第26話 人体兵器

 魔法というものは、万物の法則を歪め、自然の摂理を乱し、次元の均衡を崩してしまう危険なものである。


 開戦する数十年前、4カ国の首脳が魔法についての話し合った結果、明らかに危険であり大量殺戮兵器と言っても過言ではない、幾つかの魔法を禁止する魔法協定が定められた。


 協定が定められた数年が過ぎ、戦争が始まった時もまだ、この協定は守られていたのだが、ある一人の魔法使いは密かに研究を重ねていた、禁じられていたある強大な魔法を完成させており、これを使い列強に対して停戦の交渉に持ち込む。


 停戦の交渉は成功し、発言権を得たデルス国王のザバンは、禁術を完成させた魔法使いと共に列強に加わった。


 その問題なる魔法使いは、大陸屈指ともいえる魔導師のヘッジ・レーバーンであり、魔法に人体実験を繰り返す危険思想の持ち主だった為、永らく幽閉される事となった。


「……というわけだ」


「……」


 トトスの説明に、勝は頭が混乱しながら無言で頷く。


「魔法にも使用してはいけないものがあるのですね……」


 勝は魔法についての説明は軽くエレガーから聞いてはいたのだが詳しくは知らず、決して使ってはいけない、封じられた魔法があるとは初耳なのである。


「あぁ、全てが使っていいものではないからな。世界の理を壊すものなんだ。だが、ゴーレムは協定で禁止されてるはずなんだがなあ……」


 トトスは疑問の表情を浮かべながら、小気味な唄を歌っているエレンが進む道を歩いている。


「ゴーレムって伝説上の化け物じゃなかったのか……」


「やばいもんが、戦争に投入されちまったもんだなあ……」


 ヤーボとアランは、ゴーレムは今まで見た事がなく、遠い昔に書かれた絵本や小説に書かれているイラストでしか知識がなかった為、漠然としたイメージしかないのである。


(世界の理を壊す、か……確かに、火や氷を出したりする事自体が万物の理を乱しているんだがな……ゴーレムとはそんなに強大なものなのか……いや、それ以上に強力な魔法があるとは……俺がいた世界では爆弾や大砲があったんだが、この世界の魔法は使い方を誤れば沢山の人間が亡くなる危険な代物だ……)


「? どうした勝? 犬の糞でも踏んだのか?」


 ヤーボは深刻な表情を浮かべている勝を見て、こいつビビってんなと軽口を叩く。


「あ、いや……その、ゴーレムってやつがどんなやつなのだろうかと気になるんだが……本でしか知識がなくて、実物が見た事がないんだ」


「そっか。……ん? おい、道が開けたぞ」


 彼等の目の前には、レンガで作られた水路内の開けた道から出た先にある、脇に松明が飾られている、50平方メールほどの空間が広がっており、奥の方に階段があり、それを閉じ込めるかのようにして、鉄格子が張られている。


「何だこの鉄格子は? この先に何かあるってのか? アラン、鍵を開けろ。多分何かあるぞ」


 アレンは、上に続く階段が、重要な場所に続くものではないのかと思い、アランに鍵穴を開けるように命令をする。


「!?」


 マーラは、何かに気が付いたかのようにして、天井を見、きゃあっという声を上げる。


「どうしたんだ、蝙蝠でもいたのか?」


 色っぽい声を上げるじゃないか、ますますやりたくなったぜとアランは思いながら、天井を見やると、そこには、緑色の鱗に覆われ、赤い大きな目をした人型の生き物が、ぎぎぎ、と呻き声を上げ、1メートル程の先端が二又に分かれた舌をペロリと出して威嚇している。


「な、何だこの生き物は!?」


「見たことないぞ!」


 ヤーボとアランは不気味な生き物を見て、思わず刀を鞘から抜き身構える。


(な、ドラゴンといい、封印の洞窟にいた妖怪のような化け物といい、何ちゅう奇天烈な世界なんだここは……! 俺はここから生きて帰れるんだろうか……? いや、早く聖杯を手に入れて戻るんだ! 日本を守るんだ!」


 勝は一瞬弱気になったのだが、生まれた国を守る為、元の世界に戻る為にここが踏ん張りどころだと魔封剣を鞘から抜く。


 その、異形ともいえる化け物は、キキキ、と天井かぐるりと一回転し水しぶきと共に地面に降りて、長い舌を振り回して勝達の方へと進んでいく。


「この化け物! 火弾!」


 マーラは、訓練の賜物で1日に火弾を20発ほど使えるようになった為、惜しげもなく火弾を化け物に当てる。


 ボン、という炸裂音と共にそいつは炎に包まれるが、水を体に浴びせ、火を消して、マーラを睨みつける。


「この野郎!」


 アランはそいつの体に槍を貫通させ、ヤーボやアレンも次々と槍を突き立てる。


「グギャア!」


 そいつは断末魔の呻き声を上げて、びくりと痙攣をして絶命し、勝は剣を鞘に収める。


「……何だ、こいつは……?」


 勝は、明らかに異質な存在であるそいつを見て、得体の知れない恐怖に襲われる。


「うん……これはやはり、もしかして……」


 トトスは腕を組み、中程度に進行した老眼でその異形の化物の亡骸を見て、深刻な表情を浮かべている。


「なぁ、トトスさん、これもしかして……」


 アレンも何か思い当たる節があるのか、眉間にしわを寄せており、その様子を見た勝達は洒落にならないことが起きているんだなと察する。


「人体兵器だ……!」


 その言葉を、二人口を揃えて言い放つ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る