02-011.みんなでオフロです!

 京姫みやこの話や花花ファファの話など、だいぶ長いこと話していた様な気にはなっていたが、実際はまだ時間的には20:00までは30分もある。

 だが、特に花花ファファは朝目覚めるのが早い分、夜も21:00には寝てしまうため時間的にもあまり猶予があるとは言えない。


「そろそろ良い時間ですし、二人とも湯殿に行きませんか?」

「浴場があるのか? 個室にもユニットバスが付いてたが。」

「オフロ、イイネ! ジャブジャブするヨ。」


 家の湯殿は日本式ですよ、とティナは言うが、ヨーロッパではシャワーが主流で湯に浸かる習慣は少ない。彼女には日本贔屓な親戚がおり、屋敷を建設する際にあたり強力に風呂をプッシュしてきた結果なのである。


 中世ヨーロッパでは2つの理由により入浴の習慣はあまりなかった。

 ひとつは、宗教的理由により、退廃的で贅沢とされ、そして裸体を晒すことがタブーであった時代の名残。

 もうひとつは、水質が硬水でありカルシウム分などが結晶として残ることで、肌や髪がごわついたりするためだ。


 そして、石鹸や洗髪材の使用には注意が必要だ。元より石鹸の泡立ちは悪く、水に含まれるミネラル分と石鹸の成分が化学反応し、金属石鹸となり水に溶けないカスが出来る。髪などがゴワゴワになる上に白いカスが残ったりと踏んだり蹴ったりだ。

 硬水向けの物を吟味して入手することをお勧めする。


 エスターライヒの水源であるアルプスの水道水は、そのまま飲んでも美味しいと言われるが、それは硬水の中では、と言う注釈が入る。カルシウムやマグネシウムなどの含有量は、日本の軟水と比べても倍、地域によっては数倍以上含まれている。

 ティナの家では、飲料や家事以外に、浴室の水も大型の陽イオン交換式浄水器にて軟水化をしている。しかし、それでもまだミネラル分は多いのだ。そのため、カルシウムなどが流し台や浴槽へ付着する。防止策として、家庭用水には微量のクエン酸、浴室への給水は微量のビタミンCを溶かし、キレート作用によるカルシウム分の結晶化をさまたげている。シャワーヘッドもミネラル浄水装置付きである。


 替えの下着を持って湯殿に着くと、まるでサロンの様な脱衣所。ここだけでも小さめの銭湯ではないかと思う程の広さを持っている。

 大きな姿見に化粧台、バスタオルやガウンなどのサニタリーも充実しており、手ぶらで来ても入浴が楽しめる様になっている。


「おお~、服脱ぐ部屋あるヨ。広いヨ~。」


 両手を広げて空間の広さを強調する花花ファファ。中国では、個人宅に浴槽があっても脱衣所がないケースが多いため新鮮なのだろう。何しろ、風呂場に洗濯機が在住していることもあるのだ。


「この棚に脱衣籠って。まるで日本の銭湯だな。」

「屋敷を建築するにあたり、親戚が日本の温泉宿を基にした設計書を捻じ込んで来まして。」

「随分と日本フリークの親戚だな…。」


 花花ファファは鼻歌交じりでスッポーンと音がするかの如く豪快に脱ぎ、ポポイッと籠に服を放り込む。京姫みやこは一枚一枚たたみながら綺麗に整頓している。思わず洋服屋の店員かよ、とツッコミが入るレベルだ。ティナはバスローブを椅子にかけるかの如く、脱いだ服を籠にかけていく。パンツを一番先に脱いで、靴下を最後に持ってくる妙にマニアックなその順序は、一体どの様なきっかけで身に着けたのだろうか。最終局面の全裸靴下姿は、ある種の人々にフェティシズムを感じさせるであろう。

 三人共、髪が長いため簡単に纏めている。浴槽に髪を浸けないマナーは同じ様だ。何気に横を見ると、先に湯で身体を流すなどの入浴について注意書きが貼ってある。違う文化を取り入れる際の気配りを感じる。


