01-025.Und am nächsten Tag そして、翌日です

2156年3月19日 金曜日

 春季学内大会の翌日である今日は、午前中にかけて全学園生にて大会の跡片付けが行われた。

 そして、午後は学内大会開催の慰労を込めて学園主催の打ち上げパーティが屋内大スタジアムで始まる。


 パーティはビュッフェ立食形式となっており、アルコール類は第2成人(16歳)を迎えていない学園生が半数であるため持ち込まれていない。

 会場設営、料理、給仕の手配は学園側が受け持つが、ホストは生徒会が主導となることで、学園生達で自由に楽しめる様にとの配慮がなされている。

 要は、お祭り騒ぎは誰かに用意されたら楽しめないだろう、と。

 

 学園生はアクティブな者が多く、有志が募り自発的に催し物などが行われたりする。

 組み立て式の舞台や、同じく壁際には幾つかの小屋が立ち並び、占いの館やアクセサリー販売、路上パフォーマンスなど様々な姿を見せる学園生達によって、まるで街中に居る様な雰囲気さえある。

 今も舞台上では、学園生のバンドが演奏中である。


 壁際には、ビュッフェ台と移動式のオープンキッチンが設営されており、出来立ての料理を食べることが出来る。

 ビュッフェ形式は日本でよく見かける食べ放題ではない。フルコースの料理が順に並んでおり、マナーとしてはその順に食べていく。

 好きな料理を山盛りで取ってくるなどもマナーとして宜しくない。食事とは、盛り付けを目で見て楽しむことも要素のひとつである。

 また、ビュッフェは必ずしも立って食べるわけではなく、テーブル以外にも席などに着いて食事をする。


 余談であるが、食べ放題を想起するバイキングと言う名称は、日本で作られた和製英語である。海外で食べ放題について聞く際は注意しよう。

 バイキングの食べ放題サービスは、名称共に帝国ホテルが発祥。デンマークのスモーガスボード(食べ放題サービス)を日本に取り入れたのが原点。

 食関係なのでついでに、アメリカン、ナポリタン、ロイヤルミルクティーも和製英語なので注意されたし。


 メインとなるグーラシュ(肉類をトマトとパプリカで煮込んだもの)と副菜替わりに合鴨のテリーヌを取ってきたティナは、一口食べて言葉を零す。


「相変わらず良いところのシェフを連れて来てますね。」

「そうなのか? 料理人の腕はかなり良いだろうとは判るが。」

「確かにいいコックさんだと思うヨ。味に深みあるヨ。」

「ほら、あのお顔が角ばったシェフの方、ミュンヘンにある三ツ星レストランのオーナーシェフです。多分、理事長の伝手ですね。」

「さすが、ヨーロッパに影響力を持つ一族だな。」

「次は四川料理、お願いしたいヨ。」

花花ファファは、そんなに食べて大丈夫なのか? この後、演武をするんだろ?」


 お祭り事には必ずと言っていい程、花花ファファは積極的に舞台に上がる。今回は同郷の士、4名で演武を行う。2名が演武、残り2名は二胡(2弦を弓で弾く擦弦楽器)、楊琴(弦を2本のバチで叩く打弦楽器)の楽団役。中国武術の演武はスピード感があり学園生達からも人気が高い。

 

「まだまだ余裕ヨ? 今、満腹半分ヨ。」


 彼女達は、意外とよく食べる。運動量が多いため、年頃の男子と同程度の量を消費する。

 そして、よく食べる筆頭が現れた。


「あれ? お前たち、こんなところにいたのか。」

「こんなところって…。ヘリヤ、私たちを探していたのですか?」

「いや? 別に。たまたま会っただけ。」


 ヘリヤは、花花ファファと同様、自由人である。気の向くままフラフラしてるところで遭遇した様だ。両手に学園生が出している屋台の串焼きを携えて来た。バーベキューで見かけるあの大きな串に大きな肉が刺さっている。既に食べ終わった串も数本持っている。


