04-011.騎士達と冬季学内大会。 Chevaliers und Winterturnier.
2156年10月11日 月曜日
この時期のローゼンハイムは朝の気温が十度を下回る。日中の最高気温も十五度と、だいぶ涼しく過ごせる季節となっていた。一年を通じて日の半分が曇りである気象に反せず、本日の空も本曇りで、日差しが入る余地もないのは残念なところだろう。
ただ今、朝の八時半。これから屋内大スタジアムで冬季学内大会第一部の開会式が開始される。コートには競技に参加する
では一般客はと言えば、入場制限が掛かっており、ここには入ってこれない。競技の大部分が屋内大スタジアムで実施される訳ではないからだ。特に最初の競技である
「おー、試合前なのにみんな鎧着てやがります。ずいぶんキラキラ光るモンですね」
「競技参加者は、開会式で装備着用と通達があったでしょう? この光景もその内に見慣れますから」
「そうなんです? でもルーは見慣れなくても全然かまわねぇのですよ」
如何にもめんどくさいと物語るショボショボとした顔をするルー。競技に出なくても他流と触れ合いはできるですよ、と
実のところ、この開会式は見どころが多い。これから伸びるであろう
そんな
キャッチーなミニスカメイドを騎士服装備として登録し、
そしてもう一人。
今日は腕鎧と脚鎧のメタリックオレンジが目に眩しい
もちろん、かくの如き理由で
「直接攻勢はなくなりましたが、視線は逆に増えたようですね」
「注目されるのは何時ものことじゃないか。どうせ気にもしてないんだろ?」
「
ティナの性格を良く知る
何気に
「みんなヒトのコトを気にしてナンか得でもするですかね?」
数多の視線に対して、ルーはベクトルの違う受け取り方をしているようだ。素っ気ないと言えばそれまでだが、仮に得をする、と聞けば目を皿のようにしてキョロキョロするだろう。その視線に意味を含むことはないであろうが。
「ルーちゃんは人気者ですね! みんな見てますよ! くっ! にゃん月殺法の会得が間に合っていればお披露目出来る機会でしたのに……!」
「ほえー、やっぱりメイドさんはみんな大好きなんですね。ローゼンハイムにメイドさんのいる喫茶店がありますよ! みんなルーさんみたいにカワイイ格好してます!」
「ルーは普段から一流のメイドなのです!」
「また話の方向が変わってますよ。皆さん、不思議な武術を使うルーさんに興味津々だと言うことです」
ベルが逸らした話をハンネがベクトルを変え、ルーが全く関係ないことを言い出す。今回、方向修正をしたのはラウデだ。彼女も全く違う話へ摺り替えられる天然系会話術に大分慣れて来たようだ。
「はい、あなた達、開会式が終わりますわよ。締めのお言葉を聞き逃せば大会は始まりませんことよ?」
お姉ちゃん役が板についたテレージアが小騒ぎしている妹組達に注意を促す。ここまでが自然な流れとして定着しているため、ティナ達は口を挟むことなくお任せ状態だ。
テレージアが紡いだ言葉は、遠回しに気持ちの切り替えについて示唆しているのだが、妹組がどのように受け取るかは彼女達次第だ。何気ない言葉に含まれている意味合いを考える訓練も兼ねている。何せ、試合開始前の
「さて。着替えに行きましょうか。できれば
「馬に乗ってヤリでツンツンするヤツです? 見にいくと楽しいんです?」
「騎馬を使った競技は迫力があるからな。一度は見ておいて損はないさ」
「ふーん?」
疑問を含んだ返事をするルー。
「はいはーいヨ! 早くしないと更衣室ミッチリネ! 急ぐヨ!」
皆、何とも言えない顔をしているところを見るに、更衣室が隙間なく人で埋まった景色を想像でもしたのだろう。
――屋外
本日のメイン競技となる
「お馬さん、やって来たヨ」
入場ゲートの動きを
彼女が最も馬と接近出来る機会は
ちなみに、ティナは乗馬も出来るが、豪胆な性格の馬に限り、と注意書きが付く。それ以外の馬には、
「またアシュリーがいますね。今回も
「在学生で円卓の騎士に所属してるのが五人しかいないからじゃないか?」
「メンバーがまた二人卒業なされてしまいましたから。さすがに臨時メンバーで
多分、テレージアの弁が正解なのだろう。アシュリー率いるガーター騎士団、通称【円卓の騎士】は、複数企業がスポンサーに付いているプロチームだ。メンバーの殆どが社会人で、学生の方が少ない。彼は戦場を俯瞰で分析し、全体の流れを読む戦略家である。彼が指揮するチームメンバーならば、どのような戦略を用いても、その意図と目的を察するだけの機微を持つほど練度が高い。しかし、学内大会の場合、正規メンバーより臨時メンバーが多くなるため、十二名のチームで運用するには連携や意思の統一が難しくなるのだ。故に、学内大会では、良くても八人体制の
逆に、連隊、師団などの大規模で指揮をする場合は、寄せ集めの
「おー、腐れ王子のお馬さん、葦毛で堂々としてるヨ。あっ! お馬さん、コッチ見たヨ! ホラ!」
「んー、うゆ?
