第72話 核兵器
ハオウ国地下にある、新兵器の実験場には、ジャギーから奪ったプルトニウムの結晶が厳重に管理されており、ゼロから放射能の知識を得た科学者達は、「何故こんな危険なものを自分達は扱うんだ?」と、未知の鉱物に畏怖の念を送る。
核兵器の製造には特殊な機器が必要なのだが、ゼロは製造の知識をレオン達に教え、レオンの指示の元、急ピッチで製造して使えるようにしている。
「……」
「なぁ! こんなクソ凄いものを作れるだなんて記念すべき日だな、がはは!」
バモラは、今自分がやっている事が、決してやってはならないタブーを犯しているという自覚はなく、最強の兵器ができたと、虫歯とオモコを吸った時に出る成分で黄色く染まったボロボロの歯を見せばらかすかのようにして口を大きく開き高笑いしている。
その様子を見たレオンは、「こいつは本当に、一国の主人で模範になる人間なのか?」と心の中で思い、ここで意見をすれば、いくら自分に腕が自信があるとはいえ、精鋭の兵士や魔導士達に敵わないと、心の中で深いため息をついた。
「ククク、流石よなレオンよ……! 貴様を拾った甲斐があったものよ! 貴様にはこの国のために尽くしてもらわなければ困るからな!」
バモラは脂ぎった、手垢だらけの小汚い手でレオンの金髪のサラサラヘアの髪の毛をくしゃくしゃに撫でており、それを見た周囲の人間はかなりドン引きする。
ドタドタと慌てる様子で階段を駆け降りてくる者がおり、「五月蝿いな」とバモラはレオンの頭から手を離して鼻くそをほじり周囲を沈黙させる。
「失礼致します! 今しがた入った情報によると、エドガーとジャギーが研究中の魔道杖と眠り薬、回復薬を持って逃走したと!」
「何!?」
バモラは鼻くそを口に入れようとしたが、ぶっと吹き出し、周囲の冷ややかな視線を一斉に受けているのにも関わらず耳をほじっている。
「だがあいつはもう用無しだ! プルトニウムが手に入り、核兵器ができるからな! 皆殺しにしてやるわ、ひひひ!」
こいつはもう終わりだな、とレオン達は心の中でため息をつき、明らかに精神に異常をきたしている列強の王の下に生まれた運命を悔やんだ。
🐉🐉🐉🐉
遺書を書き終えた勝は、言い表せない絶望を一周回って通り過ぎ、自分の人生を達観した高僧のような、「人生は諸行無常だ」という観念になっている。
(特攻隊の人達も、俺と同じような考えだったのだろうか……?)
他の連中と言えば、昼間なのにも関わらず酒を飲んで歌を歌うという、人生を投げ捨てた放蕩者があちこちで見られるが、どれも共通するのは、明日迫り来るであろう「死」の悲壮感である。
(これは今までの戦いの比では無いぞ……!)
ラバウルで初めてP38と対峙した時の恐怖に似た、自分よりも遥かに強い相手と戦う、圧倒的で絶望的な感覚を勝は抱き、公園を散歩しながら気晴らしにとオモコを口に加えると、後ろから肩を叩かれる。
「勝」
「アレンさん……」
アレンは気を紛らわすために強い酒を昼間から飲んでいるのか、肌は真っ赤で、目は充血し、酒の匂いをぷんぷんと撒き散らしており、「やはり誰でも死ぬのが怖いんだなあ」と勝は普段性格が悪くてあまり好きでは無いアレンに、今日だけは親近感を覚える。
「遺書は書いたか?」
「え、ええ……」
「なぁ勝……」
「は、はい?」
「お前の世界で、死を紛らわせる薬って無かったか?ヒロなんとかってやつとか。あれ持ってるなら俺に売ってくれないか?」
「い、いや、それはできない! アレンさん、現実と直視して向き合うんだ! 誰も死から逃れられない! 平等に訪れる自然現象なんだ!」
勝はごもっともらしい綺麗事を述べているのだが、ヒロポンを取っておいておけば、死ぬ時の気晴らしになれたのではないのかなと後悔している。
「あぁ!? 自然現象ったってよぉ、こんなクソのような国のチンケな戦争で、早死にするんだぞ俺ら! まだ25ぐらいだしよ!」
「いや、それは俺がいた世界では当たり前だ! 総玉砕という概念があった! 戦争に行く以上は、命を投げ捨てる覚悟でやらなければ勝てない!」
「でもてめえんところの国、ピカドン落とされて負けちまったじゃねぇか! アメリカだかそんなよくわかんねー変な国のパシリにされちまっていいとこねーな!」
「なんだと貴様!」
「あ!? やんのかこら!」
アレンは懐から刃物を取り出し、勝はつい咄嗟に刀を鞘から抜き出し身構えるが、体が動かず、「これは金縛りの術か?」と勘繰る。
「落ち着いて! まだ死ぬとは決まったわけじゃないでしょ!」
後ろからは、ヤックルの声が聞こえ、マーラは慌てて勝達から刃物を奪い取り、アレンのほおを思い切り張り倒す。
「ねぇ、そんなにやけにならないでさ! 何とか勝って生き延びる方法を考えようよ!? 勝つのはほぼ無理ゲーなんだけどさ、でも万が一にも勝つかもしれないじゃない!? それまでさ、……生きようよ!」
ヤックルもまた、飲めもしない酒を大量に飲んだのか服のあちこちに吐瀉物の跡がついており、胃液の匂いが立ち込め、勝はその様子を見て痛々しく思い、思わず目を背ける。
「そうよ! まだ分からないじゃない! どうなるかさ! ねぇ、最後にまたみんなで飲もうよ!」
マーラは目に大粒の涙を溜めながら、最後の集まりになるんだなと心のどこかで諦めをつけ、彼等に最後の晩餐をするように持ちかける。
「あ、あぁ、そうだよな……」
「そうだな、飲もう……」
勝達は、マーラが泣いている姿を見てかなり気まずくなるが、死の恐怖がすぐに込み上げてきて気分がかなり悪くなり、気晴らしに無性に酒が飲みたくなった。
🐉🐉🐉🐉
もはやドブネズミの根城と化した、ハオウ国の地下通路をエレガー達は「こんな所二度と来たくないな」と心の中で呟きながら足早に光の刺す方向へと進んでいく。
「ねぇ、出口ってここかしら?」
ジャギーは暑いのか、胸のボタンを開けており、それをエレガーは思わず凝視しそうになりながらも、辛うじて自分を保っている。
「あぁ、マップを見るとおそらくはここだ」
『……聞こえるか? こちら、武器倉庫にいる、中は誰もいないぞ……』
「分かった、今ジャギーと合流した。これからそちらへと向かう」
エレガーは魔法石から出てくる声に向かいそう受け答えをし、バッグから紙を取り出して辺りを見回す。
「さっきの人誰よ!?」
「レジスタンスだ。やはりこの国に反感を持ってる人間は一定数いる」
「……!ねぇあんた、まさか、内側からこの国を壊すつもり!?」
「あぁ、当たり前だ。真正面からやっても勝てる相手ではないから、内側から壊す。それだけだ」
「流石ね……!」
ジャギーはエレガーの絵図を聞き、寝耳に水だったがこれでは上手くいくだろうなと期待をし、胸のボタンのフックが外れたままだったのを気がつき、慌てて胸に手をやった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます