第五章 裏切り
第33話 陥落
デルス国が陥落した事は、すぐさま大陸中を駆け巡り、それはハオウ国国王のシャルムと大臣のバモラ達に伝わった。
黒一色のテーブルと壁と天井、椅子を見て相変わらず不気味だなとバモラは思いながらも、伝令の言葉を聞いている。
「それでは、竜騎士部隊の一団に、ヘッジがやられて国王のチャマスが降伏したというのか……」
シャルムは動じずに、小太りで外斜視の伝令にそう尋ねる。
「はい。同盟を結ぶと……魔道士部隊の強化を行うそうです。停戦条約を結ばないかとの伝令を頼まれました」
伝令は複雑そうだが、俺は家庭は無いし戦争になった所で捕虜になればいい、この国がどうなろうと知ったこっちゃないと言いたげな表情を浮かべて淡々と述べる。
「ううむ……この状況、バモラ、貴様どう思う?」
シャルムは、昔歴戦の勇姿だったのか、高齢ながらも一線を退いたながらも筋骨隆々の肉体を維持しており、額や頬に切り傷のある顔で、少し目じりを立て、少し考えて口を開く。
「我が軍の力を持って使えば、圧勝、かと……ただ、魔道士部隊がいるのが厄介ですが、それでしたら私に考えがあります」
「魔封石か……我が軍にはそれの備蓄はないが……」
ハオウ国は半世紀前の世界大戦でデルス国を魔封石を使い徹底的に攻撃を加えて傘下に収めており、鉱山は魔封石を全て採掘しきった為に閉山となったのである。
「どうするというのだ……?」
バモラはニヤリと笑い、そっとシャルムに耳打ちをする。
「ほう……それはいいアイデアだな、おい、早速国会を収集しろ、早いうちにやった方がいい。ビラマス、伝令だ……」
「はっ……!」
バモラの横に立っている、中年で白髪だらけの髪をした細身の、礼服を着た長身の男は、シャルムに一礼をしてその場を立ち去っていく。
「ククク、バモラよ、貴様は頭が切れるからな、この国の立派な参謀だ……!」
シャルムはケラケラと笑い、バモラの肩を思い切り叩く。
痛えよクソ野郎、とシャルムは心の中で呟きながら、聞こえないように溜息をついた。
🐉🐉🐉🐉
魔封じの術と魔封剣の力もあるのだが、主力兵士であるヘッジを倒した後のデルス国にはもう勝達に対抗する術はなく、あっけなく陥落し、占領され、隷国となる道を選んだ。
エレガーの住む家から少し離れた所にある丘の上の草原に、勝は寝転んでいる。
(ラバウルに侵攻して、米軍基地を占領した時と同じ感じだな……! やはり、どの世界にいても勝ち戦は最高に気分がいいものだ……!)
勝は生粋の軍人である為、勝利の味と負けた時の無念の気持ち両方を経験しており、元の世界でミッドウェー海戦で大敗して負け戦に陥った時の事とは違った充実感に満ち溢れている。
「くすぐったいぞ、ゼロ……!」
ゼロは勝の頰をペロリと舐めている。
上空にはドラゴンが飛び交っており、この光景は元の世界では異様なのだが、この世界ではこれが当たり前なんだなと勝は辟易を通り越して達観の境地に達しており、ゼロの頭を撫で撫でする。
「勝!」
丘の下から聞き慣れた声が聞こえ、勝は体を起こして声が聞こえる方を見やると、ジャギーとエレガーがいる。
(なんてこの女は淫らな格好をしてるんだろうな……乙女としての恥じらいが無いのか、この国の連中ときたら……)
上半身が水着のようなブラ一枚という露出度の高い格好をしているジャギーを見て勝は鼻血が出そうになるのを抑え、愚息に血流がいき勃起しているのをバレないように、ひょこひょこと老人のような歩き方をしている。
「何だ?」
「カヤック王が呼んでんのよ、あんたの事を! ほら、ちょっと前に戦争したでしょ? 多分その事で褒美をやるとかそんなんじゃ無いの?」
「ほう、褒美とは……何だ、楽しみだなあ」
勝はジャギーのFカップ並みの胸の谷間を見て射精しそうになるのを必死に堪えている。
