てっちゃん

弥生

てっちゃん

休日土曜の朝

仕事で溜まった疲れを一気に解消しようとあたしは目覚ましをセットせずに眠った

なのに通常営業のような朝の時間帯からスマホが数回鳴っていた


喧しいわねぇ


観念してスマホを手に取ると数件の着信履歴とLINEが何通か溜まっている

1番上の通知をタップするとウラッちからのLINEのトーク画面が開いた


(ウラ)ごめん皐、あとは任せた


なんのコトだろう?

取り敢えずウラッちとのLINEトーク画面を閉じて次の通知をタップした


てっちゃんとのLINEトーク画面が開いた

1分置きにLINEが来ていた

朝っぱらから喧しかったのはコイツか

ホント、相手のコトを何も考えないヤツだ


(て)今家に居るんだろ?

(て)出て来いよ

(て)いつものファミレスで待ってる

(て)おい既読にならないって、寝てんのか?

(て)スルーしてんのか?

(て)起きろ!電話に出ろ!

(て)分かった、ランチおごるから

(て)先に入ってんよ

(て)早く来いよな、待ってっから


バーカ、女は起き抜けに化粧もせずにファミレスになんて出て行けねーんだよってぇの

待たせときゃいいっか

シャワー浴びたら返信しよっと

てっちゃんとのLINEトーク画面を閉じて次の通知をタップしようとした瞬間、電話が鳴った


「居るんじゃん!早く出て来いよ、先にドリンクバーで時間潰してるから、直ぐ出て来いよな」


一方的に云いたいコトだけを云って電話は切れた

てっちゃんはそう云うタイプの人間だ

そう云うタイプの中でも飛びっきりそう云うタイプだ

職場の連中はみんなレベルが低くて話が合わないと云っていたけど、そして本人は本気でそう思っていそうだけど、実際は相手にされていないのがてっちゃんの方なのは火を見るより明らかだ


休日だし直ぐそこのファミレスだし会う相手はあのてっちゃんだしで私は化粧もそこそこに寝間着にしているTシャツの上からパーカーを一枚羽織って待ち合わせのファミレスへと向かった


「1000万レベルになると年収も隠すよね、まぁ分かるけど」


私が店内に入っててっちゃんを見つけててっちゃんの座ってる席の向かい側の席に座ろうとしてる時点でいきなり本題に入ってきた

普通なら「おはよ」とか「呼び出してごめん」とか軽く挨拶するものだろう

てっちゃんは全てにおいて満遍なく何かが欠落してるタイプの人間だ

私はそれを承知でてっちゃんと付き合っている

付き合っていると云うよりは面倒を見ている


年収1000万レベルになると隠すとか、唐突に何の話だ?

そもそも自分の年収なんて多くても少なくても人に話すような話題ではないと思うし

なんて、マトモに相手をしていたらキリがないのは百も承知


 「そんなコト隠されての友人ってねぇ~ってなるだろ普通」


いや、ならねぇだろ普通

友人全員の年収を聞かされたところでそれを把握しきれるのか?って話よね、逆に

しまった、またマトモにてっちゃんの話を聞いちゃうところだったわ

もともと仲良くしていた仲間でてっちゃんに愛想を尽かして離れて行った友達からもてっちゃんの話をマトモに聞いたり相手しちゃダメだぞって再三忠告もされている

むしろ私が根気強くてっちゃんの相手をしているコトに感心されるコトの方が多いけど

障害とまでは云わなくても、ココまで対人関係に問題のある人間を周囲のみんなが見放して見捨ててしまったらてっちゃんが学んだり成長したりする機会が全くなくなってしまうワケで

最初はみんなでてっちゃんを教育するような暖かい気持ちで見守ってはいたものの、あまりの傲慢さや思慮浅さに呆れて1人抜け2人抜けして、てっちゃんの面倒を見るのは今となっては私とウラッちとの2人だけになってしまっていた

中にはてっちゃんは完全に障害者だからちゃんとした施設に入れた方が良いなどと親身になって忠告をして手を退いた仲間もいた


「ウラッちには通じなかったけどさ」


 ウラッちには通じなかった・・・だと?

