01-017.神頼み?いいえ違います、祈りです
2156年3月15日 月曜日
今日明日は、午前中の基本教科3時間は平日通りに実施されるが、午後2時間の専門教科枠が変わる。
たとえば人間工学科の医療班などは、本選は、
スポーツ科学科は選手の個人に合ったメンタルケア、トレーニング方法などの教導、食生活の改善方法の提示、採用する審判員の選定。運営科は、引き続きデータ整理と試合プログラムの策定、外部放送局との折衝等、後2日しか残っていないため人員のアサインなども大変である。出店関連は、生徒会が受け持っているためなんとか負荷分散が出来ている。
騎士科といえば。
過去、これから試合をするため入場してくる
では、本選出場者達はというと、武術基本と騎士学科の講義を中心に、身体に負担がかからない様に授業が配慮されている。
ティナは今、オープンスペース型の選択教科スペースで騎士学科の講義を受講中である。すぐ隣のオープンスペースでは人間工学科の機能生理学が講義されている様だ。
「フロレンティーナ、あなた、身体は大丈夫なの?」
「アズ先生。ええ、土日で完全回復しました。」
アズ先生と呼ばれた女性は、20代後半の見た目で、身長は170cmほど、ダークブロンドの波をうった髪を肩甲骨辺りまで伸ばしている。白い肌に青い瞳が映えるが、容姿のバランスが整っており部位単位ではなく顔全体の印象で記憶される。ダークグレーに5cm間隔で縦のラインが入ったシックなスーツを着用し、下はタイトなマイクロミニ。股下3cmあるか怪しく、そして両脇は腰に届きそうな深いスリットから下着の横紐とガーターの吊り紐が覗いている。薄い黒のストッキングは太腿丈で、ガーターベルトで吊り下げるようになっている。ムチッとした脚に食い込んだりと妙に色気を振りまく。そして品の良いパンプス姿。スーツの中は、スカーフをタイ替わりに巻いた白のブラウス。円錐型の大きな胸を収めるため、パッツンパッツンであり、紫の下着がうっすら透けている。胸が圧迫を感じる時は結構深い位置までボタンオープンする。
アズ先生は愛称呼びである。騎士科の武術・戦術基礎、トレーニング理論、戦術論を主に教鞭を取る講師である。
本名、アスラウグ・ロズブローク。二つ名【女王】、名誉称号【永世女王】。エイルとヘリヤの母親で、現在40代半ばになっている筈であるが、見た目と肌艶が随分若々しい。母ではなく姉妹と言っても通じそうだ。そして、若い時分と同様に露出の多い服装を好む。第1回世界選手権大会から10連覇を果たし、史上最強の
ティナが公式試合では絶対戦いたくない相手No.1である。引退済みでヨカッタと、会うたびに思うのは内緒だ。
「あの技は、身体が完成するまでは余りお薦めしないわ。少なくとも2、3年はなるべく使わない様にしなさい。」
「はい、心得てます。私も翌日の筋肉痛で寝たきりは勘弁ですから。」
「やっぱり、身体の負担は相当だったみたいね。」
流石に身体のリミッターを外して潜在能力を引き出す無茶な技を使う生徒は放っておけないのだろう。そう言いながら、過度な筋肉疲労時にするべき身体のほぐし方を教えてくれた。
インナーマッスルからメンテする方法。ティナも目から鱗であった。思わず「さすアズ!」と口から零しそうになるのをグッと堪える。
マイクロミニで実演を交えて教えて貰ったが、チラチラと紫の下着が頻繁にコンニチハ!をしている。遠目で男子生徒がチラチラしながらヨウコソイラッシャイマシタ!とお辞儀しそうに覗き見たりパシャリ!しているが。
「ちょっと、そこ! 写真は良いけど、ネットに出しちゃダメよ♡」
などとウィンク一つで大人の余裕なアズ先生。
写真を撮ってる君達。相手は自分の母親と同年代ですよ?え?アズ先生ならすこる?君達、違う意味でスコッてるんじゃないか?