「これか? ララ・リーリーとこの屋台だ。さすが合衆国人、肉の量が違うねぇ。」

「ワタシ、牛より豚ヨ。鳥でもいいヨ。」

「ヘリヤ、少し食べ過ぎではないですか? その空の串、食べた後だと思うのですが。」

「まだ3本しか食べてないぞ?」


 1串に肉が200gと輪切り野菜。それが5本。ヘリヤは日頃から消費カロリーが甚大のようだ。


「今回、お前たちには感謝してるよ。学園生最後の大会で3人共戦えたしな。」

「予選ベスト8の時に仰っていましたね。私達が面白いから生き残れ、と。」

「アレ? ナンかおかしいヨ、アレ?」

「…ヘリヤ。もしかして私たち3人、前から目を付けてました?」

「そりゃ、おまえらの戦いっぷり見て来たから判るさ。面白くなるかどうか。」

「ティナなんかは小等部時代から公式試合に参加してくるのを待ってたしな。」

「3人ターゲットダタヨ! 最初から他人事じゃナカタヨ!」

「ええっ!! 私もですか!? 私など、まだまだ足りていないと思うのですがっ!」

「まぁまぁ、花花ファファ京姫みやこも落ち着いて。ヘリヤからポイントを奪える騎士シュヴァリエになったのですから。ヘリヤの思惑通りだったのでしょ?」

「まあな。予想の上を行ってくれたからな。いやー、ホントに面白かったなぁ。」


 慌てる花花ファファと挙動不審の京姫みやこ

 ヘリヤはしんみり語りだす。


「だからこそ嬉しいんだよ。私からポイントを奪えるような武術を持っているんだぞ? 出来ればおまえらが完成するまで見ていたかったけどな。」

花花ファファは、あの高速回転の斬撃は面白かったなぁ。双剣や棒術もあるんだって? それも見たかったけどな。」

「太極棍は棍全て使うから競技に向かないヨ。得意なのにザンネンヨ。」

京姫みやこの技も見事だったよ。剣と槍とグレイブが合わさったあの剣、技がクルクル変わって凄かったな。アノ領域にも入りかけてたし、これからが面白くなりそうなんだけどな。」

「ありがとうございます。まだあの試合でしか至れませんでしたから。精進します。」

「ティナは、まぁいいか。どうせ冬の大会世界選手権大会で合うしな。」

「あら。私はまだ選手選考会で漏れるかもしれませんよ? 実績不足とかで。」

「あたしから2本取った相手を落とすなんざ、そんな審査するやつは首になるさ。それに、計算高いティナならそのあたりは対策済みだろ?」


 ヘリヤの問いに笑顔で答える。

 実は、昨日夜にエスターライヒのシュヴァルリ評議会支部から連絡があった。現段階でほぼ確定と。


「ヘリヤは、卒業後、どうするんですか?」


 4か月後にはヘリヤは卒業することになる。スポンサードされた騎士シュヴァリエや、どこかのプロ騎士シュヴァリエも考えられる。一般大会で賞金稼ぎする騎士シュヴァリエでもやっていけるだろう。

 ヘリヤは、普段と似つかわしくない可愛らしい仕草で人差し指を口に当て、「まだ内緒だぞ?」と前置きした。


「ドイツの放送局で、ネット放送を世界展開している局があるだろ?」


 三人娘が頷く。良く知っている有名な放送局だ。世界同時配信も行うため、言語は英語で収録しているのが特徴だ。

 特にティナは、姫騎士Kampf格闘panzerung装甲の周知で、先日その放送局に非常にお世話になっている。


「あたしが世界中の武術家の元に旅して、可能であればDuel決闘したりする番組の企画があるんだ。放送局とは既に契約書を取り交わした。」

「世界中って、大丈夫なんですか? 騎士シュヴァリエとしての維持的に。」

「今のところは問題がでない予定だよ。まぁ、8月初っ端からひと月試して以降の調整を決めようって話になってるよ。」

「ほへー。ヘリヤが看板番組持つヨ。うらやましいヨ。武術タクサン見て貰えるチャンスよ。」

「いや、あたしが他の武術を見て体験する番組だからな?」


 ある意味、ヘリヤは自分の夢が叶う仕事である。現世界最強の騎士シュヴァリエが戦う前提で訪問するわけだから、達人や求道者が出てくる可能性が非常に高い。むしろヘリヤはそれを期待しているが。


「お前らも、これからが大変だな。」


 下級生組の騎士シュヴァリエがヘリヤからポイントを取ったのだ。素材としては旬である。企業の囲い込みや、スポンサー契約などがこれから舞い込んでくることだろう。


「うひー、メンドくさいヨ。決めないとダメカ?」

「スポンサー契約自体したことがないからな。どう対応すれば良いのか判らん。」

「あ、そうそう。そのことで花花ファファ京姫みやこにお話ししたいことがあるんです。」

「なにヨ?」「何かな?」

「とりあえず、ここじゃ何ですから。明日か明後日お時間下さい。」

「ん、了解。」

「ワカタヨ。、演武の準備する時間ヨ。イッテくるヨ。」


 スルスルと人垣を縫って花花ファファは消えていった。


「いやー、あの歩法は見事だねぇ。障害物がある前提で組み立てられてるな。」


 ひとしきり納得しているヘリヤ。いつの間にかバーベキュー串は1本しか残っていない。

 屋内大スタジアムの観客席上部に設置されている30枚あるインフォメーションスクリーンには、今大会の全試合がダイジェストで流れているが、決勝戦、準決勝戦、3位決定戦は、それぞれ30枚のスクリーンを占有して流される。

 今、丁度、ティナとヘリヤの試合が始まるところだ。30枚のインフォメーションスクリーンには、あらゆる角度のカメラが取得した映像が流れ、多角的に鑑賞できるようになっている。音声はないが、決勝戦の映像は興味を引かれる者も多く、学園生の半数以上が見上げていた。時に感嘆、時に歓声と学園生達も完全に観客と化している。スクリーンに映された本人達は、どこ吹く風であるが。