「一番乗りヨ~!」


 ガラリと豪華な両開きの引き戸を開ける花花ファファ。両手を勢いよく広げたことで、彼女のカップD65半球型の胸がプルンと揺れる。お風呂場なのでサイズと形状まで記載する仕様だ。


 そこは温泉宿と言うより、高級ホテルの浴場と言った方が良いだろう。5、6人は一度に浸かれる広い湯船には絶えず湯口から湯が流れ、浴槽の湯は清潔になる様、循環しているようだ。湯殿は石造りとなっており、平らに加工した自然石を敷き詰めた洗い場は、ほんのり温かくなる仕組みがされている。そしてこの場所は屋敷の裏手に位置しているのだろう。壁は全面ガラス貼りとなっており、自然を生かしつつ良く整えられた裏庭とその後ろにそびえる山の景観が楽しめる造りになっている。湯殿の間接照明は柔らかい光を放ち、星明りを阻害することはない。


「これは凄いな。景色を楽しみつつ湯に浸かるなんて、温泉旅館の様だ。」

「ふふ、自慢の湯殿なんですよ? 昼間はまた違った景色が楽しめるように設計されてるんです。」


 さすがに昔の銭湯に良くあるカポーンと広い空間に響くような音は発生しない。


 ところで、物語でよく見かける女子の入浴シーンではバスタオルを身体に巻いたりする表現がある。実際、TV取材や、やむに已まれず混浴の湯船に異性と浸かるとき以外は宜しくない。布の繊維が湯を汚す可能性が大きいこと、そして人が湯に浸かることで発生した汚れなどを吸い取って仕舞い、清潔とは言い難くなるからである。だが、現代のヨーロッパで温泉などは、プールと同様に水着着用であることが多く、本当の意味での裸の付き合いは少ない。


 さて、彼女達はどうかといえば。

 京姫みやこは長い髪をクルリとお団子に止めて、肩に手ぬぐいをかけて仁王立ち中である。設備の充実さと、窓の外の景観を眺めている状態。日本古来の手ぬぐいを肩から胸にかけているが、水分を吸って、肌に密着している。ヨーロッパ人に比べると、アジア圏のカップ数は0.5カップ程小さいサイズに含まれるが、カップB70お椀型のそれは、薄い手ぬぐいが肌に貼り付いているおかげで、形のいい湾曲と胸の先端の突起物が隆起しているのが判る。室内から湯殿の温度差でおこった予期せぬ生理機能的な自己主張だ。

 花花ファファはハンドタオルに泡立てて、ゴーシゴシと身体を洗っている。湯にほんのり混ざったビタミンCのおかげで、硬水でも石鹸やボディーソープの泡立ちが良い。脱衣の際からずっと鼻歌が続いている。両腕で持ったタオルに跨り、前後させて洗う方法は乙女としてはとてもいただけない絵面である。

 そして、ティナは。タオルは長い髪を纏めるのに使っている。髪を洗った後もタオルで纏めるのだろう。そして、カップE70円錐型で、重力に逆らい上を向いている。

 三人共、歩く度に揺れるのだ。胸は基本、大小関わらず揺れる。大きなお胸のお方は揺れ幅が大きいため男性の目に付き易いだけである。


 花花ファファが泡だらけになっている。


「ティナのウチはヨイ洗剤使ってるヨ。アワアワがタクサン楽しいヨ~。」

Schneemann雪だるまみたいになってますよ? 花花ファファ。」

「もこもこ羊だな。それ、毛刈りだ!」


 シャワーで花花ファファの泡を洗い流す京姫みやこ。毛刈り後の羊の様にフワフワ花花ファファがシンナリ花花ファファに早変わり。

 

