01-007.春季学内大会第一部、Duel予選はじまりました
2156年3月10日 水曜日
今日から
ティナは祈りながら自分のトーナメント位置を探した。先日の
「Aグループの第1トーナメントBツリーですか。」
自分が配置されたツリーの中に、
――エイル・ロズブローク――
【壊滅の戦乙女】ヘリヤ・ロズブロークの実妹。普段、のほほんとした性格とは裏腹に、姉とは正反対の
むしろ、ティナと同じ匂いがする。だからこそ戦い辛く、読み合い騙し合いの消耗戦が予想され、戦う前からウンザリしてしまう。まぁ、負けるつもりはないだろうが。
「ヘリヤのラブコールは届かなかったようだな。」
「でも、オカワリにエイルが入ってるヨ。」
「運が良いのか悪いのか、作為的なものを感じます。なにか、こう、神様が面白おかしくなる様にくじ引きで決めたというか。」
「神はサイコロを振らないんじゃないか?」
「ワタシの国では天地開闢から神はサイコロ振るヨ。」
一神教以外の神は、意外と運に左右されるお方が何柱もおられる。
だべって気を紛らわしたい処ではあるが、そろそろ初戦の準備をしないと間に合わなくなる時間だ。3月はまだ寒さが強く日中も10℃程度しかない。そのため、屋内大スタジアムにて全試合が行われる。競技フィールドは120m×70mの長方形のドームで、
ティナは順当に勝ち進めば、3日かけて4回試合を行うことになる。その最後がエイルとの試合となるだろう。途中で敗退してくれる確率はほぼゼロだ。それだけ高みにいる
さて。場所は変わって、下級生組であるBグループのトーナメント区画。スクリーンのトーナメント表はリアルタイムで情報が反映され、各試合を行う使用コートなども表示される。
下級生組には上級生組のような極端にレベルが高い
予選2日目は、2回戦で120試合、3回戦で60試合が執り行われ、特に波乱もなく順当に最終日の試合に赴く
2156年3月12日 金曜日
そして、予選3日目。今日は4回戦ベスト8選出日である。Aグループ第1トーナメント会場の試合コート6面のみで、28試合が執り行われる。1面から4面で5戦、5面と6面で4戦のスケジュールとなり、2面ずつ同時に試合を行い、その試合終了後、すぐさま別の2面で試合が開始される。試合コートを2面だけでも賄えそうだが、次の試合までの準備時間を含めると1日で全試合消化するには余裕がなくなるため、今の方式が取られている。
ちなみに、この試合から解説者役の生徒が試合実況を解説し、簡易VRデバイスにて好きな試合の解説を聞きながら観戦できるようになっている。
普段の授業開始と同様に朝8:30から本日の開会式が開かれ、今日試合を行う選手は、9:30の試合開始まで10部屋に分かれた競技者控室で待機中である。試合開始が9:30なのは、一般客への入場時間に余裕を持たせるためだ。
ティナ、
「装着完了、
「ありがとうございます。」
試合前には、スポーツ科学科の生徒がサポーターとして装備の装着と調整をしてくれる。武器デバイスや簡易VRデバイスの感度やバッテリー残量等の最終チェックも担い、
今回ティナは、いつもと違うオレンジ色の鎧姿である。
「いよいよだな。」
「どうしたヨ?
「そうですよ? 緊張感はあった方が良いですが、極度の緊張は逆効果です。」
「少し考えてしまってな。私の技はこれからも通じるのか、このままで高みに往けるのか、とな。」
ふぅ、と一つ息を付き、
人差し指を顎に当て、少し思案し、
「
どのような時でも心を平静に、覚えた技をいつも通りに使う。ある意味、奥義の一つであろう。正しいか間違いかは本人しか判らないものであり、その答えが判るのは
ティナは
「あたしもそう思うよ。」
思わぬところから意見の賛同者があらわれた。
「ヘリヤ、いつの間にいらしたのですか。それにエイルまで。」
「ついさっきだよ。なんとなく様子を見にね。ついでに、フラフラ歩いてたエイルも拾ってきた。」
そう言いながらヘリヤの斜め後ろに立っているエイルへ視線を向ける。
「ええ、姉さんに引きずられて来ましたの。フロレンティーナ、その艶やかな鎧、初めて見ますね。」
「こちらは予備です。姫騎士のイメージから外れるので余り着用はしなかったのですが、いつもの鎧は少しメンテナンスが必要でしたので。」
「
ヘリヤは腰に手をやり助言、と言うより自分のスタンスなのだろう。それを語りだした。
「そうねぇ、一つ良いこと教えてあげる。」
エイルは両の掌を胸の高さで合わせ、
「姉さんは。……母さんの言葉を借りれば、才能は凡庸。標準的な
その言葉に
「――だけど、出来ることをひたすら磨いて今があるの。」
「あたしは基礎しか出来ないからな。」
ヘリヤは少しにやけながら、そう言った。
暫しの沈黙。それから
「ありがとうございます。お二人の言葉で少し気が楽になりました。」
積み重ねて高みに届かせた者がここにいる。それを知り、
「あたしに、そんな言葉使いする必要はないんだがなぁ。」
「フフフ、そこは勘弁してください。慣れてないものですから。」
小学校卒業後、すぐに留学した
余談だが、人間が生活するには左右の関係が重要で、上下関係は必要ない。上から力で支配し、下から信頼は得られない構造をしているからだ。上下関係が当たり前になると、親が子を、先輩が後輩を、上司が部下を支配してしまい健全ではなくなる。心当たりがある方もいるのではないだろうか。本来は、軍隊など縦の命令が重要になる様な組織では仕組みとして上下が必要だが、それ以外では需要がない筈である。
ちょっとした青春の一幕が展開しているが、半分蚊帳の外にティナはいた。そして、エイルの語ったその内容に精神をゴリゴリ削られている。基礎の鍛錬だけで才能を凌駕する――
「(このひと、私に精神攻撃を与えているんではないでしょうか。)」
目が合ったエイルはニッコリと穏やかな笑みを浮かべた。
「(やっぱり攻撃されてました!)」
先日、ヘリヤの
エイルはその様子を知ってたのであろう。全力を見せたヘリヤから関連付けてティナが何を思ったのか凡そ検討を付けていたと思われる。ついでに連れて来られただけなのに丁度良いタイミングは逃さず、ヒーリングとダメージ両方の効果がある言葉を出してきた位だ。流石、相手の心を折りに来るのは一級品だ。
『試合開始10分前です。選手は試合会場に入場してください。』
館内放送が聞こえてきた。簡易VRデバイスからは、自分が戦う試合コートがAR表示されている。
「おっと、それじゃ行こうか。お前たち面白いから全員生き残れよ。」
「姉さん、私とフロレンティーナは、どちらかしか残りませんけど?」
「じゃ、ティナ勝て。エイルとはいつでも出来る。」
「ええっ! ヘリヤ、それは酷い言い草だと思います!」
流石にティナも、その発言はどうかと思い声が大きくなった。
「あら、姉さんはいつもこんな感じですのよ。聞き流すのが一番です。」
流されても繰り返してるのか。
「イツモね、それスゴイヨ!繰り返しは鍛錬ヨ!」
「いや、そんな鍛錬はないと思う。私はしたくない。」
もっともである。
なんだかんだと賑やかな集団は試合会場へ消えていった。
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