04-026.功夫と武術の母。 Hinunterfliegen Kamelie und Durga.
「うーん、そう来たネ。同じ戦法になるとは思わなかたヨ」
時刻は一一時二五分。
競技コントローラーを中央に挟んだ登録エリア左側。
数分もすれば本選第三回戦トーナメントCグループとDグループの二試合が始まるところだ。今回の
そして、続くCグループの
その準備として選手が競技コントローラーに個人のデータを最終登録している
かく言う
「彼女の武器デバイスも初めテ見るワネ。これはオモシロイ戦いになりソうヨ」
笑みを零しながらポツリと呟くブリティカも、登録作業中に
試合会場である屋外Duelコートは、観客席上部に設置されている数多のインフォメーションスクリーンに先程迄の試合映像が流されているお陰なのか、客席は熱気で随分と温まっている。
選手の入場を見逃すまいと会場の視線も試合コートに集まり始めたところで学園生解説者のアナウンスが観客の簡易VRデバイス経由で音声を流す。
『皆さん、お待たせしました! 競技コート三面Cグループ第三回戦ベスト四決定戦! 解説は人間工学科六年
フランス人のアンヌ=マリーは透けるような色白、且つ企業グループの令嬢でもあることから、豪奢なイメージと清楚なイメージの両方を表す二つ名が何時の間にか広まったパターンだ。
『それでは選手紹介です!
胸の高さで両手を合わせ、「ナマステ」と挨拶を口にするヴリティカ。その手首にはH型の武器デバイスが
目鼻立ちがはっきりした面持ちに小麦色の肌と後頭部で纏められている黒髪。髪留めが簡易VRデバイスだ。そして眉間にはヒンディと呼ばれる赤い点が塗られている。現代ではヒンディもファッションの一つとしてシールなどが出回っている。
競技用の服装は上下セパレーツに別れたパンジャビドレスを着用している。上着は股下丈のカミーズと呼ばれるチュニックを長袖に改良。下は
足元は古来からの宮廷靴である豪奢な刺繍が目を惹くモージャリー(元は男性用)。競技用の靴下と薄手の手袋で攻撃判定箇所の素肌部分を覆っている。そして、普段の武器であるパタとは違い、同じ型の武器デバイスを二つ携えているが、公式・非公式の試合に関わらず初めて見せる物だった。
『続きまして
相変わらす
本日は何時もと違い、唐調服仕立ての演武服。同じ唐調の秀和服と違い、上着は前留めのマンダリンではなく、黒に金糸の刺繍が目に鮮やかな合わせ着物。日本の道着に形は近いが、薄手で手首までの長袖。下は朱色で
今回は服装を変える必要がある程、相手に
そして、
選手紹介が終わり、審判から開始線に向かうよう促される。二人はまずは審判へ礼を、次に互いが向かい合い礼をする。ヴリティカの「ナマステ」に引きずられたのか、
礼が終われば観客も待っていたマイクパフォーマンスの時間である。
「あの手から剣生えたヤツで来るかと思たのに、とんだ誤算ヨ。只でさえヤッカイだたのにモノ凄~くメンドーになたヨ」
腰に手を当てながら肩を
「良く言うワ。その身体の中に練らレテる膨大な力はナニかしら? 全く問題ないって見えるワよ?」
「ソッチこそ、ヨ。どう鍛えたらそれだけキレイに内
「そこはお互い
「
「そうね。あの
まさかの試合中に本人不在でディスられる姫騎士さん。
そして、姫騎士さんが人外認定されたところで審判から横槍が入る。
『双方、抜剣!』
審判は別に姫騎士さんを庇った訳ではない。二人の会話が長尺になりそうな気配を察したからこその英断である。
今回持ち込んだのは
そして、ヴリティカが両手に持つ武器デバイス。Hの字上部分にも横棒が入ったフレーム型である。小さな梯子を連想して貰えば判り易いだろうか。梯子の横棒が握りとなり、縦棒が