「ああ~、アワアワなくなたヨ~。」

「毛刈り効果抜群です! 中身が出ました!」

「春めいてきたからな。冬毛は終わりだよ。」

「むぅ。なら映画みたいにバスタブアワアワにするヨ!」

「やめてください。それはボディーソープじゃ出来ませんよ。あの泡はバブルバスと言う入浴剤です。」

「へー、あの泡は入浴剤だったのか。そんな需要があるんだな。」

「えー。アワアワ出来ないカ…。」


 残念無念、と言う顔をする花花ファファ。その顔がニマーと笑う。


「じゃあ、…京姫みやこをアワアワにするヨ!」

「あら、おもしろそうですね。協力いたしましょう!」

「ちょっと、二人とも! ちょっ、待って!」


 ワキワキと指を動かしながら京姫みやこへ迫る二人。


「それそれ~、ここがイイのんカ?」

「おやおや~? 随分、きめ細かい肌ですね~。」

「ちょっ、くすぐったいって! きゃははっ! くすぐるのはナシ~!」

「オッパイの弾力もよろしいヨ? ホラホラ~。」


 花花ファファは、下から掬い上げ、円を書く様に洗う。京姫みやこの胸を。


「そ、そこはダメッ…! んあっ! やんっ!」


 みるみる顔が真っ赤になる京姫みやこ。そして花花ファファの頭がスコンと子気味良い音を立てて小突かれた。


「アイタッ!」

「先っぽをコリコリするな!」


 どこの先っぽかは言及しないでおこう。


「あふっ!」


 仰け反る京姫みやこ


「ティナも背中を指でなぞるのはヤメてくれ!」

「ええー、やだー。おもしろいのにー。」

「子供か!」


 京姫みやこは弄られ役となるのだった。一部、物理的に弄られたが。

 女三人寄ればかしましいとは良く言ったものだ。その後も入浴時に使用する肌に良いコスメを試したり、身体を洗い合ったり、髪を結ってみたり。ワイワイキャーキャーと随分と賑やかだった。



「ふうー。温まりますね。湯殿を作って正解です。」


 三人は、ティナを間に挟むように横並びで仲良く湯船に浸かっている。


「……。」

「……。」

「……どうしました? 二人とも。」

「いやな? 凄いなと思ったんだ。」

「うん。近くで見ると凄いヨ?」

「はい? 何が凄いんですか?」


 二人は神妙な顔だ。花花ファファなどは口から下を湯面の下に潜らせ、ブクブクと泡を立てている。


「…浮力がな? うん、明らかにプカーと上に移動したからな。」

「そうヨ。ティナのオッパイ浮いてるヨ。」

「う~ん。自分では気にしたことはありませんでしたね。そんなに驚くほどですか?」

「うん。ここまで浮くのが判るのは初めて見たかな。」

「ワタシもヨ。ウラヤマしいヨ。」


 ティナはカップE70である。しかし、これはヨーロッパサイズであり、アジア圏ではEカップ中盤からFカップ中盤に相当する。日本式に表記すれば、F70となるのである。

 更に円錐型であるため、張りがあり弾力も強くボーリューム感が半端ない。加えて仰向けになったり、ノーブラでも形が崩れにくい特徴がある。


 ポイン ポイン


「ちょっと、花花ファファ! 何してるんですか!」


 花花ファファは、ティナの胸を上からポインポインと押している。押すたびに胸が湯面の下に潜り、浮力でプカァと浮いてくる。


「ホラホラ! 沈んでもスグ浮くオッパイヨ! 何が入ってるカ!」

「夢と希望が詰まってるんですよ。ちょっぴりエロスも。」


 ティナが男子中学生みたいなことを言い出した。乙女が言い出す台詞ではないことは確かだ。


「いや、ホントに浮き輪みたいだな。ティナは水難事故にあっても生き残れそうだ。」

「いくらなんでも胸だけで身体は浮きませんて。もう、花花ファファも余り遊ばないでください。」

「へーい。」



 こうして、彼女達はのぼせる寸前に慌てて上がるまで、風呂場はかしましい乙女の社交場となっているのだった。


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