「どーしたんですか? ルーちゃん。ルーちゃんが見た
「ヤリがパーンと爆散するですよ。破片がブワーッと飛び散るです」
「それ私、知ってます! バルサの木で出来た槍を使うんですよ!
ルー、ベル、ハンネの天然系会話術が明後日の方向にずれなかった珍しい例だ。
ハンネは物理競技であるアーマードバトルを嗜んでいる繋がりなのか、国際ジョスト連盟が主催するジョスト競技も見たことがあるようだ。しかし、ヨーロッパ圏や新大陸の国々で盛んな競技なのだがピンポイントでフランスを取り上げたところを見るに、あまり興味を持っている訳ではなさそうだ。
「おいおい、国際ジョスト連盟のジョストは
「なにいきなり乙女の会話に入って来てるですか。そんなだからグウィンはグウィグウィグウィと呼ばれるです」
ルー達一行が陣取っている観客席脇の通路を移動中だったのだろうグウィンが声をかけてきた。出店で買ったラージサイズのドリンクと、フィッシュ&チップスの包み紙を手に、
「相変わらずオレへのアタリがいい加減だな! んな奇妙な呼び方はルーしかしてねえよ!」
「そのカエルのタマゴジュースどこで買いやがりましたか。タマゴのモッチャモッチャがなかなかオモシロイやつです」
「話聞かねえな! それより世界のタピオカドリンクファンに謝れ!」
斜め方向の会話術なルーと、突っ込みを入れるグウィン。彼等が普段、どのように接しているかが良く判る一幕だ。
ベルとハンネは、急な闖入者に面食らって……などは全くなく、グウィンの髪形に視線が釘付けだ。二人はリーゼントが右に左へ移動するに合わせて、キラキラとした目で追っている。よっぽど珍しかったのだろう。はっきり言ってリーゼントなど、普通に生活していればまず見ない髪型である。そして、妹三人組の様子を横目で見ながら溜息をこぼすラウデ。これが普段の図式である。
「グウィンはナニしてるですか? カエルのタマゴジュースをルーに貢ぐですか?」
「ナニ自然に
「盗み聞いてたですか。いずれ暗がりで刺されちまいますよ、悔い改めろ!です」
「たまたま聞こえてきただけだってーの。それより、その二人の視線どうにかなんねーか? さっきからオレのリーゼントずっと見てやがる」
「ベルにハンネもグウィンの髪形が気になるです? 何が詰まってるか知らんですが、見て楽しいもんじゃないですよ?」
「ルーちゃん、チョンマゲです! おでこの上にチョンマゲがあるのですよ、イングランドの人はお侍だったのです!」
「頭が
視線の意図が斜め上だった。グウィンは諦めたように息を一
「ご期待に添えなくて悪いが、ただの髪型だ。チョンマゲでもないし骨も入ってもいねーよ。残念だったな」
「えー⁉ お侍さんじゃないんですか……」
「隊長ツノの付いた
「絶対あの中にオヤツとか隠してるです」
ぶつくさ言い始めた妹組。一つ後ろの席で彼等の遣り取りが終わるまで、
「侯弟殿下のお名前はグウィン、でしたね。あなた、席は決まってるんですか?」
「これは公爵殿下殿。お声がけいただき痛み入る。知人が頑張ってくれたんだが、席は確保出来なかったんでね。立ち見する予定だ」
「それなら、こちらの席においでなさいな。この席に座っていた本人は