今朝のウラッちからの1行だけのLINEのメッセージが頭を過った

昨日、ウラッちと何かあったんだろう

私もウラッちもてっちゃんの話を聞いてはあげるけど空返事や表面的な相槌はなるべく避けて違うことは違うと間違ってることは間違ってるとちゃんと返すようには心掛けてきていた

殆んどの場合、それはてっちゃんには通じないのだけど、「ウラッちには通じなかった」と云うてっちゃんの感想から逆算すると、おそらくウラッちがてっちゃんに対して云った何かしらの台詞がてっちゃんの中に響いたのだろう

響かずとも、こっちの云ってる話が届いたに違いない


「俺の価値観からすると、友達は友達内で助け合うべき関係で

それは正確な情報が必要だと思うんだなぁ常識的に考えて」


 いや、常識的に考えてそれはおかしいだろ

まぁ、始めに「俺の価値観からすると」と前置きはしてるものの、それは「価値観」ではなくてっちゃんの理想とか願望の話だと思うし

だいたいこのワンフレーズに「俺の価値観」と「常識的に考えて」が混在する一貫性のなさよ

私もだいぶ慣れてはきたものの、やっぱり突っ込みたくなってしまう

友達同士で助け合ったり励まし合ったりするのは当然のコトだと私も思うけど、そこになぜ「正確な情報」が必要になって来るのか分からない

いちいち突っ込んでいたら際限無く話が散らかって収集つかなくなるのはこれまでの付き合いの中で私も学んできている

それが故に時間の無駄だとか不毛な会話だとみんな匙を投げててっちゃんの相手をしなくなってきたと云う経緯もある

横路に反れないようにと私は正確な情報を要する友達同士の助け合いって、一体何からの助けなのかを尋ねてみた


「全ての困難から」


吹き出しそうになった

理解を示そうと云う姿勢だけは崩してはいけないと思いつつも、てっちゃんの理想や持論を理解出来る気が完全に失せた

そう云えばドケチで有名なてっちゃんが今朝はLINEでランチをおごるなどと柄にもないコトを云ってたのを思い出した

私はそれを蒸し返しててっちゃんに催促する意図でてっちゃんはお腹が空いていないかと尋ねてみた

ドリンクバーで充分だと云いランチをおごる話には触れてこなかった

きっとおごると云って呼び出したコトは覚えているのだろう

私の質問への返事だけで私に何も聞き返して来なかった

おごるおごらないの話がなかったにしても、私にお腹が空いてないか聞き返すくらいのデリカシーも持ち合わせていないのだ

もっともおごるのが惜しくなってランチの件を有耶無耶にしたかったのが1番の理由だろうけど

「なんか頼めば?」くらい返すだろ、常識的に考えて

私は黙って呼び出しボタンを押して店員にグリルのコンボを注文した


「プライベートまである程度把握しておかないと信頼が崩れるから・・・」


いや、崩れないだろ

プライベートと信頼との因果関係が私には理解出来ない

プライベートを全く知らない職場の上司に全面的に信頼するとか信頼してた人のプライベートを後から聞いてビックリしたり幻滅するコトはあっても信頼に関しては影響はないと思う

そうか、てっちゃんは語彙力も欠落してるから「信頼」と云う単語の選択を間違えているのだろう

きっともっと別な何かが崩れると云いたかったのかもしれない

例えば、期待とか


運ばれてきたグリルのコンボを見ると思ってた以上に量もありメニューの写真とは違って脂ぎってテカテカしていて、週末の遅く起きた朝食には重すぎたなと後悔した

一目で全部は食べきれないと判断した私はグリルの盛り付けてある鉄板プレートをテーブルの真ん中にずらして半分食べるようにと無言でてっちゃんに促した

こう云うのだけは通じるてっちゃん

私が手を着けるより先に鉄板プレートの真ん中に鎮座していたメインのフランクフルトを素手で摘まんで口に運んだ

てっちゃんのこう云う行儀の悪いところや食べ方が汚いところも追々私が躾てあげないとななどと考えていた

太いそのフランクフルトを一口かぶりつくと案の定プチュっと音を立てて油が飛び散った

次の瞬間てっちゃんの親指と人差指から残りのフランクフルト本体がにゅるっと滑ってテーブルの脇に弾んでてっちゃんの座ってる椅子の方に吸い込まれる様に消えて行った

だからフォークを使って刺して食べてればこんなコトにはならなかったのに


「空く時間に合わせて台回ってくるし・・・」


ごめん、今のは全く何云ってるのか分からなかった

それ以前に口の回りに飛び散ってる脂をナプキンか何かで拭くとかさぁ

って云うか落ちたフランクフルト拾わねぇのかよ!

赤ちゃんか?

