【改】01-009. 驚きです、パリイの攻防 ~透花その2~
――第二試合。学園生解説者エトヴィンのアナウンスがから始まる。
『さて、第二試合が始まります。第一試合では
インターバルを経て、待機線で並び待つ
『
どうやら学園生解説者の話は終わったようで、少し間を置いてから審判が引き継ぐ。
『双方、開始線へ』
「ウフフフ、凄いわ、凄かったのよ。身体の可動域を見越して反撃させないなんて初めての経験よ。見事ね、見事だったわ」
「人間、できないコトはできないヨ。あの一瞬なら別のできるコトもできないヨ」
「ええ、ホンとよ、ホンと。何もできなかった。そう、できなかった」
「こっちもやりニクいヨ。次の手考えると頭ハゲそうヨ」
「ウフフ、光栄だわ、光栄よ」
『双方、抜剣』
審判は会話の終了を読んで合図を掛ける。マグダレナは鞘からレイピアを引き抜く。そして手首だけでクルリとレイピアを回した。
剣を回すルールは特に無い。つまり、これはファンサービスの一環だ。こういった細かい仕草も喜ばれるため、時折織り込まれる。
『双方、構え』
――結局、第二試合は、双方、有効打が入らずポイントに変動がなかった。確かに第一試合よりは攻防は激しくなったが、お互いが自分に被弾しないような仕掛け方が目立つ。また防御時の迎撃へ移れないように潰される一進一退どころか進むこともままならない、といった状況だ。
「(まるで掛からないわ、掛からないの。一段目を反応すらしないなんて、見極めが優れているの、優れているわ)」
強いて言えば、マグダレナが前後の歩法を用いた二段階で仕掛ける攻撃も
マグダレナは攻撃で虚実の使い方が上手い。予想外の遠い間合いから攻撃を仕掛けて相手に反応させる一段階目。これが虚だ。二段階目の攻撃が本命で、第一段目に意識が反応していれば、防御体勢へ入る前に呆気なく決まる。これが実の攻撃だ。マグダレナが戦い辛いと言われる要因の一つが、点の攻撃を虚実で活かした距離の欺瞞のである。
「(
先の試合で
それだけではない。
だからこそ、攻め入る瞬間――それを造り出すタイミングだとしても――を見出す必要があるのだ。
結局のところ、この試合では大きな動きはなかった。
互いが攻め入るポイントを探るも、付け入るタイミングを見いだせず。多少の攻防はあったが、深くまで踏み込めず。
そして、第三試合に突入した。
『第二試合は、所々で際どいサービスシーン(※)はありましたが、お互いポイントに加算なし! 依然、
※
ちなみに。解説者や審判は学科に紐付くものではない。基準を満たす技術力があれば、他の科からも立候補出来る。解説の彼、エトヴィン・ホルデイクもその一人だ。
『振り返っても両選手とも攻めきれないシーンばかりで、非常に警戒していることが判ります! 撃ち払いなど高度な技を目にすることもチラホラ。しかし決まらず双方の剣が離れていくことも
情報収集の牽制だとしても、二人の武技では高度なものとなる。そして、元々が決定打とならないと判って剣を交えた状況であるため、外からは「決められなかった」と見えても仕方がない。
『しかーし‼ 注目はこの第三試合! 二人がじっと耐えたのはこの時のためにある! これから先、一瞬たりとも目が離せません!』
学園生解説者は意外と的を得たアナウンスをしている。確かに
『双方、開始線へ』
審判の呼び声で、この試合を見ている観客は息を飲む。どのような結末になるか予想が付かないだけに、見逃すまいと目を凝らすのだ。
二人は三度目の開始線へ向かう。が、観客も、マグダレナも少し違和感を感じた。その違和感の元は、
武器デバイスを胸の高さで
『双方、抜剣』
審判の声と共に、二人の武器デバイスから
これは、
「ウフフフ、驚いたわ、驚いた。ここで二刀流になるなんて」
「攻撃の手が足りないヨ。なら手を増やすヨ」
スペイン式武術にもレイピアと
マグダレナは推し
『双方、構え』
そして、右脚と右腕を前に剣先を相手に捉え、左手は頭上の高くに構え、
今回の演舞は実戦の速度をマグダレナに見せることが目的だ。速度と精密さの札を持っていると。このタイミング情報を追加することで、思考に過負荷を与える。
