01-013.5.【閑話】ティナとエイルの戦い ~解説者席より~

さてさて。

ちょっと趣を変え、ティナとエイルの戦いの最中、試合の解説している解説者席にスポットを当ててみよう。

今回、解説者のキース・スウィフトと、特別ゲスト【騎士王】の二つ名で名高いアシュリー・ダスティン・グウィルトは、同郷で小等部から顔をつき合わせている幼馴染である。


『競技コート4面をご覧の皆さま、長らくお待たせいたしました! 第4回戦2戦目も引き続き、解説担当のスポーツ科学科5年、キース・スウィフトがお送りいたします。審判も引き続き、スポーツ科学科5年、アナトリア・ルッキーニです!』

『更に更に! この2戦目ではスペシャルゲストをお呼びしました! 騎士科5年、【騎士王】アシュリー・ダスティン・グウィルト!』

『どうも。アシュリーです。なぜか連れてこられました。』

『粗暴な言動で一部では「チンピラ王子」と呼ばれている彼、アシュリー。私、付き合いは長いのですが昔から非常に手が早い! 先日もこれから試合をするエイル選手を口説き、こっ酷く振られています! ざまあ! だからこの試合に連れてきたら面白かろうと思って呼んだんですよね。』

『てめぇ。なに人のプライベー『あっ、選手の準備が整ったようです!』……。』


ふてくされるアシュリー。その目はジト目だ。

構わず進めるキース。そんな目線はサラリと流す。既にルーチン。


『まずは、第2戦目の競技者紹介です。東側オステン選手は、北方のアースガルズからやって来た無冠の女王、二つ名【慈悲の救済】、騎士科4年ノォゥズィンノルウェー王国国籍、エイル・ロズブローク!』

『次は西側ヴェステン選手です! 音楽と文化の国から舞い降りた公爵の姫君、二つ名【姫騎士】、騎士科2年エスターライヒオーストリア共和国国籍、フロレンティーナ・フォン・ブラウンシュヴァイク=カレンベルク!』



そしてティナがオレンジ色の鎧を身に纏い、試合コートで礼をする。

丁寧なお辞儀は後ろから見ると、オシリが丸見えとなる。解説席のモニターでアップにしながら食い入るように覗き込んでいるアシュリーはイヤラシ笑顔全開だ。チンピラ王子は残念王子の異名も持つ。


『フロレンティーナ選手は今まで見たことがない鎧ですね。全身オレンジ色で可愛らしい救護隊レスキューのようです。突起が物騒ですが。』

『オレは好きだぜ、あの鎧。丈が短くて後ろ姿が何とも言えねぇなぁ。』

『あなた、そんなだからモテないんですよ? チンピラ王子。』

『………。』(´・ω・`)


アシュリーは見た目も血筋もよいのだが、チンピラな言葉使いとデリカシーのない台詞で女性から敬遠されることが多い。手が早い、と言うより気が多すぎなのも敬遠される理由の一つだ。



審判アナトリア・ルッキーニが話題を提供する。

アナトリアが、『構え』の合図を出し、胸がユッサユッサと大きく揺れる。

彼女は騎士シュヴァリエ並みに人気が高い。


『おお、相変わらずアナトリアはイイねぇ。後ろから鷲掴みに抱きしめてえ。』

『なにバカ言ってんですかチンピラ王子。さてさて、知らない方のために彼女をもう一度ご紹介です! スポーツ科学科5年、二つ名【戦場の誘惑】、みんな大好きアナトリア・ルッキーニです! 彼女のアバターデータも販売しております。お帰りの際は売店へ!』


アナトリアは、ダークブロンドの髪をシニヨンに纏め、赤いボストン型フレームの楕円メガネ、白いブラウスに、騎士シュヴァリエと比べれば長く見えるが紺色のタイトミニスカートとパンプス。スカート後ろの深く入ったスリットがセクシーだ。そして、ブラウスのボタンを弾き飛ばす直前サイズの胸。ボタンの合わせ目が胸に引っ張られて隙間から肌が覗いている。胸の規格に合う丁度良いサイズのブラウスが手に入らないのだ。そして見た目の印象は、敏腕秘書か女性教師。