呆れるとか通り越してビックリするわぁ

それでよく何もなかったかのように話を続けられるな

逆に感心すらしちゃうわ


「金も余力無くなった人間から回してくれる」


何をだ?何を回してくれるんだ?

誰が何を回してくれるって話をしてるんだてっちゃんは

私が反応に困っていると私の爪先に何かが当たるのを感じた

興奮したてっちゃんが足を動かして靴と靴とがぶつかったのかと思ったけど、てっちゃんの足にしては感覚が軽かった

手探りならぬ足探りとでも云うのか、私は爪先に当たっている物体を軽く踏んで大きさや固さを確かめた

足を前後にずらすとソレは転がった

コイツ!自分の座ってる脇に落ちたフランクフルトの残りを手で床に放りやがったな!


「まぁ極力感情を排除して生きてる人種だからね・・・んっ!」


感情を排除して生きている人種、そんな人種が地球上に生息していたとは

何か格好着けたコトを云いたいのだろうけどいっこも格好よくはない

だいたい口に物を入れたまんま話してて格好いいも何もあったモンじゃないし、それに最後の「んっ」ってなんだ?

大方食べながら話してるから飲み込み損ねたフランクフルトで喉を詰まらせたのだろう


「公開されてる情報で互いに損失を絶対に与えないっていうのが守るべき信頼、んっ!

それが出来れば隠し事なんて無い方がいいでしょう?んぁ」


今のをちょっと整理させてもらってもいいかしら?

公開されている情報でって云うのは敢えて聞いたり話したりしていないレベルの情報でってコトよね?それでお互いに損失を絶対に与えないって、逆に敢えて何も話していない者同士でどっちかがどっちかに損失を与える状況ってどんなだ?それは不可抗力で起こる事故とか不測の事態とかそう云う話なのか?わざわざ「守るべき信頼」なんて銘打つほど大袈裟な話か?ごく当り前でわざわざ言葉にして明文化する必要すらない当り前のコトをさも凄いことを云ってるかのようなドヤ顔で歌い上げられてもリアクションに困る

さらにその当り前のコトが出来れば隠し事なんて無い方が良いとか、今のてっちゃんのその格好つけた台詞、空っぽじゃないのよ

要するに「俺は隠し事が嫌いだ」で済む話じゃないのよ

いちいち面倒臭くて不毛なのよね

だからみんな呆れててっちゃんの前から消えていっちゃうのよ


慣れているとは云え、やはり毎回毎回私もてっちゃんと話していると苛ついてきてしまう

私の苛つきを悟られまいと私はテーブルの下で落ちたフランクフルトを踏んで靴底の下で転がしたり右足で蹴って左足にパスしたり左足から右足にパスを返したりして玩んで苛立ちを紛らせていた

 

「いや善意で相手のプライベートを把握するんやあん、ぁあっあん」


なんか今日のてっちゃんは何時もに増して様子がおかしい

変なヤツなのは周知認定済みだけど、顔付きも時々虚ろな目をしてみたり話してる最中に変な声を出したりして、いよいよ本格的に悪化し始めてるのではないかと心配すらしてしまう


「ぜ・・・善意やで、うっ、うぁ、んーっ、んぁ」


目を閉じたり気持ち悪い表情をしたりしながら自分が話してる最中なのに何かに操られるようにてっちゃんは立ち上がった


「あっ、あっ、あん、得させてやろうと思ってやー、んあー」


 捨て台詞のようにそれだけ吐き捨てるとてっちゃんはトイレへと駆け込んだ

なんだ、トイレ我慢してたのかよ、普通に云えば良いのに

今さら、食事中にトイレに行くくらいのマナーの無さは把握してるし、尿意とか生理現象で咎めたりするような仲でもなかろうに

呆れながら私は頬杖をつき相変わらずテーブルの下ではフランクフルトを足で玩んでいた


「それを隠すのも自由

自由だけど距離は取るよってだけ」


 何度か首を傾げながら納得のいかなそうな顔をして席に戻って来るや否やてっちゃんは話を続けた

それを隠すの「それ」ってなんだっけ?

あ、プライベート云々のコトか

隠すも何もそんなの友達として普通に付き合ってれば自然と徐々に見えてきたりするもんだと思うしお見合いや出会い系でもあるまいし最初にプライベート情報を公開する筋合いもないだろうよ

てっちゃんと会話をしててっちゃんから去って行った仲間たちの気持ちが今の私には充分に分かるくらい苛ついてきた

私は靴の下にあるフランクフルトをリズムを刻むようにプニップニップニッと踏んだ


「急いでるときに、あぁ、予定を把握してる人間から、んっ、アプローチするのは自然なんや、うぅぅぅぅん」


まだ尿意が収まっていないのか?

