第一章
第1話
桐山先生の診察室でいつものように診察スケジュールの確認をしていると、樹は1人の昨日見た時はなかった名前に首を傾げた。樹は真面目で細かい性格のためか、前日に必ずスケジュールの確認をしているので、次の日の朝は大抵再確認という形になた。その方が確実で樹の精神的にも安心できるからだった。しかし、この日は初めて前日と当日に差が出ており、しかも担当医は自分になっており、一番最後、つまり、精神科の診察受付時間の最終になっていた。
それに悩んでいると、桐山先生が診察室に入ってくる。
「おはようございます。桐山先生。」
「おはよう。内山先生。」
いつものように挨拶をすると、60歳間近の32歳の自分と同い年の娘がいるようには見えないほどに若々しい彼女は今日も溌剌と挨拶を交わした。彼女は樹が持つスケジュールの紙を見て苦笑し、樹が疑問を抱いていることを察したのか彼が何か言う前に彼女は口を開いた。
「ごめんなさい。実は、昨日内山先生が帰宅した後に予約が入ったの。それで、何の了承も得ずに内山先生の方に差し込んでしまったのよ。」
と、彼女は樹に対して謝った。そこで、昨日は桐山先生が論文の資料作成で残業しており、樹は通常通り診察時間が終了し少し休憩した後18時に帰宅したことを思い出した。
「そうですか。別に構いませんが、こんなに急なのは初めてですね。」
「そうなのよ。昨日の21時に予約が入ったのよ。私もここを出る寸前だったわ。」
「そうなんですか。」
困ったような様子の桐山先生に樹は朗らかに笑った。
「大丈夫です。難しい年ごろみたいですけど何とかやってみます。」
「ありがとう。助かるわ。何かあれば言って。」
「はい。ありがとうございます。」
樹の言葉に桐山先生は笑みを浮かべて励ました。"難しい年ごろ”だと言ったのはそこに書かれた柊凜(ひいらぎ りん)という名の人が14歳と名簿に記載があり、ちょうど思春期にあったからだ。その場合だと大抵は相手の悩みを引き出すまでの関係を築くのに時間がかかるのは桐山先生も樹自身も分かっているので、桐山先生はそんな言葉をかけてきたのだった。
そんな予想がされる診察が最後になっていることに樹は隠れてそっとため息を吐き重くなった心をいくらか軽くして、それから、2人でミーティングをして通常運転に切り替えた。
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