第20話

「ビックリした。どうしたの?顔色悪いけど、大丈夫?」

「先生、分かってしまったかもしれません。」

「どういうこと?」

 気遣うような表情から一変して訝しげな表情をした彼女が説明を求めたので、樹は自分の答えを話した。記載されている内容が一般人には知り得ないことで、彼女が鳳学園に通っていることは彼女の学校関係者とフリーの報道関係者のみで、彼女が通い始めた時期や細かいスケジュールを知っていることを条件に付けたことを。

「その中には確かに候補者はまだ多いです。担当編集者の成宮もその1人ですが、彼の言葉を信じるなら、彼は報道があるまで把握していなかった。そうなると、フリーの報道関係者ですが、彼らもそうなのかと言われれば疑問が残ります。特に、この通院時間を正確に把握するとは思えません。彼らなら、通院していることだけしれればいいはずです。」

「それもそうね。」

「そうなると、僕は1人だけ知っています。学校関係者で通い始めた時期やスケジュールを把握できるような人を知っています。」

「ちょっと待って。まさかと思うけど。」

「はい、僕は伊藤教授のお孫さんを疑っています。」

 そこに沈黙が落ちた。彼女は大きく息を吐き椅子に座り込み頭を抱えた。

「もちろん、推測に過ぎません。」

「いいえ、それは合っているかもしれないわ。」

「どういうことですか?」

 顔を上げた彼女は樹を見上げてため息を吐いた。

「報道から数日過ぎた頃から伊藤教授が孫の秀則の様子が変だって相談を受けていたから。」

「仲が悪く見えてましたけど、実際はいいんですね。」

「今、そんな話はどうでもいいの。」

 樹が惚けるといつもは苦笑で流す彼女が睨みつけてきたので黙り、先を促した。

「それで、昨日の夜に会いに行ったら、彼、私の方を見て逃げ出して結局それから会えなかった。」

「なるほど。もしかしたら、どこかの報道で自分がした話が出ていて気まずかった可能性がありますね。」

「そういうことよ。誰に話したのか聞かせてくれればいいけど。」

「その前に、正義感の強い彼なら公衆の面前で彼女に土下座という流れはさすがにないですよね。」

 樹は一度会った彼の性格を考えて今後の行動を分析して冗談交じりに言うと、急に立ちあがった彼女の方が顔を青くした。

「まずいわ。」

「本気ですか?」

「ええ。本当に。」

 それから、桐山教授は急いで伊藤教授に電話をして、孫の秀則が情報漏洩をしている可能性と彼が先走った行動に出ないように注意して欲しいと言った。用件のみだったが、向こうからはただ了承の答えだけで理由は聞かれなかったようだ。

「これで一応は大丈夫だと思うけど、今後が大変ね。」

「そうですね。先生、もうすぐ診察開始の時間です。」

 壁掛け時計で時間を確認した樹は診察スケジュールを桐山教授に渡して、樹は診察室に向かった。少しだけ進展し、不安の気持ちが収まるはずなのに、まだ晴れないことがあるのか、少し足が重く感じた。まるで、机に体を引かれているようだった。もう少し、その意味を考えておけば良かったと思った。

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