あ、そう云えばてっちゃんはトイレから何か腑に落ちないような顔をして戻ってきたな

そっか、トイレが使用中とかでまだ用を達してないのか

んで?アプローチがなんだって?


「あはーっ、急いでなくてもやな、んっ」


 そう続けながらついにてっちゃんは自分の股間を両手でおさえ始めた

腰は引けててオシッコを我慢してる園児のポーズそのものだった


「仕事感覚かね、ううう、うーんぁ」


「かね」ってなんだよ

この期に及んでまだ格好つけたがってるのかね?

そんなオシッコ堪えてる園児のポーズじゃ何を云われても格好つかないし、云ってるコトも実際意味不明で格好よくないわよ

てっちゃんの云う仕事とか仕事感覚ってなんなんだ?

さっきから善意善意って押し付けがましく繰り返してるけど、それって単純に他人様のプライベートが知りたいってだけの話でしょ?


「明日は家族サービスで何時までNGとか、んっんっ!ぁ、金を集める余力は後500万、ん、とか」


これかぁ

前にウラッちが云ってた通りだ

その時は私は否定しててっちゃんを庇う様な反応でウラッちを責めてしまったけど、今コイツは確かに「金を集める余力は後500万」と云う台詞を口にして本性を現した

善意で予定を把握だとか家族サービス云々で薄めようとしてるから分かり辛かったけどコイツの知りたがっているプライベートとは仮にコイツがあたしにお金の工面をさせた場合に幾らまでなら私から引き出せるのかの試算を立てている

ウラッちがコイツのコトを「金の猛者だ」と注意を促してきた時に私はウラッちを責めてしまったけど、明らかに今コイツは私の資産と融資を受けた場合の限度額や身内に金持ちがいないかなどの「情報」を探っている

てっちゃんがお金の話ばっかりなのはてっちゃんを見捨てた仲間たちの間でも共通認識ではあったけれど「金を集める余力は後500万」と云うフレーズは決定打だった

今まで私はてっちゃんに、かなり気にかけたり面倒を見たりもして来たツモリだった

見返りを求めてしてきたコトではないけど、コイツはそんな私やウラッちのコトを金を引き出すための自分の「余力」だとしか思ってなかったのが分かった

フランクフルトを踏む爪先にも力が入る


「まぁ俺も逆の立場だったらそうするんがぁぁぁぁ!」


てっちゃんは話している途中なのに突然奇声を発して苦悶の表情でトイレに駆け込んだ

やはり体調でも悪いのか、単なる尿意ではない気がしてきた

数分前までの私なら親身に心配をした所だろうが、私のコトを金蔓か、それどころか私の全財産までを狙っている守銭奴だと分かった今、てっちゃんにかける情けは欠片も残って居なかった


少なからず私は傷付いてもいた


こんな裏切りは許せない

そもそも最初から周囲の人間をお金としか見ていなかったのであれば裏切りですらないのかもしれないけれど、厚意でこんなてっちゃんの話し相手をしたり相談に乗ったりしてきた私やウラッちの善意を仇で返すなんて、思っていた何倍もコイツは最低な人間だ

直ぐ様ウラッちも入っているLINEグループでコイツの本性を書きなぶってやりたい衝動にも刈られたけど、今さらてっちゃんが最低な人間だと書き込んだところで他のメンバーから「皐、やっとわかったか」と返ってくるのが目に見えた


