終章後編 Es ist wie ein aufrichtiges Gebet. 姫騎士が綴る世界

05-001. 次へ切り替えるインターバルだったハズが、なんだか怪しくなりました

二一五六年一〇月二三日 土曜日

 三週間ぶりにザルツブルクへ帰宅したティナ達。

 ハルの鍛錬を面倒見るため、春先から隔週でザルツブルクへ帰省するようになったティナ達であったが、さすがに冬季学内大会中の帰省は控えていた。

 久しぶりの帰宅とも言えるが、そもそも以前は月に一度帰省する程度だったことを考えれば、随分と頻繁になったと言える。それも複数人に増えての帰宅だ。

 もちろんハルは大喜び。お姉ちゃん達が帰って来て遊んでくれるからだ。まだ修行が遊びの範疇はんちゅうなので、お姉ちゃん達が色々な遊び武術を教えてくれるから笑顔が絶えない。

 その笑顔がティナ達を心身ともに癒すのだから、毎週でもザルツブルクにしたいのが彼女達の本音だ。


「るーるーみつけた!」

「あー見つかっちゃったです~。坊ちゃんは見つけるのウマイですね~」

「えへへ~」


 ブラウンシュヴァイク=カレンベルク邸の庭で元気に遊ぶハル。遊び相手はルーと小乃花このかだ。ハルが隠れた二人を見付ける変則かくれんぼを楽しんでいる最中さいちゅうだ。


「しゃおしゃおみつけた!」

「よくぞ見つけた。ハルは隠形の才能がある」

「ほんと? やったー!」


 ぴょんぴょんとジャンプを繰り返して喜ぶハル。だが、傍から見れば異様な光景と言わざるを得ない。


「おもいっきりアヤシサ満点ですね」

「ああ。今まさに犯罪が起こる現場を見てるようだ」

「うーん。どう見ても通報案件ヨ、コレ」


 ティナ、京姫みやこ花花ファファが渋い顔で言葉を交わしているが、ハル達の付き添いで庭に出ているのだ。態々わざわざ付き添いが必要になったのは、小乃花このかとルーの姿が問題だからだ。


 人の形から掛け離れる造りであるギリースーツ偽装迷彩服まとったルー。

 ちょっとした日陰に入るだけで姿を認識出来なくなる全身黒装束の小乃花このか


 良く晴れて今日一日は気分が良くなるだろうと誰しもが感じる中に紛れ込んだ朝の不穏。「不審者が表れた」そう言葉にできる出で立ちである。


 そもそも小乃花このかとルーが不審者ぜんとした姿になっているのは、先日に開催されたマクシミリアン国際騎士育成学園の冬季学内大会種目であるMêlée殲滅戦を動画で見たハルが大いに喜んだことに端を発する。


