04-009.見習い達と準備。 Jünger und Ausbildung.
2156年9月27日 月曜日
澄み渡る空とは裏腹に、自称
「おはようさんですー……」
しかし、いつも我が道を征く元気いっぱいの娘からこぼれた言葉に勢いはなく、語尾など今にも消え入りそうである。入学してから一週間少々と短い付き合いのクラスメイト達でも、いつもと明らかに違う様子に何事があったのかと教室内を動揺が走ったくらいだ。
「
「そんな小せぇことではルーの機嫌を害することなど不可能と知れ、です。弟侯爵はそんなだからグウィグウィグウィとか呼ばれるです」
朝っぱらから面倒くさいのが声かけてきやがった、とでも言わんばかりにジト目をしながら口を開いたルーは、大概な言葉を放り投げている。ちなみにグウィグウィグウィは、グウィンの本名であるマエルグウィン・グウィネズ・グウィルトにグウィの発音が三つあることからルーが適当な語録で言い出しただけである。
「弟侯爵ってなんだよ、その新単語は……。おまえ口の悪さはどんな時でも平常運転だな!」
「褒めてもナンもくれてやらねぇですよ?」
「褒めてねーよ‼」
早速ルーのペースでコントに巻き込まれたグウィンは、ツッコミ役にならざるを得ないところが兄アシュリー共々、哀愁を帯びている。
「まぁ、いいです。ちょうどオマエに話があったですから」
「なんだ、珍しい。今度の大会に出てくれる気にでもなったか?」
ルーは大きな、それは大きなため息をハァーと長く深く
「不本意です。ホンっっっとうに不本意で面倒で出来ることならやりたくなくてバックレたくてしょうがないですが、この間の誘いに乗ってやるです……」
「おい、マジかよ……。ありがてぇが、察するに姫騎士殿の差し金か。だから不機嫌だったわけだな」
「そのとーりです。姫姉さまが面倒くせー案件をルーに振りやがったです……」
「まぁ何にせよ、あと一人がどうやっても集まんねえから手を
「くっ! 要員が埋まっていれば良かったものを……」
再びルーは、大きなため息を
――昨日の夜
日曜日の日中、ルーはティナが打ち合わせで別行動となるため、妙に馬が合うベルとハンネの三人で学園敷地内にある屋内スポーツ用遊戯室に行っていた。卓球やらダーツやら輪投げやらで散々遊び倒して過ごしていたのである。
夕方解散になり、日中の運動で空腹をかかえたルーは、その足でティナを夕飯へ誘いに行った。やはり、まだまだ身内には甘えん坊なのである。
時間的に外食へ出かけるのも手間であると、ティナがケータリングで注文したピザを
その話をティナは終始、にこやかに聞いていたのだった。
と、言うところで終われば暖かみのある日常の一コマだったのだろうが、そこはさすがの姫騎士さん。最後にぶっ込んでくるスタイルは崩さない。
「ところでルーは、今度の学内大会の集団戦とか
「うゆ? グウィンのヤツからですか? うーん……うん? そういえば、即席チームに混ざらないか言われたような?」
「あら、そうなんですね。……ふむ、せっかくですからお呼ばれしてください。今の段階で集団戦に技術がどう影響するのか測れますから」
あからさまにウゲェとしかめっ面を晒すルー。如何にも「めんどくさい」と言った表情だ。
「……姫姉さま。ルーは
「もう、適当にスーパー
「ルーは労働の尊さを
「チーム参戦なら、大会までに連携などの練習が行われるはずですね。そちらのスケジュールが判りましたら直ぐに教えてください。ルーの鍛錬時間の調整をしますから」
「また、ナチュラルスルーです……。そんでルーに決定権がないのがいつも通りです……」
言い分をスルーされた精一杯の抵抗は、口をすぼめて不貞腐れながら文句を言うこと。ルーもティナが必要なことだと判断して言っていると判ってきたため、これ以上は駄々を
時間は現在へ戻る――
教室内でザワリと静かな騒がしさが
「およ? 何だかザワザワしだしたです?」
「なんだ、自覚がなかったのかよ。お前の行動は注目されてたんだぜ」
