第4話
◇1
誰だって 夢を見る
大体が 自分を中心に動くもの
「目が覚めましたか よかったです」
「え ああ ここは?」
「警察病院です びっくりしたでしょ」
何の飾りっけも無い 安部屋に寝かされて
どうやら 青年に殺されかけたらしい
霊安室ではないのは 急所どころか大外れだから
「ねぇあなた 大丈夫ですか 話せます?
何があったか 話してもらえます?」
「え? 僕にもさっぱり・・・」
「犯人 捕まりましたから 安心してください
しかし 分からんのですよ 何言ってんだか」
「あ 僕にも さっぱり・・・・」
◇2
物事のはじまりは 何だっけ
きっと たわいもないことから
「~と言う訳で 気がつけば ここに居たという訳で
知り合いどころか 名前すら知らないんです」
「はぁ~ で 夢を買うって 何?」
何でもありやしない ただ やり切れない気がして
自分を見ているようで 辛くなって
気がつけば 声をかけていた ただ それだけ
「僕にとっての5万は 大金です
本を買ったり 我慢してたことを可能にしてくれる
お気に入りの女子学生なんか 食事に誘ったりしたりね」
「ほ~ それはいいですね」
「でも 彼にとってははした金ですよ
5万あったからって その先 どうするんです」
◇3
どんな人間にだって 誇りはある
そして 人は 案外 傷つきやすい
「ただの口実です 夢を買うなんて」
「でもね 奴は本気にしてますよ
あなたを襲ったのも そう」
本当に 人の夢なんて 買えるのだろうか
果たして 眩いだけの世界なんてあるのだろうか
僕は 彼が描いた夢なんかに居やしない と言ってやりたい
「やぁ 君 久しぶりだね」
「あんたが夢を買ってくれなかったから
俺があんたを消さなきゃなんなくなったじゃないか」
「僕が買っていたら どうにかなったとでも?」
「ふん さ~ね」
「僕は 君を消したりなんかしない」
◇4
過去の彼と 将来の彼 変えることができるだろうか
自分は 一体 彼に 何をしてやれるのだろう
「相変わらず 良いもん着てますね」
「この服も 時計も 僕の収入じゃとても」
「あの作品 今度 映画化になるって」
彼と自分の違いは 紙一重かもしれない
妻に出会わなければ どんな生活をしてたろう
僕は 運がいいのかもしれない
「純然たる僕の作品 とは言えないし
携わる人が増えるだけ 費用は嵩むし
僕の処へは おこぼれ程度さ」
「あんたの本読んだよ 賞を取ったやつとかも
けろろん賞だけど 該当者無しだったんだ
全然 俺では無理なんだって思い知らされたよ」
◇5
自分が 一番 分が悪いような気がする
それでも 人から見ればましなのだろうか
「奥さん すごいね人なんだ~
大手製薬会社の研究員だってね」
「ああそうだけど 何で?」
僕は 悪運がいいのかもしれない
あいつが 紹介してくれたから
でも どうしてあいつが・・・・
「活躍する女性とかで 雑誌に載ってた
あんた 随分愛されてんだ~ はは
それとも 支配されてる?」
「やだな そんな話聞いてないな はは」
「酷い顔してますよ せ・ん・せ・い 大丈夫?」
「やだな まったく・・・・」
◇6
若い頃は 無我夢中で 自分が一番で
今に至っても 恥ずかしいことばかり
「どうしてあの時 言ってれなかったんだ 作家だって
無様だよ 俺 恥ずかしいよ ほんと
あんたのこと もっと前に知ってたら・・・」
嗚呼 何故だろうね そうだね
あの時 僕は 迷っていたんだ 多分
今の僕は 彼よりも ずっと無様だ 消えたいくらいに
「刑事さん 弁護士に頼んで会ってきました
彼 起訴しないでいただけませんか」
「亡くなったんですよ 留置所で 首釣って」
「え? 何故?」
「これあなたに渡してほしいって 時計
職も無く 金も尽きて 他に何にもないからって」
◇7
神様は 時として 残酷だ
それとも 悪魔が強すぎるのか
「おはよう あーちゃん ママは?」
「ママ お外でお話してる
パパ見て ママ テレビでお話してるよ」
内助の功 そう言ってしまえば美しい
分厚い硝子の天井に抑え込まれた彼女の夢は
『著名な作家の妻』と言う優越感
「パパが女優さんとフリンしたんだって」
でも大丈夫 パパはママのことだ~いスキだもん」
「何だって? 何だそれ? うっそ~!!」
「だけど パパが一番スキなのは あーちゃん」
「うん そう そうだよ あーちゃん だ~い好き!
パパの夢は そう もう あーちゃんだけだ・・・」
夢追い人 苔田 カエル @keronosuke3
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