第7話 彼女と僕の共通点
エレベーター昇降ボタンを押して、しばらく待った。後から誰かの車が地下駐車場へ入る音がし、後ろ目でぼんやりと車から人が降りてくる姿が見えた時丁度、エレベーターが来た。そそくさと乗り込み自分の部屋がある階を押す前に、扉を閉めた。
部屋に戻ると、すでに晩ご飯はまたしても冷めていた。
冷めていたものを構成機に戻し、レンジ機能を使って温める。水分のみを温めるレンジ機能を使うと味が変わったが、仕方がないことなのだろう。
ベランダへと出られるガラス戸から外を見る。それぞれ着色の異なる建物が並ぶ。着色の色だけが異なるだけでそれ以外の形や構造はほとんど変わることはなかった。増築となった際、住居を一定の規格しておかなければ簡単に増築、改築ができない。形は変わらない。中の構造だけ好きなように変えられた。
外を少し見た後、鞄から本を取り出し横に据えて食事をしながら読む。僕が求める食事はこれだったのだろうか。ただ、こう少し変わってしまった味の方が楽しめる気がした。おいしいとは言えない、けれど誰かの設計をもとに作られた食事は手を加えられることを前提としていない。そのままが一番だといえるけれど、もっと変えられることができるんじゃないだろうか。今度は調味料などを構成機から取り出そうか。
食べ終わったお皿を構成機へ戻し、回収のボタンを押す。お皿ごとすべてが消えた。そして赴くまま、先生から教えてもらった本が頭にちらつき、構成機の検索画面から調べだし、作成を押す。
その間、今日のレポートを書く。阪田さんから最後に問いかけられた「君は何を選ぶのか」という質問に対して、僕は同じように外交官の道を選ぶと答える。外交官という役職がなくても、僕の日々は人との会話や交渉であふれていて、それらに興味を持つだろう、いや持っていたい。
ただ自分への問いかけはそこで終わった。
構成機に戻り、ふたを開け本を取り出す。表紙に触れた。
「言語障害とその後」。
構成機に記載の説明によると、幼少期および青年期に発症しやすい言語障害についてそれぞれの症状および解消までの流れとその人達はその後どのように暮らしているのかを記載した本だった。
その中に阪田さんの事例が記載されているということだった。
目次では症状ごとの記載となっており、それだけではわからなかった。地道に読み進めるしかなかった。
ソファや椅子、あぐらなど様々に態勢を変える。何時間か読み進めていく中で、それらしき事例があった。
Xさんは当時高校生だった。小学校、中学校と特に何ら前症状などはなく、突如高校2年生の6月ごろに発症した。彼女の場合は今は必要ではなくなった言葉が彼女の無意識のうちに発されるというものだった。基本的な会話は不自由ないが、言語的構造が変わっていくというものだった。読み進めていくほどに彼女は弱っていくような気がして、途中で読むのをやめ、事例の将来の部分を見た。
「現在彼女はすでに大学へと進学しており、症状による大きなキャリア変化もなく以前から話していた機械工学の道へ進んでいるとのことだった。」
そう記されていた。
けれど今も社会的独立を果たした人が「キャリアについて知らなければ、君はどのような選択をする?」といった質問をするだろうか。僕はしない。知ったうえで君なら何を選ぶか問いかけるだろう。そして僕自身も言語障害を幼少期に患ったことがあると家族から聞いていた。
だから彼女がなぜそのような問いかけを行ったのかが、気になり端末の音声メッセージを立ち上げる。
「阪田さん、授業の続きお聞きしたいです。また来週などでお会い出来ないでしょうか。」
彼女は知らない。 kuhei @kuhei
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