それもそうだろう。
「ヒトのことを気にするなんて、随分と余裕があるヤツらです」
ジト目で周りを見回すルー。そんな台詞が出てくるのも、普段の自分が置かれている状況を省みているからだろう。
「そう言ってやるな。実力がある
「ルーは
「まんまで返すのかよ! ハァ、言葉の裏も読み取って欲しいところだぜ……」
しったここっちゃないです、と目が語っているルー。先の遣り取りも興味を失っていることが見て取れる。
会話を読む機微は目下修行中だが、この様子だとまだまだ時間がかかりそうだ。
「だれが出るですか?」
「いきなり話題変えたな。集団戦は人数集まるまでは参加者は公開されねーんだよ。それよか誰が出るか聞いても相手のこと判んのか?」
「しらんですよ? 儀礼的に聞いたです」
「ヤレヤレだぜ……」
臆面もなく言い放つルーに、グウィンが呆れ顔になるのも仕方がないと言うもの。
「ともかく、参加登録しとくから、今日の午後には申請が通るだろう。そしたらチームの顔合わせに呼ぶから出てくれよ」
「……へーい。時間さっさと教えやがれです」
「せめて初っ端での顔合わせくらいは普通に対応して欲しいとこなんだがなぁ」
ルー参加の言質はとったが、チームに馴染めるか怪しくもあり、キリキリと胃を痛めることになる予感がするグウィンである。しかし、それを踏まえて用兵をすることこそが仕事であると意気込む反面、入学初っ端の仕事から難易度が高いなぁと、人知れずぼやくのであった。
2156年9月29日 水曜日
自称
「おはようさんですー……」
力なくポロポロと口から落とすように挨拶の言葉を垂れ流したルーは、今にもしおしおと
「
「なんだ、グウィンですか。オマエのせいで日々の指導が密になりやがったです……」
「見事なほどの言い掛かりじゃねーか……。お前さんの指導に関しちゃ、オレに責任はねーぞ?」
ルーが参加する集団戦の訓練スケジュールは、放課後開始から二時間を充てられることになった。そのため、ティナも自チームの練習時間を放課後から一時間にスケジューリングをし、ルーの個別指導に被らないよう調整している。ルーが個別指導へ割ける時間が後ろ倒しとなったため、内容を密にすることで時間自体は短縮された。
そして変わり種の話としては、ティナが練習のスケジュール調整をした際、ルーの育成についてマグダネラが興味を持ったため、ひょっこり顔を出したことだろうか。
幾何学的歩法で円を描きながら相手の懐深くに届く点の刺突を繰り出す戦法は、体術や隠密による攻撃を競技では封じられているルーにとって、
「世の中にはままならんことが多いのです。ほんの数週間でルーのランキングが下降線を描いてやがります」
などと、ブチブチこぼすルーの姿は、哀愁が物理的に見えそうなくらいだ。
しかし、彼女の鼻っ柱を折った相手達は、世界でも上から数えた方が早い実力者だということを認識していないのだろう。なにせ、今まで
「まあ、それはそれとして。大会の参加者が発表されたの見たか?」
「うゆ? 見てねーですよ。別にどーでもいいですし。森林と障害物マップはルーが無双してやることに変わりないです」
「あー、やっぱりか。その様子じゃ、公爵殿下から
「姫姉さま? なんです? 出るヤツに秘密でもあるですか?」
どれどれと、AR表示から学内通知を開き、内容確認するルー。余りお知らせ機能などを使っていなかったので、手つきがモタモタしているのはご愛敬。
ルーの動きがビシリと固まった。そして、ギギギと音が聞こえるのではないかと言う様にグウィンへ顔を向ける。その目は驚愕が散りばめられている。
「目を疑ったのはコッチだぜ。公爵殿下の洒落にならねぇチームとは一回しか戦わなくて済むのは幸い、とは言いたきゃねえが、今のメンツじゃかなり厳しい相手だ。戦術も一部練り直しがいるな、こりゃ」
「……ヤベーです。非常にヤベーです。姫姉さまのチーム、
