第3話 はなしちゃいました
人通りが少ない道で、夜にアラサー二人と女の子という奇妙な組み合わせ。
女の子は愛美という名前らしい。咄嗟に愛美の肩に触れてみる。
「なに?」
「あっ、いや、お化けじゃないよねって確認」
「そんなわけないでしょ」
いやぁ〜、まぁ冷静につっこまれるとそうなんだけどね。
だけどさ、夜中の廃校に一人女の子がいるのとお化けが出てくるのとだと、もはや確率論的にはどっこいどっこいじゃないですかね?
そんな私を差し置いて、翔子が近くの自販機で購入した缶ジュースを愛美に差し出す。
「ありがとう」
「どういたしまして」
愛美は翔子に対しては少し柔らかな表情を見せている様子。そんな雰囲気を察してからか、翔子は少し間を置いて愛美に核心に迫る。
「それにしてもあそこで何してたの?」
「別に何も」
その発言に私もつい口を挟み、
「何もないなんてことないでしょ」
「そういうおばさんは何しに来たの?」
「おば、、」
つい力が入り、缶を強く握ってしまう。
「ユーチューブの動画を撮りに来たんだよ〜」
翔子はカバンからカメラを取り出し、笑顔で愛美に見せる。
「えっ、お姉さんユーチューバーなの?」
なぜ、翔子はお姉さん……。翔子のやつ、童顔だからって得しやがって!缶ジュースを一気飲みしてしまう。
「私たちは検証系ユーチューバーやってるんだよ〜」
「ふーん、そうなんだ。検索すれば出てくる?」
「うん、出てくるよ」
愛美はポケットからスマホを取り出し、翔子と一緒に検索を始める。
あまり他の話題に食いつかなかったのに、ユーチューブについては熱心に調べている愛美。
「ユーチューバー興味あるの?」
「うん、まぁ」
私の質問には淡々と答え、検索を続ける愛美。
翔子が私たちのチャンネルを指差し、
「えーとこれだね」
「あっ、ほんとだ。しかも意外と再生数あるし」
じっと画面を見つめる愛美。おぉ、いい反応ですな、お嬢さん。
「見直したかい」
「まぁ、ちょっと」
愛美からなんとなく信頼感を得られた模様。そこで私は再び愛美に口を切ってみる。
「んで、何でこんな夜遅くに?」
「家出した」
「家出って、もっとマシなとこに行けよ」
「だって、ベッドあるし、誰にも見つからなそうだし」
いやいや肝座りすぎだろ。ベッドあればどこでも構わないのかよ。
まじ発想が私よりもシニカル過ぎて怖いわ。
そうこうしているうちに愛美が私の方に近寄ってきて、
「あのさ、そのユーチューブ私も出られないかな?」
「はっ?いや、出られなくないこともないっていうか、さっきの動画もかなり衝撃っていうか……」
愛美が私のことを懇願するような眼差しで見つめてくる。ユーチューバーってスゴい職業なんですね。
考え迷っている私に対し、翔子が真面目に大人の話をし始める。
「でも愛美ちゃんぐらいの歳だと、お母さんたちの了承とらなきゃかなぁ」
「そっか……」
そうそう。子どもがYouTube出るのも結構ナイーブなんだよねぇ。
どの道、お母さんパワーが必要なところで私は提案する。
「だから尚更家に帰るべし」
「無理」
「うーん、まぁ、さっきの廃校だっと確かにエッジ利きすぎてるからなぁ。もうちょっとマイルドな動画だったら許してくれるんじゃない」
「ウチのお母さん、ユーチューバー嫌いだからさ」
「ワォ、なんと」
愛美、缶を握りしめ、再び話し出す。
「私さ、お母さんにユーチューバーになりたいって言ったんだよね」
「おぉ〜。仲間じゃん」
「でもそんなロクでもないものになるなって言ってきて」
「ロクでもないとは何だ」
確かに30歳手前で廃校に潜り込んだりしてますけどね。それでも私は魂を持って臨んでますよ、お母さん!!
「んで毎日、勉強しろ勉強しろだし」
「それで家出か」
なんと、窮屈な思いをしているのだなぁ、この少女は。
ここはイッチョ見せてやりますかっ!大人の力ってやつを!
「よしっ」
「ん?」
「私が一緒にアンタんちに乗り込んで説得してあげる」
「いやムリだよ」
愛美が即座に否定するものの、翔子も愛美の前に出て、
「やるだけやってみましょ。私も頑張るから」
「お姉ちゃん」
翔子を見つめる愛美。あのぉ、言い出しっぺは私なんですけど。やっぱりこの子、翔子だけに甘くないか?
ということで、各々飲み終えた缶をゴミ箱に捨て、愛美を先頭に歩み始める。
翔子が愛美と並び会話を再び始める。
「おうちはこっち?」
「うん」
その時、愛美のお腹からものの見事に音が鳴り響く。
「あらあらお腹空いているの?」
「うん」
「そりゃそうだよなぁ。だってずっと廃校いたら飯もないもんな」
私の発言に耳を傾け、愛美が振り返る。
「えっ、ずっとって何のこと」
「いやぁ、一昨日もここいたでしょ。視聴者さんから目撃情報出てるんだぞぉ〜」
「私、今日初めてあそこに来たんだけど」
「へっ?」
翔子が歩みを止め、私の方を見つめ直す。
「ってことはあの写真の影は?」
翔子が質問を投げかけるものの、辺りは静まりかえったまま。
えーとこれは、うん深掘りしない方がいいやつだ。うん、そうしよう
「まっ、あの写真は無かったことにしよか」
とりあえず再び歩みを始める私たち。
《終》
〜・〜・〜・〜・〜・〜
お知らせ
短編連載でしたが、こちらにて終わりになります。
また短編で定期的に執筆していきたいと思いますので
今後もよろしくお願いいたします!!
廃校ミートガールズ ヒチャリ @hichari
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