おむすびじねす

水無月やぎ

おむすびじねす

 ウィンウィンな関係というのは、どこの世界でも大切なようで。


*********


 ある日おじいさんは、山での仕事を終えて、お昼を食べようとしていた。

 今朝おばあさんが握ってくれた、つややかなおむすび。


「今日もおじいさんのお好きな具を入れておきましたよ。……いってらっしゃいませ」


 そう言っておばあさんは、おじいさんに大きなおむすびが2つ入った包みを渡した。

 このおむすびのおかげで、仕事にも精が出るというものだ。

 高揚する気持ちを抑えられずに包みを開く。だが、次の瞬間だった。

 何ということだろう、まん丸の大きなおむすびが、勢い良くコロンコロンと転がっていくではないか。

 慌てておじいさんは追いかけるけれど、徐々に速度を上げながら斜面を転がるおむすびに、老いぼれのもたついた足は追いつかない。「待てぇぇっ!」と声だけ張り上げるが、その言葉を聞き入れてくれるような従順なおむすびではないようだ。

やがておむすびの姿が消える。どうしたことかと思って見ると、これまたそこそこ大きな穴が1つ。おむすびはこの中に吸い込まれてしまったようだ。


 はて、こんなに大きな穴があっただろうか?

 不思議に思っておじいさんが穴を覗き込んでみたら、手を滑らせてそのまま穴に落っこちてしまった。

 ごろんごろん、ごろんごろん。

 おむすびのようにおじいさんも転がっていく。

 穴の奥底に着いたらしく、耳を澄ましてみる。すると聞こえてくるのは、何だか楽しそうでにぎやかな声。

 おじいさんがそっと奥の様子を伺うと、そこには先客のおむすびが。そして、その周りで小躍りしながらおむすびを切り分けて食べているのは、何とたくさんのねずみ!


「あれ、おじいさん、どうされたんですか」


 気づいたねずみが踊りをやめてやってくる。


「いや、その……おむすびが転がってしまって、追いかけていたらわしも誤って穴に落ちてしまってだな」

「なんと……これは、おじいさんのおむすびでしたか!……ほっぺたが落ちそうなほど、うまくてうまくて!」


 おむすびを勝手に食べられたことに最初はムッとしたおじいさんだけれど、愛するおばあさんの味を褒められると悪い気はしない。


「そうかそうか。では、明日も食べるか?」

「いいのですか?! ありがたや、ありがたや!」


 そうしておじいさんは、毎日1つのおむすびをわざとコロンコロンと転がして、穴の中のねずみにあげるようになった。

 ある日おじいさんがいつものようにおむすびを転がそうとすると、「おじいさん、お話が」という声がした。おじいさんは声の主を見て驚いた。

 以前話したねずみが、穴から出てきておじいさんの横に座っていたのだ。


「毎日毎日、美味しいおむすびをありがとうございます。遅くなりましたが、何かお礼をしたくって。……おじいさん、何かお望みのものはありますかい?」

「いいのか? ほぉ、そうだなぁ……」


 そう言って考えるおじいさんの頭には、可愛い可愛い孫たちの姿が。


「では、こういう条件でどうじゃ?」



*********


 多くの老若男女が、今日もここを訪れる。

 瞳をキラキラと輝かせ、しばしこの世界のことを忘れて。


 おじいさんの厚意に胸を打たれたねずみは、今日もたくさんの人間を笑顔にしている。


「わしらが元気な限り、ねずみさんにはおむすびをあげよう。その代わり、孫たちにとっての、夢の国を造ってくれないか」


 そう言い遺した、おじいさんを想いながら。




 ん? これは、どこかで見たようなお話……? そして、あなたもよく知っているあの場所……?


 まさかねぇ。



 あくまで1つの、仮説ですよ。

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おむすびじねす 水無月やぎ @june_meee

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