第28話 ケルベロス

 ヤックルが二発煉獄を放ちゴーレムを倒し、ヘタレの汚名返上を果たすその数分前のことだ……


「扉があるわ!」


 水路から開けた空間には、恐らく水路の監査員が休憩に使う部屋のような場所がある。


「この先に何かあるんだ?」


 勝は、ある種の不安に襲われるが、早く前に進みたいという衝動に駆られている。


「多分、この水路を監視している人間が使う部屋か何かだろう。入ってみるか?」


 トトスは冷静に予想をしており、アレンに聞く。


「そうだな、入ってみよう。飲み物とかあればいいが。喉が乾いてしまってな……」


 アレンは喉を押さえ、水が欲しいことをジェスチャーで示し、それを見た勝達はドッと笑った。


「開けてみましょうか」


 ヤーボは扉を開ける。


「ワンワンワン!」


「な、ぎええ!」


 真紅の毛並みを持つ、双頭の犬のような化け物がヤーボの喉元に噛み付こうとしてきており、ヤーボはとっさに火弾を浴びせ掛ける。


「な、なんだこりゃあ!?」


 双頭の獣は、勝がいた世界にはごく稀に蛇がいたが、これは紛れもなく異常だなと勝達は槍をその化け物に向ける。


 火弾を口から浴びたそいつは、口から黒い煙を吐き出していて少しむせているのだが、直ぐに体勢を元に戻して、ワン、と吠えてアレン達をジロリと見ている。


「これは、ケルベロスだ……!」


 アレンは今まで見たことがない生き物に恐怖に襲われながら、冷静に頭の中を整理して周りにそう伝える。


「え!? あの伝説上の……!?」


 マーラは、このケルベロスという生き物は、幼少の頃に読んだ絵本の中でしか伝えられてない、伝説上の生き物であるのに驚きを隠せないでいる。


「誰が一体こんな人外を……!?」


 アランは刀を抜き、ケルベロスに向けると、ワンワンと吠えながら二つの口を開き、アランの元へと向かって行く。


「うわ、ちょっ……!?」


 心の準備ができていなかったアランは、みじろきをしてのけぞろうとしたが、地面に生える苔に足を取られて後ろに滑る。


 ケルベロスは地獄の咆哮を上げ、アランの喉元に思い切り噛みつこうとするが、トトスは火球を唱え、二つあるうちの一つの頭を吹き飛ばす。


 断末魔の悲鳴と共に紫色の血液が辺りに飛び散り、ケルベロスはトトスの方へと残った顔を向け、大きな口を開けて喉笛を噛み切ろうと向かって行くのだが、勝はすぐさま刀を抜き、ケルベロスの頭に突き刺す。


「グギャ!」


 ケルベロスは再度断末魔の悲鳴を上げて、紫色の血飛沫と共に地面に倒れ、永遠の眠りにつく。


「ひ、ひええ! な、何でこんな人外がいるんだよ! ねぇ、今からでも遅くないんで、降伏しましょうよ!」


 アランは失禁したらしく小便の匂いがしており、股間の所が濡れ、周りからは失笑が漏れる。


(こんなに、夜の街では格好をつけている人でも、怖いものは怖いんだなあ……)


 勝はアランの情けない姿を見て笑いを堪えている。


「これは、恐らくヘッジの仕業だ! ゴーレムといい、キメラを作れるのはあいつしかいない!」


 トトスは確信した顔つきで、ケルベロスの亡骸を見やる。


「兎も角な、ヘッジを倒さないと何も変わらない! アラン、ちびってないで進むぞ!」


「ひぇ、ひええい!」


 アレンはアランの肩を叩き、前へと進むように指示する。


「階段があるみたいだ……」


 出口がすぐそばにあるのか、階段が見え、そこからは光が刺し込んでおり、エレナは早く行こうよと手招きをしている。


(蛇が出るか、鬼が出るか……ええい、行くか!)


 勝は人外の化け物を見て精神崩壊に陥りそうになりながら、半ば開き直り前へと進んでいく。


 🐉🐉🐉🐉


 ゴーレムを倒したヤックル達は、もう体力の限界だと言わんばかりに地べたにへたり込んでいる。


「ううん……」


 ヤックルは、目が覚めたのか、むくりと体を起こし、分厚いメガネをずり上げて周囲を見渡すと、ゴーレムのカケラと敵兵の死体が矯正視力0.6の目に飛び込んでくる。


「ひ、ひええ……」


「目が覚めたか」


 壮年の名も無き竜騎士は、魔道士に回復呪文をかけてもらっており、辺りの様相が訳が分からずに恐怖に怯えているヤックルをニヤリと笑いながら見ている。


「あ、あの、これ、僕がやっちゃったとか……」


「ああ、お前がゴーレムを倒したんだ。煉獄を二発唱えてな。覚えてないのか?」


「え? あ、いや、煉獄を二発放ったのは覚えてるんすがそっから気を失ってしまって……」


「お前本当に覚えてないんだな、まぁ、良いけどさ……どうせお前もう魔力とか残ってないだろ? 足手まといになるからな、物影に隠れてろ」


「は、はぁ……」


 ヤックルは自分がしたことを記憶が無く、頭をかきながら呪文を唱えているゴルザを見遣る。


「……」


 ゴルザはたった数時間でひどくやつれており、脂汗が大量に出ており、年齢はまだ20代後半なのだが加齢臭が立ち込め、ヤックルは申し訳ないなと思いながら悪臭に顔をしかめ、岩陰へとふらふらと足を進めて行く。


「煉獄を、二発使えたんだ……」


 ヤックルは小声でボソリと呟き、革袋の中から飲み物を取り出して口に入れる。


「やはり、ゴルザさんの呪文が効いてるせいか、敵さんは全く俺らに歯が立たないみたいだぞ……」


「魔法に頼り切ってる国だったからなぁ。後は、トトス司令達切り込み部隊の成果をまつだけかもな……」


 勝達は大丈夫なのかとヤックルは気になり、デルス国を見やると、残りの竜騎士部隊達が国内に攻撃を仕掛けており、あちらこちらで火の手が上がっているのが視界に飛び込んで来、不安に襲われる。


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