第2話

    ◇1

誰にだって 夢はある

もう若いとは言えない 僕にだった


「お前 何時までうだうだやってんだ

 一生 大学の講師で終わる気か」

「うん いい加減 決めないとな」


夢を追いかけ 安月給に甘んじて

うだつが上がらないのは コネがないから

変革を嫌う奴らの 自己保身のせい


「情けないな 全く 僕は紐同然だ」

「何言ってんだ それこそ 情けない

 お前 ちゃんと今でも書いてるのか?」


「勿論 書いてるさ 書いてるとも

 ただ 売れないだけさ」

「そりゃ よかった」


    ◇2

暗闇の出口は 案外意外なことから

ひょんなことから 救われることもある


「どうだ これ お前 やってみないか」

「まじ? 悪い冗談はよせよ

 漫画の原作って 漫画って ちょっと・・・・」


何となく 自分には畑違いとおもいつつ

それでいて 思い知らせたい気もあって

ついつい 揺らいでしまって


「そこそこの漫画家だ 絵はうまい

 何より 若いやつに名が売れる

 当たれば 印税だって結構な物さ」


「だけど 僕の作風ではどうだろう

 派手なアクションも 奇想天外な展開もないし」

「たまには 気楽にやってみろ」


    ◇3

物事は やってみなければ分かりやしない

あらゆる意味で 何もしなければ 一生このまま


「いいな 絶対 出せよ

 住所 渡したからな 分かったな」

「ああ その気になったらな」


本当に 変わるのだろうか

例え 名を売ったからって 変わるのだろうか

この閉塞的な世界が 人々の嗜好が


「何 うだうだしでんだ

 古い考えに固守してたって 何も変わらないぜ」

「あぁ 嗚呼 そうだな」


「一生 奥さんの紐で終わるのか」

「ああ そうだな」

「分かったな じゃな」


    ◇4

今日の自分と 明日の自分は 変わるだろうか

それでも 娘は成長し 妻は出世をする


「パパ パパ ご本を読んで」

「まだ起きてたのか 駄目じゃないか」

「だって パパ 帰ってこないんだもん」


育児して 主夫して 家事が主で

たまに 大学のコマを埋めに出かけて

空いた時間に コラムに翻訳 小遣い稼ぎ


「ママは どうしたの?」

「ママは寝ちゃった 明日早いの

 それに ママのご本は つまんない」


「ねぇ ねぇ パパ お酒くちゃい」

「臭いか は~ どうだ 臭いだろう

 さぁさ ベットで 待っておいで」


    ◇5

自分が 一番 古い人間かもしれない

世の中は変わっていき 自分だけが取り残されて


「さぁ 読んであげるから 目をつぶるんだ」

「ん? やだそれ そのお話はつまんない

 パパはちっとも 分かってない」

 

例え 分かったとして それが何だ

僕は 僕であり 何故 人々である必要があるんだ

しかし 人は人であって 僕も人である


「これ 漫画じゃないの?」

「漫画じゃない ご本よ このお洋服かわいい

 これ これがいい」


「これだって 綺麗だろう お姫様だ」

「やだやだ つまんない これはだめ

 この子 全然 戦わないだもん」 


     ◇6

若い頃に描いた生活には ほど遠く

年を取ればとるほど 格差が広がる


「戦いは終わった

 お姫様は 疲れはて 眠りにつきました

 めでたし めでたし」


やっぱり 僕には 分からない

それは 全て 葛藤だ

この生活も この世の全てが


「さあ 良い子だ お眠り」

「やだ もう一回読んで」

「じゃ 今度は・・・これか」


「違う これ パパ 悪い奴やって

 見て 光線はね こうして出すんだよ」

「わぁぁぁ やぁ~りゃ~りぇだだだぁ~」


    ◇7

神様は 時として 意外な煌めきを降下する

それとも 悪魔の戯れか


「悪は去った お姫様は眠るんだ」

 明日は もっとすごい奴 出て来るぞ」

「きゃははは おやすみなさい」


少女たちは 変わった

自ら 戦いに挑んでいく

妻も そして こんな小さな女の子でさえ


「お前 送ってくれたんだってな

 やればできるんじゃん」

「ああ でもどうかな」


「相手さん いい感触だそうだ

 俺も 面目保てたし」

「え? そっ それはよかった」

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