隧道(トンネル)
紫 李鳥
隧道
その小さな村の生活道路は、一本のトンネルしかない。
ストアに行くにも、駅に行くにも、そのトンネルを通るしかない。
狭いトンネルをバスやトラックが行き来する。
自転車に乗った女は、赤ん坊をおんぶしていた。
「おぎゃー、おぎゃー」
「ほれほれ、泣くな。もうすぐトンネル抜けるで」
その瞬間、トラックが通り過ぎた。
グゥオー!
「……」
「お、泣き止んだか?」
トンネルを抜けると、緩い下り坂になっている。
ストアまで来た時だった。店から出てきた客が女を見た途端、
「ギャーッ!」
と、叫び声を上げて逃げ去った。
「なんだ? 変な人だね」
そう思いながら自転車から降りると、何やら丸いものが坂を転がってきて、女の足元で止まった。
何かしらと視線を落とすと、その丸いものにはうっすらと髪の毛が生えていた。
隧道(トンネル) 紫 李鳥 @shiritori
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