第8話 『ようこそ、体育教官室に!』

 数学の小テスト中の事である。難しいなー。


 最近、勉強に付いていけなくなっているきがする。


 お花畑で遊ぶ夢ばかりみる。死亡フラグかな……。きっと大学受験に失敗して病んで自決するに違いない。


「実星、テストできた?」


 友人が声をかけてくる。


「不可能だったよ」


 そんな会話をしていると。ナタリーが教室に入ってくる。


「実星、お前、バカらしいな」


 ぁあん?何を言い出すかこの天才幼女は……。


「数学の先生に面倒を見てくれと頼まれたぞ」


 あいたたた。


 無駄に天才幼女と知り合いなのは損である。こんな阿呆に教えて貰うとは屈辱そのものであった。


 待てよ……。


「わたしは最近、お花畑で遊ぶ夢を見るのだ。これは不治の病にかかっているのだよ」

「……」


 よし、天才幼女を黙らせた。これで個別授業は無しだ。ナタリーはゴソゴソとポケットをあさり、飴ちゃんを取り出す。


「クスリだ、飲め」


 わたしは飴ちゃんを受け取ると。渋々、ナタリーの個別授業を受ける事にした。阿呆でも天才幼女だ、普通に教えを乞うのであった。


 ナタリーが自国に帰るらしい。理由は親の介護とか生々しい。お手伝いさんを雇えば解決はするらしいが微妙な判断である。


「ナタリー、日本の高校では不満か?」


 ナタリーにとってみれば日本など極東の島国である。声をつまらせるナタリーはこの世界の中で日本を選んだ事に失敗はない様子であった。


「わたし……帰りたくない」


 うむ、その言葉を待っていた。ナタリーはMITで博士号を取った天才幼女である。


「わたしが教育委員会に殴り込んで、給料を上げる様に言ってやる」


 体育教官室で話を聞いていた三島先生とその他二人も付いてきてくれるらしい。体育の授業の無い時間を見計らって、県庁に出発である。バスで一時間程揺られて県庁所在地に着くと15分ほど歩く。


「ここが県庁か……」



 見慣れないビルにおくしていると。


「ナタリーの給料を上げて介護の人を雇えるようにしましょう」


 三島先生は決意表明を口にする。それから、教育委員会を探して扉の前までやって来た。


 あぁー緊張するな……。


 案内に従い小さな会議室で偉い人を待っていると。温かいお茶を出される。


 姿の偉い人が入ってくると、大人三人は名刺交換をする。


 ナタリーにも名刺があったらしいが捨てたとのこと。天才幼女にそこまで求めるのも問題である。ちなみにわたしは名刺などしらん。そして、偉い人にナタリーの必要性を説き演説する。


「分かった、肉親への介護手当を付けよう」


 これは大勝利であった。


 さて、それから十年後の事である。わたしは体育教師になり県立高校で働いていた。春の移動でようやく母校に勤務ができるらしい。県内でも有名な高校なので正規で入るのに時間がかかった。ナタリーとは腐れ縁で何となくメール交換をしていた。わたしは今なら胸を張って言える。


 『ようこそ、体育教官室に!』

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ようこそ、体育教官室に! 霜花 桔梗 @myosotis2

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