虚ろな目をしたルーがブツブツと言葉を漏らしている。戦闘時以外は機嫌を隠そうともしないので、傍から見ると浮き沈みがとても判り易い。
「おいおい、そんな単純な話じゃねーよ。姫騎士殿が集めたメンツ、ぶっちゃけ正規チームとして運用するなら世界が狙えるレベルだぞ? 姫騎士殿が集団戦に参戦するっちゅう噂が聞こえたときにゃ
グウィンが危惧しているのは、ティナ達と当たる際、ほぼ確実に敗戦する予想が出来たからではない。彼が寄せ集めたチームは、一年生を主体としているからだ。チームとして統率がとれた世界レベルの相手が複数人、一度に
「エースが手に入ったことはありがてーが、ジョーカーをもう一枚逃したことが裏目に出やがった、か。交渉術も今後の課題だな」
絶望感を一周して、うがーと吠えるルーを見やるグウィン。
――グウィンが
だが、ルーはグウィンのことを知らなかった。後付けの知識として入ってきたが、それがどう影響するかなど察することを出来よう筈もなく。だから、ティナからグウィンの参加要請を受けろと指示を受けた時、ただ面倒くさい仕事を振られたなぁ程度の認識だったのだ。
しかし、ティナはルーが集団戦の誘いを受けたと聞いて、グウィンは
ならば、ルーに集団戦を経験させると共に、グウィンがルーをどのように運用するのか、今後も参加協力させて得るものがあるのかを見定める一助とすることにした。ルーには自分が
「まさか、弟君がシルヴィアを口説き落としていたとは予想外でした」
「ん? ……ああ、今度の
ティナは
「ほえー。
「ですね。助っ人のチョイスが彼のキャリアを感じます」
グウィンは少なくとも、実績を持っているシルヴィアと
そこからティナは、グウィルト兄弟が同じタイプの指揮官であると判断した。
ヘリヤや
それと同じことが
「なんとなく、
「先、か。なら、今回は学内大会の空気を体感するつもりだろうな」
「それと資質確認ヨ」
「ええ。今現在の自身がどのレベルに位置するのか測るのでしょうね。そこから今後の目標設定をするんじゃないでしょうか」
「たった二つしか歳は違わないが、
「リーゼントが集めた面子、国内大会でソコソコ成績上げた
「さすがに
「いや、当分は安定した動きが引き出せるまで、
「ナンだ、残念ヨ。
「あ、それイイですね。知られざる
「二人共……。せめて具体的に言ってくれ」
発表された大会出場メンバーを学内通知で見ながら、ルーに係わる情報を拾って会話をしていた筈の三人娘。途中から
――午後から降り出した小雨は、この時期では珍しくシトシトとゆっくり時間をかけて空気を潤している。放課後になっても雨が止む素振りも見えず、外はまるで薄膜が張ったようである。
その中を各屋内スタジアムへ足を向ける者の姿がチラホラと目に付く。大会前の調整や鍛錬を行う者達だ。学園内の施設を行き来するくらいでは、雨粒を軽く
屋内小スタジアム。
ティナは、小スタジアムの
姫騎士さんは、
「ほんげー‼」
大げさな叫び声と共にコロンコロンとルーが
「ん。三十五点。ちゃんと関節極まる前に逃れた」
「
「逃げる前に四回痛点を極められてる。実戦なら既に死に
「うぐぐぐぐぅ~」
「はーい、交代してくださーい。次はテレージアですね」
「ふうぅー、ようやく業務終了のお知らせです……。野生動物だって普通は訓練なんかしねーのですよ」
「殿下、了解しましたわ。
「……なんか予想外のセリフが聞こえやがったです。ルーが交代するチガウデス?」
今日のお仕事終わったハズですよ?などとボソリとこぼしながら冷汗をダラダラ流す小柄なメイド。絶望五秒前、と言ったところだろう。
「あれ? テレージア姉さん、なんでルーの前に立つです? ルーがピンチな気がするです」
集団戦に向けたチーム鍛錬の時間を優先的に割り振っているため、ルーの個別指導は小一時間程に
「へぇ、シルヴィアはそれだけ脅威なのか。確かにエデルトルートとの立ち回りは見事だったな」
「ええ。さすがヘリヤと真っ向から撃ち合ってポイント獲る相手ですから。
ティナと