 くさむらに完全擬態したルー。影のようにユラユラ動く小乃花このか。 幼児の目には「はっぱ!」「かげがうごく!」と映り、とても楽しい場面だったのだ。

 当然、ハルは二人にリクエストした。はっぱとかげがみたい、と。そして「ハルがみつける!」と元気一杯に。


 その結果、帰宅早々なのも何のその、二つ返事で小乃花このかとルーが隠れ、ハルが探すと言うかくれんぼが始まったのだ。

 が、さすがに二人の姿と幼児の取り合わせを第三者が見れば通報待った無しなので、これは仮装ですよ、と即座に弁明する役が必要になった。

 で、ティナ達がアプローチ玄関に繋がる通路に立ち庭を見つめると言う、これまた傍から見れば何してんの?と気を引く状況が出来上がった。


「ほ~ら、坊ちゃまコッチ見るですよ~」

「るーるー、きになった!」


 外塀そとべい内側に育樹されているアオキ――ヨーロッパでも人気の日本原産常緑低木――を掻き分けて紛れたルーが木と一体になっていた。


「ハルよ。こちらも見るといい」

「しゃおしゃおがかげになった!」


 アオキの隙間に入り込んだ小乃花このかの姿は、一瞥すれば木の影と映り、そこに居ると認識されない佇まい。

 そんな二人にキャーキャーと喜んでいる幼児の姿は可愛らしく、見ている者の頬を緩ませる……のではあるが。


「……ハルは、良く二人を直ぐに見つけられるな。実際、隠れるところを見てた私でも見失うくらいだぞ?」

「そうですよね。いくらWaldヴァルトmenschenメンシェンの血を引いているにしても、訓練も無しにあの隠形を見付けられるのは理屈に合いません」


 京姫みやことティナは、喜ぶハルを優し気に見守りつつ、ここまで見て来た疑問を口に出す。


「ナニ言てるヨ。小さいウチは感覚とか感性チガウから不思議ナイヨ」


 花花ファファが言うには、ハルは子供特有の目線で違和感を感じ取っていたのだろう、と。

 実際、子供――特に幼児期――に、大人は度々驚かされる。

 言動や仕草であったり、行動であったり。大人では思いつかない遊び方をしたり。

 子供時代の独特な感覚と視野は、大きくなるにつれ常識を刷り込まれていくと次第に消る傾向にある。非常に残念だ。


「なるほど。ハルが赤ちゃんのころ、虚空と会話するように喃語なんごを喋ってたのはナニか見えていたかも知れないですね」

「いや、単語にホラー要素が混じってるんだが」

「ナニ言てるヨ。京姫ジンヂェンとおた道ヨ」

「……怖いこと言うなよ」


 何てことないようにティナが呟いた言葉は、日本人の京姫みやこに霊的なものを想像させたようだ。両腕を抱えて身体を小さくしているところを見ると意外に怖がりなのだろう。お化け屋敷などに連れて行けば、下手をすると彼女の流派で禁じ手としている当身が思わず出る可能性大。

 中国人も見えないモノを忌避する傾向にあるが、花花ファファは気にもしていない。幼い頃より見えずとも気配を掴む技法を学んでいたからか、怪談なども何故怖がるのか判らない口だ。怪異などさわれる相手なら倒せるだろうと、返り討ちにする気満々なタイプだ。

 ちなみに喃語なんごとは、「あー」とか「だうー」などの赤ちゃん言葉のことだ。


「おいおい、随分と妙な絵面だな。お嬢達は順番待ちか何かなのかい?」


 屋敷からメイド姿のエレがやって来た。ハル達を遠目で見てから、佇むティナ達の元へ来て早々この台詞である。


「あら、エレさん。私たちは不審者通報対策で観客役をやってるんですよ」


 観客がいればハル達のかくれんぼも何かのイベントか遊びと思って貰えるだろうと、策を巡らした結果だ。


「かえって怪しいぞ? ぼんにくっ付いて一緒に遊んでる方が良かったんじゃないか?」

「っ‼ 確かに……」


 何故それを思いつかなかったと、驚き&後悔が相混ざった表情を浮かべる姫騎士さん。遊ぶ幼児の安全に気を配る大人が付いて回ることの方が自然である。知らずの内に自分達も不審者になっていたのは失策であった。


「おーい、ぼん! そろそろオヤツの時間だぞー」


 エレの呼び声へ素直にハルが、はーい、とお返事。エレの元へトコトコ走っていき、「えれえれ、つかまえたー」とにへらと笑い抱き付く。頭を撫でられてから抱っこされてご満悦なハル。


 かくれんぼは終わりになったと、小乃花このかとルーがアヤシサ満点の姿で合流するのだが、まず口を開いたエレの言葉はルーへのダメ出し。


「ルー、おまえなぁ……。ギリースーツ偽装迷彩服装備なんだから只の移動でも装備を認識させる腑抜けた動きすんじゃねーよ。ちゃんと印象操作術使え」


 横暴ですー!ハル坊ちゃんの遊びだからいいんですー、と反論するルー。ズビシッとエレから頭蓋骨の繋ぎ目に手刀を拝領。中身が出る!中身が出る!トコロテン方式で!とゴロゴロのたうち回りながら小騒ぎしている。