一瞬、考えるグウィン。単なる好意か、ルーに関することなのか、
「では遠慮なく、その申し出を受けさせていただく。正直、
グウィンが、少しだけ格式ばった言葉を用いたのは、格上である公爵令嬢の誘いであるからだ。そして、彼が感謝の言葉を紡ぐまでの僅かな間に、この場に留まることによる損得計算をしたであろうと察する姫騎士さん。さすがにアシュリーほど感情を隠す
「はい、こちらへどうぞ」
クスリと笑顔になり、自分の隣席を手で示すティナ。その笑顔に、
「ああ、邪魔するぜ」
前席に座る下級生組四人から好奇の視線を浴びたまま、身体を屈めてティナの隣に座るグウィン。思わず深く息を吐いてしまい、気付かれないように取り繕う。
「(こんなところがまだ未熟って訳だな。しかし、公爵殿下は恐ろしいな。笑い顔一つで指摘と指導を頂戴するとは思わなかった。世界レベルを目指すなら読まれるような失態はしないようになれ、ってか)」
この何気ない短いやりとりの中には、判る者だけに向けた高度な会話が含まれていた。グウィンが受けた指導とは、読まれないように研鑽しなさいと言うこと、たとえ読まれても揺るぎを表に出さないように、である。
ティナは、この二つを最低限、ルーに学園在学中で学ばせる予定だ。その練習相手として、ルーを在学中に運用するチームへ勧誘したグウィンに白羽の矢を立てた。ルーへゲスト扱いで協力するようにと、ティナが指示を出したのは、集団戦の経験を積ませるためだけではない。指揮官が如何に悟らせない立ち回りをするのかを側で見させるには、実力と実績なども耳馴染みが良い、うってつけの相手だったからだ。
だから、ほんの少しだけグウィンへ手を差し伸べたのだ。ルーが今後も世話になるので。
「なんですかグウィン。借りてきたニャンコみたいです。姫姉さまに粗相でもしたら頸動脈掻っ捌くですよ?」
「また物騒だな! ……そりゃ、身の狭い思いもするさ。世界でもトップクラスの
グウィンの左隣にティナ、更にその奥はテレージア、そして右隣に
その姿を視界の隅で捉え、やはりアシュリーと兄弟だな、と納得するティナ。彼もブラフと真実を組み合わせるタイプなのだろうと。
ざわざわと客席が騒がしくなる。九騎の騎馬が横一列に並んだことから、トーナメント表が発表される時間だと見て取ったからだ。客席上部に設置された大型インフォメーションスクリーンを
「アシュリーは前回優勝者なだけに、シード枠へ配置されたな」
「騎士王は剣より突撃槍の練度が高い。その謎は弟が今明かす」
「あー。簡単に言うと貴族のプライドだな」
「プライド、でございますか? 侯弟殿下」
同じく貴族の末裔であるテレージアが話を促すように疑問を口にする。妹組達が言葉を挟んで会話をあらぬ方向へ発散させないために必要な合いの手なのである。
「ウチはカレンベルク一族と違って、
貴族のプライドと答えつつも、それが
「
戦場の在り方が変わり、無用な技術となっても代々伝え続けてきた。
「それが今に続いてる」
まるで呪われた因習であるかのように。彼の言葉には、蓋をすることも、無いとすることも出来ないことが存在すると語っている。それは存在意義を捨てることだと。
「グウィンも
「言ったろ?