「突きの速度は元フェンサーだけあって速度は申し分ないわ、申し分ないのよ。でもサーブルの斬る有用性は左右の動きで広がるのよ。フェンサー競技で覚えた動きはここぞの時まで一度忘れなさい。あなたが継いだ黒軍の技は、もっと自由に動けるはず、はずなのよ」
「なるほど。確かに直線と比べ左右の動きで違和感があると言うことは、フェンサーの動きで身体が判断しているからなのですね」
先日、ルーの育成に興味をもったマグダネラは、おもしろそうなことをしていると、チーム連携の練習後に居残るようになった。兄がフェンサーの国体選手であり、自身もスペイン式武術と準闘牛士の技を持ち、縦横無尽に移動する歩法が根底にある。フェンサーの技術から本来のハンガリー黒軍が用いたサーブル術へ切り替えている最中のラウデが難儀している、歩法と剣技の不整合。それを補う技量を持つマグダネラに師事出来るのは渡りに船であった。
「とわー!」
「それー!」
隅の一角では、先程からハンネがドタンバタンと自発的に転がっている。もとい、受け身の練習をしている。合気の技は、腕を持って投げようが、
「もっとアタマの後ろ着かないように回るヨ! 小さくヨ、小さくクルリンヨ!」
「はい、コーチ!」
スポコンもののコントになっているが、ハンネには
その脇では、また妙なコントが繰り広げられていた。片方は至って真剣なのだが。
「ベルにはこれを授けよう」
「
「そう。にゃん月殺法秘伝の書」
そう。架空の「にゃん月殺法」をでっち上げて来たのだ。
「ほわ~! すごいです! ありがとうございます!」
「秘伝の十か条を極めるのが奥義への近道。それは辛く険しい長い道」
「お~! 日本語で書かれてます! まさしく秘伝です!」
「まずは翻訳。そして
巻物に
そのベルは目をキラキラさせ、大喜びで巻物を天高く掲げているが。
「ほがー!」
また叫び声と共にルーがゴロゴロと転がされている。相手は両手持ちで
ルーは
テレージアの懐に入れば、長大な剣を振ることが出来ないだろうと
すぐさま柄元を押さえる右腕と一緒に、
通り過ぎた大剣にルーの意識が向いているのを見て取ったテレージアは、ルーが踏み込んだ右脚の外側へ交差させるように自身の左脚を重ね、軽く捻った。カクンとルーの膝が落ち、攻撃の勢いが乗ったままゴロゴロと転がる結末となったのだ。
「いやー、やっぱりテレージアは器用ですね。あんな大剣を持ったまま接近した相手を崩す技も持ってるなんて、実戦の技が継がれている証拠ですね」
「だな。あの防ぎ方は思い付きと言うには練度が違う。実戦で培われた技法なんだろうな」
実戦の技。体術を含めた本来の武術と言う意味だ。特に古武術は、剣、長柄武器、暗器、投擲など、複数の武器を扱う法であり、その技術の延長線上で体術に技を落とし込んでいる総合戦闘術である。そして、戦場で常に進化し、最適化される
手合わせを行なう者、教えを
その中で、やらされている感のあるルー。彼女の場合は業務の一環として指示されている訓練なので、ある意味仕方がない。本来の技術は日常生活の中で鍛えられている。
武を極めんとするならば、生活全てを武術中心にする必要がある。手足の所作、呼吸、生きること全てを武術の鍛錬で行うのだ。それでも辿り着ける者は極僅かである。そして、鍛錬漬けの生活では日々の
ルーの場合、と言うよりも
休日にはモノグサ度増量の姫騎士さんも、普段の生活がそのまま基礎鍛錬になっている。夜に行う鍛錬は、
同様に
「はーい、みなさん。そろそろ時間ですので身体をクールダウンしてくださーい」
パンパンと手を打ち、ティナが声を張る。
まだ鍛錬し足りないと言った顔や、ようやく終わったと安堵する顔が見える。
安堵しているのは主にルーなのだが。
「ルーもさぼらずにストレッチしてくださいね。何度も言いますけど
「……はーい」
「もう。露骨に嫌そうな顔して。はい、とっとと始めてください」
ルーのイヤイヤ顔は変わらないが、さすが武術を嗜む者。適当でおざなりに、などと言うことは無い。