審判の技術もさることながら、人気の秘密は彼女が凛とした美人でスタイルもよく、何より動くたびに揺れるのだ。先ほどの様にユッサユッサと。そして偶に見せる可愛らしい仕草と、「やん」とか「きゃっ」とか可愛らしく漏れる声が見た目のギャップと相まってポイントが高い。稀に騎士シュヴァリエ以外でも二つ名が付くことがある。彼女の場合は二つ名から皆にどのように思われているか判るだろう。


ちなみに、騎士育成学園が公式リリースした3D格闘ゲームでは彼女のアバターを審判役で選べ、3Dビューワーによる騎士シュヴァリエ辞典にも彼女の項目がある。3D格闘ゲームは、夏のオンラインイベントでは水着大会があり、マリンスポーツやビーチバレーなども楽しむことが出来るようになっている。その時の操作キャラクターで大胆な水着姿のアナトリアが選択可能となる。大胆、と言えばテレージア。水着イベントでは胸がこぼれるような水着を着用しているのだが、肌色成分が多いのに騎士シュヴァリエ姿よりエロくないという逆転現象が起こっている。


更に蛇足。アシュリーはアナトリアにも丁重にお断りされている。



ティナの攻撃をエイルが受け止め、スカートがヒラリと舞う。

そして、エイルの反撃時に腰の回転からスカートがプロペラの様に広がる。


『おっ! おお~! 白のレースか。白同士の対決だな!』

『………腐れ王子(ボソッ)』



第1試合冒頭の一交差後に出来た選手同士の膠着時間。その時間で解説者のキースが抑揚を込めて先ほど起こった事柄をまとめた解説をしている。


『試合冒頭から怒涛の展開でした! フロレンティーナ選手の先制攻撃! これを流れる様に受け流し反撃したエイル選手! さらに反撃は止まらず左腕を切り落とし、一気に2ポイントを上げました!』

『ところが、ここでフロレンティーナ選手の反撃! 胴への突きが決まり2ポイント! ポイントはイーブンとなりました!』

『最後の伸びる突きは見事だったな。ありゃ普通じゃ出来ねえ。』

『おや、ゲストのアシュリーさん、そこのところ詳しく語りやがってください。ハリーハリー!』

『おい、ゲストはもちっと大切にし『ハリーハリー!』…。』


解説者席には、担当試合用スクリーンへ解説で使う動画放送用コントローラ設備がある。アシュリーはそれを操作し、先ほどのシーンをコマ送りにしながら解説する。彼は選手のパンツとか尻とかアップにして楽しんでるだけではないのだ!


『そもそも、フロレンティーナのあの位置じゃ、突きは当たんねえ。それを柄を滑らせて距離を稼ぎやがった。』

『柄を滑らせて、ですか?』

『おっと、ここだ。フロレンティーナの右手を見ろ。突きを出し始めでてのひらが上にくるよう捻ってるだろ。これは剣を滑らす準備だな。そんで親指を見ろ。動きに合わせて小指の上に移動させてる。』

『おお。これはすごい。この一瞬で良くやりますね。ダメージペナルティで動きが鈍ってるはずですよね?』

『ダメージペナルティは力を入れたり大きく動かすことを阻害するんだ。剣を振る握力はねえだろうが指を少し動かすくらいは問題ねえ。それよりもだ。親指を後ろに持ってきたことで手の中で柄を滑らすことが安定する。尚且つ、剣先のコントロールがし易くなる。』

