第17話

 それから、数日後の朝、いつものように出勤し部屋で作業をしていたところに桐山先生が駆け込んできた。肩で息をしており焦燥感に駆られていた。そのまま、手に掴んでいた新聞を持って彼女は樹の方に歩いていた。

「これ、本当なの?」

「え?」

 彼女の押し付けられるようにして受け取った新聞を開いた。折り目が付いていたので、新聞を広げると自然とある一面が顔を覗かせた。その開きの記事を見て樹は目を見開いた。

“リン・ヒイラギ、執筆活動を引退”

という見出しが目に飛び込んできたからだった。

「詳細を読んでみて。」

 思わず顔を上げた樹に桐山先生が先を読むように促した。概要としては、精神科に通院していることで、精神的な問題があり執筆継続が不可能であるため、今後引退をするという内容だった。しかし、そこに、彼女自身のインタビューは記載されず名前が伏せられた編集者のインタビュー記事のみだった。

「私には何とも言えません。でも、彼女は仕事に対して先週は特に言っていなかったし、口調も沈んだ様子はなかったことは事実です。」

「そう。」

 桐山先生は頷いた。

「とりあえず、今後に注意しましょう。精神科通院のネタをどこから取ったか分からないけれど、それを知った記者があなたや私だけでなく、病院関係者に接触を図る可能性もあるわ。誰もが守秘義務は心得ているとは思うけれど、中にはそうではない人もいるかもしれないから。理事の人や院長に言っておいて、ちょうど今日会議だから今日中に徹底してもらえるように頼むわ。」

「申し訳ありません。よろしくお願いいたします。」

 樹は頭を下げた。それに、桐山先生は笑みを浮かべて、

「気にしないで。これは病院全体の管理不足なんだから。」

 と言った。その言葉はとても心強く感じた。

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