この独特な形状を持つ武器は、ジャマダハル。
一四世紀頃に北インドで生まれ、近代まで現役だった短刀に分類される武器である。
ジャマダハルは、日本やヨーロッパではカタールと、間違った名称で呼ばれることがある。一六世紀ヨーロッパに
ジャマダハルは総合武器術ガッカで扱う武器の一つである。その独特な形状と装備の仕方は、
だがそれは武器の形状と一般的な特性で語った場合だ。
ヴリティカは、
持ち手を
更に斬撃を放ち攻撃が当たる瞬間、肩甲骨の可動や
欠点として刀身が短い、刃が直線で固定、もしくは手首を曲げた角度までしか可動範囲がないなど上げられるが、その程度はヴリティカにとっては誤差レベルであり全く問題にもならない。
ブリティカは円を基本とした上下左右の立体的な回避と高速な連撃で翻弄する
互いが相手を脅威と
『双方、構え』
審判のアンヌ=マリーが高々に声を上げる。
中国武術家が選手に居る場合、構えの合図でほぼ確実に演武を一つ披露する様式美が定着ているのだが、最近は中国武術家以外でも、演武を持っているものが披露することもあり、一つの新しい流れが生まれつつある。
そして
刃を上に刀身を左の肘内側で支える形にし、左手の指で柄を二本持つ。足先を微細に動かしながら重心を変えつつ、後ろ脚となった右脚を肩幅より狭く維持しながら左脚の少し前に出す。そして左腕に抱えている
これが双刀の
そこから流れるように第二式
「お見事! 下から力の流れがスルリと伝達されて、どのタイミングでも取り出せるのは凄いワ! 後ろや頭上を防御スル動きが
やはり見破られたか、と
「普通じゃ見ラれない良いモノを見せて貰ったかラ、私モ一つ披露するワ」
その言葉に驚いたのは
ヴリティカは、肩幅に足を広げて両腕をぐるりと上に回し胸を反らす。両腕の肘から親指まで合わせ付け、前方へ向けながら中腰になり、脚の間まで腕を降ろす。そこからゆっくりと下から前方をえぐるように親指部分を顔の高さまで持ち上げる。動物の姿勢で基本中の基本となる象の
持ち上げた両腕が空を駆ける。左腕と右腕が別の生き物のように
終始中腰の状態から生まれる動きと歩法は、複雑であり共通的でもある。カラリパヤットの基本で八通りある動物の
そして、締め括りに蹴りの技を一つ。身体に僅かな振れもなく真っすぐに頭上を越えた最頂点に届く
客席の歓声が大きくなる中、
「やぱり中国拳法に取り入れられた武術だけあるヨ。円の動き
ヴリティカも
蛇足だが、インドから
お互いの演武が終わり、武器の構えに入る。陽気だった周囲の空気が二人から漏れだした膨大な気配によって、一瞬で質量を持った。映像越しでさえ、空気感の違いが捉えられたほどだ。
試合を開始する準備が整ったと、誰しも感じた。もちろん、それを一番身近で感じた審判は、すぐさま合図をかけた。
『用意、――始め!』
滑らかな動きで双方が右脚から一歩目を
対してヴリティカは、左脚を中心軸に寄せてから前へ滑らし、肩幅の位置に歩を進めながら後ろ脚となった右足先を左に回転させる。右脚が接地した時には身体が九〇度右向きに変わっていた。象の
お互いが
「(初手で左の入り方とは! 考えることは同ジだったヨうね)」
「(ヤラレたネ。利き腕側の動き潰し来る思たのに逆張りされたヨ。なら挨拶代わりヨっと)」
内心は驚きながらも、二人の動きは止まることがない。
カカカッ、と連続する金属音が響く。
そこから頭上の
その間、先に駆け上がった左腕は縦の斬り下ろしとなり、腰の位置で腕が胴を巻くように切先を後方へ水平に。その段には右腕も胴を薙ぐように斬り下ろしがされたところで止まった。本来は、そのまま回転し後ろの敵へも攻撃する型である。
縦と横、円の動きで間断なく全てが一つに繋がった連撃であった。が、次の回転しながら二刀攻撃と