『コントロールですか? この状況だと普通に当てられますよね?』

『そこがフロレンティーナの怖いところだ。エイルの攻撃挙動で身体が動いてるだろ、ほらここ。』


そういいながら、エイルが切り下ろしを敢行するため、右手を上に挙げ始めている。それにより、肩と右半身の位置が少し高くなる。


『この挙動に合わせて、ほら、てのひらを斜め上に動かしてるだろ。』

『あ! ほんとです! なるほど、剣先がこのように追従するんですね!』

『何が何でも腕の付け根に当てたかったんだろうな。』

『なぜ、ピンポイントにそこなんですか?』

『あの場所な、神経が集まってんだよ。あそこをダメージペナルティくらうと腕が動かせなくなんだよ。』

『はー、そこまで計算しての攻撃ですか。スローでないと判りませんね、こんな動きは。確かにエイル選手はこの後、逃げる様に後退してますね。』

『問題は、あの技は一発芸じゃないとこだな。あんな真似、思い付きでやれねぇ。練度がおかしい。』

『フロレンティーナ選手は、過去の試合でも伸びる突き?ですか、見せたことはないですよね。』

『だから問題なんだよ。エスターライヒ全国大会の時と言い、見せたことがない技の練度が異様に高い。』

『ほう、つまり?』

『多分だが、あの【姫騎士】、今まで知られていた王道派騎士スタイルは氷山の一角だったってことだ。』

『驚愕の事実ですね! 今までよく知られなかったものですね!』

『よっぽど強い相手じゃないと出さないんじゃないか? それ以外の相手じゃ王道派騎士スタイル今までの技で勝ってたしな。』

『なるほど、なるほど。底知れぬ実力を秘めていた騎士シュヴァリエだったわけですね。騎士シュヴァリエ目線の解説ありがとうございました。ではハウス!』

『うおいっ! オレは犬かっ!』


ティナとエイルは尚も膠着は続いている。


『最初と比べて、剣先が合わさる位で、お互い付かず離れずですね。それでも高度な技だと見て判るのは流石です。しかし、大きな動きはありませんね。』

『そりゃ、高位の騎士シュヴァリエ同士だからな。深間に入りゃ一瞬でポイントが決まる訳だから、いかに効果的に攻められるかああやって探り合うんだよ。』

『効果的に攻める、ですか?』

『そうだ。こちらが攻めて反撃を食らわないように優位に立てるポイント探しだな。』

『なるほど。さすがアシュリー。腐ってる騎士王。コメントが的確ですね。』

『そこは、腐っても、じゃねーのかよ! つかっ、腐ってねーよ!』


ティナがハーフソードの構えに移行した。


『フロレンティーナ選手の構えは、ハーフソードですか。実戦では始めて見ました。あの構えからどのように戦うのでしょう。』

『ナンかの布石だろうが、ありえねえな。』

『ありえない、ですか?』

『ああ。あの構えは格闘を踏まえた技が多い。格闘技並みに相手の懐に入らないと使いどころが殆どねえ。この競技じゃ死にスキルだ。』

『だから、布石だと?』

『そうだ。しかし、フロレンティーナは器用だな。エイル相手にあの技でよくやれるよな。にしても、ヒット&アウェイの意味が分からねえ。』

『確かに軽く攻撃して離れて行くスタイルですね。』


ティナが突きの姿勢をとる。


『な、んだ、ありゃ…』


腐ってる騎士王、もといチンピラ王子の目にもティナの変化した雰囲気が異様に映る。

その瞬間にティナの攻撃が決まり、1本取得にて第1試合が終了する。


『フロレンティーナ選手が1本先取で、第1試合は終了ー! いったい何が起こったのでしょうかー! スコアをご覧ください! ほんの一瞬で3ポイントが取得されています!』

『……ホントかよ……。アレと同じことが出来んのかよ…。』

『どうしました? アシュリー、アレとは?』

『ヘリヤだよ。あいつが極稀に見せる人間の限界を超えた動きだ。あんなことが出来んのはヘリヤだけかと思ってたんだが、っと高フレームレートの動画はこっちか?』


アシュリーは試合の録画データを呼び出す。この学園の競技システムではデフォルトで、1秒間60、120フレームの動画が撮られる仕様だ。学園生が多いのでデータ保存量的にフレームレートを抑えられている。全国大会などの公式大会では240、480フレームでも撮影されている。

