02-010.母のやらかし具合に京姫の方針、花花の意外性です!
夕食後のひと時。色々な話をした。
学園での話題や、当たりだったお店のこと、そして
「そう、次は
「ええ、再来週です。開催はドイツの全国大会予選の日程と同じです。」
「ああ、他の国もその辺りの日程に集中していたな。どこを見るべきか毎年迷わされてるよ。」
「
「私も行きたいのは山々なんだけどな。私の参加地区はどうもな。」
「あっ!
先日、ティナは
「
「確かに強いけど、そんなこと言うなら参加するなってカンジ。
「日本で武術界の重鎮だから、誰も文句が言えない。意見して干された
「自分が一番じゃなきゃ我慢ならない自尊心の塊。矮小のクセに虚栄心ばかり大きい。」
「20年くらい前に1度だけ世界選手権大会に出て初戦敗退してる。」
「【永世女王】がいなくなったから勝てると思って出場したんだろうけど、その考えが卑し過ぎ。」
「負けた時の言い草が、自分の求めるものはここにはなかった、なんて只の負け惜しみ。鼻で笑う。」
珍しく饒舌な
だからこそ、記憶に鮮明であり、一字一句、間違えることなく再現した。
「そうか…。
「…ティナ。…
神妙な顔で言葉を吐き出した
重くなりそうな空気を一気に吹き飛ばした。
「ぷっ、真面目な顔して何を言うかと思えば。」
「フフフ、モノマネは得意なんですよ? その内、他もご披露いたしましょう。」
「で、
「…老害って。うん、そうだな。剣術を良く知っていると言えばいいか。だから技への対応が上手い。」
「ふーん。巧いではなく、上手いのですね。なるほど。」
つまるところ、技術はあるだろうが、それ以上に剣術の技を型として知っており、その対応方法を一通り修めているのだろう。日本の剣術に特化し、この型にはこの型で対応と言うようにパターン化しているものと思われる。故に、イレギュラーや自分が知らない異国の剣術には弱いのだろうと想像できる。
「
「
「そうかネ? あれは、出来ないことチガウヨ。もう
偶然出来た、などの言い回しはある。しかし、それを行う自力があるからこそ出来るものである。この場合、偶然と言う言葉は「出来た」に掛かるのではなく、「そこに至る方法を見つけた」ことに掛かるのである。
「ちょっと、いいかしら。その老害、多分知ってるわ。」
娘達の会話にずっと思案顔で聞いていた母ルーンは、話が纏まりそうなところでぶっ込んでくる。この辺りのやり口がティナと良く似ている。
「はい? おかあさま?」
「
「
「今は70歳前後かしら?
「たぶん、仰る方と同一人物だと思います。どこでご存知になったのですか? 流派の運営に影響が出るとかで、海外で表立つことを拒絶している方なのですが…。」
「20年前の世界選手権大会の初戦でしょ? あのいけ好かないオヤジ。私が一蹴したわ。」
「え? 一蹴? え? え?
「
「へー、おかあさまが倒したのですか。いけ好かないと言うことは…何かありましたね?」
絶対、母は何かやらかしているんだろうと娘は確信する。母娘なので自分に当てはめれば良く判ることだ。
そして、
「むだに居丈高で私を小娘扱い。自信があるのか大きいことばかり言って他人を
「あまりにお粗末な人物だったから試合開始直後、一方的に攻撃して、剣を叩き折って、誰が見ても実力不足と判る様に捻じ伏せてやったわ。本人はそれすら気付いてなかったけど。」
「負けた時の台詞が、さっき言ってた、自分の求めるものが~、って。くくっ、記録の残る台詞は如何にもフフッ、威厳ありそうに言うから笑っちゃったわ。」
当時を思い出し、吹き出しながら話す母ルーン。まだまだ話は続く様だ。
「その後が酷いのよ。音声が記録されていないところで、ヤツはなんていったと思う?」
「この、卑怯者!ワシの流派では~って。ウフフフッ、大笑いでしょ。勘違いもいいところ。戦いを分かってない上に手も足も出ず完膚無きまでに負けてるのに。」
あははっと、とうとう声を出して笑いだした。
「ヒーヒー、その上、クフフ、お前如き、し、し、真剣で戦ったらまけ、負けないって、プッククク。」
あまりにも笑い過ぎて呼吸が追い付かなくなってしまった。スゥー、ハァーと深呼吸で息を整えてから続きを語りだした。
「それでね、私が、じゃあ、真剣で殺し合いましょう。公平な立会人は知人の伝手で用意できますから日取りを決めましょうって言ったのよ。」
「そしたらね。予想外の返答だったみたいで、目を見開いて動揺してたわ。こちらが若いからって舐めて脅すつもりだったんでしょうね。」
「でね、他流とは真剣で戦ったことは何度かありますから明日には場所を抑えられますよ、って言ったら。ププッ、目が泳いじゃってね。口をパクパクしだしたのよ。」
「何も答えないから、さぁ、早く回答を!って迫ってね。殺気を出したら腰抜かしちゃって。一介の武人のクセにアレはないわー。」
「だから言ってやったのよ。あなたは
「もの凄く早いハイハイで逃げてったわよ。いい歳のオヤジがヒィーとか言いながらね。現実でそんな悲鳴上げるなんて、もうおかしくって。」
そう言って、再び大笑いする母。予想以上のやらかし具合にゲンナリする娘。一般人に殺気はやりすぎだと。そこかよ!
