勇者が転生してくれないどころか女神の私を虐めます(助けてください)〜改訂版 

三枝 優

第1話 転生の間にて

気がつくと、真っ白な光に包まれたなにもない空間。

起き上がると、そこには光りに包まれた美女。

体をゆったりと覆う白い服装は、まるでギリシャ神話の女神そのもの。

その美女は胸の前で手を合わせ、厳かに告げた。

「勇者様、はじめまして。私は女神エスカフローネ。この度、女神である私が勇者である貴方を召喚させたいただきました。」

「え・・・女神・・さま?」

「貴方は魔王に侵略されつつある世界・・・異世界を救うために選ばれました。あなたはこれからその異世界に転生していただき魔王を倒し、世界を救っていただきたいと思います。」





「異世界?ですか?」

「はい、その世界を救えるのはあなただけなのです。」

「私なんかで、どうやって世界を救えばいいんですか?」

「あなたには、1つだけ望む能力をなんでも差し上げます。その能力をもって魔王を倒していただきたいのです。」

「能力?なんでもいいの?」

「はい、なんなりと望みをお伝えください。」

「では、魔法を自由に使いたいな。今の魔力を100倍にしてもらえるかな?」

女神エスカフローネは微笑んで厳かに告げた。

「了解いたしました、魔法の力をお授けいたしまね。今の魔力をお調べし100倍にして差し上げます。」

「うん、100倍にしてよ。」

女神は内心、”あ〜ぁ、またかぁ。ありがちだなぁ”と思った。

この人間の元いた地球という世界では魔法はフィクションの中では定番である。

魔力を100倍にするにはその分の魔力を女神である自分が分け与えればいい。

エスカフローネは”魔法かよ、こいつ中2か?・・”と思ったが、顔には出さず背後の水晶を操作してステータスを調べようとした。

女神エスカフローネ、実は腹黒い。

余計なことを考えていたので、その時この人間が小さくつぶやいたことに気が付かなかった・・

「あ・・偽装を一部外しておくか・・・」



エスカフローネは水晶に光が浮かんできたのを見て告げた。

「はい、お調べいたしました。あなたの現在の魔力は・・・」

その瞬間、女神の思考が・・動作が・・停止した。

「うん、100倍にしてくれるんだよね。」







ギギギギ・・

という擬音がしそうな動作で女神がゆっくりと振り向いた。

「100倍だからね、よろしくね」

にっこりと笑い、もう一度念を押された。

急に目つきが悪くなった女神が胸ぐらをつかむ。

「ムリムリムリムリ!ぜえっったい無理!!何なのよ、あの魔力は!私の数万・数十万倍以上あるじゃないの。あまりに桁が多すぎて理解不能!

っていうか、神を凌駕する魔力って一体何よ、何なのよ!!あんた人間!?」

さっきまでのおしとやかな女神の表情が台無しである。

「え〜100倍って言ったのに・・・だめならこの話はなかったということで。」

冷静に微笑みながら話す。

「いや、無理だから!!そのままで十分だから!!これなら今すぐ魔王倒せるから!!」

「え〜ひどいなぁ、女神様の上司と話がしたいなぁ。上司って誰?ゼウス様?ディアナ様?」

上司という話が出て、少し冷静さを取り戻した女神エスカフローネは口調をちょっともとに戻した。

上司にクレームを付けられたらボーナスの査定に響く。

ただ。目つきは悪いままであるが・・・

「私の上司である親神様は太陽の御子であるアポロン様になります。天界でも随一の実力者です。残念ながらこちらに来ることはできませんので・・・」




すると、その人間はにやりと笑って言った。

「なんだアポロンか。」

急に態度が変わったようなである。

気温も5度ほど下がった気がする。


顔をひきつらしてエスカフローネは訂正する。

「アポロンです。」

「だからアポロンだろ?」

さっきまで他の神には敬称をつけていたのに、よりによってアポロン様は呼び捨て?

