月の子
ナロミメエ
闇を透かして
輝いていた
白く清く
月のように
父の悪口を、だから殴った。
でも教員が叱るのは、少年一人。
叱るにみせて、彼らも罵る。
夕陽を向く背が、震えていた。
帰りの路は、いつも暗い。
早くに帰ると、義父が怒る。
母親はもう、母ではない。
この世にはもう、自分だけ。
繁華街の、路地裏の。
寂れた店の、ショーケース。
銀のアクセサリーと、ナイフとライター。
ふと隣には、少女がいた。
白くて細くて黒い髪。
少年は思わず、息をのんだ。
そんなに見ないでと、大人びた少女。
少年の目は、奪われた。
こんな遅くに、何してるの?
早くかえると、おこられる。
お父さんに? お母さんに?
ボクの父さんは、もういない。
どこの学校? 見たことないけど。
わたし学校、行ってないの。
いいな、ボクもいきたくない。
よくない、わたしは行きたいよ。
髪を耳にかける仕草。
色っぽくて、かわいくて。
また、少年の目が奪われる。
白を
しばらく歩くと、静かな路。
白くて明るい、月の路。
少女が言った、太陽がきらい。
太陽の下では、みんな嘘つき。
別れの道で、少女は笑った。
少年の心に、焼きつく痣。
言わないと、もう会えなくなる。
だから言った、またあした。
久しぶりに、母親と話した。
面倒なことは、するなと言われた。
顔が熱くて、体は冷たい。
でも心には、少女がいる。
少年は、初めて交番に行った。
心を込めて、少女のことを。
下から見ると、すぐわかる。
嘘つく顔は、すぐわかる。
少女のことを、知っていた。
あの子は、嘘をつく子だと。
あの子の親は、偉い人。
影色の笑みと、太陽が睨む。
学校が終わると、時間をつぶした。
あの店の前で、ずっと待った。
店が閉まっても、ずっと待った。
酔っ払いに蹴られるまで、ずっと。
次の日も、あの店に行った。
ショーケースを見る、少女がいた。
月を模した、小さな腕輪。
あれ、ほんとはわたしのなの。
わたしは、月の娘なの。
いずれはあそこに、帰るのよ。
腕輪があれば、いつでもね。
笑顔の片目は、つぶれていた。
月夜の街を、二人で歩いた。
厄介ごとは、ごめんだと。
笑わぬ子供は、ごめんだと。
もう会えないと、あの路で。
会えてよかったと、背を向ける。
いっしょにいこうと、手を引いた。
その手を
ねえ、しってる? 月の光。
本当のすがたが、映るんだよ。
闇の色して、少女が振り向く。
とても、うれしそうに泣いた。
息捨て戻った、ショーケース。
そっと静かに、手を入れた。
一滴の血は、代償に。
太陽たちへの、宣戦に。
有象無象がいく道を、月光が照らすあの路へ。
流れに逆らい進む彼を、どれだけの目も映さない。
いつも彼らはすぐそこで、ずっとあなたを見てたのに。
いつも彼らは正直に、あなたに語り掛けたのに。
真紅の痣は、誰のせい?
鮮血の童は、誰のせい?
そんな彼らも時が経てば、風の景色に消えるだろう。
いつの子らが泣き叫ぼうと、太陽の嘘が焼くだろう。
月の子 ナロミメエ @naromime
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます