第27話 二発目の煉獄
勝達が人体兵器を倒し、これから先の戦いで生きて帰る事ができる事ができるのかと臆病風に吹かれているのにもかかわらず、エレナは相変わらず口笛を吹きながら、どんどん洞窟の中へと進んでいく。
まるで、全てを知り尽くしているかのように。
(何者なんだこの、美人で鼻が高くて胸と尻がでかい女は……おおっと!)
勝はグラマラスな美女の身体を見て、女郎屋でまめに性欲を発散しているのにも関わらず、愚息ははちきれそうなばかりに精液はパンパンで勃起しており、周りにバレないようにして必死に血液が行き届かないように四苦八苦している。
「何、溜まっちゃってるのかしら」
マーラはクスリと笑い、勝の愚息をマニキュアを塗っている指でピンと弾く。
「あ、いえ……貴様、無礼だぞ」
勝は腐っても軍人であり、一介の小娘に小馬鹿にされた事を妙なプライドが許さずにじろりとマーラを一瞥する。
「私がフェラして出してやるからさ……!」
「な!? フェ、フェ……なんだそれは!」
「あんたのチンチンをしゃぶって精子を出すことよ」
「な、何だと……」
勝は鼻血を出さんがばかりに顔を赤らめている、風俗には何度か足を運んだのだが、恥ずかしくなり途中で諦めてしまって手コキで済ませてしまったのであり、本当の意味では彼自身はまだ童貞なのである。
「冗談に決まってるでしょう、さっさと行くわよ」
マーラは勝の頭をぽかんと叩き、テクテクと歩いていく。
その様子を他の兵士達は見て、当たり前だろセクハラクソ野郎と言わんばかりにクスクスと笑っている。
「これ、無駄口を叩くでない、これが終わったらスクワット100回だからな。それよりも、ゴーレムと対峙している奴らが気がかりだな……」
トトスは自分の孫が被害を受けていないかどうか、入り口の方をチラチラと見ており、今すぐにでも任務を放棄してフォローに回りたい気持ちである。
「なあに、大丈夫でしょう、ゴルザさんは動けないけれども、30人ぐらい騎士団を護衛に回してあるし。それに、ヤックルだって煉獄を使えるし」
アレンはトトスと同じように、ゴーレムという伝説に近く、対策がわからない魔物と対峙している彼らが気がかりである。
「ゴーレム一体の戦闘能力は騎士30人に匹敵すると言われてるから、机上の理論では互角なんだが、ヤックルの煉獄がどこまで役に立つかなんだよな……あいつ、それなりに優秀な魔道士の家系にいても能力は辛うじて平均だったからな、煉獄が連発できればいいんだろうが、一発打っただけで精一杯なんだよ。あれはかなりの魔力を使うからな。私ですら5発が限度だ、ゴルザは20発ぐらい使えるんだがな、動けないし……ヤックルの煉獄が頼りだな……」
トトスはゴーレムに煉獄が効くというデータはどの文献を見ても書いてはおらず気休め程度にしかならないと思っているのだが、仮にも最上級の魔法だし、効かないにしても気休めだろう、多分彼らは全滅しているのかもしれないなと半ば諦めているのである。
「それに、ゴルザが死んだら、あいつの夢が……」
「?」
「あ、いや、何でもないんだ。行こう……」
彼等はエレナの歩く方向を、この先にあるかも知れない、軍の中枢部に続く道であればいいと一縷の望みをかけて歩いていく。
🐉🐉🐉🐉
トトスの予言は的中していた。
「うわあっ!」
「バルトさん!」
先程、ヤックルに軽口を叩いていた、バルトと呼ばれる壮年の竜騎士は、ドラゴンと共に攻撃を仕掛けるのだが、ドラゴンの牙や炎は堅固なゴーレムのレンガ細工の装甲を少し傷つけて溶かしただけであり、与えたダメージは微弱であり、ゴーレムの拳でドラゴン共々バルトは地面に叩きつけられた。
「この化け物が!」
