助けてくれたの? なんで私を?」


 地に伏した骸骨の怪物を凝視していた女の子に、再度威圧感を感じる声色がその空間に響き渡る。


「早くこの世界から消えることだ。 この世界にお前の居場所はない」

「突然居場所がないってどういうこと? 私はこの世界に生まれたばかりなのに! あなたに何が分かるの!?」


 そう言われあなたに何が分かるのよと返すも、早く消えろとしか言われない。そして女の子はどうすればこの世界から出れるのよと叫ぶと、また威圧感を感じさせながら前を見ろと言う。


「前? 前を見ても何も……」


 女の子が疑問を感じながら前を見ると、目の前の空間が裂けて淡い光が亀裂から漏れていた。その空間は直径三十センチ程の円形であり、その亀裂から出ている淡い光を女の子が見ると目が光に慣れていないので眩しいと両手で目を覆っていた。


「これが光……これが光なのね!」


 眩しさを我慢しながら亀裂から漏れる淡い光を見続けていると、女の子の耳に早くその亀裂に入れとの声が聞こえた。


「分かったわよ! 入る! 入るから!」


 そう決心をすると、亀裂に両手を突っ込んで亀裂を広げていく。 精一杯の力を込めて亀裂を広げて自身が入れるだけのスペースを作ると、女の子は身体を捻じりながら中に入っていく。身体を捻じって入ろうとするも、亀裂が予想以上に硬くて身体が半分入ったところで止まってしまう。 女の子は歯を喰いしばって身体に力を入れて奥に入ろうとしていく。


「もう少し……もう少しで全部入る……!」


 女の子が入れと声を上げると、するりと亀裂の中に身体が全て入った。亀裂の中は眩い光で満ちており、丸い空間を真っ直ぐ女の子は進んでいた。女の子は先ほどまでいた漆黒の世界との違いに驚き、生まれて間もないがここまで違う世界があることや光を身に受けて暖かさを感じていた。


「こんなに世界が違うなんて、もっと広い世界を知りたい!」


 そう考えていると、先ほどの漆黒の世界で聞いていた声がこの空間でも聞こえていた。その声は女の子に君の名前はエレナだと教えた。続けてその声は光ある世界で様々な経験をして使命を果たせと言ってくる。


「使命って何? 私は黒羽愛理に会わないといけないの! それ以外に何かあるの?」


 そうエレナが問いかけると、威圧感のある声がそれ以外にあると返答してくる。エレナは教えてよと頬を膨らませて怒るも、答えは一向に返ってこまぁった。


「お前の生まれた意味を考えれば自ずと理解が出来る。 この暗い世界で生まれたお前は光を求めた……エレナ……お前は光を身に纏い、漆黒の世界を照らすんだ」


 先程までは威圧感を感じさせた低音の声が、最後の方では優しい声色をしていた。エレナは何があったのかと疑問に感じるが、私は私の道を行くわと答えるとその道の先に答えはあるだろうと声が聞こえたのを最後に一切声は聞こえなくなった。


「声が聞こえなくなった……あの声は何だったの……」


 女の子は光のトンネルを流されるまま進んでいくと、目の前に出口と思われる穴が見えた。エレナは救われるために黒羽愛理に早く会わないとと目を輝かせて進み続ける。


「黒羽愛理ってどんな人なんだろう……早く会いたいなぁ……」


 エレナは愛理がどんな人なのか想像をしていた。同じ年齢の女の子なのか、少し年上なのかだいぶ年が離れているのかなど沢山想像をしていた。そんな考えを巡らせていると、出口と思われる穴が目の前に迫ってきていた。


「光ある世界に出れる! 救われる!」


 そう声を発しながら身の丈ほどある穴に吸い込まれていった。穴にエレナが入ると、今まで通ってきた光のトンネルは塵の様に消え去った。


「眩しい……これが光の世界……」


 エレナが目を右手で覆っていると、目の前から女の子と思われる声が聞こえた。その声を聞いた瞬間、エレナは目を見開いて目の前に立っている女の子を見つめた。


「あなたが……黒羽愛理?」


 エレナは目の前にいる女の子に話しかけた。エレナの目の前にいたのは、退院を迎えた愛理本人であり、愛理は突然目の前に現れた光を放つ穴の存在やそこから出てきた裸の女の子に驚いていた。


「ちょ、ちょっと突然なに!? なんで私の名前知ってるの!? それに穴から裸の女の子!?」


 愛理が慌てふためいて、楓と奏が愛理の着なかった余りの服をすぐに着させようとした。初めは何をするのと嫌がっていたが、愛理は服を着たほうがいいよと言うと、エレナはその言葉に素直に従った。

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