第24話 エレナ
牢屋には、青いカビが生えているパンと、虫が沸いているスープに、ネズミの死骸があり、ここは最底辺の場所なんだなと勝達は思いながら部屋に入ると、奥の隅でささやきながら歌を歌っている、髪が腰まで伸びた26歳ぐらいの女性がおり、精神に障害があるのかと彼等は勘ぐっている。
「なぁ、あの……お聞きしたいのだが、ここは……?」
アランは恐る恐る、目の前にいる不気味な風体の女性に声をかけると、目を見開き、歌うのをやめて神妙な顔つきで勝達を見やる。
「ねぇ、……私を助けてくれるの?」
「あ、いや……助けてもいいんだが、此処はどこに繋がってるんだ?」
アランの問いかけに、その女は微笑みながら口を開く。
「この国の主要部分よ……」
「な……よっしゃ、これで勝てる!」
「奇襲をかけましょう!」
ヤーボとアレン達は口々に、目の前にある一縷の希望の可能性を見出すのだが、対照的にトトスは慎重になっているのか、あまり乗り気ではない表情を浮かべているのをアランは気がついた。
「どうしたんすか、トトスさん! 行っちゃいましょうよ! チャンスっすよこれは!」
アレンはつい先程までは逃亡しようと臆病風に吹かれてたのだが、勝てるのではないかと思い、ノリノリでトトスにそう言う。
「いや……何か、悪い予感がするのだが、それに、貴方は……気のせいか、凄い魔力を感じるのだが、君は何か上級の魔法は使えるのか?」
「そんなに難しい魔法は使えないわよ、簡単なやつだけしか使えないわ」
その女性は、パーマがかかった髪の毛を指でいじり、退屈そうにトトスにそう伝える。
「そうか。アラン、この子も連れて行かないか? もしかしたら何かの役に立つのかもしれないからな……」
トトスは何か予感がするのか、早く先に進みたい表情を浮かべているアレンに懇願する。
「ああ、いいぞ。連れて行こう。君、名前はなんて言うんだ?」
「エレナよ」
「エレナ……」
「どうしたのおじいちゃん?」
エレナはなれなれしい口調で、トトスに尋ね、それを聞いた勝は、「何故謙虚な態度で示さないんだ?」と、昔の年寄りのような憤りを感じているのである。
「あ、いや、何でもない。アレン、早く鍵を開けろ……」
「は、はぁ……にしても、固いなこれは……」
アレンは、先程のトトスの会話が一瞬停止したのを疑問に思いながら、鍵を開けていく。
🐉🐉🐉🐉
ヤックルは、敵が来ないかどうかそわそわしながら、裸眼視力0.01、矯正視力0.7程度の目で周囲を見回している。
「そんな敵が怖いのか?」
仲間の一人は、カヤックのあまりの挙動不審さに冷笑を浮かべている。
「だって……超怖くないっすか!? 敵に殺されるのかもしれないっすよ!? 俺まだ童貞のまま死にたくないっすよ!」
「んなよ、戦争おっぱじまる前に女郎屋にでも行ってくりゃよかったじゃねぇか!」
「いや……大切な人の為にとっておこうかなと……」
「お前まだガキだなぁ! 俺なんざ、貴様ぐらいの年に2股してたからな! その眼鏡がかっこ悪いんだよ!」
「何い! 煉獄ぶっ放しますよ!」
ヤックルは自分が一番気にしていることを言われ、煉獄の詠唱をはじめる。
「わかったよ! すまんかった! ってかよ、おい、ゴルザさんの様子がなんか辺だぞ……!」
「え!?」
ゴルザは脂汗を浮かべて深刻な表情を浮かべており、その様子はただ事ではないと彼等は悟り、顔をじっと見つめると、何かを口に出している。
「……レナ、逃げろ、逃げるんだ……!」
「……? ゴルザさん、大丈夫っすか!?」
ヤックルは、いつも飄々としているゴルザの追い詰められた苦悶の表情を見るのは初めてであり、何事かと辺りを見回す。
「……?」
「おい、ど近眼野郎! 何かよ、勘づかれたみたいだぞ!」
先程の兵士は丘の下を指差す。
「え……?」
兵士の指の先には、槍を高々と上げている、甲冑に身を包んだ兵士達が数十名程おり、ぞろぞろとヤックル達がいる方へと向かってきている。
「畜生、勘付かれたな!」
ゴルザは危機感を覚えたのか、詠唱をやめて、レイピアを鞘から抜く。
「やばいすよ! 降伏しましょうやっぱ!」
「いや、降伏だけは……いや、やっぱ駄目だ! 俺はまだここで詠唱を続ける! 魔法が使えてしまったらおじいちゃんや勝達はたぶん殺される! ヤックル! 君がやるんだ!」
「えぇ……んな、ったって……でも……ええい! わかりました! やりますよ! んな、でもどいつを倒せば……!?」
「あいつだ……!」
ゴルザの指差す先には、2メートルはあろうかという、プロレスラー並みの巨人が棍棒を片手に向かってきている。
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