ヴリティカは
最初の斬り下ろしは、逆側となる左のジャマダハルで
先に吹き抜けた攻撃は、既に上方から斬り下ろしとなって襲ってきたところで、再び蛇を表す上半身の動きで切先を回避する。右のジャマダハルで通り過ぎた
そして、胴への薙ぎに対しては、左のジャマダハルで押し込めた。その時、獅子の
時間にして一、二秒ほどの出来事。
その短い時間で四合撃ち合い、双方は互いの射程外に逃れて向き合っている。
「(やぱり、
撃ち合いの
なるほど、だからズボン履いても問題ナイ訳ネと、
「(二刀の回転は速度重視に見えテ、全部の攻撃が
ヴリティカも
激しく
感心しながらもヴリティカは、どっちが厄介なんだと、
「(じゃあ、今度は此方かラ行かしてもらうワ)」
数秒のお見合い状態から先に仕掛けたのはヴリティカだった。
左半身となっている
ヴリティカの初動を見て
ブリティカの二歩目は左脚が前となるため、左半身に力を乗せた攻撃に出るであろうと予測する。円の攻撃か、或いは他の技法かまでは今のところ読み切れない。どのような攻撃方法で来ようとも、対処法だけ決めて相手に合わせる。
相手の右手ジャマダハルは左の
そして、ヴリティカは。
――二歩目を
「(まさかヨ!)」
驚いたのは
ヴリティカは同じ足捌きで動いていた。だからこそ気付くまでの空白を造られた。違いは右脚の長いスライド。馬の
脚の歩幅が長くなれば、その分、姿勢は低くなる。相手が自分に対して認識していた距離と高さを逆手に取った
ヴリティカの両腕が上半身ごと伸びる。届かない筈だった
そのまま
攻撃はこれだけではない。右手のジャマダハルも同時に襲い掛かっていた。
そのタイミングで
しかし、ヴリティカ自身も
追い付きの攻撃ではあったが、ヴリティカは肘手前を下から斬り抜かれる。
――ポーン、と二つ有効打の通知音が鳴る。内訳はヴリティカが二ポイント、
ポイント的には
対してヴリティカは下から右腕肘手間を斬り抜かれたことで、小指から中指までの指三本が握る力を奪われた状態である。右腕を身体運用でカバーしようにも、
試合が続く中で、このダメージペナルティ三〇秒間は大きい。
当然、この機を逃す
触れている、と言う状態は、相手の肉体へ無意識に起こる反射を引き出す。
身体の移動にリソースを多く取られているのだろうか。ヴリティカは
その挙動が罠だとしても
そして、まさかの背面状態から左手の
コン――、と硬いものを打ち付けた音。
「(なるほどヨ。ソッチに動きを
腕の上下を挟み込む独特な形状の柄。
「(背面で攻撃を仕掛けるトは。予想外デす)」
際どいところで防御が間に合ったヴリティカは驚いていた。
彼女は左腕の制御を奪われた瞬間、それを捨て置いた。それよりも、
ところが
だから、決めていた防御法――
後ろの左脚が軸になっていたからこそ、骨の連動で右腕が加速出来たのだ。
「(まだヨ!)」
そう、まだ終わってはいない。
回転の遠心力で朱色のスカートが裾を広げる。椿の花が舞う。
大輪の花は、ヴリティカの位置から完全に歩法を隠す。
ヴリティカも退避の歩法が終わり即座に反応しているが、如何せん右腕を使わされたことと、引き始めた左腕の位置が遠かったことも相まって、
ブリティカが正対する間に
ヴリティカは獅子の
最早、
ズン、と音を立てて大地が震える。
眼に見えない筈のものが、あたかも
――それは、ヴリティカの防御を容易く打ち破った。
受けに入ったジャマダハルは骨の連動にて強固な姿勢を造り出していたからこそ、その体勢を維持したまま身体ごと回し押された。
それを成し遂げた
ポーン、と三度目の通知音に続き、――ブーと、合わせて一本となったことを知らせる電子音が響く。
『
アンヌ=マリーは第一試合を制した者の名を告げる。
その言葉を
「身体の使い方似てるでも脚の動きから読めないはキツイヨ。なにヨ、あのグネグネ動きは。ナンで安定崩れナイか不思議ヨ」
第一試合を制した
「そっちだって親戚みたいな技法なノに脚を隠しテ読ませなかったじゃナい。見えてたラあんな力、出させなかったノに」
待機線へ去りながらヴリティカが軽口のように返した言葉。その内容は驚くべきものだった。あの大瀑布を脚さえ見えるならば至らせない、と。
やっぱりか、と肩を
一方、ヴリティカが使うカラリパヤットは、紀元前から練られていたタルミ武術にアーリア民族の武術が合流し、発展した。その多彩な技術は東アジア全域に影響を与え、「武術の母」とも呼ばれている。
両方共、タルミ武術を祖とする遠縁であるため、特に身体運用の根幹で類するものが多々見受けられる。
だからこそ、互いが警戒を強めていたのだ。
いっそ、全く別な武術であれば異なる技術同士がその技を活かすことも出来ただろう。しかし、なまじ身体の使い方に近い部分が多い故、次へ繋がる動く先が
「初めて
選手待機エリア。
相手の恐るべしは異常な身体の柔らかさと、どのような体勢でも揺るぎない安定性。そこから繰り出される、相手を
さすが、
「……長くなりそうネ」
だが、本質となる動きが含まれた手の内を見た。それが在れば
ヴリティカは第一試合の短い成れど非常に密度が濃かった攻防を振り返る。
「うーん、とんでもないワあの
保温瓶から手にしたカップへ注いだのは、煮だしたミルクで
その湯気を通して目に浮かぶ。過去に
今日、実際に
違和感の正体。
時代の表には決して出ることがない、
一部の
容易く首を喰い千切る牙は隠し、
「流派の親戚みたいナ身体操作だかラ、
マハーラージャに代々仕えた武の一門を率いる
だからであろう。
言葉と共に零されたヴリティカの笑みは、獰猛な獣が獲物を狩る
物理的な武器を使う実戦であれば、ヴリティカと
身体操作に優れ、鋭敏な感覚を持つ彼女達は、触れた箇所から相手の内部を巡る
しかし、ホログラムの武器では接触感知が精一杯で、本当に欲しい情報が拾えない。
それが彼女達をして、「読み辛い」と口にさせる。
互いの能力が高いだけに、
その
Cグループ用のインフォメーションスクリーンが試合コート三面の映像に切り替わる。騒がしかった観客の声が静かになっていく。とは言え、試合コート四面ではリンダと
『双方、開始線へ』
審判の呼び声はインターバルが終了したことを告げる。
陽気に選手待機エリアから、はいはいヨ~、と軽やかな足どりで顔を出す
「いやー、あなたオモシロイワ。普段では見せナい技術も引き出されタもの」
「コッチこそヨ! 思わず唸りたい気分ネ。全く、ヤレヤレヨ」
二人の会話は軽い。
しかし、第一試合で表からは見えない攻防が如何程あったのか判る者からすれば、ここで軽い言葉を平然と交わしていることが恐ろしく感じるだろう。
まだ試合は終わっていない。だのに、緊張感が一
「で。ほぼ確実に長丁場なりそうけど、ソッチもまだまだ元気いぱい見たいネ?」
「もチろんヨ。先は長いモの。
「やっぱりカ、ヨ。これだから骨使う同類はメンドーヨ」
お互いが
第一試合の時間は短かったが、お互い相当激しい動きをしつつも息一つ乱れていなかった。一般の観点からすれば、あれだけの動きをすればインターバルで回復しきれるかも怪しい。だが、第一試合直後も彼女達の体力は殆ど消耗していなかった。ヴリティカが言うように、継続戦闘をする上での回復術を互いが持っているが、そもそもが疲労を蓄積させない動きをしており、回復も一瞬で済む。
――筋肉に依存しない動き。
正確には骨格を正しく維持する必要最低限の深層筋や不随意筋を使い、