「あら、フロレンティーナはまだ第一成人を迎えてなかったのね。」
「はい。4月でようやく14になります。」
2156年現在、成人の指定は3段階となっている。
第一成人として14歳。被扶養者としての独立許可、各種公共設備の利用、業務への正式な雇用対象となる。女子は保護者容認のもと、婚姻が可能となる。この年齢の少女は、顔に幼さは残るが体力的にも大人と大差なく成長をしている。
第二成人は16歳。発泡酒等、低アルコール飲料が解禁となり、男子は保護者容認のもと、婚姻が可能となる。そしてこの年齢はアダルトコンテンツなどの閲覧・購入が解禁される。
そして第三成人は18歳。選挙権が与えられ、一人前の大人として扱われる。つまり、責任は全て自分が負うことになる。婚姻なども保護者の許諾は必要ない。
例外として、喫煙は20歳以上、極度の残酷描画・性的描画のあるコンテンツは21歳以上である必要がある。
21世紀中盤辺りから、世界的に食生活は豊かになり、児童は栄養が行き届き発育は良くなっていった。それに伴い早熟となり、第二次成長期も10~12歳くらいにシフトする。
また、先進国を中心に教育方法も改善され、詰め込み教育などはほぼなくなる。学力や能力に合わせ個人の自立を促す教育方法が広まった。
その結果、自己の在り方を確立する児童が増え、学習への取り組み意欲や教育の効率化が起こり児童の平均学力は向上する。満12歳における教養は、現在(2017年度策定時)のISCED3A~3C(後期中等教育。2156年では2A~2C相当、小等部教育扱いである)程度となった。尚、各国でも第二言語として英語を必須科目として、会話可能となるレベルまでこなせるよう、幼年期から指導されている。
全体に児童の身体・精神の成熟度が早まり、成人年齢を前倒しすることとなった。既存の成人年齢で有する個人の権利も鑑み、成人年齢を三段階に設定することで年齢に応じて負うことになる責任を認識させ、社会との在り方と共に個々の成長を促すシステムの一つとした。
22世紀初頭には、若手アイドルの平均年齢は11、12歳くらいで、グラビアアイドルなども16歳未満が多い。17、18歳の少女がアイドルを目指す、と言い出せば世間的にも行き遅れ扱いされ、年齢枠がよりシビアになってしまっている。
ちなみに。男子思春期特有の病などは、現代日本で言えば小学生時代に経験し、中2と呼ばれる頃は過去の黒歴史をひた隠す世代である。
食品の質も変わった。21世紀に品種改良でアンチエイジングに効果の高い成分が含まれる穀物・野菜類が出回り、一気に世界中に拡散した。その結果、寿命自体はそれほど伸びはないが、肌年齢、肉体年齢が平均で10歳ほど若返り、老化が遅延したことで労働可能な年齢が10年ほど後ろ倒しとなる。現状、仮想化技術や高度なAI、自動化による恩恵で、労働時間の短縮、および人の手が入れる部分は少なくなってきているが、個人が持つアイデアや考え方など、機械では出来ないことはまだ多く、人手は足りていない業種も多い。
なるほど、アスラウグの若々しさの半分は食生活にあるのだろう。もう半分は
アスラウグは、集まる生徒たちに食生活と健康法の大切さについて語っている。毎度毎度、新しい内容を追加していくので聞き漏らさない様に、他の専攻から少し抜けてアスラウグの講義に来る生徒も多い。
まるでパートワーク(※)の雑誌購読みたいだな、とティナは講義を見て思う。
※)百科事典などを週刊誌のように分冊刊行する仕組み。全号購入すると模型が組みあがるなどの雑誌をご存じの方も多いだろう。
ティナはどうしても気にかかることがあった。個人に関わる事は聞くのもマナー違反ではあるが、同じような技を使う彼女がどうなのか知りたい。