いったい何なのよ・・と思いながら。

「勇者様にはアポロン様の使徒となって魔王を倒していただきたく思います。」

「なんでアポロンの使徒になんなきゃならないのさ」

なんなんだ、この不敬な人間は・・

エスカフローネはこの不敬な人間を地球に送り返したくなってきた。

「それで?その魔王って誰なの?」

「はい、その異世界は暴食の魔王ベルゼブルに侵攻されております。このままだと魔王の手によって征服されるのも時間の問題かと・・」

「なんだって、ベルゼブルだって?」

「はい、暴食の魔王ベルゼブルは・・」

「ベルゼブルと会えるの?うわあ、会いたいなぁ。」

「はい?」

「なにせベルゼブルは親友だからなぁ、久しぶりに会えるのかぁ」

「え”!?」


あまりのことで理解が追いつけない女神。

「え・・と、異世界を救うために魔王ベルゼブルを倒して・・・いただきたいのですが・・」

すると、その人間は首をかしげた後、ため息を一つ。

そして営業スマイルを顔に貼り付けて子供に説明するように話しだした。

「女神であるエスカフローネ様・・私はアポロンが嫌いです。大嫌いです。

一方で私はベルゼブルと大親友です。

さて、私が異世界に行ったらどうなるでしょう?」

「あははは、、、どうなるでしょう、、、?」

にっこり笑って、両方のほっぺたをつねってきた。

「さーて、よーく考えてみよう。残念女神さま。」

「ばぁい、、、、」

涙目になってきた。

人間はほっぺたを、びょーん・びょーんと引っ張って遊んでいる。

私は女神なのに何で虐められてるんだろう、、、


その時、その空間に清涼なる光が溢れ新たな女神が姿を表した。

「ディアナ様!」

アポロン様の妹神である月の女神ディアナ様が突然姿を現した。

エスカフローネは”助かった!”と思った。

「ディアナ様!助けてください〜」

すると、ディアナ様はエスカフローネのことなど目に入らないように無視して、その人間の方に向き直る。

”え?”


「ディアナ様。お久しゅうございます。」

その人間は、ディアナ様の前で片膝をついて頭を垂れている。

”何よ!さっきまでの態度とえらい違いじゃないの!”

「お久しぶりです。やはり、貴方でしたのね。本当に久しぶり。元気そうで安心しましたわ。」

「ありがとうございます。あのときの恩を返すこともできておらず申し訳ありません。」

「いえ、私こそ・・・貴方に恩があるのですよ。




あれ?私無視されてる?

放置プレイ?





「ところで、地球との間にゲートが開く気配がしたので来てみたのですが。あなたがここにいるという事は地球との間にゲートを開いた神がいるということでしょうか?」

「はい、地球に置いてゲートが開くことを感知したので、咄嗟に私がゲートに飛び込みまここに参りました。

本来なら、許されないことと思うのですが。」

「本当に・・神界と地球をつなぐなんて・・」


あれ?もしかして私のことを言ってる?




そして2人がゆっくりとこちらを向いた。

なぜか、女神エスカフローネは急に全身から冷や汗が吹き出した。


”アポロン様・・助けてくだい・・”

しかし、今現在はアポロンは来れる状況ではなかった。


人間がにっこりと笑って聞いてきた。

「一つ聞くけど、契約って知ってる?」

笑顔がものすごく怖い。

「え?け、、契約?」

ディアナ様がため息をついて言う。

「よもや契約のことを知らない神がいたなんて・・・私の教育が不足していたのね。」


え?何?これって私が悪いの!?




その後ディアナ様にめちゃくちゃ怒られた。

その人間は・・自分で地球へのゲートを開いた。

「今回も助けていただいたわね。」

女神ディアナ様はその人間に言う。


「ディアナ様、またお会いしましょう。」

「えぇ・・・ぜひ、また会いましょう・・・ヒロ。」


その人間はゲートを潜り地球に戻っていった。それを見つめるディアナ様。


まるで、その人間に対して尊敬の念を抱いているようにしか見えない。

神が人間を尊敬するなんて・・

エスカフローネは何度も叩かれた尻の痛みをこらえながら思った。


一体・・・あの人間は誰なの???



するとディアナ様がこちらを振り向いていった。

「さて、未だ終わったわけじゃないわよ。

さっきまでは、あの人がいたけど・・・これからが本番ですからね」


その後、神界では女神エスカフローネの悲鳴が何度も聞こえたらしい。

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