それを無意識下にまで術理が落とし込まれている。彼女達の日常、いやさ人生全てが武術の動きで成り立っているらこそだ。
『双方、抜剣!』
両者の武器デバイスから生み出された刀身が光を反射する。丁度、雲の切れ間から射し込んだ陽の光をエミュレートしたのだ。
『双方、構え』
その言葉を受け、二人は独特な構えに入る。
ヴリティカは、左脚を水平に後ろへ、右脚は前に置き姿勢は中腰。脚の踵が直線で結ばれている。上半身は右半身に近いが、右肘を目の高さへ
『用意、――始め!』
審判の声が揚々と響く。
その声と相反するかのように、二人には動きが無い。外から見ればの話だが。
実際には開始の合図から猛攻が始まっている。
相手の隙を探している訳ではない。そもそも、互いに隙など無く、在ったとすれば明確な誘いである。
では、彼女達が今、何をしているかと言えば。攻め入るための折り合いを造り出そうとしているのだ。
お互いが
「(……骨が折れるネ。気をぶつけてもスルリと流されるヨ)」
「(全く乱れずニ武威を返してくるワ。
「(ヘリヤやティナみたいに折り合い無視するは、武術の根っこ似すぎてダメネ。向こうも気の同調しか効果ない判てる、カ)」
「(有利なタイミングは全部潰されてるワ。
二人共、駆け引きによる有利な展開が現状では難しいと理解した。ならば、双方が同じ状況でぶつかり合うしかない、と。
お互い、呼吸と気の流れを合わさった瞬間に勝負が始まるだろうことだけは感じている。
時間にして一分を少し越えた。
更に数一〇秒を過ぎた時、唐突に戦局は動く。
互いの気が合ったのだろう。それは一瞬だった。
観客も何時二人の距離が縮まったのか、驚きに目を見開く。
――そして断続的に金属音が繰り返される。
瞬きの間に、スルリと互いの射程圏に踏み込んだ二人が攻防を始めていた。
武術の多くは、
特に
股関節を起点とした動き。それが脚の速度を加速させる。だから外から見る者をして、目で捉えていた筈が思考の外側に認識を追いやられて仕舞ったのだ。
衆目が集まる
左脚を伸ばした
それに対するヴリティカも低く滑らす歩法で、下半身が強固な姿勢を保ちながら歩を進める。流れるような滑らかな運足は、時に前後左右へ、時に上下へ、互いの位置取りをコントロール下に引き込んだ。
そして、仕掛けたのはヴリティカからだった。
猪の
急に現れた相手の頭部に集中が切り替わると同時に、首より下は別の動作に入る。
頭部の高さは変わらず
そこから、
攻撃距離は、後ろ脚の位置で決まる。有効な攻撃を繰り出すには、上半身の姿勢を保つことが重要である。そこに下半身と上半身の捻りで生まれた距離に、武器自体の長さが加えられて射程が決まる。あくまで一般的な運用の場合だが。
ヴリティカは、上半身を柔らかく倒し込んでも問題なく力を取り出せることは、蛇の
全ては相手に距離感を植え付ける布石。
だが、
「(やはり、生理反射も引き出せナいのね。全体を見られて対処されたワ)」
ブリティカが言うように、
だからこそ、攻撃がギリギリ届かない位置を把握して罠を回避した。
「(うーん、細かい差を使て来たネ)」
同じ技でも身体操作を
相手が
「(でもソレ続けるは悪手ヨ)」
ブリティカの虚実を含めた連撃が繰り出される。息も
一見、防戦一方に見える
反撃に出られないと言う点に
「(首の左側と左
基本的に武術の流派には、その技術体系に
ある程度、高位の技を修めた者であれば、当然のように活法も習い、その身を
特に、中国武術は活法に対する技術に目を見張るものがあり、道場を開いた憲法家が
第一試合で
「(やラれた! 回避出来ない!)」
それは、攻撃挙動を猪の
そして、
縦の斬撃を繰り出す左ジャマダハルは、僅かに
