第60話 暴力

 旧日本軍の軍人であった勝にとって、拳銃などの兵器はごく日常に存在していたのだが、この世界では明らかに文明以上であり、暴発したのもまだ技術が不完全であったのだなと思いながら、エリクシルをかけてもらい手を再生しているゴードンを見つめる。


「おら、なんでこんなもんがあるのか教えろよ」


 アレンは拳銃で撃たれたことが相当に根が深く持っており、刃物をゴードンの方に向けている。


「まぁアレンさん落ち着いてください。ゴードンさんだったな?何故拳銃や零戦などがこの世界にあるんだ?」


「それは……」


 ゴードンは何かを言いそうだったが口をつぐんでおり、アレンはそれが癪に触ったのか、ゴードンの首筋に刃物を突きつける。


「教えろこのクソ野郎!」


「アレンさん! 落ち着いてください!」


「なんかよぉ、ムカつくんだよこのスカした感じがよお!」


「学生か貴様は!」


 勝が血気盛んなアレンの胸ぐらを掴み、殴り飛ばそうとすると、魔法石から何か声が聞こえ、慌てて手を離す。


「何んだよ今度はよ!?」


 アレンは相当イラついており、今日20本目のオモコに火をつける。


『勝、聞こえるか!?』


「アランさんの声だ!」


 死んだと思われていたアランが生きていることに、勝達は安堵のため息をつく。


「何!? あのクソ童貞野郎、死んだんじゃなかったのかよ!? 童貞力恐るべしだなあ! がはは!」


「何失礼なことを言ってるんだ貴様は!? 仮にも上官だぞ!」


 勝は傲慢に笑っているアレンを見て「街のごろつき以下だな」と思いながら、軽く諌める。


「アラン司令殿、そちらの様子は……?」


 勝は魔法石越しに、アランに尋ねる。


『こちらの方は大丈夫だ! 強力な兵器があったがヤックルが駆逐した! ただ魔力が尽きた! 貴様らの方こそ零戦はどうなったんだ!?』


「零戦は撃墜して、搭乗員を捕虜にしました! ゴードンが操縦していたのです!」


『こちらも捕虜がいる! ロゼだ! 一度帰還して体制を立て直すぞ! それと……』


「?」


『アレン、貴様は一週間便所掃除だ……!』


 アランの発言に、周囲からどっと笑いが漏れた。


 🐉🐉🐉🐉


 ムバル国では、数え切れないほどの緊急事態宣言が行われており、国民の大半は「早く隷国になって、こんな窮屈な日々を抜け出してくれ」と、誰も口には出さないが政府に対しての不満は募っている。


 ロゼとゴードンを捕虜にした勝達は、カヤックから国へと戻るように指示を受けた、負傷者が相次いでおり、魔力も殆どつきかけており、このまま戦地へと出向くのは犬死だと判断した為である。


 勝達はまず先に救護室へと向かい、衛兵から回復呪文をかけて貰い傷を癒やし、魔力回復の効果のある薬草を食して底をついた魔力を回復させた。


 ロゼ達はそのまま幽閉され、勝達兵士の傷が完全に癒えるまで牢屋で臭い飯を食べることになったのである。


 一週間後、勝達の傷が完全に癒えた時を見計らいカヤックは緊急会議を行う事を決意し、勝だけでなく、国の重鎮を集めて、ロゼとゴードンを巡る会議が行われた。


「君らがなぜここに呼ばれたのか分かるかな?」


 カヤックは両手両足を鎖で拘束されているロゼ達に、「早く内部情報を教えろ」と言いたい衝動を抑え、あくまでも国王としての威厳を保ちつつ、丁寧に尋ねる。


「……」


 ロゼ達は余程知られたくない秘密があるのか、黙秘をしている。


「言えよテメェ!」


 アレンはゴードンが余程嫌いなのか、刃物をゴードンの喉元に突きつける。


「やめろ貴様!」


 アランは結果盛んな年相応の情緒のアレンの胸ぐらを掴み思い切り頭突きをかます。


 アレンは「ぐへえ」と情けない声を上げてたんこぶを作り、ぐらりと床に崩れ落ち、一部始終を見ていたロゼとゴードンは失笑が溢れ、近くにいた兵士は、彼らをジロリと睨みつけ槍を首筋に当てる。


「おい、この馬鹿をおっぽり出しておけ、我が軍の恥さらしが……」


 アランはあまりの石頭だったのか、気絶しているアレンに痰を吐き捨てる。


「……」


 勝は、人間の尊厳としては思えない行動を部下にしたアランに何かを言いたげな瞳でアランを見つめる。


「何だ? 言ってみろ……」


「アレンさんは零戦を撃墜するために疾風迅雷、獅子奮迅の働きをしたのです。恥晒しなんて、言い過ぎではありませんか……?」


 勝は、勇気を振り絞りアランに噛み付く。


 アランは勝の前に立ち、みぞおちに拳をめり込ませる。


「う……!」


「おい覚えておけ、貴様らは兵隊だ、駒だ。右に行けば右、左に行けば左だ。嫌ならやめても良いが、辞めたら非国民として扱う。貴様らが非国民扱いされたらどうなるか分かるだろ? 特に勝、貴様は幽閉だ一生……上官に逆らったら貴様の腕を斬り飛ばすからな!」


「ぐ……!」


(ここは、俺が前にいた世界の、軍国主義寄りの場所だというのを忘れていた……!)


「まぁ、落ち着け。勝、君はこの国ではまだ異世界の人間だ、本来であれば犯罪者並みの扱いにし、静粛しなければならない。ここで協力しなければ、君を再び拘束し、新薬の治験の人体実験のモルモットになってもらうからな……!」


 カヤックは、特権を振りかざし勝に脅し文句を述べるが、傍にいる重役達は半分嘘だろうと思いつつ、彼の人間としては考えつかない非人頭的な行為を粛々と行おうとする言動に、王として使えた方がいいのか、いや断られたら粛々の対象になるのではないかと恐怖に慄いている。


 独裁制の国家は、例に漏れずに治安維持などの法整備が敷かれており、言論統制が行われている。


 ムバル国の場合は建前上は社会主義寄りの民主主義国家なのだが、実質上はカヤックによる独裁政権なのである。


「はっ、失礼致しました……!」


 勝は、ここで異論を唱えたら真っ先に自分の命の灯火は途絶えてしまうと身の危険を感じており、慌てて謝罪の言葉を述べる。

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