第32話 エリクシル

 ジャギーは、顔だけが老けていて、肉体は20代そこそこな、ギクシャクしたヘッジを見て見下した笑いをあげる。


「なにがおかしいんだ、このクソ女!」


「だってねぇ、あんたその体はないでしょ! 年はもうトトスの爺さんよりも上で、75だっけ!? 年齢を考えなさいよ…!」


「うるせぇ! 犯すぞ! このあばずれが!」


 ヘッジは、淫らで薄汚い言葉をジャギーに向けて平気で吐き捨て、ジャギーは醜い言葉に耐えきれずに瞳から涙が一筋流れ落ち、それを横で見ていたマーラは女性をなんだと思ってるんだと激しい怒りを感じる。


「トトスさん、これ飲んで。ポーション(回復薬)よ」


 ジャギーの手に握られている茶色い瓶をトトスは受け取り口に入れると、連続で魔法を詠唱して疲弊し切った体力がみるみるうちに回復していく。


「やはり私が……!」


「いや、こんなクソ野郎のために死ぬ必要はない!」


 エレナは自爆呪文を唱えようとするのだが、アレンはゴルザがいなくなりかけて、美人であるエレナと付き合いたいという邪な願望に取り憑かれており、死なれては困ると慌てて制する。


「どうすれば……」


 勝は勝ち誇ったドヤ顔をしているヘッジを睨みつける。


「それがねぇ、この脳筋ジジイの攻略方法があるってエレガーの兄さんが言っていたのよ、これよ」


 ジャギーはメッセンジャーバッグタイプの革袋から黄色のシールが貼られた茶色の瓶を取り出す。


「それは……?」


 勝はこの瓶の中身が何なのかと疑問に襲われるのだが、アランとトトス達は軽く慌ててる様子である。


「ジャギー、それは、エリクシルではないか!? 貴重な回復薬を一体何に使うのだ!?」


「え、エリクシルとは何ですか!?」


「何だ、頭悪いな勝。瀕死の状態でも一気に全快させる特別な回復薬だ。我が国でも原料が希少で、沢山生産はできない。これを一体何に使うんだ?」


 アランはまだ情報に疎い勝を鼻で笑い飛ばし、ジャギーが貴重な薬を何に使うのか疑問に思っている。


(相変わらず性格の悪い連中だ……! 俺が別の世界から来たってだけでここまで見下すとは……!)


 勝は軍隊式の説教を彼らにしたい気持ちを抑えながら、ジャギーの持っているエリクシルに注目している。


「それはねぇ、こうするのよ!」


 ジャギーはエリクシルの瓶を開けて、ヘッジにかける。


「!? お前なんて事を! 貴重な薬だぞ!」


「いいから黙って見てて!」


 エリクシルの効能で自己免疫治癒力が極限にまで高まるのをアラン達は知っており、ヘッジの体力が回復してしまうのに酷い危機感を感じているのだが、ジャギーは確証があるのか余裕な表情を浮かべている。


「がはは! この小娘は一体なにを考えているのかわからないものだな! 俺の体力は極限まで回復したぞ! 金縛りの術なんざ、こうだ! ……むうん!」


 ヘッジは力を全身に込めて、金縛りの術を解き、ジロリと勝達を睨みつける。


「おい、生意気なクソビッチ! 貴様胸がでかいな! 思い切り揉んだるから覚悟しろ!」


「ふーん、私あんたのような短小包茎野郎に抱かれたくないわよ」


「何だと!? 誰が包茎だと!?」


 ジャギーはヘッジを鼻で笑い飛ばしており、何故この女は余裕なんだと、勝は思っている。


「この肉便器が!」


 ヘッジはジャギーにつかみかかろうとするが、腕の筋肉がぱくりと裂けて、肉が地面に落ちている。


「ぐ……!」


「あんたの体って、細胞に魔法をかけていじくったでしょ?極限にまで高めてあって回復呪文いらずだけど、逆に回復したらどうなるのかしらね?肉体が過度に回復しようとしてしまって、細胞が壊れるのよ」


「ぐがが……!」


(細胞とは一体何なんだ? 俺は何で世界で戦っているんだ?)


 生物学を学んでこなかった勝は、ジャギーの言っている事がちんぷんかんぷんに感じているのである。


「アレン、それ貸して」


 ジャギーはアレンから先端が曲がった槍を取り、全身の細胞が暴走して地べたに蹲っているヘッジの体を突く。


「誰が肉便器ですって? クソビッチ?」


「ぎ、ぎええ……! 勘弁してください!」


 槍で体を突かれているヘッジは情けなく命乞いを始め、それを見た勝達からは失笑の声が漏れる。


「トトスさん、とどめさして」


 ジャギーは回復薬を飲んで体力が万全となったトトスにとどめを刺すように促す。


「あぁ……」


「ひえ……なあトトス、勘弁してくれよ、なあっ……! 俺とお前の仲だったじゃねぇか、おい……! 確かにな、魔導実験でお前の娘さんを亡くしたのは悪かったが、でもあれは必要だったんだよ、この国のためにさ……! 俺から国王にさ、お前を大臣に任命するようにしてやっからさ、なあ……!」


「兄者、惨めになったな……。私は、人の命を使ってまで魔法は使いたくはない、私は知ってたんだ、ミミをたぶらかして人体実験に使った事を。貴様を殺す為に私は鍛錬を続けた。……さらばだ、この鬼畜が……!」


 トトスの掌から暴風が巻き起こり、ヘッジの体はばらばらに裂けて単なる肉片と化した。




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