アスラウグが一人になったタイミングで、思い切って聞いてみる。回答が貰えるとは限らないが。
「……アズ先生。答えられるなら教えてください。」
「あら、何かしら?」
「ヘリヤはアレをした後、寝込んだりしますか?」
ヘリヤが
「ケロッとしてるわよ? あの
「ッ!」
思わず言葉を呑む。人の限界を超える技が通常技?悪い夢を見ている様だった。
ティナが一度目を見開いた後、聞いたことを反芻しているのか、長く目を閉じたり開けたりを繰り返す。その様子を見て、アスラウグは言葉を添える。
「あの
その台詞にティナは驚きをもってアスラウグを見つめる。エイルから以前聞いていたことではあるが、その言葉を当人から聞くと重い。そして、史上最強の
「エイルの方が私のセンスを受け継いでるわ。戦ったあなたなら良く判るでしょ?」
「…それは、…。ではヘリヤは…。」
「そうよ? あの
アスラウグの目は「それを聞いて尚、あなたはどうする? どうしたい?」と問いかけている。
ティナは「ふぃ~」と声にしながら息を吐く。
「半分心を折りつつ発破をかけるなんてエイルの血筋を感じます。いいでしょう、アズ先生。ヘリヤにはどうあがいても勝ち目は出ません。でも面白いものをお見せいたしますよ?」
口の端を少し上げ、ニヤリとティナは嗤う。ここまで来たら腹を決めました、と。
アスラウグは思う。この娘は、高い技量に精密な技で、王道派騎士スタイルと評されているが、本質は違う。勝ち目を読む、引き寄せる、ではなく、自ら勝ち目を強引に作る
どこか他の
「ふふふふ、今度は何をしでかしてくれるのかしら? 今から期待してるわよ?」
「ええ、飽きさせることだけはいたしません。」
ティナは
ティナは本選でヘリヤと必ずどこかで当たると確信している。お互いが必ず勝ち残るだけの技量を持っている。
そして、ヘリヤとの一戦では少しだけ見せていた技術を解放する。本来は世界選手権大会に出場した際、初めて使う筈であった。そこでヘリヤと当たるまで、見せたことのない技で一気に勝ち星を取る算段をしていた。
しかし、エイルと当たることで大幅に予定が狂った。勝たなければならない戦いに、隠していた技を使わざるを得ない相手が対戦者となったのだ。
一度でも見せれば映像から技は広まり、対策が打たれるだろう。ならば、隠し立てする意味はもうない。
ヘリヤと世界選手権大会で相対した時のための布石をここで打つ。
エスターライヒの世界選手権の選手選考大会もベスト4以内であれば、ほぼ確実に代表入り出来るであろう。エイルとの一戦は単なるランキングポイントではなく、戦績の評価が高くなるはずだからである。
あれだけの技を使って勝利もぎ取ったのに、偶然とか相手の調子が悪かったなどの難癖を付けるのなら、その審査員は即刻除籍になるだろう。それほどエイルの評価は高く、そこから得た勝ち星は重い。
「さて。ヘリヤから少なくとも1ポイントは取りませんと。そうすれば選考会の評価はダダ上がりです!」
「しかし、トーナメント初っ端で当たるのだけは避けたいです。負け確です。手が空いた時間は全てお祈りをいたしましょう。」
本選が始まる水曜日まで、普段より多くティナが祈りを捧げる姿が見られた。
祈りを捧げている姿は、宗教圏ならではの光景で、色々な宗教の敬虔な信徒である生徒がそれぞれの様式で祈りを捧げる。この学園で良く見かける風景の一部でもある。
「(ヘリヤと初っ端あたりませんように。できれば正反対側のブロックになりますように。本音を言えば戦いたくないので回避イベントが発生しますように。)」
あなた腹を括ったんじゃなかったの?
アスラウグに格好良く啖呵を切ったのにコレである。
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