妹三人組にラウデが混ざり、エッチラオッチラと身体を伸ばしながら筋肉のクールダウンを真面目にやっている。誤ったところがあると、すかさずラウデが修正を入れるので、まず間違った方法で実施されることはない。彼女達は同じストレッチをやりながら、それぞれ重点的に行う動きとその意味を教わりながら取り組んでいる。その辺りは先輩組が彼女達個別に教えるのである。
ティナが持ち込んだストレッチの性能が良いことは、既に皆が体験済なため、
「このストレッチ、教わて感心したヨ。中の筋肉がイイカンジでほぐせるヨ」
「初めて奥義を出した時にアズ先生から教わったんです。オリジナルだそうですが、高負荷を掛けた筋線維と疲労した不随意筋をメインにガッツリケアする必要がある時のストレッチだそうです」
「自分の意思では動かせない不随意筋をほぐせるのか」
「動かせますよ? 不随意筋。
「そうヨ? 中の筋肉動かすナイと技の威力だんちヨ」
本来、自律神経が制御するため意志の力では動かせないから不随意筋と言うのだ。それが鍛錬で動かせるようになると言われても、その方法を知らない
「
「そうヨ。全国大会で初めて見たクルリ回す技、中の筋肉で増幅させた動きて読んでるヨ」
知らぬは本人ばかりなり、である。
「姫姉さま~。終わりました~。掃除用具出してきますです~」
「はーい。お願いしますねー」
鍛錬最後は、全員で片付けとモップ掛けで締める。後は、展開したパネルを壁面のスリットへスライドさせて格納すれば終わり。既に手慣れたルーチンである。
「今晩は、わたくしが
「おー、南部料理ですね。腕がいいと評判ですからね、テレージアの手料理は。是非、ご相伴にあずからせていただきます」
「おねーさまの料理はおいしーのです! 夕べ仕込み手伝いました!」
「ハンネはラビオリの具を包んだのとジャガイモの皮むきですけどね」
ハンネが挙手をしながら合作です的なことを言い出したが、すぐさまラウデに突っ込まれている。子供のお手伝いレベルの微笑ましい内容が、思わず皆の笑みを誘う。
「そういえば、どこに行っても食卓にザワークラウトやピクルスが備え付けられているよな」
「スッパイのイッパイ、ヨ!」
「え? 当たり前じゃないですか。アメリカに渡ったドイツ系移民はスッパイもののためにピクルスとかケチャップとか開発するくらい重要なアイテムですから」
「ええ、そうですわね。食卓に酸味の付け合わせは必須ですわ」
「生まれた時から食卓に並んでましたので、考えたこともありませんでした」
「私、最近はニンジンのピクルスにハマってます! ポリポリです!」
ドイツ出身組にとっては、スッパイものは無くてはならないようである。
「タパスみたいなものかしら、ものなのかしら」
常設されるものの例えとして、マグダネラは自国スペインで頻繁に利用されるバル――大衆喫茶・居酒屋――でお茶をする際、必ず共にするタパス――おつまみ、お茶請け――を思い浮かべた。スペインは太陽が最も高くなる時間が十四時あたりとなるため、昼食の時間もその時間になることが多い。そのため夕食も二十一時頃と遅くなることから、十一時と十八時あたりに間食をする風習がある。つまり、一日五食。ドイツ人より一食多い。
「漬物と同レベル。酸味好きならポン酢、酢飯、梅干しを与えて反応を見たい」
ボソリと気付かれないように
「ザワークラウトならマッシュポテトに入ってるですよ?」
「私のウチは、それにサテーソースをかけます!」
ルーとベルのオランダ組は、同じ酸味でも少し斜め上を行っていた。
繰り返す日々ではあるが、賑やかに過ぎてゆく。
そして、日が過ぎるほど、年少組達の技量が向上していく
それは教えを授けた者にとって、幸せなことなのだろう。
ただ楽しむだけでは辿り着けない
彼女達が導くのは先人としての役割であるかのように。
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