『用意、――始め!』
審判の合図と共に動いたのは、マグダレナだ。
直前で情報過多に追い込まれたマグダレナだが、そこは歴戦の
自分がやるべきことの優先順位は揺るがない。
まずは右回りに動き、時折前後の動きを加え、
マグダレナは切先が触れる距離から、ほんの少しだけ踏み込んだ間合いを取る。
先ほど、構えの際に
なにせ、いくら速かろうと相手より遠い間合いを持つため、相手が間合いへ入る前に刺突を決められるからだ。いくら速く動こうが、点の攻撃をほぼノーモーションで発動できる刺突より速い攻撃はない。第一試合で
「(ふむ、あの奇妙な
マグダレナは仕掛ける。
レイピアの切先を
この
やはり、このタイミングを逃す筈もなく、腕を狙って刺突が迫る。レイピアを斜め下に向いている状態で維持したまま、手首を下に曲げつつ腕を真っすぐに戻す。
――ポーンと、攻撃が成功したことを知らせる通知音が響く。
先ほど逸らした
――ブーと、合わせて一本となった通知音が響いた。
縦の移動から更に
遠間の時と比べ、必殺の速度で突きが迫ってくる。中国単剣の上を滑るように迫りくるレイピアを
攻撃の勢いが急激に堰き止められ、マグダレナの右腕は斜め下へ傾く。
相手が深い間合いに入り込んだことで、その右腕が間合いに入る。
そして、ここで驚かされる。
腕に向かった中国単剣の刺突が、キシッと金属が擦れる音で斜め上方向へ弾かれた。
「(やられたヨ。止められる前提の攻撃だたヨ)」
してやられたと
なるほど、
ならば、
胴にレイピアが刺さったまま、
マグダレナは斜めに攻撃したため、より深い間合いに入っている。それは
攻撃手段は上に逸らされた中国単剣。マグダレナの腕の上から肩を狙える位置にあった。剣の運用で
そして切先は、右肩の付け根に届かせた。
『
審判が合図を出した。
第三試合の場合、合計で二本先取しない限り試合は終了しないが仕切り直しがある。
双方、ダメージペナルティの時間が残っている状態で再び戦いは続行される。
だが、双方でこれ以上ポイントを挙げることはなかった。
それも当然なのだろう。
ポイントを奪えたのは、双方が練りに練って
無情にも試合を終了する合図が発せられる。
『時間一杯、試合終了。双方、開始線へ』
開始線に並ぶ二人は、やれやれと言った表情。終始、神経を削られる相手同士だったことが伺える。
『
審判が
『
そして、次は
『よって勝者は、
この試合を観戦していた客から歓声が上がる。
第三試合までの全てがフルタイムで使われた戦いだった。これは相当珍しいため、観客も盛り上がっている。
一際、勝利を讃える歓声が膨らみ、喧騒を生んだ。
その喧噪を背に受けながら、マグダレナは小さく息を
「まいったわ、まいったのよ。
「そちこそヨ。剣のお椀で道かえるされたヨ。あれは防御ちがうて攻撃ヨ」
「ええ、そうよ。レイピア同士で使う返し技よ。アレが攻撃だと気づくなんてすごいわ、すごいのよ」
レイピア同士では、
「ほんと、やりニクかたヨ。
「私も驚いたわ、驚いたのよ。中国武術相手は楽しかったわ。奥が深いわ、深いのよ」
「
「そうね、またね、またやりましょう。次は闘牛士の技を見せるわ、見せるのよ」
その言葉に
競技者待機エリアへ下がる二人を見送るように、男性解説者のアナウンスが客席に流れる。
『試合コート五面第四回戦の初戦は、試合時間を目一杯使った稀に見る技能戦でした。勝利した
『
便宜上そう呼んでいるが、負けは次に勝利するための経験であると
技術を振り絞り、己を賭けて戦った者には勝敗関わらず敬意を払う矜持があるのだ。
だから学園生解説者も、この言葉を選手を贈る。
『素晴らしい技を披露してくれた二人に、盛大な拍手を!』
観客から、歓声と拍手が溢れる。
二人は、その中を手を振りながら、試合コートを後にしたのだった。
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20250215 改稿
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