20代後半のまだ若い魔道士は、ゴーレムの体の弱点であると予想され、確証がない冷却魔法を放つ。
だがそれも、ゴーレムの体には通用せず、表面だけが凍りついただけで、拳骨一線、肋を全て砕かれて内臓破裂で即死、たった28年しか生きておらず、付き合ってからまだ2年目の彼女がいて結婚を考えていた矢先である。
「ひえええ!」
「閃光魔法!」
敵の、30代ほどの魔道士はヤックルに向けて火炎魔法を放とうとするのだが、魔力が封じ込められおり、得意の魔法が使えずに、上空からのドラゴンに頭から噛み付かれ、頭蓋骨粉砕骨折で、身重の妻がいるのにも関わらず無情にもこの世から去った。
他の魔道士部隊も魔法が封じ込められていれば赤子同然であり対人戦闘術を身につけている竜騎士団に比べたら圧倒するのに時間はかからないのだが、魔法が封じ込められているのにも関わらず、ゴーレムは動いているのにゴルザはある種の疑問を感ドレ。
「ヤックル! 試しにゴーレムに向けて煉獄を放ってみろ!」
「え!! 効かないっすよ! 降伏しましょうよ!」
「やってみろ! このままではお前は一生ヘタレで逃亡者の烙印を押されるぞ!」
この期に及んで降伏をする事にしか頭にないカヤックに向かって、ゴルザはげきを飛ばす。
「わかりました、やってみます!」
ヤックルはすぐさま詠唱を始め、頭上に小さな火の玉が浮かびそれが徐々に大きくなっていく。
(魔法は封じ込めであるはずなのに、何故ゴーレムが動くんだ……?)
「ゴゴゴー!」
ゴーレムは無機質な叫び声を上げて、ヤックルに狙いを定めて拳を振り上げて向かっていく。
「ひええ!」
「うおお!」
倒されていた兵士達とドラゴン達は、必死でゴーレムの手足を抑える。
「今だ! 俺たちに構わずに打つんだ!」
バルトは額から血を流し、5本折れた歯を口から覗かせながら、自分の命と引き換えにしてこいつを倒してくれと懇願の意思表示を送る。
「しかし!」
「いいから打て! 多少の犠牲はつきものだ! この戦いに参加する時に既に俺たちの命はこの国に捧げたんだ! 後悔はねぇ!」
「ガガガ……」
ゴーレムは彼等を振り解き、ヤックルの方へと一直線に重い手足を走らせながら向かって行き、カヤックは発射準備が整った煉獄を放つ。
高温の大火力で、ゴーレムの体を構成しているレンガはみるみるうちに溶けていき、兵士達は歓喜の声を上げる。
(やった、か……?)
ヤックルは煉獄を放つのにかなりの労力と全ての魔力を消費しており、疲労困憊で地べたにへたばる。
炎が消えていっている時、彼等は目を疑った。
鉄とも鉛ともとれる、金属状の円形の機械のような物体の中心には、無数のコードとともに赤色の宝石が付いており、煉獄の炎でレンガが溶け切った後にそれが現れる。
勿論それは機械そのものなのだが、ヤックルや、彼等よりも知識のあるゴルザでも見た事がない物体なのである。
その機械の宝玉は怪しい光を放ちながら浮かんでおり、土が機械の方に集まってきている。
「分かったぞ!」
ゴルザは何か分かったのか、深刻な表情を浮かべている。
「これは、ゴーレムを作る核だ!こいつを倒さない限りは何度でも蘇る! これを壊すには煉獄をもう一度放つしかない!」
「な、ええっ!? あれで限界っすよ!」
「俺はここを離れたら結界がなくなる! ヤックル! 君だけが頼りだ!」
「え、いや、できないし……!」
「ここで逃げたら君は一生、負け犬のまま人生を過ごす羽目になるぞ!……それに、好きな人がいるんだろ!? その子が殺されるぞ!」
「……ええ、分かりましたよ! やればいいんでしょ! やってみます!」
ヤックルは最後の力を振り絞り、煉獄を詠唱する。
「ぶっ壊してやる!」
