第63話 真実

 ゴラン国は、元々は普通の農耕国家だったが、ある者が初歩的なゼンマイの織り機を作り上げ、徐々に文明が発展していった。


 他の列強との貿易が盛んになるにつれていき、色々な物資が国に流入していったことで益々機械は発展していき、蒸気機関という画期的なものが製造されるに至る。


 この世界では初歩的な仕組みなのだが、熱気球と飛行船があり、ドラゴンが生息する環境ではなかった為、空中での移動はそこまで不便しなくなったのである。


 戦闘機に関しても、力学的な研究がなされていたが、強力な馬力を持つエンジンを作るのには、この世界の文明が後200年ぐらい発展しないと無理なレベルであった。


 その反面、乏しかった資源に翳りが見え始め、ガソリンの燃料になる植物油が枯渇寸前となっていき、石炭もほとんど採掘できなくなってしまった。


 このままでは、他国に攻め入られたら侵略は必至であり、どうすればいいのかとエドワードは夜も眠れなくなるほどに悩み抜いた。


 そんなある日の事、ハオウ国から連絡が入り、とうとう戦争が始まるのかと気構えをしていたが、その中身はまるきり別のものであった。


「共同で、兵器の開発をして欲しい」ーー


 ハオウ国国王シャルムは、金髪の男を引き連れ、ある一冊の本を持ち護衛の兵士と共にやって来た。


 金髪の男は、レオンであり、銀色の翼を持つ鳥と共にこの世界へと召喚されたと、シャルムは切り札になるであろう男を自分の味方に引き入れた事を自慢げに話、本の内容をエドワードに見せる。


 そこには、クローンやゴーレムなどの人造人間の作り方の技術が書かれており、レオンは全て分かったが技術力がハオウ国には無く、停戦を持ちかける代わりに技術協力を仰いだのである。


 シャルムの所持していた本には、英語で文字や方程式がびっしりと書いてあり、解読できたのはレオンだけであった。


 ハオウ国の倉庫に保管されていた、伝記から伝わるシルバードラゴンと思しき鱗を書物に書いてある通りの装置を作り、細胞培養にかけると、すぐさま細胞分裂が起こった。


 また、ゴーレムなどの人造人間を作る技術も書いてあり、直ちに兵器として使われることになった。


 ハオウ国とゴラン国は、一時は同盟を結んでいたのだが、技術が分かり兵器が手に入った途端にハオウ国は宣戦布告をかける。


 資源との取引と引き換えに、ハオウ国の隷国になる契約が秘密裏に結ばれ、兵器が戦争に使われるようになり、今に至るのである。


 🐉🐉🐉🐉


 「という訳だ……」


 勝達は、人造人間や細胞培養等の難解なキーワードに固唾を飲みながら頷く。


 ロゼやゴードンは、自分達が黙っていた秘密をここでバラしてしまった事を後悔しているが、このまま黙秘をしていたら命の危険が生じるのは明白であり、これは仕方がなかったんだなと半ば諦めの表情を浮かべている。


「クローン、人造人間とは……?」


 トトスは、既成概念に凝り固まった頭を柔らかくし、彼らの会話に出た単語の意味を深く掘り下げているのだが、全くイメージがつかず、ロゼ達に尋ねる。


「俺達にもよく分からないんだが、太古の昔に存在した技術で、生命を作り、生物の身体を操作すると。ただそれをやるのにはかなりの高度な技術が必要で、ハオウ国は俺達に応援を頼んだんだ、曲がりなりにも俺達の技術は大陸一だからな。ただ余りにも技術が難解で、本に書いてある通りのものを揃えるのは半年ぐらい費やしたがな……」


「……そんな技術があったのか」


「あぁ、生物を作り出し、機械と生物の融合体を作る実験をしていたと。太古の昔に。ただその遺跡が世界中を探しても存在が確認できなかった。幻魔暦以前の化石がどこを探しても見当たらないんだ。生命を作ったり、生物の体に機械を埋め込むだなんて、神を冒涜するような気はするが……」