丁度良さげな斜め上からのアングルで撮影しているカメラの120フレーム動画を選択してスクリーンへ映す。


『お、ここがフロレンティーナが突きを出すとこだな。見ろ。左手の甲に剣先を乗せている。こりゃ、突きを出すためのガイド替わりだな。』

『なるほど。手に持ってた剣先を手の上に乗せてますね。!!ピコーン! じゃあ、もしかして彼女がハーフソードの構えだったのは…。』

『だな。このための布石だろう。ピコーンってなんだよ…。』

『閃いた時の擬音ですよ? 知らないんですか?』

『……。』


動画制御用のジョグダイアルを回し、シーンを進めるアシュリー。だがスロー再生レベルでは画像がまだぶれている。


『おっと、これだと速すぎてわかんねーな。ちょっと1コマ単位で回すぜ。』

『なんだこれ? 1/120秒単位でもぶれるとこがあるぞ。ああ、やっぱ手の甲はガイドだな。この上で剣を滑らせてる。』

『や、すごいですね。右手を引き終えたところと突き終えたところ以外、映像がぶれてますね。』

『刹那の5連続突きだな。最初の2撃でエイルの剣を完全に弾き飛ばしてやがる。弾き飛ばされ具合を見ると相当な威力だろうな。』

『これは、腕も一緒に持ち上げられてますね。あ、ここで腕に3回突きが決まってますね。これが3ポイントの秘密ですか!』

『おいおい、そんな単純な話じゃねーぞ? 突きの始まりからこの攻撃の終わりまで18フレームしかないんだぜ?』


アシュリーは、ティナが突きの出し始めから5連撃後に引き戻したところまでのフレームを数えている。


『相当速いってことですね?』

『いいか? 18フレームってことは、あー…[暗算中]…、0.15秒だ。単純計算で1秒間で30発ちょいの突きを入れられる計算だぞ?』

『え!? それって人間が出来る動きなんですか?』

『だから、人間の限界を超えてるっつただろうが。おまえ、オレの話聞いてねえのかよ!』

『話半分です。』

『……。兎も角、ゾーンに入ったか、…いや、それぐらいじゃアレは出来ねえな。んじゃ、リミッターを外した線が濃いか。』

『ゾーンと言うと、たまに動きが止まって見えるとかの? それじゃないんですか? リミッター?』

『そう。リミッターだ。それ外して身体の潜在能力を引っ張り出したんだろう。』

『身体の潜在能力…って、人は3割しか力を出せないってアレですよね!?』

『そう。何らかの方法で引き出したんだろうな。多分、あの突きは奥義とかの一種だろうな。』

『はー、またとんでもない話が飛び出しましたねえ。』

『身体への負担が激しいんだろうな。だから試合が残ってんのにガッツリとストレッチしてやがる。』


ストレッチは運動後に筋肉をほぐすもので、運動前に行うと身体能力が低下する。

だから、スポーツ選手など試合前では手足の筋を伸ばす暖気運転程度しか行わない。


『限界を超えるにはそれ相応のデメリットがあるってことですか。ちなみに訓練で出来るようなものなんでしょうか。』

『無理。それが出来りゃ、スポーツ界は世界新の嵐だろ。訓練や身体操作で多少は引き出せるようになるが、フロレンティーナのアレはその域を遥かに超えてる。』

『だから奥義、と言うわけなんですね?』

『そーいうこった。』

『いやはや、まさかチンピラ王子が解説の役に立つとは思ってもみませんでした。マイナス40点差し上げます! 観客のみなさんもお手元のボタンでマイナスポイントをあげてください!』

『あれれー? おかしいぞー?』(´・ω・`)


やはりオチに使われるチンピラ王子。ちなみにお手元のボタンは存在しない。


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