04-021.勝者と進む者。 Gewinner und die vorankommen.
二一五六年一〇月一四日 木曜日 夕刻
冬季学内大会第一部、
一日が終わった結果、
しかしながらマグダレナは、三回戦を惜しくも敗退となった。
彼女のトーナメントには同じブロックにエイルが居り、三回戦目で
「刺突を正面から撃ち落されるとは思わなかったの、そうよ思わなかったの」
夕刻、皆と合流したマグダレナがエイルとの試合を振り返り、思わずこぼした一言には深い感慨が籠っていた。何せ、奪われたのは一ポイントのみ。最少失点で敗退する憂き目にあったからだ。
マグダレナの刺突は瞬間的に距離を埋める攻撃である。相手の被弾判定箇所を絶えず数十センチメートルの距離に維持し、そこへノーモーション、且つ最速で点の攻撃を届かせる。彼女と戦ったことのある
その極めて回避し辛い攻撃を予想外の対処法で
ただでさえ虚偽が織り交ざる判別し辛い刺突をエイルは超高速の切り落としで、次々と撃ち落して見せた。さすがに撃ち落としから反撃へ転じる余裕はなかったようだが。
しかし、春季学内大会ではティナに負けこそはすれ、その強さから
「あの
それはさて置き彼女が言う速度系の剣とは、攻撃の回転数が高く、扱う剣自体の重量が軽めのものを対象に話している。軽めと言っても、自重ではなく攻撃時の重心が、と前置きが入る
「以前エイルさんには、わたくしの
昨年の冬季学内大会第二部、
彼女の
今現在、テレージアが繰り出す攻撃を剣で受け流したことがあるのはエイルとティナの二人のみ。ちなみにヘリヤは真っ向勝負で撃ち勝つなどと言う異常さをここでも見せている。
「
一方、
だが、こと
「
エイルと戦ったことのない
彼女達はエイルへの警戒を見せるが、マグダレナが口火を切ったから話題に取り沙汰しただけである。警戒が必要な相手は両手の指では足りないほどに存在する。そして彼女達もまた警戒される側の
マグダレナの敗戦が切り口になったが、下級生組はと言えば、その顔に明暗がはっきり分かれている。
三回戦まで順当に勝ち進めたのは、ベルのみであった。既に下級生全体を見ても頭一つ抜きんでており、安定感も増してきている。彼女を
ルー、ハンネ、ラウデの三人が残念な結果となった。
特にルーは技量に於いては相手を凌駕していただけに、色々な意味で残念な
「教えを授けていただいた皆様方には不甲斐ない姿を見せてしまい、言葉もありません」
今回、技術面などで世話になった上級生組へ律儀にも謝罪を告げるラウデ。伏し目がちで
「その言葉違うヨ。ヤレることヤレてたネ。前後動くはヨク練られてたし
「そうですわよ。ラウデが今出せる技能を出した上での勝敗でしたもの。次への道筋が認識出来たのですから価値ある一戦でしたわ。だから、胸をお張りなさい。それだけのことは
「そうね、そうよ。まだ完成するのに時間がかかってるだけ。着実に強くなってるわ、なっているのよ」
上を目指し始めた
足りないのなら積み重ね続ければ良い。
ラウデは、その入り口に辿り着いた。後は
だからこそ、
「皆さま、お言葉ありがとうございます。これからも研鑽に勤しみ、
真面目なラウデならではの返答だ。しかし、言葉には決意が含まれていた。その先へ向かう、と。
今日の午前中に実施された二回戦目。ラウデが二回戦シードに割り振られていた新入生と当たったのだが、相手との相性が非常に悪かったと言える。
その相手は
ラウデは、ここ一年で身体の内部を動かす鍛錬を密に叩き込まれた。それが、身体操作と正対した際の攻防で、相手の一つ上を
しかし、フェンサー競技から
最初から
ラウデは元々、黒軍から派生した流派を学んではいた。しかし、学園に入学するまではフェンサーとしてサーブル競技に当て込み、その技術を育んでいた過去がある。本来とは異なる、その競技へ特化した動きに置き換わってしまった部分も少なからずあり、ここ
基礎と言う土台は完成しつつある。今は継いだ技術を研鑽しつつ、技と身体の使い方を沁み込むように練り上げていく段階に入ったところだ。花開くまでは、もう
「おねーさま、負けちゃいましたー……」
ラウデに続き、ハンネがテレージアに結果報告をする。喋りながら段々とシオシオ萎れていく姿に哀愁が漂う。
ハンネは本日の三回戦が一番最後の試合だったため、まだ鎧姿のままだ。彼女の鎧は、アーマードバトル競技にも使用するため、ゴシック形式をデザイン元とした
「あらあら。ハンネも今出来ることに加えて新しい試みを取り入れての結果ですから、気落ちすることは何もありませんわ。さあ、お顔を上げて」
テレージアは、ハンネの
二人の遣り取りに目を細めながら、
「腰を起点とした動きは随分と
「……わたし、出来てましたか?」
「ん。自分の体軸がどこか掴めてきてる。近いうちモノにできそう。
そうなんですね、とハンネに笑みが戻って来た。次に向けて歩み出せることが肝要である。彼女も次に向かって切り替えられたようだ。
ハンネが対戦した相手は、
その相手、三年生であるヴェロニカ・レシチニスキは、
ヴェロニカは、
彼女はアラブ馬に跨り、全長五メートル半もの
学園へは
手数の多さと正確に鎧の関節を狙ってくるヴェロニカの剣技は、被弾判定ルールが異なる甲冑を纏った相手と戦う前提なのだろう。ハンネは良く凌いだ。右や左と翻弄されながらも体勢が崩れることはなかったからこそ、長らく持ち堪えられた。
しかし、相手との技量差は埋めがたく、次第に内肘や