「……」


「兎も角、俺達が知ってる情報はこれで終わりだ。あんたらの持ってた本はハオウ国さんに渡したし、うちらと戦争をしようにも知っての通り、戦車とかいう大砲を搭載してるやつは実験中で実用化されてないし、戦闘機もぶっ壊れて当面、というか100年ぐらい経たないとエンジンは製造できないから無理だ。それに、飛行戦艦もおたくらのヤックル君が魔法で壊してくれたし、もうそっちとは戦えないよ。だって切り札が無いし兵力がないから。知ってんだろ?俺達の兵力が他の国に比べて相対的にかなり低いのが。兵士はみんな弱いし、魔導士だってよくて中程度の魔法が使えるやつが数人しかいないし。高度な魔法なんて使えないからな、あのクソのような国と同盟を結ぶしかなかったんだよ……!」


 ゴードンは、自分達の国が機械が使えなくなるとかなり非力な部類に入るのを恨めしく感じ、正直に話した後に気持ちが鬱屈になり深いため息をつく。


(太古の昔に存在した文明、だと? 生命を作る? これは倫理的に許されないことではないのか? しかし、こんな事ができるとは……)


 勝の得意分野はどちらかと言えば生物の方が好きだったのだが、生物の勉強をする科目が予科練には無く、尋常小学校でごく初歩的に学んだ程度であった。


「ううむ……」


 カヤックは何か思い当たる節があるのか、ドラゴンのタトゥーの入った指を見事な髭が生え揃った顎に当て、少し考えて口を開く。


「貴様、何か隠し事してないか?」


「え? いやこれ以外ないが……」


 ロゼは、図星なのかギクリとした表情を浮かべており、それを見た勝達は「何か重大な秘密を隠しているな」と察する。


「ふーん、おい、こいつらを拷問にかけろ」


「え!? いや分かったよ! 話すよ! 戦闘機のデータはあれは、太古の昔の書物に書いてあるやつだった! 倉庫に眠っていたやつだ! とは言っても文字の大半が掠れていて、外観を真似て作るしか無かったんだ! 何度か試行錯誤したんだ! それと、これとは別に……」


「別に、とは……?」


「ハオウ国に大量破壊兵器がある! 今試作してるんだ! それも封印された書物に書いてあった! 核兵器、というやつだ!」


「何!? そんなとんでもないものがあるのか!? 勝、そんな兵器はお前のいた世界にあったのか!? 聞いたことはないぞ!」


 カヤックは、この国では到底作り出す事ができないのに、なぜ存在するのかという謎が解け、零戦の秘密を聞いて、得体の知れない恐怖を感じている勝に尋ねる。


「いえ、それは聞いたことはなかったです。私は前の世界では軍人ですが、仮にその兵器があったとしても、私は下っ端の方でして情報が行き届かなかったのです。しかし、零戦の事が書いてある書類がこの世界に存在するとは……」


「ううむ……」


 カヤックは、下手したら大量の死者が出る、最悪の事態が起こりうる局面に頭を抱えている。


「あのう……」


 ヤックルは、何か言いたいことはあるのだが自信がなさげに口を開く。


「何だ?」


 トトスは「こいつ空気読めないな」とKYぶりのヤックルを睨みつける。


「僕らがハオウ国に先に乗り込んで、その、核兵器というものを先に奪うのはどうでしょうか……?」


 ヤックルの発言に、周囲は「そのアイデアは無かったな」と感心している。


「……成程、それはいいアイデアだな、よし、これから作戦を練るぞ。ロゼ、貴様らにはまだ聞きたい事がある。嘘をついたらその舌を引っこ抜くからな……!」


 カヤックはヤックルの頭を撫で、秘密をバラしてしまって罰の悪そうにしているロゼをサディスティックな笑みを浮かべて見つめる。

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