ある中年の竜騎士は持病の腰痛を抑えながらドラゴンに宝石を噛み砕くように指示し、槍で宝石を貫こうとする。
宝石は光を放つとともに熱波と衝撃が1メートル以内の範囲で襲いかかり、ドラゴンは首から上が血液が沸騰して破裂して、緑色の血を撒き散らしながら地面に倒れ、兵士が突き刺した槍もまた熱で溶けていく。
「や、やべぇぞこれは……」
「な、なんだこりゃあ……」
壮年の兵士2人組はドラゴンに乗りながら敵の魔道士の駆逐をしており、横目で、この物体が今まで体験したことがない危険な因子を孕んでいるものだなと第六感で察する。
「これで貴様らも終わりだ! ギャハハ!」
ツーブロックヘアの敵の魔道士は片腕を切られて出血しながら、ゴーレムが駆逐してくれる事を強く確証している高笑いを上げる。
「はぁ…はぁ…はぁ…あの子に告白できるまで死ねるか……!」
ヤックルの詠唱と共に、命を削るようにして全身に残った魔力の欠片を集めそれを集中して増幅させ、煉獄よりも一際大きい火球がヤックルの上に浮かんでいる。
「何ぃ!? あいつにそんな力があったのか!?」
敵の魔道士は、ひ弱で戦力外なヤックルが最上級魔法の煉獄を使えるのに得体の知れない恐怖を感じる。
「行けえ!」
煉獄は一直線に宝石に向かい、煉獄の高熱に耐えきれずに焼けて溶けていく。
宝石にくっつこうとした土は、主が消えた為に地面に落ちていく。
「やった!」
ヤックルは限界以上の力を使った為、かなりの疲労で地面に倒れ、すうすうと気持ちよさそうな顔で寝ている。
「大したもんだ……」
ゴルザはヤックルを愛おしげに見つめている。
敵の魔道士達は勝てないと悟ったのか、戦意を失って全速力で逃げていく。
『ほう、ゴーレムを倒すとはな……』
「!? 誰だ!?」
空の上から声が聞こえ、辺りを見回すとホログラムのように顔が浮かび上がっている。
「お前は魔導師部隊隊長のヘッジ! 幽閉されていたはずではなかったのか!?」
ゴルザはこの初老のトレッドヘアの男に見憶えがある様子である。
「ゴルザさん、誰なんすかこのじいさん?」
「禁呪を使って魔道士連盟を追放されて幽閉されていたじじいだ、ゴーレムを作ったのはまさか貴様なのか!?」
「左様……ククク、まさか、こうにしても簡単に倒すとはな、このクソ眼鏡、よくやるものだな……トトスよりも才能はありそうだな」
「貴様、おじいちゃんの知り合いなのか!?」
「あぁ、まあちょっとした知り合いだがこれ以上は話す事はない。貴様らに面白いものを見せてやろう」
「何だと!?」
画面が切り替わると、そこには双頭の大きな犬が口から炎を出して勝達に襲いかかってきているのがゴルザ達の目に映る。
「勝! おじいちゃん!」
「ククク、貴様の連れも、ここにいるんだよ……」
画面が再び切り替わると、そこにはマーラに守られて恐怖に怯えた顔つきのエレナがいる。
「エレナ! 逃げるんだ!」
また画面が切り替わり、ヘッジの顔に戻る。
「ククク、救いたかったらこっちに来る事だ、最も貴様がこの場から離れたら、我が軍だけでなく、国民全ての魔法が貴様らに襲いかかるからな……せいぜい、物乞いをするセリフを考えるんだな」
「この野郎!」
ゴルザは立ち上がり石を拾って投げつける。
「ゴルザさん! この場から離れたら結界が崩れます!」
「クッ……!」
ヘッジの高笑いと共にホログラムは消えていき、そこには皮肉なほどに澄み渡った青空が広がっており、ポツンと小さな石のような物体がふわふわと浮かんでおり、遠くの方へと消えていくのを彼等はぽかんと見つめている。
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