第47話 信頼関係

 信頼関係というものは、ほんの些細な事で脆くも崩れ去る。


ゴードンの場合は窃盗という、人の道理に外れた行為をした為仕方が無いのだが、兄弟分と言っても過言でもないヤックルは酷く落胆した様子で国の中枢部の大臣やお偉いさん、兵士達に混じり、満杯になっている会議室におり、カヤックの指示を待っている。


「先程の宣戦布告の内容なのだが……」


カヤックは必ず届く配達用の魔法が込められた手紙を深刻そうに読み上げる。


「全面的に降伏せよ、さもなくばハオウ国と共に攻撃を仕掛けると……」


「な!? 何故いきなりこんな……ついこの間まで平和的だったのに……」


保守派の大臣のアマルは、中年期に差し掛かり、油ぎって加齢臭が立ち込めており、その匂いに不快感を感じたマーラは、「臭いんだよ糞爺、首吊って死ねよ」と心の中で唾を吐き捨てる。


「全面的に降伏しろと言われても……」


アマルと同じ考えである保守派のハリーもまた、ろくに歯を磨かずに歯槽膿漏の歯茎から不快な匂いをたち込め、隣にいるアレンは、うっ、と顔を顰め、殴り飛ばしたい衝動に駆られる。


「いやそれが、わしにも分からん! ただ言える事はな、禁断の書物のありかをたまに聞いていたのは確かだ! あれに何か凄いものが書いてあるのだろうか……!? ヤックル、貴様は分からぬか?」


「……嘘だ」


「何がだ?」


「あんなに優しい人があんな事やるだなんて嘘だ! 誰かに騙されていたんだ! 僕はこの戦いに参加しません! 非国民と罵ってくれても結構です! 親友を殺す気はない!」


ヤックルは今まで見せたことが無い怒りの形相をして、机を思い切り殴り飛ばして部屋の扉を思い切り蹴り飛ばして部屋から出て行った。


「ヤックル! あの童貞包茎野郎が……!」


「やめておけ、あんな腰抜なんざ役に立ちはしない、後で除隊処分にする……」


アレンはヤックルを慌てて追いかけようとするのだが、口で制し、まだ青いな、と深いため息をつき、円卓に広げられた地図を指さす。


カヤックはやれやれとため息をつき、口を開く。


「ここが、ゴラン国だ。ゴラン国は国土の6割が砂漠地帯で占められている。ドラゴンに乗って空を飛べば数十分で着く。それと、この国に流れるカラム河がゴラン国に繋がっているのだが、ここへと通るのには、船で行かなければならずニ週間近くかかる。なのでな、俺達はドラゴンのチームで攻撃を仕掛ける。ゴラン国はドラゴンが住むのには適しておらず、生息はしてはいない。その代わりにな、太古の昔に密林が生い茂っており、それが地面に堆積されて石油となって吹き出しており、機械文明が発達した。俺達に伝播された大砲や銃、熱気球は一握りだろう。あいつら完全に手の内を晒してはいないのが専門家の見解だ。明日、チームを振り分けて攻め入る。訳のわからん機械が出てきても良いように心構えをしておけ……」


機械と対峙するのは、勝にとってこの世界では初めてであり、前にいた世界で兵器を見てきた勝よりもアレン達は初体験であり、魔法や剣、ドラゴンを扱った対人外訓練しか行ってきてはおらず、得体の知れない不気味な感覚に襲われる。


「下がっていいぞ、明日に備えておけ……」


カヤックはそう言い、彼等に宿舎に戻って明日の準備をするようにと顎で合図をする。


「陛下!」


見張りの番兵が慌てて部屋の中に入ってきており、その慌て方から尋常ではないなと勝達は察する。


「何だ! ノックぐらいしろ! 陛下の目の前だぞ!」


アランは額に青い血管を浮き上がらせて、番兵に怒鳴り散らす。


「はっ、申し訳ありません。……ヤックルの乗った熱気球というものが、今し方飛び立ちまして……!」


「あの馬鹿、一人で特攻する気だ!」


アレンは酷く慌てた表情を浮かべている。


「落ち着け、熱気球は速度が遅い、ドラゴンよりもだ。勝、今すぐに追いかけて連れ戻せ……!」


「は、はっ……!」


勝達は慌てて立ち上がり、扉を開けて出て行った。



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