それでも、相手が繰り出す回転や円軌道の剣に合わせてウンターを仕掛けるなど、間の読みや攻撃の差し込み方などが格段に向上している姿を見せつけた。その結果、格上相手に二ポイント奪ったのは立派だろう。
ラウデとハンネは、奇しくも源流を同じくするサーベル術によって敗退した。共に技量で上回られてはいるが、自分が今
二人は一年を通じ、テレージアから身体運用の基礎を学んだ。二年目も引き続き学ぶことを決めている。
しかし、秘伝の鍛錬法を伝授されていないにしても、テレージアを鍛え上げたキューネ家の鍛錬法で身体を造っているのだ。一年後には恐るべき膂力と剣速を持った
「姫姉さまー。ルーはハメられたのです」
夕刻、ティナがアバターショップの売り子を終了したタイミングでルーがトテトテとやって来た。
三回戦目で超絶にやらかして反則負けを喰らった小さなメイドは、
「やれやれですね。同族との対戦でヒートアップしたのは判りますが、奥義で反則してたら台無しじゃないですか」
「ソンなこと言われても
「だまされたって……。もう、しょうがない
「うゆ? だから教導師クラスの技もってやがったですか」
教導師とは、――FinsternisElysium MassakerKünste―― フィンスターニスエリシゥム
中位以上、高位歩法を含めた上位からその上に位置する技術は、戦闘を専門とする者が学び、更にその中から才能がある者のみが奧伝、奥義に至る
ルーは奥義
「彼、ダキラは
「やっぱ姫姉さまはヤツを知っていやがりました! またルーが知らないところで暗躍してるです!」
「暗躍て……。ちゃんと暗躍するなら最初から最後までルーに気付かせませんて。ともかく、彼は祖を同じく派生したルーの技が一度体験出来ればと、今回の
さすがに今回の話は
本来、
近衛の名門であるクレーフェルト家から新学期にルーが入学することは、カレンベルク家と一族から通達が回っていた。ダキラ自身はカレンベルクの警備部門や護衛達とは役どころが違うため接点は少ないのだが、クレーフェルト家の秘蔵っ子が扱う現代戦闘術を融合した武術を一度味わってみたくもあった。
自身が戦技教官として教導することになる流派。そこから派生した流派の技がどのように練られたのか、身を
競技を戦いの場としたのは、技術を不殺に制限された中でどのように戦いを組み立てるのか見るためだ。
夏季休暇前に、そうダキラから聞かされていた姫騎士さん。
どうせならルーに余分な先入観を与えず
「きっとルーが知らないのに色々決まってるパターンくさいです……。ん? ルーの軍事戦闘術はヤツの技と先祖が同じです?」
「そうですよ? あなたの
「確かに良く似た動きがあった技だったです。ナンか教導師と戦闘訓練してる感覚だったです」
「だから訓練時の関節や急所攻撃も出てしまったんでしょうけど……。しかし、それで競技だってことをスッカリ頭から抜け落ちるのはよろしくないですね」
「くっ! うまいこと別の話に流れたと思ったら話題が戻ってきやがったです!」
「全く、もう。あなたは奥義修得に至ってるんですから、いくら彼が高位歩法を持っていたとしても現時点で問題なく対処出来た筈ですよ? 調子に乗って奥義まで出してあの結果はいただけません」
目線を逸らし、スヒュースヒューと吹けない口笛を吹くルー。このままお小言が始まるより早く
仕方がないな、と呆れ顔が語っている姫騎士さん。
「さて、夕食でも
もちろんルーも一緒に見るんですよ?とティナの言葉に、ルーがウゲェと露骨なしかめっ面を晒したのは言うまでもない。
この娘は、小さなころから大体こんな感じだ。
ルーにとってティナは、仕える主の一族であるとともに、大好きなお姉ちゃんなのだ。
ブラウンシュヴァイク=カレンベルク家にとっても、生まれた時から知っているルーは家族である、と。しかしカレンベルクの一族は、仕事に関わることならば身内にも厳しいのであるが。
「ほら、ココです! 脚斬り行ったら
夕食後の試合動画振り返りタイムでルーが声を大にしている。ここまでティナに色々とダメ出しを喰らっていたところだったので、自分は悪くないと言い張りたいシーンが再生されて息を吹き返したのだ。喜び勇んで奏上した言葉は内容が悪手なのは
「いえいえ。虚実は兵法の基本じゃないですか。問題はその後ですね。相手の戦闘スタイルが歩法で変化したことに
「うぐぅ」
ルーからぐうの音が出た。
「ああ、ここで奥義を出しましたか。技で幾らでもやりようがあるのに、能力の底上げを選択したのは冷静を欠いた証拠ですね」
「うぐぐぅ」
再びルーからぐうの音が出た。
こんな調子で姫騎士さんに細かく分析され、上げられた問題と課題の対策について宿題を出されたルーがジタバタしながら文句を垂れ流し、結局なあなあと
ルーが仕出かした一発退場の反則については、ティナから軽い注意程度だった。それを受けたこの小さなメイドが、あからさまに安堵している姿は問題ではなかろうか。
翌一〇月一五日 金曜日、
下級生のグループトーナメントではベルがベストエイト入りを果たした。本選では世界を経験した上級生とも当たるため、これからの戦いが真の意味で本番である。
「ルーはミンナの応援をやり遂げるのです!」
ティナに無い胸を張りながら熱血漢よろしく拳を高々と上げるルーの宣言は、応援が三割、ティナのアバターショップ手伝い回避が七割の内訳である。困ったことに。
そんな妹分に苦笑いの姫騎士さんであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます