【改】01-008. 中国武術とスペイン武術の激突、です ~透花その1~
四回戦の一番手は
使用コートは第五面。試合会場の中ほどの位置になる。
作業が完了したところで選手待機線へ移動するよう、二人に
審判の呼び声を受け待機線に辿り着いた二人は、コートに向かうよう横並びとなる。そのタイミングに合わせて学園生解説者のアナウンスが流れた。
ちなみに、アナウンスは該当の試合に簡易VRデバイスでチャンネルを合わせている観客に聞こえる仕様だ。放送局などは、試合コート毎に別撮りしている。
『
学内大会は、解説者と審判共に学園生が担当する。彼等は、その道を目指す者で、
『まずは本日第一戦目の競技者紹介です。
マグダレナは片手を挙げ軽く手を振りながら周囲の観客へ向け、その場で一回りする。肩口まで伸ばしたアッシュブラウンの髪がフワリと舞う。
頭部左斜め位置に赤い薔薇が一輪付いたオレンジのカチューシャが簡易VRデバイスだ。額が出る様に前髪をアップしている。一六〇
鎧ではなく、
黒を基調としたタイトなノースリーブワンピースで、股下五
ワンピースと上着とも、サイドが帯状の黒いシースルーで、斜めの格子状に金糸で刺繍が織り込まれている。脚は膝上一〇
『そして
呼び声に応え、挙げた両手を振りながらピョンピョンと跳ね回る。
薄水色の
腰深くまで両脇にスリットとは言い難い大きな隙間があり、それが尚のこと脚を長く見せる。長袖で非常に薄いシルクのようなサテン生地が身体に張り付き、スカート丈は股下と同じ。少し動くだけで裾から下着が顔を覗く。後ろは臀部の下三分の一が出ている。
手には白いレースの手袋。脚は膝上一〇
『双方、開始線へ』
審判の声に促され、二人がコートの中に入る。
それぞれの頭上三十
マグダレナは、審判にはレイピアを右斜め下へ剣先がくるように右腕を広げ、脚を軽く折る。
そして毎度おなじみのマイクパフォーマンスに入る。
試合中の会話も動画配信時に音声がしっかり流されるため、公式の試合である場合は必ずと言っていい程、
今後、学園生たちはプロとして活躍するならば、客を楽しませることも仕事の一つとなり、今はその予行練習であると言える。
「ウフフフ、そう、
「ワタシも、
「あれでまだ、なの? ああ、すごいわ、すごい。その奥深さに今日触れられるなんて」
「今日は鎧ナシ同士ヨ。
学生の見習い審判なれど、会話の呼吸を読むことは随分と鍛えられたようで、会話が終了する気配を察し、一呼吸を置いた絶妙のタイミングで合図を発する。
『双方、抜剣』
マグダレナは、レイピアを引き抜く。シャラン、と軽い金属音から、剣の重量が軽いものと思われる。実際、細身の
剣先は針のように鋭くなっており、鍔側は騎士剣の攻撃が受けられるような強度はあるものの、それをメインとした戦い方は想定していない。
柄は短く一二
そして、
それを左手のまま背中側に剣先を上に真っすぐ持ち、両足を肩幅に開く準備の型、
剣自体は、
剣の重量は八〇〇
『双方、構え』
審判の掛け声に、二人は剣の構えに入る。が、この試合に関しては他とは趣が異なる。
ここで
剣を右手に持ち替え立ち上がり、
この時、左腕を前に出し、左膝を腿の高さに挙げている。
そこから左脚を踏み込んだ形で止め、右腕と剣を真っすぐ相手に突き出し、
中国武術を扱う
武器を構えるまでの動作が観客には受けが良いため、一連の動作まで行うことが様式美として定着している。
右腕とレイピアは真っすぐ相手に伸ばされ、左手は自然体。身体は角度の付いた右半身で、右脚を少しだけ前に出す。左脚は身体の真下で、対峙する相手から九〇度水平に開いた形で置く。右足と左脚の間隔は狭く、他の武術と比べれば剣の構えとして明らかに異なっている。
審判員が右手を上げ、合図と共に振り下ろす。
『用意、――始め!』
初めの合図と共に、マグダレナは左へ右へとステップを繰り返す。剣先は絶えず
回り込みからの攻撃も相手は点と円運動で対応出来るため効果が出ない。接近すれば間合いの外から刺突が飛んでくるだろう。無理やり懐に入ろうとしても相手は剣先を自分に向けるだけで勝手に突きが決まる。構え自体が一種の攻撃である。
ならば、相手の突きを避けてから自分の攻撃を当てるしかない。しかし、初めての
「(厄介ヨ。コッチの動き合わる出来る歩法がやりにくいネ。サスガ最年少世界大会出場記録持てるは伊達じゃないヨ)」
今年、下級生組にエントリーされているのは、昨年度の実績が殆どないためだ。去年一年間、プロ闘牛士の免許取得のために時間を費やしたのが理由だ。
彼女の騎士装備は模倣ではなく、本物の
スペイン式武術は、中世剣術で最強と言われていた。
幾何学的理論で技術の原理を学び、計算された幾何学図式の上で円を描く歩法、攻撃の構えが一つと防御が二つのみと言う、論理を先に置いた非常にシンプルな構成である。但し、攻防の技は多岐に渡るが。
それは戦場ではなく、街中での闘争に特化した裸剣術であるが故の特性だ。
攻撃は、右半身に開き右手と剣を真っすぐに構えるのみ。されど、長い
