第44話 屑

 ゴラン国の国土は、地下資源が豊富な土地であり、石油や天然ガスなどの資源が豊富であることが知られている。


 有史以前、ゴラン国の祖先は手先が器用だった為、道具を作り狩猟や農耕を行なっていたのだが、ある者が地下資源を使う事に目を付けた。


 初めは石油に火を灯した小さなランプだったが、徐々に発達していき、ある日遂に産業革命が起こる。


 石炭を使い蒸気機関が出来、熱気球や自動車等、勝がいた世界に似た発展の仕方を辿る事になる。


 ゴラン国の本城に、ゴードンとエドワード、長兄のギリアム、次男のサバス、各部門の重鎮がおり、深刻な表情を浮かべている。


「あの書物の在処は、まだ分からぬのか……?」


 エドワードは苦悶の顔つきでゴードンに尋ねる。


「あぁ、ヤックル君に聞くと、軍の上層部が厳重に保管していると……」


「……クソッタレ、あれが必要だ、この戦争に勝つ為には……!」


「……」


「おい貴様、あのヤックルという餓鬼に肩入れしてるわけではないよな?」


 傍からは、ギリアムがこめかみに青い血管を浮かび上がらせながら、エドワードに尋ねる。


「いや、そんな事は……」


「貴様は生かしてやってる事を忘れるな……! 剣術はできないし、魔法もダメだからな……! 機械しか取り柄のない屑が……!」


「……」


 ゴードンは剣術や魔法が人並み以下であり、5歳の頃に殺そうかという話が持ち上がったが、身の回りにあるもので簡単な滑車装置を使った為、すぐさま知能テストを受けさせると、知能指数が150ある事が判明した。


 物理学や数学、工学等機械を作る上で必要な知識を教え込み、15歳の時に熱気球を自分で作る。


 それ以来、この国の機械系統の指揮官となった。


「ゴードン、そのヤックルという奴は、どれだけの能力があるんだ?」


 サバスはゴードンに尋ねる。


「煉獄が二発使え、回復呪文と解毒呪文が一回しか使えず、重度の近眼で非力なのだが、機械の扱いに長けていて、熱気球を自力で作り上げた……」


「ほぅ、貴様のスペックと対して変わらないんだな……機械が使えるか、多少なりとは使えそうだな。あれを作る能力はあるのか?」


「いや、まだそこまでには達してはいない、ただ、かなり頭が良く、時間の問題かと……」


 ゴードンはヤックルを巻き込みたくはないのか、複雑な表情を浮かべながらザバスの問いかけに答える。


「ふむ……あれを作るのには人手がいるからな。この国には貴様と同レベルの技術者はいない。貴様とあの餓鬼が頼りだ。書物が手に入り次第、即刻開発に着手しろ……!」


 エドワードはゴードンを睨みつけ、立ち上がり踵を返して部屋から出て行った。


 🐉🐉🐉🐉


 「ハ、ハクション!」


 ヤックルは大きなくしゃみをする。


「何よ! ティータイム中に汚いわね、このクソ眼鏡!」


 マーラは鼻水を垂らしているヤックルを睨みつけ、春先に紫色の花をつけるハーブを刻んだティーをすする。


「んなよ、噂でもしてんじゃねえ? あのゴードンとかいうオッサン」


 アレンはやれやれとため息をつき、イモ科のような、炭水化物に似た成分が多く含まれている植物を潰してこねて油で揚げたものをパクパクと食べながら、街を歩く胸の露出度が高い自分と同じ歳ぐらいの女性を鼻の下を伸ばして見ている。


「いやしかし、信頼できるんじゃないか? 悪い感じには見えないんだが……」


 勝は、鬼畜米英に比べたらだいぶマシだと続けて言おうとしたのだが、この世界の住民にその事を話しても理解してくれないだろうと思い、躊躇った。


「いやでもよ、仮にもほんの一月前まで敵だった奴だぞ? まぁそりゃ、今同盟結んでっから争うって事はねーんだろうけどさ。俺だったらそんな信用しねぇけどな……」


 アレンは揚げ物を食べ終えて、醜くゲップをしてオモコに火をつける。


「いやでも、いい人だよゴードンさんは! 熱気球の作り方を教えてくれたし! 蒸気機関とかの仕組みも教えてくれてるしさ! そんな悪い人には見えないんだけどさ!」


「うーん、まぁそりゃ、アンタにとってはそうなんだろうけどさ……」


 マーラは精神薄弱気味で精神年齢が同年代の人間に比べてやや低いヤックルの、人を疑う事を知らない天真爛漫の無知ぶりを見てため息をつく。


「まぁ、ヤックルさんにとってはいい人なんだし、俺はそこまで悪くは感じないんだがな……」


 勝はそうは言っているものの、心の何処かでゴードンが何かを企んでいるのではないかと危惧している。


「あれっ? ジャギーじゃねーのか?」


 アレンの指差す方向には、ジャギーが胸を揺らしながら慌てて自分達のいる方向へと走って来ている。

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