「ふーん?」
「アニキが
それは、グウィルト兄弟の持つ
「うーん、よく判らんです」
その言葉を引き出したルーの素朴な疑問は、得意なことを何故しないのか、と相手の言葉に対して放つだけの外側から見た意見であり、言葉の意味を捉えてはいない。だから、返された言葉の理解が追い付かないのだ。
ティナは、あと少し深く読み取って受け答えして欲しいものだと思った反面、ルーの教育方針で優先事項を再考した方が良さそうだ、と今後の方針について後ほど修正しようと心に留めておく。
「ダウナー系回答を騎士王の弟がした」
「
「どっちも酷でえ言い草じゃねえか……」
「そうですよ、二人とも。一族の恥部を吐露したグウィンの立場がなくなりますよ」
「公爵殿下も言葉に容赦ねえな! ルーと言い、カレンベルク関係者の芸風かよ!」
「さあさ、みなさん。第一戦目が始まりますわよ? 折角の試合、見逃したら損ですわ」
丁度良いタイミングでテレージアが軌道修正する。この様子だと、上級生組が時たま織り成す不適切な会話などもテレージアが上手く
「あ、来ました! ルーちゃん見てください! 馬も鎧を着てピカピカしてますよ!」
ベルが遠くを見るように、手で
「槍がデカイです? ルーの見たのはもっと細くて短い槍だったです……」
段々と語尾が
「あの
国際ジョスト連盟の
開始アラーム音と共に、騎馬が
馬の遅速や、速度を押さえて脚を残す速度と距離の戦術、
重厚な騎馬が颯爽と走り、騎士鎧が光の尾を引く。鎧に付けられた
迫力と臨場感に溢れる
「ふわー、すごいスピードです! キュバーときて槍がズバーンってなりました!」
「馬の人は自動車くらい早かったのに、あんな遠くから大きな槍の尖端をシュピーンと刺してます! リンゴを木から取るとき便利そう?」
「相も変わらず激しい競技です。槍だけでなく、馬術の要素が入ることを考えると、非常に高度な技術が必要なのですね」
ベルは相変わらず天才語録系の感想であった。そしてハンネは途中から
「やはり
「それは言えるな。人馬一体となるタイミングや微細な駆け引きとか、
「巻き技同士の撃ち合いはよかった。あの速度だと一手で全てが決まる」
「盾装備の方は、随分と姿勢制御がお上手でしたわね。
上級生組は純粋に観戦を楽しんでいるが、一々視点が穿った言葉ばかりだ。それを直ぐ横から聞こえていたグウィンは競技ではなく、会話の内容に感想をこぼした。
「……歴戦の
そうですか?と、軽い姫騎士さん。鬼姫、鴉揚羽、花傭兵も、そうなのか?と、軽い。彼女達にとって、競技者の動向を分析するのは、既に習慣となった当たり前のことである。そのため、グウィンの言葉に反応が薄いのだ。
「あら、ルーはどうしたんですか? また、おもしろい百面相をして」
初めて見る
「姫姉さま、
「ルー? ……んー、そうですね。
眉尻を下げてウンウン唸り出していたルーは、そんなものかと素直に従う。良く判らない違和感があるが、
「お、アシュリーが
「なんだ? アニキのヤツ、こっち睨んでる風に見えるが……」
「侯爵殿下に何か御座いましたのかしら」
「なんでしょうね? まぁ、気にしても仕方ありませんし、放置安定でしょう」
アシュリーは、春季学内大会の優勝者なだけあって格上の戦いを展開した。巻き技、強打による落馬判定、二連突きと言う離れ業までやってのけ、大いに観客を沸かせる。毎試合、危なげなく戦い抜き、二度目の優勝を手にした。
試合の度にグウィンが睨まれていたが、大した理由ではない。女性陣に囲まれて観戦している弟を
「アニキの視線が謎過ぎた……」
「騎士王、二連覇。このまま三連覇を狙う可能性」
「ああ、それはありそうだ」
「おねーさま、騎士王の人が槍を自在に操ってました!」
「ええ、見事な技量でしたわ。プロとして
「ラウデ、すごかったですね! 槍がビュッビュッときて、それからスパーンでした!」
「ベル、擬音語で話されても私は半分も理解出来ませんよ」
「お馬さん、可愛かたヨ~。やぱり乗せて欲しいヨ~。パカパカ走りたいヨ~」
「あら、いつの間に戻って来たんですか、
午前中で
「さて、私は午後からアバターショップで売り子だから店舗に行くよ。向こうで昼を用意してくれてるんだ」
「
「アバターと言えば。電子工学科が
「