小乃花このか嬢ちゃんはさすがだねぇ。日中で真っ黒なんて目立つ格好なのに、見ても気にさせない技術が秀逸だ」

竊盗しのびは人混みに紛れ込めてナンボ」


 小乃花このかにとっては多少目立つ装備だろうが問題にすらならない。意識の隙間に付け入る印象が残らない気配操作術を呼吸レベルで常用しているからだ。


「やっぱり小乃花このか嬢ちゃん、ウチ諜報部門に来ないか? 嬢ちゃんなら直ぐエースになれるぞ?」

神戸かんべは南伊賀の棟梁。今は誰の下にもつかないし、竊盗しのびを売り出してない」

「またフラれちまったか。小乃花このか嬢ちゃんいたら片付く案件が幾つかあるんだよな」

「ならば依頼すればいい。一族で仕事の受注はしている」

「そりゃありがたい話だ! 後で契約とかの詳しい話を聞かせてくれないか」

「うむ。オヤツ後なら要望に応えよう」


 ハルを迎えに来たエレとの何気ない会話が交わされる中、危険な単語が混じっていたとしても彼女達の日常……などとはサスガに言えないのではなかろうか。


「話の内容に一般では聞かない単語が混ざってるんだが」

「不思議はないですよ? どちらかと言えば普通に分類される話だと思いますし」

「ソウネ。隠語も使われてないし、ちょとした仕事のハナシヨ」

「……暗部が身近だと細かいところで認識が違うってことは良く判った」


 そうですか?、大差ないヨ、と返すティナと花花ファファ。やはり微妙に思想が違う。

 だが、暗部はないが京姫みやこの宇留野家も、地元の顔役からは挨拶をされる立場だ。

 地元で問題が起こらないよう水面下で不可侵協定を結ぶが、外部地域からのトラブルなどが舞い込む時は、お互いに情報共有する。

 顔役。いわゆる一般人をカタギと呼ぶ部類の人達だ。その他にも祭りなどで、香具師やしの元締めが屋台を出す前には必ず挨拶に来る。

 何だかんだと地元で古くから続く武家は、政治家と違った意味で影響力が大きく一目置かれるが、ギリギリ一般家庭と言えなくはない。


「えれえれ、おやつ~」


 抱っこされたハルからオヤツの催促。オヤツだと聞いたのに立ち話が始まったので、幼児からすれば何で?との抗議だ。


「ああ、ぼん。ワルイワルイ。オヤツ食べに戻ろうか」


 うん!と元気よく幼児からお返事が返って来た。オヤツパクつくです~、と、ルーが幼児レベルで同調しているのは困ったものだが。


 ダイニングルーム。独語ではEsszimmerエスツィマァだが、他国と同様ダイニングで通じる。

 テーブルには母ルーンが席に着いて居た。その隣にある子供用椅子へエレがハルを座らせる。ハルは脚をプラプラさせながら、楽しそうにが座るのを眺めている。辺りをキョロキョロし、ふと母と目が合えば嬉しそうに笑顔を浮かべる。

 その笑顔の裏には、家族が揃っていなかった寂しさがあったのだろう。ハルは皆が帰って来てくれて嬉しいのだ。だから何時にも増して喜んでいるのだ。


 卓上に用意されていたのはゼリー。一口サイズのカップ包装されたものが大量に籠へ乗せられている。今回は子供のオヤツとして用意したようで、何時もの軽食的な要素は少ない。大人は口にしても摘まむ程度だろう。

 なのだが、軟質プラスティックの容器を指でキュッと摘まみ、シュポンシュポンと続けざまに食べ漁るルー。そして、リスの頬袋状になるまで口いっぱいにゼリーを放り込んでいる小乃花このか。モキュモキュと動く頬袋の様子が楽しいようで、ハルがキャッキャと喜んでいる。が、遊び疲れたのだろう、次第にこうべがカックンと船を漕ぎだす。


