第64話 拷問
「まさか、あんなすごいものがここにあるとはな……」
アレンは零戦の残骸を見て、今まで見たことがないオーバーテクノロジーの凄さに恐怖の入り混じったため息をつく。
零戦の墜落地点に彼等はおり、サンプルを採取している、今後の兵器の開発や状況分析をするためである。
「これさ、作るのに文明が500年ぐらい発展しないとまず作れないよ、この発動機って機械。現代の文明の機械とは比較にならないレベルだよ……」
ヤックルが焼け焦げたエンジンのシリンダーを手にとってまじまじと見つめているのを見て、「この世界の技術力ではシリンダー一つ作れない程度なのだな」と勝は思いオモコにゴードンがくれたライターで火をつける。
「そんな事よりも、ゴラン国にいくのが先だ、人質はここにいるからな……」
アランはゴードン達の腕に手鎖を付け、刃物を首筋に当てながら、歩くように指示をしている。
(バターンでは、灼熱の最中に捕虜と共に長い道のりを歩き、多数の死者が出たと聞くが、彼らは刃物を当てられているから生きた心地はしないだろうな……)
勝はゴードン達の事を気の毒に感じ、もとの世界にいた時にラバウルで、バターンの死の行軍と言われた惨状を噂で聞いたのを思い出している。
「しかしよお、ヤーボカチカチに凍っててさ、回復呪文をかけまくってやっと治ったぜ……」
アレンは、先日まで集中治療を受けて重度の凍傷から奇跡的に回復したが、相棒のドラゴンは即死であり、今後の戦いでまた命の危険に晒されるのを恐怖に感じてトボトボと歩くヤーボを気の毒そうに見つめている。
「? おいなんだあれは!?」
アランは、勝程ではないが、裸眼視力が6.0ぐらいあり、5キロ先の異変に早く気がついた。
「う、うん!? あれは、熱気球ではないか!?」
勝はアランよりも視力は倍近く良く見える為、アランが指差す方向にある熱気球らしき存在が単なる鳥や雲ではなく実在する物だとすぐ気がつき、味方の誰かに密偵がおり、自分達の作戦がバレたのではないかと疑心暗鬼に駆られる。
「ゼロに乗らなければ……!」
「いや落ち着け! 双眼鏡を持ってこい!」
トトスは狼狽える勝達とは対照的に、至極冷静な態度をとっており、竜騎士部隊の最低条件である裸眼視力1.5が当然ない為、双眼鏡を使わないと遠くまで見えないのである。
(いや、仮にも俺達はドラゴンの群れを引き連れているのに、たった一機だけ、それも戦闘用でない熱気球が来るのは妙だ……!)
勝は、不思議に思いながら、熱気球を凝視していると、布の部分に赤でV字になっている模様が描かれているのに気がつく。
「あれは、停戦を示すマークが見えるぞ! 総員、戦闘体制を解除せよ! 講和なのかよく分からんが、少なくとも戦闘の意思はなさそうだ!」
「確かにあれは、停戦をする意志を示している!」
トトスとアランは、あれだけ苦戦を強いられた国から停戦を持ちかける意図が示されたのを、「絶対に裏で何か企みがあるな」と疑問に思いながら魔法石を使いカヤックに通達を送る。
「何だって、いきなり停戦かよ!」
「拍子抜けしたぜ!」
ラムウとヤーボは肩をすくめてオモコを口に咥え、新しく開発された植物油を使ったオイルライターで火をつけようとしたが、上官の前だというのに慌てて気がつき、胸のポケットにしまう。
「おい、まだここに辿り着くまで時間はあるから一服していいぞ。ただ吸ったらトイレ掃除だからな……!」
アランは彼等をジロリと睨みつけ、徐々に近づきつつある熱気球に向けて、何か爆弾などの大量破壊兵器でも隠し持っているのではないかと疑惑の視線を送る。
🐉🐉🐉🐉