「赤いNINJYAのヒトですね! 手裏剣でフロレンティーナさまが攻撃されてました!」
「私、午後はお店でバイト店員と交代ヨ。
「わたくし達は食堂へ参りますが、殿下は如何いたしますか?」
「私とルーは、一族用に調整した戦闘糧食がありますから、一旦宿舎へ戻ります」
ここでティナとルーは一行から離れる。テレージアと
宿舎へ歩くティナとルー。お互い一言も喋らない。次の競技場に移動する一般客や、学園入り口前の円形広場で出店している屋台などの賑わいが、遥か遠くの出来事のように聞こえてくる。ある意味では静かな時間だ。
ルーは
「ルー、その様子だとあなたが
「姫姉さま。……ホンモノなのにニセモノなんです。実戦に見えて違ったです。攻撃は槍の先が消えるだけです……。ヒトはナンともないのです」
違和感の正体。見えているものは、現実と虚構が織り交ざって出来ていたこと。
騎馬や騎士も本物で、物理的な鎧も纏っている。しかし、
ルーが思い出したのは、国際ジョスト連盟の試合。あれは競技用の模造武器だったが物理的な法則に則ったものだと。そして、自分が鍛錬や訓練で使用する武器も模造であれど本物であった。仮想化された武器を扱うのは、急所を狙う実戦訓練の時だけで、ルーにとって技術とは全て実戦の中にある筈のものだった。
故に、現実と仮想の違いが顕著に現れる
「そうですよ、ルー。これが
「うゆ? だから技を競技に落とし込む、です? 別モノだから?」
「その通りですよ。あなたは護衛見習いですよね? 今時点でも護衛対象を陽の下で警護することも有るでしょう」
ルーの脳裏には、まだ五歳の可愛らしい次期当主の顔が浮かぶ。
「仮にトラブルが発生したとして、状況に合わせた最適な技術が必要となります。何ごともやりすぎてはいけません。ともすれば過剰防衛と判断され、加害者扱いです。護衛対象も少なからず責任を問われるでしょう」
その光景をルーは想像したのだろう。ぐぬぬ、と低く唸って眉根を寄せている。
「そうならないための割り切りです。状況に合わせて最適な行動を取れるようにする訓練でもあります」
――FinsternisElysium MassakerKünste――
フィンスターニスエリシゥム
なまじ優れた才能を有していただけに、無意識レベルで反応し、技を繰り出せてしまう。しかし、それは全て確殺の技術なのだ。ティナのように幼い時分から競技に接していれば、実戦の技と如何に違うのか認識出来ていただろうが、それを言うのは詮無きこと。
だからこそ、今現在、競技で使える技に技術を適用させる鍛錬を繰り返している。その真の目的は、認識の違いを埋めることにある。身に着けるには本人が気付かなければならない事柄のため、ルーには知らされていなかったが。
戦闘術、護身術、競技。同じ技法を用いても全く別ものであると。
ウゲェとしかめっ面を晒すルーの顔芸は、「めんどくさい」と物語っている。
「また、そんな顔をしてるのは気付いたんでしょう? 今までの訓練にも違いが含まれていたって。ならば、しっかり意識して技を練ること。それが正解です」
「ふわーい……。ルーはそこはかとなくカシコイのでナンとなくアレするのですよ……」
「そんなヤル気のない受け答えをして。もう、仕方ない
ショボショボとした顔になっているルー。気付いたことが、日常生活も含めて幅広く影響することだと判ってしまい、ゲンナリとしているのだ。
物覚えも良く優秀だが、覚えたことを組み合わせて考えるのが非常に苦手なルー。
そして、面倒になりそうなことは極めて遠慮したいルー。
「姫姉さま、世の中には知らずにのほほんとしていることが幸せなこともあるのです」
「はいはい、知ってしまったのだから諦めなさい」
「えー……。そうです! 知らなかった過去に戻るのです! 映画でもありました! バック トゥ ザ ストリート?」
「それだと裏道のことですて。また適当な引用をして……」
スヒュースヒューと吹けない口笛をしながら誤魔化そうとするルー。
いつもの日常風景だ。
「さあ、さっさと戻りますよ。昼を
「
ブチブチとこぼすルーをティナは
その後ろ姿は、主従ではなく姉妹のようであった。
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