夢追い人

苔田 カエル

第1話

    ◇1

誰にだって 夢をみる権利がある

どんな夢であったとしても


「どいつもこいつも 馬鹿にしやがって

 何時までも 社会の底辺にいると思うなよ

 俺だって 今に見てろ」


安酒飲んで 不貞腐れて 酔いつぶれて

うまくいかないのは 社会のせい

価値の分からぬ 低俗な世間のせい


「ねぇ 君 大丈夫?

 随分 飲んだようだけど 大丈夫かい?」

「ん? 別に 大して飲んじゃいませんよ」


「ふん それにしては 見られたもんじゃない

 まっ 僕も君くらいの年は そうだったけどさ」

「あ? ふん ふぅ~」


    ◇2

人とのとっかかりは こんなもの

ちょっとした 気まぐれから


「どう見たって 大丈夫そうでもないね

 取り敢えず 水でも飲んで」

「な~に くさくさしただけっすよ」


何となく 横に座って

つい うっかり 隣に目をやり

迂闊にも お節介をしてしまって


「背広着て 良い御身分ですね

 こっちや 万年非正規労働者だ」

「いや 僕も大してかわいやしないよ」


「そんな言葉 聞き飽きた」

「無名の大学の外国語講師だけどね

 更新時期は嫌なもんさ 落ち着かなくなる」


    ◇3

明日のことなんて 誰もわかりやしない

そういう意味では 誰もが 不安定な御身分だ


「あんたもそうだろう 思ってんだろ

 君は まだ若い 死ぬ気で頑張れ

 意気地なしの 怠け者 ってね」


本当に 人は 頑張った分だけ報われるのだろうか

頑張れば どうにかなるとでも

どう足掻いたところで どうにもならないこともある


「僕は そんなこと言いやしないよ

 どんなに勉強したって できのいい奴には敵わない

 どんなに頑張ったって 運のいい奴には敵やしないよ」


「ふ~ん で おじさんはできる方?」

「おじさん? 君 確かに 君よりは年上だけどさ

 おじさんって程の歳でもないけど」


    ◇4

今日の自分は 昨日の自分と 何か変わっただろうか

それでも 5年前の自分は 5年だけ 歳をとった


「僕は できる方の できないやつかな」

「何それ? そのなのありかよ

 だったら俺は できるのに やらせてもらんねやつ」


人は 往々にして 自分に対して過剰評価で

他人からは 過小評価されてると不満に思う

何故なら 自分が 主人公であるから


「優劣をつけるとしたら 僕は 学校の成績がよかった

 でも 同級生と比べたら 今の収入はいいとは言えない」

「俺は 頭も悪いし 金もねぇ」


「でも 君 できるんだろう?」

「ああ 俺なら もっと上手くやってやる

 畜生っ! 俺より馬鹿が のうのうとしてら」


     ◇5

今ある不幸は 果たして 正当な評価なのだろうか

それとも 本当に 不当な評価なのだろうか


「俺は このままでは終わらない

 絶対 あいつら 見返してやる」

「ああ そうだ それがいい」


人の能力に さほど差などは ないのではないだろうか

よほどの 天才ではない限りは

運 不運 そんな星回り 他に 何があると言うのだろう


「俺 有名になって 金持ちになって

 そんでもって もてもてで 日替わりナイトだぜ」

「うん いいね で どうやって?」


「賞 とるんだ 小説書いて

 まだ 賞なんて 1個も取ったことないけど」

「どうせなら 大きい賞がいい」  


    ◇6

妄想なのか 夢なのか 酔いに任せたことなのか

大きければ大きい程 現実は辛くなる


「どうした若いの しょぼくれて」

「ああああああああああああ どうしよう

 派遣切りにあって あああああ 金がない」


給料前は 金がないもの

余分な金なら 尚更ない

無いないどころか 下手すりゃ 借金


「年金に 健康保険に ああ 家賃もあるし

 口座はすっからかんで カードの請求どうしよう」

「えっ? ええええええええ どうすんの?」


「ああ でも 取り敢えず なんとか

 いえ 大丈夫です 何とかなるっしょ

 けろろん賞で 100万はいれば 余裕で・・・」 


    ◇7

神様は 時として 慈愛の微笑みを

それとも 悪魔の悪戯か


「5万でどうだ 5万あればなんとか凌げるだろう」

「え? いや 見ず知らずの人に借りれませんよ

 ダメダメ 駄目 取り敢えず 大丈夫なんで 」


人には 人に言えない金がる

特に 妻には言えない金がある

小遣い稼ぎは 現金に限る


「今日 翻訳したやつ 原稿料が入ってね 

 ね 君 どうだろう 今の話 5万で買うよ

 だったらいいだろう?」


「いや~ でも・・・・」

「若い時分の自分を見るようで 昔にかえれたし

 それに 本当は ない物は 無いんだろう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る