構えが一つであることから、相手は攻撃する手段を狭められて仕舞う。剣を払って攻撃、回り込んで攻撃の二つに制限され、非常に戦い辛い。通常の剣術相手では、この二つを対策すれば基本事足りてしまう。
無論、どのような状況でも実行出来るように鍛錬する前提ではあるが、技の理論をしっかり理解すれば習得する技術は少ないため、
脚の配置は基本、右脚を前に置き、左脚は正面と平行になるように置く。奥脚が身体の真下であるため、より遠くへ素早く一歩を
攻撃が線ではなく点であり、最短距離を最速で攻撃が出せる構えである。故に、歩法の円運動は、常に相手へ剣先を向けることで牽制と防御を兼ね、相手が攻撃の導線を外した瞬間、即時に刺突攻撃を繰り出す。
この剣術は、特に
閑話休題。
マグダレナは、初めての中国武術を相手にタイミングを計りかねていた。
ここまでは良い。中国武術についても研究対象で動画などを散々見た。西洋武術にはないトリッキーな動きに対策は用意したが、実際に
身体の動き全てが澱みない円運動をしている。これが問題である。
人体の関節は円運動をするように出来ている。腕を曲げる、肩を回す、腰を捻る、
上位の
しかし、彼女はどうだろう。全ての円運動が循環し、時には螺旋を伴い絶えず在り続けるのだ。そんなこと、
つまり、相手は身体操作のエキスパートであり、相手の動きから弱点を見定める能力があると見た方が良いだろう。歩法で左右に振っても誤差なく追従してきたことから確実に
彼女程の身体操作術を持てば、どのような体勢からでも攻撃へ繋げることが出来るだろう。迂闊に手を出せない。そう言った理由で、マグダレナは攻め
お互い、剣先が触れる距離での牽制が続く。
シュラン、と剣同士の軽く擦れる音がする。
右へ左へと、と
試合開始から一分半が過ぎた。
まずは、左側へ回りこむ動きをする。それに対応し、相手が左回りへステップを踏み正対する。その瞬間、右側へ回り込む。相手は右回りで追従し正対する。そして続けざまに左側へ回り込む。
スペイン式武術の剣術は、回り込みを行う際の歩法が後ろに引いた軸足を先に動かす挙動となる。
マグダレナは、
が、自分の左脚が接地する直前。正対していた筈の
「(やられたわ、やられたのよ)」
その隙を与えたつもりはなかった。ならば、左右の振りに自身では気付いていない動きの遅延を見付けられたのだろう。相手に先制で攻撃を
左脚は着地したが、もう一度左脚を右に移動しなければ正対することは出来ない。それでは遅すぎる。現状の最善策は不自由な態勢でも
だが、刺突が決まると思った瞬間、
やはりと言うべきか、攻撃された感触を確認した。それも右
しかし、外側に向けて伸ばした腕では肩甲骨の動作で多少剣を引けるが、腕自体は関節の可動範囲を超えるため引き動かすことが出来ない。
その動きまで計算に入れていたのだろう。身体を正対させる動作に合わせ、まだ動かせない右腕を剣の切先で下がりながら斬っていかれた。
――ポーンと、攻撃が成功したことを知らせる通知音が連続で二つ。マグダレナが二ポイントを失ったことが観客に知らされた。
ずっと観察し、そして見つけた。左、右、左へ連続でステップを踏むとき最後の斬り返しだけが、体幹のずれで〇.一秒を下回る僅かな時間だけ動作が遅れていると。
左、右と、マグダレナを振り回し、もう一度左へ。
こちらの歩法は、最後の左へ移動した際、右脚を奥脚へ回し、
マグダレナは、想定通り左への反応が遅れた。それを見越した一手分早い動き出しで、
彼女の奥脚が移動のため持ち上げた動作に合わせ、マグダレナを左へ振った姿勢のまま左脚を前に滑らす。自身の正面は、マグダレナから見て右斜め。レイピアの右外側へ移動して見えた筈だ。
左脚が接地するまでに、右脚を置いた時に踏み込みで発生させた
マグダレナは、腕を背中に逸らせるようレイピアの剣先を向けてきた。このままならば、レイピアへ自ら刺さりに行くこととなる。だが、切先に捉えて来るのは
そこから
その両脚の間に剣全体を地面へ打ち付けるよう、上から下へマグダレナの右
相手より剣が短いため攻撃は脚にしか届かないが。
そして、右脚で後ろへ引っ張るように身体を起こす。
マグダレナの腕は、身体側面から背中側に反った位置だ。反撃するには構造の修正、つまり奥脚を引き身体の位置を変更する必要がある。そのタイムラグを利用する。
離れ際に太極剣の型、
マグダレナが身体ごと向きを変更する腕を捕まえ、切先で斬り上げる。脚と腕から一ポイントずつ
「(さてさーてヨ。もうこの手通じないなるネ。キビシーてカンジヨ)」
マグダレナが特定のステップを踏んだ時に表れる一瞬の遅延を利用すること。これは仕掛けるタイミング。
本命は、真っすぐに手を伸ばす構えから、
――それからは、マグダレナは攻撃と防御の要と言える右脚と右腕にダメージペナルティによる筋肉への高負荷状態にもかかわらず、
以降、互いに有効打が出ないまま、第一試合は時間切れとなった。
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20250215 改稿
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