熱気球にはわざわざ国王であるエドワードと護衛の兵士、使役の者が数名乗っており、停戦を申し出、直ちに武装を解除してムバル国に勝達は戻る事にした。
城内では、中にいる近衛兵達が、裏切りの同盟を結んだエドワード達に侮蔑の視線を浴びせかけており、敵ながらいたたまれない気持ちに勝は襲われる。
勝は昔、ラバウルにいた時に彼等と似たような辛い気持ちに襲われた記憶がある。
空中勤務中、勝率いる零戦部隊はP38数機と戦闘になり、勝は二機のP38を撃墜したが、落下傘で脱出したパイロットを撃ち落とさずに敬礼をして見送った。
だがその一部始終を僚機に見られてしまい、帰還した後に上官から酷く叱責を受けたのである。
「詳しく教えてもらおうか、ハオウ国の事を……」
カヤックは、両手両足を鎖で繋がれ、首に刃物を突きつけられており、命の危険を酷く感じているエドワード達を、勝ち誇った笑みを浮かべながら尋ねる。
エドワードは仮にも国王であり、毅然とした態度を取っているが、それが気に食わなかったカヤックは刃物を突きつけてる兵士に顎で合図をし、首に刃物を軽く突き刺す。
「ひ、ひえ!」
エドワードの隣にいるロゼは、自分の父親が拷問を受けているのを目の当たりにし、心臓の鼓動がかなり早く脈を打っているのを感じている。
「わ、分かった! 話すから!」
カヤックは兵士に「刃物を離せ」と命じ、エドワードの、強度のストレスに数日間晒されて円形脱毛が所々で生じ、頭頂部が薄くなった髪の毛を掴みテーブルに顔面を叩きつける。
「とっとと早く話せよ、バカタレが……!」
「ぐぅ……! わ、分かったよ!」
「まず聞きたいのだが、貴様らが何故和平を結んできたんだ? ハオウ国と同盟を結んだはずだったよな? 普通に考えてあんな最強の国と同盟を結んだ時点で、俺たちの国なんざ一捻りだったはずだが……」
「ハオウ国と同盟を結んだのは確かだ! 資源の提供と引き換えに技術力を売った! だがあいつら、資源をよこそうとはせずに、一方的に同盟を破棄してきた! 宣戦布告されたんだ! これ以上我が国ではもう交戦は不可能だ! 戦えない! 零戦や飛行戦艦が無いし、戦車だってあれは実験途中で到底使い物にはならないんだ!」
「ふうん……おい」
近衛兵は、阿吽の呼吸で「ドSだなこいつ」と思いながらカヤックに、柄にムバル国の紋章の入った携帯用のナイフを手渡す。
「え!? いやちょっとやめてくれ!」
カヤックはエドワードの掌にナイフを突き刺してぐりぐりと抉っており、元の世界で捕虜の拷問を目にしてきた勝は、「ここまでやるか?」とエドワードを気の毒に思い、目を背ける。
「ぎええ!」
「おい本当はなんかすごい秘密を隠しているだろう? 教えろ、その秘密とやらを。話さないと目を抉るぞ……ヒヒヒ……!」
こいつは変態だな、と勝達はニタニタと下卑た笑みを浮かべるカヤックを軽蔑と恐怖の視線で一瞥する。
「わ、分かったよ! 話すから! 俺の城の奥に、AIがある!」
「ほう、それは初耳だな……して、それは何だ?」
「前時代に作られた人工知能というものだ! パソコンという機械に入っている! 城の奥深くに眠っていたんだが、文字が解読不可能で放置してたんだが、レオンが来てから解読が進むようになり、今はおそらく兵器としての応用が行われているはずだ!」
「そうか、おい、これから壊しに行くぞ、そんな物騒なものを持っていても困るからな。チーム編成をこれから行うぞ、それと、こいつに回復呪文をかけてやれ……」
カヤックはナイフをエドワードの手から離してテーブルに突き刺し、顎でオールバックの20代後半の肌艶の下級の魔道士に合図を送った。
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