今朝のウラッちからの「ごめん皐、あとは任せた」の一行のコメントが珍しく私との個チャだったコトを思い出した

そしてそれが何故個チャだったのかも真意が見えた

単純にてっちゃんの世話に疲れたり愛想をつかして匙を投げたのであれば「あとは頼んだ」と云いそうなものだ

てっちゃんが人間性を取り戻す最後の砦が、ウラッちが手を退いた今となっては私1人しかいない、だから「任せた」なのだろう

コイツの人生、真人間になれるように仕向けるか、このまま最低な男のまんま死ぬまで誰にも相手にされない人生を送らせるのか、私次第だってコトだと認識した


トイレから戻ってきたてっちゃんに私はウラッちと何があったのかを聞き出そうとしてウラッちの名前を出してみた

ツイデにてっちゃんの云う「善意」は周囲りの人間を傷付けるモノでしかないと指摘してみた


「知らず知らずに善意で人を傷つけるって、ウラッちには云われてないが他には云われたコトはある

そう云われたら『お前もな!』以外の答えがないよ」


その返答を聞いて私の頭の中には「いやお前がな!」以外の答えが浮かばなかった

コイツはホントに最低だ

こんな最低なヤツに「お前は最低だ」と告げる価値もないくらいに最低だ

 ウラッちの名前を聞いて、てっちゃんも少しだけ興奮したようで声のトーンを一段階上げて話を続けた


「無職相手に本気で話しても意味ないしね

怖いよ普通に」


いや、それも「お前がな!」だよ

怖いのはお前だよ

ウラッちからはてっちゃんには絶対に収入や貯金の具体的な金額は云わない様にとかなり前から厳しく忠告をされて来てはいたけど、ウラッちはてっちゃんを警戒して自分が無職だと云うコトにしていたのは今初めて知った

私は自分の懐事情にてっちゃんがここまで踏み込んで来るとは思っていなかったけれど、今正に私の融資可能限度額まで手を伸ばして来ようとした


「ウラッちに完全無視されるようになってLINEブロックされたからな」


え、コイツはウラッちにLINEブロックされたのか!

そうか、今朝のウラッちからのあのLINEは私が思ってる以上の「あとは任せた」だったんだ

てっちゃんは怨めしそうな表情で更にウラッちの話を続けた


「終わってる人間に終わってるなって云ったらこうなるよ、マジで怖いよ」


だから怖いのはお前だろ!終わってる人間って云うのもお前だな

コイツの云い草、いちいちブーメランで笑えねぇなぁ

てっちゃんは更に一言追い討ちをかけるように付け足した


「逆ギレあるある」


 ウラッちのは逆ギレじゃなくて普通にキレただけだろう、云うならば「直ギレ」か?

ま、ウラッちは冷静な人間だから「キレる」と云う表現も的確じゃない気もするし


「金上がってるからパチンコ屋の景品集めようぜーとか

ソフトバンク株が売りに出されてるから買おうぜーとか云ったら

『そんな金あるワケねぇだろ殺すぞ!金ある人間はいいなあ!!』って笑ってない目でくるからな」


パチンコの景品だとか株だとか、まず発想がセコいし「そんな無駄金」とは云いそうだけど「殺すぞ!」とか、ましてや「金のある人間はいいなあ!!」は絶対にウラッちは口にしてない自信があった

目が笑ってないのはもっと別な理由で、その理由はコイツの頭では到底理解出来ない話だろう


「そしてブロックされた」


そか、ウラッちから縁切り喰らったんだ

任されたよウラッち、私も選択したわ

コイツとは金輪際、私も関わるのを止める

私はてっちゃんの見てる目の前でスマホを取り出してLINEのリスト画面を開いた

てっちゃんがアイコンにしている不祥事を起こした元アイドルの顔を長押しして出てきたポップアップから「ブロック」を選択してタップした

 最後の別れの一言を発する情すら残っていなかった

無言で席を立つツイデに靴底の下にあるフランクフルトを私は力いっぱい踏み潰した

ブチャっと云う音を立ててフランクフルトは潰れて床に飛び散った


私が立ち上がると同時にてっちゃんは店中に響くような大きな声を上げてうずくまった

勢いよく立ち上がった拍子に押されたテーブルにどこかぶつけたのだろうか?知ったこっちゃない

テーブルに額を付けて痛がっているてっちゃんに、やはり最後に云ってやりたいコトが口を突いて出た

もう私もウラッちもコイツとは縁が切れたのだから教えてやっても良いだろうと思った

ウラッちは無職なんじゃなくて、正規雇用されていないただの事業主だってコトと、ツイデに云えばウラッちの年収は余裕で2000万は下らないって事実

聞いているのか聞こえていないのか、てっちゃんはうずくまったまま床に倒れて両手で股間をおさえながらのたうち回り出した


それを尻目に私は店の出口の方へと颯爽と歩き出す

てっちゃんの悲鳴を聞き付けて床でのたうち回っている様子を見て慌てててっちゃんに駆け寄る店員とすれ違い私はファミレスの出口の扉を開けた

振り返りもせずに私は突き立てた中指を店内に向けてかざした

店を出る瞬間に店員の叫び声が耳に入ってきたけど、出口の扉が閉まると同時にその声は扉に遮られて消えた

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

てっちゃん 弥生 @yayoi0319

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