第45話 仲間割れ

 約半月前、封印の洞窟で勝達が手に入れた書物は、内容が全て英文であり、この世界の住民は勿論の事、ABC等の単語しか知らない勝は当然の事ながら解読は出来ず、半ば放置気味で軍の倉庫に保管されていた。


 つい先日、何者かが倉庫の鍵を壊して忍び入り、書物だけが盗まれたのである。


 カヤックはこれを緊急事態と捉え、全兵士に早急に探し出せと御触れを出した。


「……って事なのよ」


 ジャギーは走って来て喉がカラカラなのか、店員に炭酸飲料のような飲料を頼み、肩で息をしている。


「んな、そりゃ、守衛の怠慢だろ? 別にあんなもん無くてよくね?」


 アレンは二本目のオモコをふかしている。


「馬鹿! あれはこの世界でいうオーパーツなのよ! 封印の洞窟が開くだなんて今までなかったのよ! その中にあるものが、重要じゃないってわけないんじゃないの?」


「じゃあ、これは何?」


 マーラは口から煙を吐き出しながら、ジャギーの首から下げている赤の宝玉を指で触る。


「いやこれは、解析したけど魔力があるとか全く無くて、私が持ってても何も異常はないみたい」


 ジャギーは首からつる下げている、封印の洞窟で入手した赤い宝玉を見ている。


「そうだったわね。てか、その本ってよく考えたら何かヤバそうな事書いてありそうね。解読できないんでしょ? 勝、これってアンタのいた世界での言語よね? 知らないの?」


「いや、この言語は英語と言って、俺の国が戦って来たアメリカやイギリスという国で使われているものだ。ドイツやイタリアでもな……しかし、俺は一応は簡単に習ったのだが、読み方は教わってはなかった。それはごく一部の軍部の人間が覚えて使うものだったから。部隊にいたインテリにでも習っておけばよかったな……!」


 戦時中、陸軍のとある部隊では諜報(スパイ)活動を教育していた。


 勝は配属が海軍であり、当然の事ながらその部隊には配属にならなかった。


 予科練で英語の教育をしてくれたのであれば、ここに書いてある文章が読めるのであるが、明らかに数式が使われており、当時の日本の学校教育では現在の学校教育とは雲泥の差であった為に解読は困難を極め、折角元の世界の言語があるのに、お役に立てずに面目ないな、勝は情けない表情を浮かべて溜息をつく。


「ふーん、その英語ってやつは、エリートとかじゃないと教えてくれなかったって事か……でもこの世界にそれを解読できる人っているのかしら?」


 勝達はマーラにそう言われ、少し頭を捻って考えていると、ヤックルが何かを勘づいたように口を開く。


「あ、もしかして……ゴードンさん?」


「あ! あり得るな! あのオッサン難しい事とか知ってるし! 機械とかよ! どうせ俺らから金品を盗むのが目的でこの国に来たんじゃねぇか!?」


 アレンは、それだと言わんばかりに迷惑を考えずに大きな声で話しており、それを横目で見ている勝は、こいつは本当に自分と同じ歳なのだろうかと疑問に駆られる。


「でもさぁ、仮に解読ができるからって言ったってさ、本を盗んでたとかってあり得ないじゃない! あの人がやる筈無いよ!」


 ヤックルは自分の師匠が、盗人などの人の道を踏み外す行為を簡単に行わないと確固たる自信を持っており、アレンの疑問を力強く払拭する。


「ヤックルさんのいう通り、何も英語ができるかどうか判るわけないだろう!? そもそもこの世界では存在しない言語だ! それは濡れ衣だろ!?」


 勝もまた、熱気球の仕組みを知っておいた方がいいとカヤックの命を受け、ヤックルを交え、ゴードンと何度か会話をして、彼が穏和な性格を察しており、アレンの心ない発言を聞き、この男は本当に人間を表面でしか判断しない薄情な人間なんだなと侮蔑の視線を浴びせかける。


「お前も馬鹿だよなあ! 純粋すぎんだよ! 腹黒くない人間なんざこの世には存在しねぇんだよ! あの野郎はいまいち信用できやしねえ! いい機会だからよ、あいつと縁を切っちまえよ! 蒸気機関や熱気球を作るスキルを手に入れたんだろ!? もう用無しじゃん!」


「何だと!」


 ヤックルはアレンの顔面を殴り飛ばす。


「あ!? 何しやがんだ手前!」


 アレンは持っていたフォークでヤックルのほおを思い切り突き刺す。


「ぐえっ!」


「いいざまだな! お前のパンチなんざ効かないんだよ!」


「……!」


 ヤックルはフォークをほおから外し、穴が空いた所から出ている血の流れを止める為に回復呪文をかける。


「アレン! いい加減にしろ! 貴方の悪いところは人を表面でしか判断しない事だ! ゴードンさんは良い人だ! 貴様はもう25だろう!? 何故こんな暴力でしか訴えないんだ!」


 勝はヤックルを守る為に前に立ち、ケラケラと笑うアレンを見て、何故こんな男と同じ部隊いるのだろうか、人間的に成熟してもおかしくはない年齢なのだが、まるでそこら辺にいる馬鹿だな、感情を注入してやるぞときっと睨み付けて今にも殴りかかる勢いで睨みつける。


「そこどいて」


 ヤックルは勝の肩をどかして、火弾をアレンの股間目掛けて放つが、アレンの動体視力がすぐに弾道を見抜き、体を横にずらす。


「何しやがんだオイ!」


「煉獄」


 雲に隠れて気が付かなかったが、煉獄が上空に浮かんでおり、アレンめがけて落ちていくが、いち早く気が付いたマーラがアレンの体を掴み、突き飛ばし、煉獄は彼らの横を掠めて地面に落下し、店のラウンジに大きな穴が空いた。


「殺す気かてめぇ! 本気でやんぞ!」


 アレンは腰に下げている、ミスリル鋼で作られたダガーを抜く。


「ゴードンさんはそんな人じゃない! 少なくともお前よりかはだいぶマシな人だ! 次悪口言ったらまた煉獄を放つからな!」


 ヤックルはアレンを睨みつけて、目に涙を浮かべてその場から走って立ち去って行く。


「ケッ何でぇ、俺に勝てないって分かったから怖気付いて逃げてやんの! チキンだぜあいつ!」


 マーラはアレンの傍若無人の立ち振る舞いに堪忍袋の尾が切れたのか、ほおを思い切りパチンと音が鳴るぐらいに引っ叩き、「最低」と口走り、足早に立ち去って行く。


「最低だな、あんたは……」


 勝はアレンを殴り飛ばす気にはならず、幻滅した表情を浮かべて溜息をつき立ち去って行く。


「待てよ、クソ……!」


「あのう、宜しいでしょうか……?」


 この店の名前の刺繍が入ったエプロンをしている。小太りの女性は、恐る恐るアレンに尋ねる。


「あぁ!? 何だよ!」


「お店の修理費と、食事代を頂きます。払わなかった場合は軍に言いますのでご承知おき下さい」


 その店員は、アレンに淡々と伝える。


「はぁ〜俺一人だけかよ! クソッタレ……!」


 アレンは自分の言動を少し後悔しながら、店員に修理費の事で話し合いを始めた。

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