【閑話】亲密无间:浙江紅山茶は耀として綻ぶ ~透花その1~
2156年8月2日 月曜日
河南省洛陽市澗西区にある洛陽北郊空港。この空港、国際空港ではあるがミュンヘンからの直通便はないため、北京首都国際空港で国内便に乗り換える必要がある。そして今、
大きく伸びをしながら息を吐く
「
鼻歌交じりでゲートに向かい、ガラス製自動ドアが開いた瞬間フラッシュの嵐。自分の後ろに被写体がいるのかと思い、後ろを振り向く
「
自分を指差し、そう言葉にした瞬間に再びフラッシュが焚かれたので間違いないだろう。
「みんな! ここだと他の人に邪魔ヨ。ソッチのロビー広場に移ろうヨ。そこでバスの時間まででいいなら話聞くヨ?」
直ぐ側のロビー広場には、一休みコーナーと呼べばよいのだろうか、座部が柔らかなクッション材となっている大きめの丸椅子が並んでいる。
さっそくテレビ局や、ネット放送局、新聞社に至るまで場所取りに奔走する。良い
その真ん中を割って
凡そ中央と思われるスペースに立ち、振り返った
「で。今日の集まりは何ヨ? 私に何聞きに来たよ?」
記者達に英語で問いかける
「
「アレ? その話、結構広まってるカ? ミンナもソレ聞きに来たみたいヨ?」
記者達は「その通りだ」と言う様に頷いたり返事をしたりする。
一度決まった代表選手の再選考など、本来では起こり得ない暴挙である。これは
ちなみに
「ソウカ。みんな、わざわざ来てくれてありがとうヨ。」
記者団に対して、ペコリと礼をする
「ワタシ、代表選手にケンカ売ったヨ。みんな斃すから補欠違くて代表にしろって。」
ザワザワと俄かに騒がしくなる記者団。補欠であることが不服だから再考しろ、と言うのなら判る。何せ
「噂は本当だったんですね!
「今の実力は認めますが、
「なるほど。お祭り騒ぎが大好きな
「武術総連から直々に試合の許可が出ると言う異例な話ですが、はっきり言って勝算の程は?」
などなどと、記者なら当然の疑問点を次々上げてくる。口さがない記者や、対象を煽る作風の記事で出版する雑誌社などからは否定的な意見も数多く出て来たが、涼しい顔の
「試合することになった件について、その原因を言うヨ。一応、話は最後まで聞いてから質問なり反論なりをお願いヨ。」
その一言で一同は言葉を噤む。余計な話を差し込んで、この会見が途中で切り上げられることを恐れてでもある。
「今まで、
「競技の技はワタシが学んだ技術と意味合いが全く違うヨ。だから競技に合わせることに苦労したヨ。」
やれやれ、とオーバーリアクションで両手の平を上に肩を
「この2年で、ようやく慣れ始めたヨ。そこそこ戦えるようになったヨ。」
しみじみと目を瞑り、ウンウンと頷きながら言葉を綴った。
そして、目を開き記者団を見回す。その顔は先程までとは違い、真剣そのものだ。
「でも。ワタシ、友達の
「それで。なんでホンとで戦うの技を出さないのかってネ。」
記者達は声も出さずに聴き入っている。彼等も素人ではない。
「そもそも
「目から鱗だったヨ。実戦の技はむしろ使うがホンとだって。」
「ホンとで戦う技使うなら、ワタシ負けないヨ。」
つまり、
それも飄々と笑いながら。
記者団の中には、武術の取材が長いものや実際に武術に携わっている者も少なくない。その者達は
だからこそ、驚きだけでなく期待をしてしまう。今までの
――真に武を知る者の前に立てるのは、真の武を持つ者だけである――
記者の中でその答えに辿り着いた者は、今回の件は起こり得るべきとして起こったことだと理解した。
それからが大変であった。当日の夜にはTVやネットニュースなどにも流れ、ほんの数日で中国全土に知れ渡ることとなる。特番などを作る放送局もあり、高名な武術解説者だけに収まらず、メディアに顔出ししないことで有名な武術界の重鎮がまさかの二つ返事で番組に出演したりと、
SNSなどでは賛否両論、様々な意見が飛び交い、キーワードのトレンド欄には「
紛う方なし
