第59話 生存者

 ゴードンが落下した地点に勝達は向かって行き、既に神の領域にまで達した視力10.0で勝はゴードンが傷を負った体に回復呪文をかけているのを見て、本当は安心してはいけないのだが、ヤックルが師匠と仰いでいる兄貴的存在の命が無事であるのをほっとしている。


(敵がいなければいいんだが……)


勝達は周囲を確認して、ゴードンの方へと降りるようにドラゴンに命じる。


ゴードンのいる地点から10メートルほど離れた場所には零戦の残骸があり、爆発した形跡が見られ、やはりこの世界でもガソリンがあるんだなと勝は何故かホッとした気持ちに襲われる。


この世界での燃料は、太古の昔に森林があったと言われている地層から湧き出る、ガソリンのような形状をした植物性のオイルしかなく、お世辞にも純度の高いものでは無かったのである。


「降りるぞ!」


アレンは我先にとドラゴンから飛び降り、槍をゴードンに向ける。


「アレン! 攻撃をしてはダメだ!」


勝はアレンの短絡的な行動を訝しげな表情で見つめ、慌ててゼロから飛び降りる。


ゴードンは人を殺しそうな冷たい表情を浮かべており、他の兵士達も続々と来、ゴードンを取り囲んでいる。


「お前すごいもん作ったんだな……」


「……」


「教えろ、なぜこんなすごいものを持ってるんだ? 誰に教わったんだ?」


アレンはゴードンに、この世界では到底ありえない不釣り合いなものが何故あるのかと尋ねる。


「言えるか!」


ゴードンは胸のポケットから、掌よりも大きな筒状の物体を取り出し、アレンに向ける。


「うわ!?」


筒状の物体からは小さな物体が発射され、アレンの胸元へと突き刺さるが、ドラゴンの鱗で作られた鎧は堅牢であり、表面の鱗に邪魔されてめり込んだ形になっている。


パンという乾いた音が後から聞こえ、勝は背筋に凍りつくような感覚を覚える。


「これは……拳銃か!?」


「け、拳……なんだそりゃ!? いや軽く痛い!?」


「俺の世界でいう携帯用の大砲だ! だが何故こんなものがこの世界にあるんだ!? おい貴様教えろ、一体誰がこんなものを……?」


勝は拳銃を向けるゴードンを脅威に感じつつも、被害を最小限度に食い止める為に慎重に質問をする。


「貴様らに話す義理はない! 死ね!」


ゴードンは、拳銃を勝に向けて発射するが、バンという大きな音を立てて暴発し、右手が吹っ飛んだ。


「ぐ……!?」


「やはり、不完全だったんだな……! 誰か、エリクシルを彼に使え! 聞かなければならないことが山ほどある!」


この世界では珍しい、火薬のにおいがあたりに立ち込め、勝は不思議に落ち着いた気持ちに襲われる。


🐉🐉🐉🐉


 「こんなものが、一体誰が……?」


トトスは飛行船の残骸を見て、脅威を通り越してかなりの疑問に襲われる。


この世界の工業力では熱気球を作るのが関の山であり、大砲を装備する飛行戦艦を作る技術があるとは到底思えないな、とヤックルもまたトトスと同じ疑問に駆られているのである。


「うーん、これはちょっと謎すね……」


「動かないでよ馬鹿、骨が見えてるじゃない!」


マーラは満身創痍のヤックルに回復呪文をかけ続けている。


ヤックルの体は、肋骨が折れて肺を圧迫し、足が裂傷骨折、内臓は損傷し小指がちぎれかけているのである。


「お前よく死ななかったなあ……」


アランもまた、上空から地面に叩き落とされ、鎧でガードしてはいたが背骨や大腿骨にヒビが入り、トトスから回復呪文をかけてもらっている。


「いやあ、一生分の運を使い果たしましたね」


「まさか、最上位呪文の稲妻を使えるとはな……」


トトスは、感心してヤックルを見つめている。


「あ、これはゴルザさんが教えてくれたんです」


「ほう……落ちこぼれだった貴様がな。俺の教え方が悪かったって事か……」


「あ、いえ、それは……」


ヤックルは、その通りだと言いたかったが、慌てて口を塞ぐ。


魔法学校ではトトスの教え方はお世辞にも上手いとは言い切れず、「根性でなんとかしろ」が口癖であり、ヤックルの成績はいつも赤点だったのである。


「ふん、まぁそれはいいとして、生き残りはいないか? 詳しく話を聞き出したいんだが……」


トトスは周囲を見回すが、飛空戦艦が墜ちた後は燦々たるものであり、あちこちに残骸や焼け焦げた死体の跡が転がっている。


「お前こんな強力な呪文使えるようになっちまったんだな……」


アランはつい半年前までは頼り甲斐のなかったヤックルが、最上級の呪文が使えるようになり、下手したら自分が負けるのではないかと脅威に感じている。


「いえ、全然ゴルザさんに比べたら、僕なんて……」


ヤックルは謙遜してるのだが、内心では「凄いだろ俺」と鼻高々に思っている。


「馬鹿タレ、あいつは特別なんだよ」


トトスは杖でヤックルの頭をぽかんと叩き、アランに回復呪文をかけ終え、惨状にため息をつき、兵士と共に焼け跡を見つめる。


「う、うう……」


「!?」


焼け焦げた残骸からは、むくりと人影が起き上がるのがトトス達には見え、慌てて身構える。


「何者だ!? 総員戦闘態勢に入れ! ヤックル、煉獄を放つ準備をしろ!」


「え!? いやちょっと僕魔力無いっすよ!」


「そんなの気力でなんとかしろ! この非国民が!」


トトス達のやりとりをマーラ達は見て、くくくと笑いを堪える。


彼らの視線の先には、ボロ雑巾のような焼け焦げた服を着ている、気品のありそうな30代前半の若い男性がよろよろと立ち上がろうとしている。


兵士達は彼を取り囲むようにして、彼に槍を向けている。

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