それがヴリティカの右腕を崩し、追いかけて来た左手の
――ポーン、と一ポイント取得を告げる通知音が鳴る。
だがヴリティカは、そこで終わらなかった。
崩された右腕を薙いだ
だからこそ、この刹那に
ヴリティカは右脚をそのまま軸に、魚の
不安定な上半身はいっそ連動から切り離して倒れ込み、ジャマダハルの到達距離だけを伸ばす役割とした。斬られた右腕は伸ばすだけならばダメージペナルティを無視できる。斬らずとも相手に刀身が
そして、
――ブー、と合わせて一本となった通知音が鳴り響いた。
『ヴリティカ・チャウデゥリー・ガウタム選手、一本! 第二試合終了! 双方待機線へ』
一気に観客から歓声が上がる。連続した攻防で繰り広げられたポイントの争奪戦は、観客を
騒がしくなった場内を背景に、
「失敗したヨ。
ヴリティカのジャマダハルが
反射で対応して仕舞うギリギリの嫌な位置へジャマダハルを置かれていたからだ。
「おかげで最後に引っかかってくれて助かったワ」
ヴリティカの賭けは、ジャマダハルを当てることが本質ではなかった。
連撃の遣り取りと身体操作を逆手に取られた一連の流れへ乗るように、ジャマダハルを避けるにも迎撃するのも微妙なところへ置いた。それこそ、
「アレ、上半身捨てて来た思たヨ。軸バラバラに動くからナニするか読めなかたヨ」
「フロレンティーナの不安定さを真似て見タのよ。私でも動くだけなら下半身を切り離しても成立すルと思ったけど、正解だったワ」
ヴリティカは
そして、ヴリティカがまんまと一本取得し、場を仕切り直した。
――そして、第三試合。
双方の手数は多く、至るところで金属音がかち合う。圧倒的な技量と高速な攻防。観客達も見ごたえがある試合運びに歓声を上げる。
しかし実態は、拮抗した
第一、第二試合で互いが手の内を見せて仕舞ったが故に、罠も崩しすら効かなくなる。
結局、どちらも決定打を与えることが出来ずに時間は流れ、試合時間が終了した。
審判が結果を紡ぎ出す。
『
『
『よって勝者は、
その言葉が終わると同時に、客席から歓声が騒がしく。
「おめでとう、
「ありがとうヨ。でも僅差だたネ。試合に勝て勝負で負けた気分ヨ」
ヴリティカの言葉に渋い顔そのままで答える
「あら、
「三試合目はワタシの技が美しいとこ魅せられなかたヨ。全部潰されるは予想外ヨ」
「あなた強すぎだもの。そうしなけりゃ確実に引き離されるかラ。結構、綱渡りだったノよ?」
「それをヴリティカが言うカ。久々に神経ゴリゴリ擦り減らされたヨ」
お互い様。そんな
美しい技――境地に至った技は人を
ブリティカは
強い
そういった確固たる何かを持っている
「武器が模造だったラ、また違った戦いになったでしょウね」
源流が同じ武術だからこそ親和性が良い反面、技の相性が最悪となった二人。
実力が高い故、技の潰し合いをせざるを得なかった第三試合。
たらればの話だが、本当の実戦形式であったならば、もっと違う形で技の応酬があっただろうことが伺えるヴリティカの言葉。
「それもイイけど、ヴリティカとは体術の方でも
良いこと思いついたと、笑顔で言い出す
「それ、オモシロイワね。あの黒いスーツ、衝撃吸うんでしょウ? なら、かなり本気で
「ヴリティカの身長だたら
観客そっちのけで違うベクトルの会話が展開されていく。しかし内容が興味をそそるのだろう、客席が騒めき立つ。何せ、前例で六月祭のメインイベントに格闘戦が在ったせいだ。観客も、もしやと期待しても仕方ないだろう。
そして姫騎士さん。
本人のあずかり知らぬところで引っ張りだこなのは、日頃の行いに問題があるのでは?
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