第34話 同盟
カヤック王の間は、大理石が散りばめられ、赤と白の絨毯が敷かれ、名が知れているであろう有名な画家の描いた騎士の油絵が壁に掛けられ、ドラゴンの鱗で作られた鎧を付けている衛兵が数名おり、部屋の外観は元の世界で言えば欧州の貴族の屋敷と似ているのだが、日本から海外へと渡航した経験が皆無である勝はいまだに自分がここにいるのが場違いなのではないかと感ドレ。
部屋の中にはヤックルやアラン、アレンにトトスがすでにおり、勝の情けない体たらくを笑いを堪えながら見ている。
勝達はカヤックに向かい、拳を胸に突き立ててこの国の目上の人への敬礼をするのだが、勝は未だにこの挨拶には慣れずに額に手のひらを向けそうになり慌ててとりやめる。
「カヤック王、勝達を連れて参りました。ご用件というのは……?」
ジャギーは、勝が何故ここに連れてこいと言われたのか、何故ヤックル達がここにいるのか理解できずに軽く混乱しながら、宝石が散りばめられた椅子に座るカヤックに尋ねる。
(勲章でもくれるのか? 元の世界では、かなりの戦果を挙げたのものは軍刀を渡されたりするのだが、何かくれるのだろうか?)
勝は戦果を挙げて何か褒美をくれるのではないかと期待をしている。
「話というのはだな……ゴラン国が、我が国と同盟を結びたがっているという話が持ち上がって来た」
「え!? 同盟ですか!?」
「あぁそうだ、魔法力が強化されているのに危機感を感じて、戦意を喪失したらしい。確か貴様は、零戦、という鉄の翼を持つ鳥に乗ってこの世界に来たな、機械の取り扱いはできるか? 兵器が増えるかもしれないのだが……」
「え、ええ……戦闘機や拳銃、機関砲の知識はありますが、戦車や潜水艦、戦艦は操縦はできません」
勝は青空に憧れて予科練へと入り、主席の成績を収めて日本海軍航空隊へと入隊した為、当然の事ながら零戦や九十七式艦上戦闘機などの戦闘機しか操縦できなかったのである。
「やはり、機械の扱いに長けたものはいないのか……せめて、興味を持つ者がいればな……」
カヤック王は、勝に失望したのか、深いため息をつき、この場にいる人間は当然の事ながら誰も機械を扱えない為、絶望に似た静寂が訪れる。
「あのう」
静寂をかき消すように、ヤックルが声を上げる。
「なんだ?」
「私、機械を扱ってみたいし、覚えたいです、駄目でしょうか?」
「なんでぇ、お前のような馬鹿が出来るのか? 成績がドンケツだったお前がか? 煉獄二発しか使えないんならば使えねえよ」
アランの一言で、勝失笑の渦に包まれる。
(煉獄二発しか使えないったって……あれは、零戦の20ミリ機関砲以上に強力なものだ。それを馬鹿にするとは……最低だなこいつら」
勝はアラン達に侮蔑の視線を送る。
「でも、私やってみたいんです! お願いします!」
「う、うむ……使いの者にそう伝えておこう。詳しいことが決まったらまた収集をかける。下がって良いぞ」
カヤックはヤックルの意気込みに押されているが、分厚いレンズの奥の、やる気に満ち溢れた目に感情を揺さぶられたのか、了承し、奥の部屋へと消えていく。
🐉🐉🐉🐉
王との謁見が終わり、勝達はランチをとっている。
「しかしよお、なんたってそんなめんどくせえ事をやるんだよ? 馬鹿だなぁ、専門の機関に頼めばいいのによ!」
「どこ触ってんのよ!」
アレンは昼間から酒を飲んでおり、酔っ払った勢いでマーラの胸を揉み、卑猥な事しか脳細胞に入っていない、平均男性よりも心なしか小さい脳みその入ってる頭をスプーンで殴りぽかんと音が勝達に聞こえる。
「でもねぇ、誰も扱った事がない機械ってやつを使うのに志願するだなんてすごい事なんじゃないの? 勝、あんたもさ、見習いなさいよ。……ってかね、さっきからどこ見てんのよ!?」
勝は食事はそこそこに、相変わらずセクハラ気味のジャギーの胸の谷間をチラチラと凝視しており、ジャギーに頭を皿でガンと思い切り殴られ、鼻から血を流している。
「ああっ!? そんなな、胸を開けっ広げに見せてれば、誰だって目がいくだろ!? やめろ、貴様はそれでも淑女なのか!? 俺がいた世界ではな、そんな淫らな格好をしている奴なんざ、女郎屋の芸者でもいなかったからな!」
「卑猥ったって何よ!」
勝の一言に頭に血が上ったジャギーは、パンプスで変えたばかりの勝のズボンのデリケートゾーンを思い切り蹴り飛ばし、うっと勝は口に含んだパスタ状の麺の食べ物を吐き出す。
「汚え! おいジャギー、こいつは童貞野郎なんだぞ! ウブなんだよ! だから、女郎屋で一発抜いてこいって言ったろ!? それともてめえ、不能なのかよ!?」
「何だと貴様!」
勝は、自分が昔女郎屋でそれなりの美人が来、18.9そこそこで性欲が今以上に盛んだったのだが、いざやろうとしたら全く勃たずに、仕方なく手で抜いてもらった事を思い出し、昔の傷を馬鹿にされた為、フォークでアレンの右手を軽く刺す。
「何しゃがんだ馬鹿!」
アレンはフォークを払い除け、勝の頭を叩く。
「この野郎!」
勝は頭に血が上り、アレンのほおを思い切り殴り飛ばし、すでに食べ終えている皿が置かれたテーブルが揺れて皿が何枚か地面に落ちてがしゃんと割れる。
「てめえ! 火弾!」
アレンは勝の股間に向けて火弾を放つが、魔封剣で火弾をかき消す。
「あ! 汚ねぇ!」
「汚いもくそもあるか! ヤックルさんに失礼だろ! 煉獄がなかったらゴーレムは退治できなかったはずだ! 謝れ!」
「チェッ、分かったよ! ごめんな、ヤックル……」
ヤックルはアレンの謝罪を快く受け取ったのか、微笑み、いいよ、と言い、勝の方を見つめる。
「ねぇ勝、勝の乗ってきた鉄の翼を持つ鳥ってさ、あれって機械だよね? その、機械の概念とか扱い方がわからないんだが、ざっくりと、機械ってどんなものなのか教えてくれないか?」
「あ、ああ、いいですよ、教えます、ただね……」
勝はため息をついて、粉々になった皿と、しかめ面をしている店員を見つめる。
「これ弁償してからだなぁ……はぁーあ、アレンさんと俺とで折半しましょう」
「あぁ、仕方ねーよなやっぱこれって。オオゴトになったら俺ら石頭のアランのオッサンに説教確定だし。払うよマスター」
アレンと勝は自業自得だなとため息をつき、革製の財布を見て再度深いため息をついた。
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