第66話 核戦争

 幻魔暦よりも遥か数十億年前、ほんの小さな隕石の一つに過ぎなかった地球は幾多もの隕石の衝突を繰り返し、地球の核となるものが出来上がった。


 それは大気を生成し、隕石の中に含まれる水蒸気から水が生まれ、酸素が生まれ、生命の元となるベースが自然に出来上がったのである。


 数千年後のある日、海が出来て生物が活動を行える初歩的な環境になった地球に、宇宙の彼方から飛来した隕石が衝突し、そこには原子の元となる化合物が入っていた。


 それは幾多もの化学変化を繰り返し、原始的な単細胞生物が生まれ、細胞分裂を繰り返し、やがて多細胞生物に進化し、海から陸上に上がり地球を跋扈する恐竜になるまで何万年もの時間を要した。


 人類が生まれたのも、猿などの哺乳類の一種からの遺伝子の突然変異に近い、過酷な環境に適合した進化が生じた為である。


 初めは弱々しかった人類は協力し合い知恵を振り絞り、石器などの原始的な道具が生まれ、強大な敵であったマンモスやサーベルタイガー等の大型の哺乳類を徐々に制圧していった。


 そして、食糧を生産できるようになり、村などの共同体が生まれ、人類の数は自然に増え始め、町となり、国家を形成し、医療や機械が生まれ、やがて蒸気機関による産業革命が起き、文明はますます発展した。


 しかし、食糧や資源を奪う目的で略奪や戦争が起き、皮肉な事にそれをきっかけにして科学は発展していき、ある日、人類は決して作ってはならないものをとうとう作ってしまう。


 原子爆弾ーー人類が初めて手にした人工の太陽である。


 第二次世界大戦中、それは広島と長崎に使われ、既にもうその頃は、日本は欧米との圧倒的な戦力差により壊滅的であったがこれが致命的となり、放射能汚染による奇形児の遺伝等、後世にわたる多大な被害を被った。


 終戦後、あまりにも陰惨な出来事を経験した人類は何度も話し合い、二度とこの兵器を使わない協定が世界で結ばれたものの、威嚇の意味合いで核兵器を作る国家が現れ始め、本当の意味での平和な世界は無くなった。


 しかし、20XX年のある日、とある小さな国で小規模に起きていた紛争は瞬く間に大きな戦争の火種となり、核戦争が勃発、再び世界は悪夢に包まれる。


 数年後、世界各国は停戦を結んだものの、放射能づけとなった世界で生き残れる人間はごく僅かであり、生き残った人類は技術の全てを結集し、人工知能『ゼロ』を作り上げる。


 膨大な書物やデータを読み込み深層学習を行ったゼロの指導の元、放射能が減衰した数百年後に生き残れる人類を遺伝子操作により作り上げる、それは葉緑体を人体に備え、自分で光合成が行える新人類である。


 人類が滅んだ後に新人類が活動をできるようにした後、程なくして人類は滅亡を迎え、原子力エネルギーで長期間の活動が行えるゼロだけが、前時代の知識を後世に残す役割となった。


 🐉🐉🐉🐉


 『……と言う訳で、皆様は旧人類が作り上げた遺伝子改造された人間です。あっ、お隣に居られる方は旧人類の日本人ですね〜』


 ゼロは、驚愕の事実を突きつけられてただ立ち尽くしているアラン達の心境を察する事無く、飄々とした口調で話しかけている。


(彼等は、体の内部の設計図を改変して作られた人類だったのか、道理で、緑色の髪と目には合点がいった、あれは今まで見聞きした限りでは、そんな色を持つ人種はいなかったからな……! しかし、日本が負けた、だと……! 特攻隊? 桜花? 原子爆弾とは……!)


 勝は、ゼロの非常に丁寧な口調での、ホログラムの動画を使った説明により脳に膨大な量の情報が入ってきたのと自分のアイデンティティと言っても過言でない、日本が原爆や一億総玉砕の特攻により壊滅寸前の被害を被り、一時的とはいえ憎き米国に占領された事が酷いショックだったのか、一筋の涙が零れ落ち、失禁をしている。


「うわ汚ったねえ、こいつ失禁してやがる!」


 アレンは過労が祟り濃い成分が混じっている尿の匂いに思わず心の中で思った事を口に出してしまい、周囲からは失笑が漏れる。


「あ!? 何がおかしいんだ! 俺の故郷が、日本が……占領されたんだぞ! しかもアメリカに! 変な爆弾を落とされて! 更に腑抜けにされたんだ! 愛国精神溢れるものはごく僅かになり、売春や博打、愚連隊が幅を利かせ、スマートなんとかという変な箱に取り憑かれた連中ばかりでロクに経済を回す者はいない! コロナとかいう変な疫病によって十数年間は散々たるものだ! それから立ち直ったものの、自殺者が大量に増えてしまって、経済もダメになり、欧米になめられ続けて……こんな国になるだなんて、俺は何のために戦ってきたんだ……!?」


 勝は終戦時の日本人と同じく、大粒の涙を流し、地面に膝から崩れ落ち、コードが張られた床を何度も叩く。


 その様子を見て、誰も笑う者は無くなり、少年期からの軍事教育による、根っからの軍国青年だった勝の心境を、職業軍人であるアラン達は「あれは洗脳だったんだな」と気の毒に見つめている。


「勝、凹む気持ちはわかるんだが、君が元にいた世界に帰れば歴史は変わるんじゃないか?」


 ヤックルは複雑な表情を浮かべて、地面に突っ伏して大粒の涙を流している勝の肩を叩き、話しかける。


「歴史が、変わるだと……?」


 勝の顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっており、それを見たヤックル達は、失礼だとわかっていても本能には逆らえずに失笑が起こる。


「ねぇゼロ、歴史って変えられるの? 勝が元の世界に帰ったら?」


『残念ですが、タイムトラベルは今までで成功した試しはありません。ウェブの匿名掲示板上でタイムトラベルをして来た人間はいましたがフェイクでした。理論上では成功した試しはありません。従って、歴史を変えられるのはできません』


「うーん、じゃあさ、勝が未来に来た時に入り込んだっていう現象って何? 実はさ、こんな事があったんだ……」


 ヤックルはゼロに向かい、勝がラバウルでの戦闘中に虹色の雲に入り込み、今の世界に転移した事や、封印の洞窟でオーパーツを見つけた事を話す。


「……という訳なんだ」


『それは、核シェルターに保管されていた前時代の書物ですね〜』


「核シェルター?」


『核攻撃から身を守るためのシェルターです、核戦争時に使われていたのですが、もし新人類が戦争をまたする時に必要な事が書いてある本が置いてあります』


「え!? ねぇそれってさ、英語とかっていう言語のものかい!?」


『はい。化学式が書いてあるものです、あっ、以前ここに来た白人の方がその本を持っていて色々と聞いてましたね〜』


「何!? どんな奴なんだそいつぁ!?」


『今からお見せいたします』


「……!!」


 そこには、ハオウ国の衛兵と共にいる、レオンの顔が映し出され、やはりなと勝達は深刻な表情を浮かべた。

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