「あら、ハルはおねむになったのね。それじゃあお部屋に行きましょうか」


 ふぁーい、とお返事し、抱っこされたハルは部屋に連れていかれた。

 暫くしてハルを寝かしつけたのだろうルーンが戻って来たころには、籠に入ったゼリーがほぼ食べ尽くされていた。


「呆れたわね。あなたたち食べ過ぎよ」


 小乃花このかとルーに目を配り、呆れ顔のルーン。二人の前にゼリーのカップが山と積まれているので犯人は一目瞭然だ。


「問題ない。竊盗しのびは食べられるときにしっかり食べるのも仕事の内」

「奥さま。ルーはまだまだパクつけるのです。成長著しい若者には兵糧ひょうりょうぎ込むのがみんな幸せにする早道なのです」


 二人から何とも言えない理由が返って来た。特にルーのげん。ルーンが眉根を寄せ額に手を当てているほど、頭の痛い発言だ。


 そのルーは、エレから頭蓋骨の継ぎ目にゲンコツを貰い、へこむへこむコブシの形にへこむ、とゴロゴロのたうち回っているが。


「あなた達の食糧事情が不安になるわね」


 二人に呆れつつルーンが言葉を漏らすような状況。困ったものである。


「まぁ、軽いコントは置いといて。おかあさま、ハルと一緒に世界選手権大会を見に来ると聞いたのですが?」


 既にルーが絡む場合はコント扱いの姫騎士さん。本題はティナが昨日、ルーから漏れ聞いた情報。駆け引きするより直球でルーンに確認するのが最善と判断し、言葉に含みを持たせず問いかけた。話をするには、お茶の時間である今が丁度良い。


「あら、知らなかったの? アズに誘われたのよ。今年は節目の三〇回大会でしょ? アズも【永世女王】として特別ゲストで呼ばれてるから、せっかくだからいらっしゃいってね」


 サラリと回答が返って来た。だが姫騎士さんは、聞かれて困ることは無いと、言葉尻から読み取れる言い方をしているのが引っ掛かっている。疑いの籠ったジト目をルーンに向けている。


「ティナ、そんな顔しないの。せっかく近くで世界大会やるんだもの。ハルにもあなた達が戦う姿を見せておきたいじゃない?」


 言葉としては、ハルに武術あそびを教えてくれる師匠達が、戦場をどうのかを見せることで先の育成に役立つだろうと。しかし。それならば、学園の冬季学内大会でも良かったんでは?と、姫騎士さんの嫌な予感センサーがビシビシ反応する。


「世界選手権は小母おばさま達が来られるんですか。これは良いところをお見せしないと」


 ルーンとティナの話に反応する京姫みやこ。ルーンに精神面での師事を受けている京姫みやこからすれば、自分の成長具合を試合で見て貰える絶好の機会だ。フンスと、少々鼻息荒くなってたとしても仕方ないのだろう。


京姫みやこ。意気込むのはいいけど、気負い過ぎないようにね?」

「はい。肝に銘じます」


 感情の高ぶりをルーンにたしなめられた京姫みやこ。ここまでの流れ含めてルーンの言葉を「素直に受け取り過ぎじゃないですか」と姫騎士さんは内心でひとちている。

 ティナの様子から何を言いたいかおおよそ察している花花ファファは、余分なことを聞かない方向で素知らぬふり。

 しかし、小乃花このかは少し踏み込んだ。


「ティナよ。日本のことわざに『知らぬが仏』という言葉がある」


 日本語で紡がれた言葉。世の中、知らない方が良いこともあると。


「どういう意味ですか? 『しらぬがほとけ』とは」

「ドイツでいうなら『Was du nicht weißt, wird dich nicht verletzen.』にあたる」


 さすがのティナも日本語を流暢に話せたとて、ことわざまでは網羅していない。小乃花このかがチョイスしたドイツ語での類語は、元のことわざから少々変形した「知らなければ傷つかない」という慣用句だ。

 この竊盗しのび、「知るべきことだけに留めろ」と言ったのだ。若い娘の随分と達観した物言いにルーンも苦笑い。

 釘を刺されたティナは、言いたいことも判るが納得しかねないこともある意志表現として、ぐぬぬと唸っている。


「ティナはさっきから何を気にしてるんだ?」


 京姫みやこがティナへの問い掛けに、花花ファファが誰も気付く事がないレベルで一瞬、蒸し返すなと読み取れる顔をするも、何事もなかったかのようにティーカップへ口を付けている。


「はぁ~。いえね、何となく怪しげな予感はあったんですが、ほぼ間違いなく面倒事があると確定しまして。当事者に係わりがあるおかあさまに伺いたかったのですよ」


 口に出す直前、バカなこと言うダメヨ、と花花ファファから無言の圧が掛かるが、姫騎士さんはそれを却下。ハッキリさせておこうと半ば恨み言のような抑揚で言葉を紡いだのだ。


「何もないわよ? あなた達が心配することは。だから、切り替えて戦うことだけ考えなさい」


 シレッと言い放つルーン。だが、言葉には裏と言うものがあるのだ。母娘おやこなだけにティナは良く判る。母の言葉は戦場いくさばに立てば心配無用だと判っていると言う意味を含むが、確信を外した障りのない言葉でそれとなく組み立てる会話術を使われた。その手は姫騎士さんも常套手段なので、ムムムと表情が渋くなる。


「……いいように転がされた感が満載です」


 妙な百面相をしながらポツリと呟くティナ。


 そもそもティナが漠然と世界大会で何かが起こると判断しているのは、今迄チョイチョイあった怪しい事柄が繋がってきたからだ。

 アズ先生――アスラウグ――が四月からほぼ隔週でルーンの元に訪れ、勘を取り戻すために身体を動かしている、と聞いた。ティナ達が帰省する日程を避け、あからさまに何かをしていると気取られても詳細に触れさせず、それでいて怪しさを隠そうとしない矛盾。

 そこへ、アスラウグが【永世女王】として第三〇回世界選手権と言う、一〇年に一度の節目となる大会でゲストとして呼ばれたこと。

 そして、昨日テレージアが大会側からアォスシュテルングエキシビジョンシュピールマッチにゲストで呼ばれており、しかもハンネの言葉を借りればJoste馬上槍試合をするというイレギュラー。


 そんな前情報があれば、【永世女王】が単なるゲストなのか疑いが強くなる。

 つい先日まで、この家の道場で母としていたのだ。ルーン相手にとはそういうことだ。その内容が実戦形式であれば、ほぼ確実に解説者として呼ばれている訳ではないと容易に想像出来る。


 もすればDuel決闘luttes乱戦の勝者、もしくは著名な騎士シュヴァリエを招いて手合わせをするのでは?と。


 だとしたら、現地でアスラウグの調整相手として、唯一同格と呼べる技量を持つ母が誘われた可能性も十分あり得そうなのだ。


 それらを組み合わせれば。

 節目の年を迎えた世界選手権で何時も以上に盛り上がったとしても。

 最大の危惧は一つきり。


「やはり、アズ先生が美味しいとこ全部持っていきそうな予感がします」


 ゲスト枠がどういったものになるか判らない。しかし、【永世女王】が一人舞うだけで大会優勝者すらかすんでしまう。未だにそれ程の影響力がある人物なのだ。


 しかめ面をしたティナの肩に手が置かれる。そちらに目をれば花花ファファが何も言わずに首を横に振っている。確信を得る言葉をルーンから聞いてしまったので諦め顔だ。暗部が身近なことから、言葉の裏や心理状況を読む技術にける彼女。それが故にとばっちりで被弾したのだ。


 たとえアスラウグが世界選手権大会で目立とうとも、京姫みやこ小乃花このかはノーダメージ。むしろ、【永世女王】の戦う姿を間近で見られる機会を歓迎するまである。学園では講師の立場からか、軽くしか相手をして貰えないのだ。


 しかし、今回のケースはティナと花花ファファへクリティカルに刺さる。


 二つ名【姫騎士】と言えば自分を連想して貰うために画策してきたティナ。

 技は極めれば美しいものであると自らで証明しようとする花花ファファ


 この二人にとって、世界選手権と言う晴れの舞台で話題を掻っ攫う存在がヒョイとやってくるのは勘弁して欲しいところだ。

 特にティナは、諸々の暗躍、もとい印象操作で【姫騎士】の二つ名がようやく浸透してきたところで、そんなこともあったね的に話題を上書きされるレベルでブッ込まれるとなれば。


「だから『知らぬが仏』と言った」


 小乃花このかがボソリと一言。もう取り返しはつかないと。

 スウーッと、姫騎士さんの顔から表情が消えてくさまは中々に見ものであった。


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