第3話

    ◇1

誰もが 夢を見る

それを 奪う権利は誰にもない


「最近どうだい お前 読んだか」

「嗚呼 読んだけど 

 何だい あれ 酷いもんだね」


昼飯は 学食のできるだけ安い定食

原稿料が安いのは 知名度が低いせい

若いやつらが 本を読まないせい


「もうちょと もらえるかと思った」

「どこも 出版業界は厳しいさのさ」

 儲かるのは これからだ」


「知らない人物は出て来るし ギャグってるし

 僕の作風とは 全然違う

 名が売れても 勘違いされてしまう」


    ◇2

物事のとっかかりとは こんなもの

大袈裟なのは 自分だけ


「読者には 評判らしいぜ

 あれは 確かに 君の作品だ 心配するな

 ただ 足りないものを補ってるだけさ」


何となくどころか やっぱり場違い

やってしまった そう やってしまった

ついついのせられ やってしまった


「僕の名前は いらないんじゃないかな」

「何いじけてんだ

 お前の名前だからいんじゃない」


「どうせ 僕の名前なんて知らないだろう」

「お前なんか知らなくても

 芥蓮賞とか 夏木賞は知ってるさ」


    ◇3

嘗ての栄光は 誇りであったが

今じゃ 積もりに積もった埃で埋もれてら


「僕の作品は 後からじわじわと来る感じだし」

「うるせ うるせ 奥さんが泣いてるぜ

 黙って 見とれや」


本当に 自分の作品と言えるのだろうか

自分一人置き去りにされ 世の中は回っていく

僕には 楽しむ余裕も 受容性も何もない


「バンバン売れてるぜ ばんばん

 俺も 鼻が高いよ」

「え? ああ そうだな ありがとな」


「ケッコウ 結構 大いに結構

 これから どんどん 忙しくなるぞ」

「うん 特にメディアの仕事が増えたな」

 

    ◇4

昨日の自分と 明日の自分の評価は 違うだろう

それでも 自分は自分で 何も変わりやしない


「先生 先生 オファー来てますよ」

「これって バラエティだよね 出ないよ」

「ちょこっと 本の宣伝してもらえまんせか」


露出が増え 妻がやたらと僕を磨きだし

大学では 女子大生が色めきだち

どこか 知らない世界にいるようだ


「先生 お久しぶりです せ・ん・せ・い」

「え? ああぁ・・・・んと・・・・」

「覚えてないんですか 俺です お・れ!」


「いい気なもんですね 先生

 人の夢 盗んどいて テレビよく見てます」

「嗚呼 君か・・・・」


    ◇5

今ある自分は 果たして 本当の自分だろうか

それとも 誰かの夢でも生きているのだろうか


「僕は 何も君から盗んでなんかいないよ」

「確かに 盗んだ ではなく 買った

 僕の夢を 買ったんでしたね」


買おうが 盗もうが それが何だ

僕は 僕なりに いつも真摯に向き合ってきた

どんな物でも 精を尽くして書き上げたんだ


「君 本当に 人の夢 買えると思ってんの?」

「あんた 知ってて 俺から夢 買ったんだろ

 あの原作 けろろん賞の お前っ!!」


「君 御免 何言ってんの?」

「けろろん賞受賞作品が漫画化されるって言ったろう

 それであんた 応募したんだろ」 


    ◇6

いかれてる 見解の相違 いや イカレテル

世の中全てが 殺伐として 混沌として


「君ね 物語の内容 僕は聞いてないよ」

「そんなこと 言ってんじゃね!

 あんた 俺から 原作の地位奪ったんだ!!」 


やっぱり僕は 悪くない

知識と経験と努力とちょっとした閃きと

そして 彼よりちょっとだけいい運と


「あんたには また 俺の夢買ってもらうよ

 さぁ 買え いくらでもいい 買うんだ」

「悪いね 今 持ち合わせがないんだ」


「千円だって なんなら100円でもいい」

「君 気持ちをしっかり持ちなさい

 お金がないなら 区役所へ行くんだ」


    ◇7

神様は 時として 過ちを犯す

それとも 悪魔の仕業か


「うるせぇ! 早く 買え!

 つべこべ言わず 金出せおぉぉぉ!!」

「駄目だ 君 こんなことしてはダメだ!!」


青年は 変わってしまった

初めて会った印象からは ほど遠く

遠慮や はにかみや 恥と言うものが失せてしまった


「あんたのせいだ あんたの

 あんたが 俺から夢を買ったから」

「君 落ち着いて話そう 何か誤解してるんだ」


「買えよ かえよ か・えっ!!」

「やめろ わあぁぁ~ だれかぁ~」

「あんたが悪いんだ あんたがぁ・・・・」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る