「ふう。やはり凄まじいな。あの速度で応酬が可能なのか…。」

「あら、京姫みやこがヘリヤと戦った時も同じ様な感じでしたよ?」

「そうだな。攻撃する気配が見えない京姫みやこの方が遣り辛かったな。」

「そうなのですか? あの時の自分は何も考えずにいた様なので良く判ってないのですが。」


 京姫みやこがヘリヤと戦った時。最良の精神状態から、覚え身に染み込ませた技をただ放つことを是として無心に至った。


「ああ、サマディ無我の境地に到達してたのですね。私の原動力は欲深さから来るものですから決して至れないですね。」

「あたしも無理だろうな。煩悩まみれだからな!」

「自分でもどうやってあの領域に入れたのか未だに不思議です。再現しろと言われて出来るかどうか…。」


 しかし、あの時、騎士シュヴァリエとして京姫みやこの目指すべき高みが定まった瞬間でもあった。


 無心で技を振るう槍働きの鬼姫。

 剣の一振り一振りに欲を込める姫騎士。

 煩悩のため頂きを超えた戦乙女。


 進むべき先は、決して一つではない。


 技の美しさを証明するため戦う舞椿。その演武が始まった。

 常識を逸した技から織り成す舞は美しく、周囲を魅了する。

 彼女もまた、高みを見据える者の一人である。


 花花ファファ達の演武も終わり、ラクス・シャルキー(古エジプト由来のベリーダンス)、フラメンコ(ソレア系)のダンサーが舞台を華やかに彩っていく。

 学園内は、一種の多民族国家の様なもので、その国々の特色がある催し物が一堂に会する。それぞれが自発的に得意な芸を披露する。

 音楽に釣られて一緒に踊りだす学園生もいたりと、日本ではあまり見ない盛り上がり方である。

 正に「祭り」と称して過言ではない。


 そして、楽しい時間は過ぎ去るのが早い。



「この鳥、オイシイヨ! 下味が秀逸ヨ!」


 演武が終わり戻ってきた花花ファファは、両手にバーベキュー串にさされた肉を数本持っていた。

 ヘリヤが言っていた屋台を見たところ、鳥と豚バージョンがあったので買ってきたとのこと。

 そのヘリヤは、自分からポイントを奪うことが出来る下級生達の今後が気になる様だ。

 

花花ファファ京姫みやこは全国大会には出るのか?」

「私は、4月下旬に予選があります。代表には是非ともなりたいところですが…。」

「ワタシ、来週の来週に予選ヨ! 今度は取りたいヨ!」

「多分、今のお前達なら大丈夫じゃないか? 去年よりは遥かに強くなってるだろ。」

「そうでしょうか。」「ソウかな?」

「私も実力的には問題ないと思いますよ。ヘリヤからポイントを取ったことも評価点として加算大だと思いますし。」

「やっぱりティナは、代表取るのに色々計算してるだろ。あたしとの戦いは計算から外して。」

「さて、それはどうでしょう?」


 いつものたおやかな笑顔を見せるティナ。騎士シュヴァリエとしての笑顔を振りまけば、黒であると言っているも同然。


 学内大会は、各国の全国大会が行われない日程で組まれている。

 来月、4月にはドイツ国籍組の全国大会予選が始まり、再来月にドイツの全国大会がある。

 学園生の数が一番多いドイツ国籍組は慌ただしくなることだろう。

 花花ファファは、今月末から来月初めまで、京姫みやこは来月末から再来月中程まで全国大会のため帰省することになる。

 エスターライヒ国籍のティナは、選手選考大会が7月なので暫く猶予はある。ちなみに、世界選手権大会のため選手選考の大会を催している国は少数である。

 その後は、夏季休暇を挟んで新学年となり、10月に冬季学内大会、11月に世界選手権大会が控えている。

 3月と10月。この2カ月間は、国際シュヴァルリ評議会によって、公式大会は実施しないと定められている。

 各国の騎士シュヴァリエ育成機関が、公式下部大会を行える様に確保されている日程である。

 公式大会のない夏季休暇の期間で実施する国もあるが。


 ティナは、今大会で隠していた技を出すことは予定外であった。途中から開き直って未公開の技を数多く使ったが、これでもまだ隠している技の方が遥かに多い。

 次に新たな技を出すのは世界選手権大会だろう。



 賑やかだった会場の空気が、次第にゆっくりしたものに変わる。この時間の終わりが来ることを誰もも言葉にせずとも感じていた。


 火が消えた様にパーティが終わりを迎える。

 これで春季学内大会が全て終了した。


「あーあ、これで終わりか…。」


 ヘリヤの言葉には、夢から覚めた後の様な物悲しさが含まれていた。

 学園生活6年間は、長かったのだろうか、それとも短かったのだろうか。

 その思いは本人だけのもの。他人が知るべき理解できることではない。

 だが、その一言に全て含まれていた様に思う。



「よし、来週はアバターデータの更新をみっちり調整しませんと! 4月にはリリースしてもらいたいところです。」


 しんみりした空気を私事わたくしごとでぶち壊す姫騎士さん。

 ほら、みんな苦笑い。

 姫騎士さんも、あっ!と照れ笑い。

 心の声が口から漏れていた放送事故で締め括りです。




――第1章 完


第2章までは何話か設定が続きます。

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