以前にも記載したが、
これも以前に記載したが、アバター向けにティナの格闘
技から一族に紐付けられないだろうとの理由があったことを。
FinsternisElysium MassakerKünste フィンスターニスエリシゥム
しかし、特殊なケースが発生した。名誉公爵家に嫁いだ母ルーンとその娘ティナである。そもそも政界、財界に顔が効き、過去数百年に渡り付き合いがある貴族に一族の者が迎合されたのはむしろ僥倖でもある。彼女達が表の顔として輝けば輝くほど、ケーニヒスヴァルト家の裏の顔は闇に沈み表に出ることはないのだ。双方がより密にWin-Winの関係となったのだ。
その様な一族の出身故に、母ルーンは、
思った以上の話が飛び出し、唖然とする
先ほどの笑いが残った顔でルーンは
「取り敢えず、
「へ? 私? 私が? 加納大老を?」
「ああ、あのオヤジ、そんな名前だったのね。覚えてもいなかったわ。」
老害の名は、加納と言うらしい。話の内容から性格を紐解けば、周りに大老と呼ぶように強いているのだろう。成る程、名を覚える価値がないと思わせる人物の様だ。しかも、大衆酒場に入ってメニューを決める前に場繋ぎで頼むビールの様に軽々しくポイしなさいとのオーダーが入った。
「あなた、ヘリヤとの試合を見る限り地力は既にあの当時のオヤジ、いえ、老害を越えているわ。まだ経験が足りないから上手く引き出せていないだけ。だから、ここに滞在してる間は、それを引き出し易くなるようにきっかけをあげるわ。」
「…よろしいのですか? 私は別の流派の人間ですよ? それに私が何かを掴めれば良いのですが全くの無駄になるかも知れません。」
「流派なんて関係ないわ。娘の友人ですもの。家族みたいなものよ? それにね。あなたは一歩でも
「…はい。ありがとうございます。よろしくお願いします。」
ルーンは微笑みながら頷きで答えを返し、夫であるヴィルに顔をやりお願いをする。
「と、言うわけよ、ヴィル。お願いできるかしら?」
「ああ、明日にでもロートリンゲン卿に話を通してすぐに動くよ。私としても折角、我が社がスポンサーとなる
ティナは当然だろうとの顔をしており、
「あの…、何のお話でしょうか?」
「ん? ああ、
「私のために…ですか? そんな、申し訳ないことは…。」
「いや、君は我が社とも契約をしてくれるし、何より娘の友人であるんだ。もう一族の関係者と同じだよ。気にせず相手を叩きのめしてくれたまえ。その後は我々の仕事だからね。」
爽やかに微笑む父ヴィルは、大半の人々から好印象を得るであろう顔をした。だが、解かる者にとってその笑顔は恐怖以外の何者でもない。
大貴族の当主、そしてコンツェルン総帥の肩書は伊達ではない。然るべき時に然るべき事が行えるのである。そこには損得も善悪も関係なく全てが等しく在る。
加納大老であったか、彼の御仁は、
「
「そうヨ。やれるコトやるのが一番ヨ。積み重ねヨ。」
「ああ、そうだな。せっかく目指す場所は見えて来たんだ。そこに辿り着くことに注力するよ。」
三人娘はお互いの顔をみて笑顔で頷く。それぞれの辿り着く場所は違えども、そこを目指しているのはみな一緒だ。その場所が、戦いでしか交わることがないとしても、その時には自分の積み重ねたもの全てを出せる様に、と。
などと格闘系青春もの的な雰囲気が漂ってきたが、今回それをぶち壊したのは
「うーん、だけど気になるヨ。」
「どうしました?
