第69話 父と息子

 ハオウ国では、粛々と最終戦争に向けた準備が行われており、厳しい独裁政権を行ってきたせいか誰も異を唱えるものはおらず、軒並み長い物には巻かれろと言った具合である。


 核戦争による地殻変動で、この大陸ができ、開国してからずっと続く、シャルム一族による暴圧に腹を立て、過去に勇気のある先人達により何度か革命が起きた。


 しかし、軍部による徹底的なプロパガンダにより、その度にその芽は潰されてしまい、誰も逆らう者はいなくなってしまった。


 それ以来、思想は昔から変わらず、血気盛んな学生の如く喧嘩上等、自分が一番強いから従えというお山の大将的な考えが蔓延っていた。


「ほう、こいつの持ってる宝石が、なんか凄そうなんだな……!」


 シャルムは、いかにも器が小さいと言った姑息な笑みを浮かべながら、ジャギーの首にかけられた宝石をニヤリと笑い、セクハラ親父といった目線を投げかけ、ジャギーの胸を鷲掴みにする。


「……!」


 ジャギーは、自身の自慢とも言える人一倍でかい胸が、油ぎった好色爺のシャルムに揉まれているのに酷いショックを感じ、大粒の涙が零れ落ち、それを見ているエレガーは思わず目を背けた。


「胸もでかいしなあ……!」


「触るんじゃねぇよ、この糞爺! てかなんで、私を売ったんだよ!」


「……」


 エレガーは、申し訳そうに口をつぐんでおり、ジャギーは、彼が何かを企んでいる様子である事を窺い知ることが出来ているのか、今直ぐこの場から脱出をする事を頭に浮かべている。


「この糞野郎!」


「ククク……! でかしたぞ、我が息子よ!」


 もはや老害と化したシャルムの高笑いが部屋に響き渡り、息子、という言葉にジャギーは驚きを隠せず、複雑な表情を浮かべているエレガーを見やる。


 🐉🐉🐉🐉


 部屋の主がいなくなり、静かになった結界を作る部屋に勝達はおり、何故エレガーがジャギーを拉致したのか疑問に感じている。


「陛下、玉砕覚悟で特攻しましょう! あんな、核兵器とかいう強力な兵器が使われたらこの国はおろか、この大陸自体がメチャメチャになる!」


 アランは、苦悶に駆られているカヤックに直訴しているが、強大な国家には勝てるとはつゆとも思っておらず、心の片隅では「とっとと降伏してくれ」と思っている。


「いや、リアルに降伏しましょうよ! あんなヤバいもん使われたら俺ら終わりっすよ!? 放射能とかって魔法でも治せないっぽいし! 全滅したら元も子もないですよ!?」


 軍国主義に染まっていないアレンは、命が惜しい一般市民寄りの思想の持ち主である為、本心とは別にあるのだが、体裁を整える為に、馬鹿の一つ覚えのように玉砕を軽々しく口走るアランの意見に異を唱える。


「そうですよ、ヤバいですって……!」


「一巻の終わりっすよ……!」


 ヤーボやヤックル達他の兵士も、元々が平民の出身であり、アランやトトスのように根っからの職業軍人ではない為、多大な被害を被る核兵器を持つハオウ国とは一戦を交えたくないのである。


「……」


 カヤックは顎に手を当て、何がいい名案が浮かんだのか、それとも諦めたのか半ば開き直った表情を浮かべ、勝をじっと見つめて口を開く。


「勝、一軍人として聞きたいのだが、貴様はハオウ国と戦いたいか?」


「え……?」


 勝は予想外の質問に、思わず情けない声が出てしまい、軽く咳払いをして、先程に達観した様子のカヤックの顔を思わず二度見する。


「いや、変なことを聞いているわけではない。私はこの戦争を終結する気でいるのだが、貴様はどう思うか?」


「いえ、この戦争に勝ち、元の世界に戻りたいです! 私には、日本を守る使命があります! それがもはや、負けているのは知ってても、変えられない運命は無いのではないかと思っております!」


「ほう……そうか」


 カヤックは勝の真剣な眼差しを見て、何か思い当たる節があるのか、掌を翳し詠唱を始めており、ごく一部の人間にしか使えない物質召喚魔法だなとゴルザは分かった。


「……!?」


 ところどころに虫食いの跡があり、年季が入った分厚い書物が空間の逆目から召喚され、それは代々から伝わる歴史の書物だなと上層部の人間はすぐさま分かり、只事ではない事態だと血の気がひく音がしている。


「閣下、これは重要なものでは……?」


 トトスは、毎年学校に浪人している学生が使うような古びた分厚い書物が、重要な機密文章だというのを重々理解しており、何故このタイミングでこれを出すのか頭を捻っている。


「いや、今はそれを言ってる時ではない、非常事態だ。勝、貴様に今から、この国が何故危機に陥っているのか教えてやる……!」


「……!?」


 勝は、鬼気迫るカヤックの様子を見てかなりの非常事態なんだなと察し、自分が、一個人の力ではどうにもならない、この世界の大きな流れに飲まれていくんだなと得体の知れない恐怖に襲われている。


 🐉🐉🐉🐉


 幻魔暦元年、まだこの世界が朧げな空気に包まれており、有機体自体が存在していない時期であったが、ある時大陸の端の方、封印の洞窟のある場所から髪や瞳が緑色の人類が出てきた。


 彼等は何かを知っており、この世界に必要な物質を生成する機械を使い、生活に必要なものを作り出す。


 また、動物などの生き物も洞窟から出て来たが、地球上に存在しない明らかに異質な生き物であり、それはこの世界に適合する為に作られたのか、遺伝子操作を繰り返して生まれたキメラである。


 単細胞分裂を繰り返して増殖し続ける、その奇妙な生命体は様々な生き物に分岐していき、やがてドラゴンが生まれる。


 この世界に根付いて暮らす新人類の中で、在る者が鈍色の鉱物を封印の洞窟から出し、加工を始め、聖杯を作り出す。


 洞窟に眠っていた書物には聖杯の作り方と使い方が書いてあり、それの役割を果すのは、ドラゴンの生き血が必要であると書物には記載されていた。


「どうにもならない災害が起きた場合、ドラゴンの生き血を捧げ、雷雨の時に高台で天に掲げろ」ーー


 新人類のリーダー格の人間は、新種のウイルスによる風土病で死ぬ間際に、全てを悟った顔で他の人間達にそう伝え、息を引き取った。


 新人類達はやがて大陸に移動していき、4つの国を作り出す。


 聖杯の存在は、ムバル国が管理する事となり、代々からの伝承で、20代目の王であるカヤックはこの国が未曾有の災害に襲われた時に聖杯を使う事を決めた、それが四カ国戦争である。


 ある酷い雷雨の時、若いレッドドラゴンの生き血を聖杯に捧げ、天にかざすと雲が開き、空間が歪み、零戦に乗った勝が出、空間移動による極度な負荷で気を失っていた勝は操縦不能になり墜落した。


 そこから後は、彼等が知る通りであるーー



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