「多分そうかもな、良かったな勝」
エレガーは結界を作り続けているのが体にかなり負担がかかっており、髪の毛は白髪が増え、ほうれい線などのシワができていている。
(何でこの男は、こんな卑猥な格好をしている女の隣にいて朴念仁のように何も感じないんだろうな……)
「だからねぇ、おじいさんのように腰を曲げずにきちんとしなさいよ!」
ジャギーはそんな勝の心境を知らず、勝の背中をバンと叩く。
「ひえっ……!」
「いやあっ!?」
勝の、ゴーヤのような愚息がピンとそそり立っているのをジャギーは見、愚息へ火弾を放った。
🐉🐉🐉🐉
「何も、火弾を放たなくったっていいだろうが……」
「……」
エレガーは、ぷうとすねているジャギーを諫め、陰部の部分だけが焼け焦げ、そこをタオルで隠している勝を見て、くくくと笑い声を上げている。
「エレガーさん、笑わなくったっていいだろうが……! 何でこんな事をするんだよ……!」
「だってさあ、セクハラじゃないあんな事してさ! このクソ野郎!」
ジャギーは勝を侮蔑の目で睨みつけ、勝よりも2.3歩先に王宮内を歩いている。
番兵達もまた、勝の情けない見て必死に笑いを堪えており、勝はそれを見て酷く恥ずかしい気持ちに襲われているのである。
(あーあ、替のズボンぐらい用意してくれたっていいじゃあないか、図々しいんだろうが……。しかしこの女は何だってこう性格が悪くて俺にだけ強く当たるんだろうな……! 回復呪文はエレガーさんがかけてくれたから痛みはないんだが、あと少しで不能になるところだったな。最低だなこの女は……!)
勝はジャギーの胸を揉みたいという、学生時代によく襲われた性的欲求が頭を支配しており、俺もまだ若くて男女の関わりがわからないんだなと心の中でため息をつく。
「勝、あの子はあんなあけっぴろげなんだが、純な所があるんだよ、そりゃ誰だって、おちんちんが目の前に出たらあんな事するだろ?」
エレガーは勝の心境を知っているのか、軽く諫める。
「んな、そりゃ分かりますが、いくらなんでも、あそこに火弾をぶっ放すなんて……不能になりそうでしたよ、なんだよあの女は……!」
勝はぶつぶつと言いながらジャギーの歩く方へと進むと、目の前には王の間が見え、ジャギーはドラゴンの鱗で作られた鎧をつけている近衛兵達と話している。
「いやそりゃ、誰でもあんなことすると思うんだがなぁ。セクハラだし、猥褻物陳列罪だよ」
「猥褻物ったって……その、セクハラってのはなんですか?」
「ふーん、本当に君はそっちの方には疎いんだな、セクシュアルハラスメント、性的な差別ってやつだ。例えばな、胸を揉むとか、お尻を触るとか……」
「いえ、それは知りませんでした」
「君ねぇ、少し女心を勉強した方がいいかもな。訓練もいいんだが。彼女はいなかったのか? 前にいた世界では」
エレガーは下卑た笑みを浮かべ、小指を立てる。
「いえ、おりませんでした。私がいた世界では恋愛というもの自体は無く、結婚は見合いで決めるものでして……」
戦前の日本の恋愛事情はあまり発展はしておらず、恋愛結婚をしている人は少なかったのである。
「ふーん、それは虚しい人生だなあ、おいどうせ君は性的な欲求ってやつを風俗で解決してるんだろ? 寂しい人生だぞそれは……」
「別にいいじゃないですか! そんな事! 軍人に恋愛は禁物なのです!」
勝は先程のジャギーの胸の事を思い出し、再び勃起しそうになり、慌てて手で隠している。
「何変な事言ってるのよ! 空いたから来て!」
ジャギーはまだ勝の事でイラついているのか、結界で閉ざされている王の間の扉を開けて彼らに中に入るように促した。
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