「うん、ワタシ目立ってるヨ! イイネ!」
自宅でTVのニュースを見た
「相も変わらず呑気者だな。国を沸かしている張本人だと言うのにな…。」
「
「…
「
特に裏流派の技は、門弟であれど安易に秘伝を教えて貰えることはない。武門の中から一族、つまり正式弟子として迎合された者だけ、武の神髄に纏わる秘伝や本当の技が鍛錬方法と共に伝授されるのだ。それは、単なる
武門の一族として迎え入れられるには、謙虚であり、人を敬い、感謝を忘れない、と言う人の徳を持つ必要がある。それがなければ、たとえ家族であっても正式弟子になることはない。
生まれながらにして天然の
裏流派の技は人を斃すと言う、ある意味純粋な目的を持つ。故に一つの目的のため高みへ練られた技は見る者を魅了する程美しい。だからこそ、純粋に武術と向き合う人としての徳を求められるのだ。その技を奮うべき時の判断を
プルルル、と呼び出し音が数度、繰り返し響く。
カチャリ、と相手が受信に応じた効果音が聞こえた。
鼻歌交じりで簡易VRデバイスから電話を掛けていた
「ハローハロー、
『ハローはないだろが。今は夜だぞ、全く。
「そう言えばミンナ見てくれるヨ? お祭りはミンナで楽しむヨ! ワタシ、盛り上げるネ!」
『今度は形だけの技はやめるんだろう? なら、裏の技も出す、か。』
「そうヨ、そうヨ。ホンとで戦うの技使うヨ。ワタシ、
なにせ
デビュー戦。つまり、それまで武術競技大会などの出場経験も全くなかったのだ。競技とは本質が違う武術を嗜んでいるため、少し加減を
だが、
そもそも国内では、
本来、基本技や
だからこそ、本来の実戦を主体とする技ではなく、流派が習う表の技を「競技の技」に当て嵌める運用をしたことで本来の実力を出すことが出来ず、数段劣る戦いを強いられることになったのだ。
故に、この国で
『なんだ、てっきり
「ソンなこと考えてもみなかったヨ。競技の技はアレを普通に使うのかと思ってたヨ。」
『あー、儂等のミスだな。他国の武術とは沢山戦わせたが国内の競技者とは遣らせなんだは失敗だったな。』
「まぁ、過ぎたことヨ。気にしない、気にしない。」
そして、もう一つは。
複数の武術を修めていると判る、全く別の歩法をちょくちょく切り替えているティナの戦いを始めて見た時、ドイツ式武術を王道派騎士スタイルと呼ばれれる程に高度な技術と練度を持って競技に特化させた技を用いていたことだ。
そこから
『で、だ。遣り合う
「
『ほう、八極門の槍ムスメか。今まで表に出とらんかったのに今年はどんな気紛れを起こしたのやら。』
八極門の流派を使う
「後は……。うーん、省大会で戦った
『おお、あの八斬刀のムスメだな。攻撃を全て虚にするとは思い切ったことしとったな。今度は虚実で来るかもしれんぞ?』
「問題ないヨ。友達の方がもっとエグイ戦い方するヨ。ソレに比べたら
もっとエグイ戦い方をする友達は言わずと知れた
「あ、そうそう。明日、オミヤ持っていくヨ! 有名店のバウムクーヘン買ってきたヨ!」
『ほう、そうかいそうかい。なら、
「うん、呼んで呼んで! ミンナでお茶するヨ!」
そして、
学園のこと、友達のこと、イベントのこと、初めてスポンサードを受けてCMに出たこと、そして、新しくできた弟のこと。
お爺ちゃん達の前では、単なる孫娘になるのだ。
それを開花させるため、才能に比例して組まれる修行は苛烈にして過酷なものとならざるを得なかった。
だが、幼い少女がそれを易々と
教えれば教えるだけ、鍛えれば鍛えるだけ、際限なくどんどん吸収していく。
面白い様に次々と修行の難易度が上がり、本来であれば十年単位で
彼女の愛称を表すかの様に、大地から養分を吸い上げ花開くかの如く。
そして、気付いた時には尋常ではない莫大な研鑽が積まれていた。
だが、その全てが楽しかったと
まるで花が綻ぶ様に。
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