「武術の歩法なのに
ちょっと言葉にたどたどしさがで出たが意味は伝わった。その意味には、ティナだけでなく、ルーンもヴィルも驚きを隠せなかった。
その驚きからティナは純粋に疑問を口にした。
「なぜ、そう思うんですか?」
「ん? ティナがたまにしてる歩法ヨ? ティナは3つの武術持ってるヨ。そのひとつヨ。」
ティナは唖然とした。確かに、普段から鍛錬のため歩法を変えていることはあったが、誰にも気付かれていない筈であった。しかも正確に数まで言い当てられた。
「…その通りです。父方の武術の歩法です。父は、武術を次の世代へ伝えるために技を継いでいます。
「入学してから1週間くらいヨ? 仲良くなる前、歩法使い分ける器用な
「初っ端からバレバレじゃないですか! まさか、みんなにバレてたとか!」
だとすると、この2年間がものすごく滑稽だったろう。だが、実際にバレているとすれば、ティナの代名詞と言える「王道派騎士スタイル」などとは呼ばれていない。
その証拠は、
「いや、私は判らなかったぞ? 多分、殆どが気付いてないと思う。」
「ふぅ、そうですか。一安心です。しかし、
「そうね。驚きよね。ティナの歩法なんて、達人が見ても判らないレベルに仕上げているのに。」
今なお、驚きの目で見る母娘。涼しい顔で、当たり前のことを言っただけという雰囲気を持つ
「ワタシの流派、相手の身体、動き読めないと、死ぬヨ。」
彼女本来の姿は
その鍛錬が如何に厳しいものであるのか、
「なるほどね、
暗部である一族の出自を持つルーンは、彼女の修めた武術がどの様なものであるのか察することが出来た。そして、そのレベルの高さも。
「そうヨ。ホンとで戦うの技は美しいヨ。」
ただ、彼女の得意とする技全てが
「だから、
「いえ、どこからその『だから』に何故繋がったんでしょう。」
「だって、ティナの体術、ホンとで戦うの技ヨ? 暫く
「森の民の格闘術と言っていたな。やはり実戦形式の技だったのか…。」
ティナは、もの凄く渋い顔をしている。
「…ティナ。あなた、二人に私達の流派を教えていないのかしら? 知っているものだとばかり思ってたわ。言い辛いなら私から言う?」
「いいえ、それは私の口から話すことが本筋です。はぁ~、出来れば内緒にしておきたかったのですが…。」
「そういう訳にもいかないでしょ? 9月にはあの
「うっ、そうでした。どの道バレることになるんですよね。」
バツが悪そうに眉間に皴を寄せたティナは、
「
「私の流派は、『FinsternisElysium MassakerKünste』と言います。」
「フィンスターニスエリシゥム
姫騎士が殺人技なんて外聞悪すぎじゃないですか、と力を込めた拳を振り上げながら話すティナ。
「その流派、トラ倒せるカ?」
「へ?
「なら大丈夫ヨ。やっぱり
「物凄く不穏な台詞が聞こえるんだが。
「あるヨ。一撃じゃ無理だたヨ。二撃必要ヨ。」
――虎穴に入らずんば虎子を得ず。そんな諺を吹き飛ばす台詞が平然と
衝撃過ぎる事実にみな顔が引きつり、場の空気が一気に凍える。
「…虎殺しって、想像の上を行ったわね。」
「もしかして、私は遺言を残した方が良いのでしょうか…。」
「平気、平気! さすがに友達に
「もはや、安心なのか不安なのか判らん台詞だな…。」
グッタリとなるティナ。
やれやれ、と思わず言葉に出た
その髪には、ハルがくっ付けた、ひっつきパンダが揺れるのだった。
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